Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎 昼の部』 1等2階前方下手寄り

2009年12月26日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎 昼の部』1等2階前方下手寄り

千穐楽。3回目にしてようやく最初の二演目『操り三番叟』『野崎村』を拝見。『身替座禅』が相変わらずとっても良くて、そして『大江戸りびんでっど』がビックリするくらい面白くなっていました。ここまで持ってきた役者とクドカンに拍手。クドカン、細かく手直ししてきていました。最後まで面白くしようって努力してくれたんだなって思いました。初日に比べ脚本も演出も流れがすごく良くなってました。それに加えての役者さんたちの熱演に本当に楽しくてワクワクしました。観客の反応もよく芝居に含まれていたカーテンコール以外に2回ありました。1回目はクドカンがご挨拶「また観に来てください」と。幕が閉まり追い出しの太鼓が鳴っても拍手が鳴り止まず、2回目のカーテンコール。 染五郎さんが一言「これは歌舞伎です!」。

『操り三番叟』
翁@獅童さん、ひどいと聞いていたので身構えましたが、思ったほどは悪くなく。姿がいいのでそこそこ様になっていました。腰は入ってないけど背筋をまっすぐに伸ばして丁寧に踊っていたので良しだと思う。そもそも、格のある存在感がなくてはいけないこの翁という役を獅童くんにやらせたほうが…。

千歳@鶴松くんも丁寧にきっちりと。

後見@松也くん、やはり丁寧にしっかりと。姿勢が綺麗ですし操っているという意識を忘れずに演じていたと思います。余裕がなさげで、その部分で人形遣いという役として前に出てない感じはありましたが。

三番叟@勘太郎くんは期待しすぎたかも。もっと「うわあ」って思わせるものが欲しかった。勿論、踊り上手な勘太郎くんですからしっかり踊っているしよく動いている。でも、操り人形ぽくない。自ら動いてしまっているというか普通の人間の重さが残っていて木偶の軽さをあまり感じない。糸で操られているという人形にはあまり見えなかったな。操られているという部分はあるのだけど糸人形が三番叟を踊るというこの舞踊の面白さの部分はまだまだ出てなかったと思う。ふんわり足が地につかない重力のなさを感じさせ、また鳥跳びでかなりの高さを一気に跳びあがり一瞬空で止まっているように見せた染五郎さんの『操り三番叟』を観ているので、ついそれを求めてしまう。勘太郎くん、膝を痛めたせいかまだ以前ほど飛べないのかな。

『新版歌祭文 野崎村』
それなりに見せてきた芝居だったとは思うのだけど、核の部分が揺らいでるというか…人物関係のバランスが悪いというか…。個人的に観ていてちょっと据わりが悪かった。

お光@福助さん、国立で演じた時も若干作りすぎと思ったんだけど、今回ますますマンガチック…。お光の素朴な可愛らしさがあまり伝わってこない。顔も声も作りすぎというか、色々と大袈裟。分かり易いを超えてる。もっと押さえても十分伝わると思うんだけどなあ。自然に出た表情、仕草にみえないのでお光の純な部分の切なさが見えてこない。最後も泣きすぎじゃないかなあ。なんというか、健気の部分が押し付けがましく感じてしまう。福助さん、お光の柄じゃないのかも。お染のほうがいいんじゃないかしら。

お染@孝太郎さん、この方はどちらかというとお光役者だと思うんですが、今回はお染。どうかな?と思っておりましたがきちんと大店のお嬢様に見えました。はんなりと世間知らずなところとか、少しばかり動きすぎな気もしたけど仕草の可愛らしさで可愛いらしい娘と評されるのもそこそこ納得できる。また、ふんわりした自然に滲む色気はあまり無かったけど、一番大事なところの久松一途な強さがあって良し。福助さんに負けない格のあるお染になっていて感心。ただ、やっぱり孝太郎さんはお光で観てみたいかなあ。

久松@橋之助さん、なんか違う…。綺麗な顔してるんだけど久松の柄ではないよね。こういう受け味な役に必要な柔らかさとか自然なふんわりした色気とかが。それになんというか、一番必要な部分で優しさが見えてこない。お染に対する愛情とか、久作やお光に対する申し訳なさとかがしっかり表現できてない。ただの優柔不断な男だよな、これでは…。うむむ、久松ってかなり難しい役かも。

久作@彌十郎さん、出すぎず、かといって下がるわけではないバランスのいい芝居をしていたと思う。久作の立場、そして親心がよくわかる。

後家お常@秀調さん、しっかりものの後家さんという雰囲気。思った以上に存在感もあってなかなか良かったです。

『身替座禅』
今月3回目の拝見ですが、観るたびにこれはほんとに良い『身替座禅』だなあという思いが強くなる。芝居としての面白さもさることながら舞踊としての面白さも伝わってくる。凄いなあ、ほんとに凄い。振りの意味がここまで明快に伝わってくると観ていて気持ちがいいし、楽しくなってくる。

山蔭右京@勘三郎さん、観客におもねることが一切なく、ふんわり、ふんわりと右京を描写していく。いたずらっ子のような可愛らしい右京です。また右京と花子の踊り分けも見事でいかにも色気のあるやりとり。

玉の井@三津五郎さん、品がよくいかにも育ちのいい奥方。旦那が大事すぎての嫉妬心が可愛らしくも恐ろしい玉の井です。三津五郎さんが演じると、その場、その場の玉の井の心持がすべて伝わってくるんですよねえ。

太郎冠者@染五郎さん、おろおろと右往左往してる様が情けないけど可愛い。右京一家のことがとっても大好きな太郎冠者だなあ。ちゃっかりとしていながらも家来としての愛情が伝わってくる。玉の井を表現するとことか、山ノ神って言いながらもちゃんと可愛いもんね。

千枝@巳之助くん、小枝@新悟くん、二人の息が合ってきてていました。相変わらず初々しく可愛い侍女二人でした。

『大江戸りびんぐでっど』
とにかく楽しかったです!!自分でもこんなに楽しめてしまうと思わなかったくらい楽しめてしまった。

初日と12日(土)の前半日程を拝見しています。そこから比べると芝居の流れやメリハリがかなり良くなっていてビックリするぐらい面白くなっていました。細かい部分で演出をかなり手直しをしてきていて、描きたい部分をだいぶ明快にしてきたのと、役者さんたちの間のつけ方も緩急が利いて全体的にグルーブ感があったと思う。新作ならではの進化ぶりを拝見できたのが嬉しかった。この芝居のクドカン流のテンポに乗れると一気に乗れる。個人的に3回目というのも効を奏したのかもしれませんが乗れてしまいました。

勿論、前回感じた脚本の練り不足や説明不足、ごちゃごちゃとネタを入れすぎた冗長さは感じなくもなかったですが、役者さんたちの勢いもあり面白さのほうが勝ったと個人的に感じました。

最初の出だしからもうただひたすら楽しかったし、ワクワクしたし、切なかったし、ハラハラしたし、舞台の上にいる役者さんたち皆を「大好きだ~~」って思えました。

半助@染五郎さん、今回本当に前のめりな芝居をしてきたなあと思います。賛否が激しいことはわかっていたでしょうし、客席の雰囲気もいつもと違う。そういうなかで迷いなく演じてきていたなあと。そういう染五郎さんがとっても魅力的でした。染五郎さんには独特の愛嬌がありますよね。染五郎さんはわりと人たらし的な役を演じることが多いですが、ふわっとした愛嬌や真っ直ぐな雰囲気で人の目を逸らさせない魅力がいつもそこにあると思います。また、それだけでなく、その人物像の心の揺れを丁寧に拾い出して体現してみせる。そこから善の方向へも悪の方向へも迎えるだけの幅の広さがある。芯のあるからこそ、その揺れがてらなく見せてこれるんじゃないかな。

半助@染五郎さんはやっていることは情けないくらいの小悪党なんだけど、根の部分でとても純なものがみえる。かなり卑怯でずるいことをしているのに、悪党という雰囲気を漂わせない。弱さを自覚している、その部分で切なさがある。その部分があるからこそ、後半の新吉との対峙が活きてきたと思う。自分が何をしたいのか、何を求めているのかがわからないままに新吉を刺したことで業を背負う。半助にとって「本当に生きる」ことが出来たのは江戸でお葉と出会った瞬間から。お葉と一緒に暮らす、守ることでようやく足が地についた。自分がゾンビと思い知った瞬間の「うめえ」の慟哭は哀れだ。「生きる」ことを知った人だからこそ哀れなのだよなあ。でも、お葉ちゃんに救ってもらえるのがずるいよね(笑)。ハッピーエンドなんだかバッドエンドなんだか分らないけど、お葉ちゃんのために生きられるんだから半助は幸せでしょう。

お葉@七之助くん、活き活きと楽しそうに可憐なヒロインを演じてきた。内に秘めた女の強さや自覚のないしたたかさが嫌みじゃなくお葉の魅力としてあったと思う。お葉は決して流されない。きちんと自分の人生を選び取るだけの強さがある、そしてそれをまっとうする潔さがある。だから凛としている。そのぶれなさがいいなあ。お葉は島の暮らしをどう思っていたかはきちんと描かれなかったけど、暗い小屋で毎日仕事をしているうちに、ふと外の世界に憧れたりもしたのかなって思う。

新吉@勘三郎さん、存在感あります、やっぱり。汚いなりでぞろりと歩くだけで、目を惹かせるんだから。島で半助がなりたくてもなれなかった存在が新吉。この存在感がなくては新吉は勤まらないですね。

新吉は生き延びたけれど、生きていく業を捨ててしまったんじゃないかなって思う。生きていく目的意識を失くしてしまった。死ぬことを望んでいたかのようだ。どうしてなんだろう?江戸でなぜ漫然としていたんだろう。もっと早くに半助に罪を突きつけるこができたはずなのに。そこら辺、もう少し描いてくれたらなってやはり思いますが半助と新吉は合わせ鏡的な存在だったのだろうなとは感じました。

四十郎@三津五郎さん、楽しすぎます。ナナメ45度の四十郎さん、なんかとにかく良い。カッコイイというか可愛いというか(笑)。この人も本来はとっても卑怯な小さい人間(ソンビ)なんですよね。でも期待されることで真っ当な道を見出していく。

与兵衛@亀蔵さん、成り切っていましたね~。ゾンビがなんたるか、ってとこ、一番よく表現されていましたし、とっても可愛気で愛すべきクリーチャーだった。「ゾンビ、可愛いっ」て思っちゃいけませんかねえ。

女郎お染@扇雀さん、はっちゃけてました。そのなかできちんとお染なりの矜持があるってところを見せてくるのが上手いなあと思う。

大工の辰@勘太郎くん、やっぱり私のなかでは『決闘!高田馬場』の又八の成長した姿だなあ(笑)。ゾンビになった時にカラーコンタクトを入れてたみたいです。不気味だった~。

佐平次@井之上隆志さん、いい味出されてしたねえ。軽妙な存在感というか。個人的に声がとっても印象的です。

根岸肥前守@彌十郎さん、ごつい男性だけど中身が乙女なクドカン流のポイントキャラに嵌りすぎ(笑)。彌十郎さんてなんでもこなしますよねえ。最初見た時に「あ、古ちんキャラだ~」って思ったんですが、参考にされのかしら。

町娘@小山三さん、可愛いです。ええ、ほんと可愛いです。舞台写真買ってしまいました。長生きしてくださいね。

もったいない使われ方をした役者さんも多いですが、それぞれの役割を忘れず、その佇まいできちんといる。ゾンビたちは元の顔がわからず終いな方々が多かったんですが気を抜かずきちんと演じて、しかも後半、個々、そのキャラクターとして進化していました。そういう部分含めて皆、頑張ってるし凄いなあって思いながら拝見しておりました。

今回、なぜこんなに楽しく観られたのか、なんて考えてたら、そうそう実は私クリーチャーものが大好きなんですよね。なぜ今回の『大江戸りびんぐでっど』が妙にツボに入ってるのかピンと来なかったんですが、3回目にしてようやく、だって私、業を背負ったクリーチャーもの大好きじゃんと(笑)。モダンホラー大好き人間なのになぜその部分思いつかなかっなんだろうって感じですよ。

それと初日に観劇した頃には底辺にある本筋の半助~お葉~新吉の関係の物語にその業の部分が見え隠れしてはいたけど、脚本的にあれこれ詰め込みすぎたせいでまだこの三人の関係がしっかり表に出てきてなかった。そのせいで何が自分の好みだったのかが見えない部分あったのかもしれない。でもクドカンが演出と脚本を整理してきた部分に加えて染五郎さん、勘三郎さん、七之助くんの三人が書き込みが足りない部分をだいぶ補った芝居をしてきていた(業を背負った男、捨ててしまった男、そして選んだ女としてそこにいてくれたこと)という部分で、ああそう、これやっぱり好きって思わせてくれた気がする。

私はホラー好きとはいえソンビに関してはザンスの「ソンビの頭」束ねるゾンビたちしか知らないからなあ(知ってる人いるかしらん)。ザンス世界のゾンビたちはその性質(動作がのろく言葉もハッキリしない、など)が属性としてあるのよね。こういうお約束を知っていただけでも理解の助けになったりしたのかなぁ。幽霊は幽霊として受け入れるように、ゾンビという存在をゾンビとしてそのまま受け入れることが出来るか出来ないかでも今回の芝居の見方はだいぶ変わってしったのかなと思ったりも。説明って必要?

今回、たぶん一番観客に引っかかりを与えたと思われるのがゾンビを「ハケン」と言い換えてしまったことだと思います。「ハケン」と名づけず「存鼻」のままのほうが観客が彼らをどう受け止めて観るかの部分で想像の余地を与えるし、「ゾンビ」というクリーチャーの存在をそのまま受け入れる余裕も出来たと思うんですよね。そうすればクリチャーの哀れさも人間の哀れさも同列として感じることができる。今回の「ゾンビ」の立場はいつの時代にもいる虐げられる存在・異の存在としてのメタファーにも成り得たと思います。また「人って何?」「人間らしいって何?」ってそれこそ形而上の問題提示もすんなり受け止めてもらえたんじゃないかなあ。それと何よりクドカン流の「日常を生きてくこと」へのエールや「自分らしく生きていくこと」へのゆるやかな肯定がきちんと主題として浮き立ったんじゃないかと。そういう意味ではもったいない出来だとは思います。

「ハケン」と名付けたいう部分で、「派遣」に対する差別意識があると取る人もいますがそれは違うだろうと思います。この芝居、「ハケン」を描いたという部分では十分な社会批評とまではいっていませんでした。が、芝居のなかの「ハケン」は今の日本の社会の「派遣」の立場をそのまま提示し、現在日本の社会問題としてあるそのものをそこに表現してはいます。クドカン、派遣の立場をよく調べてきたなとは思いました。実際問題、こうなんだよね、って部分をてらいなく乗せすぎたかもと感じたくらいです。そのまま提示することでかえって何らかの意味を持たせることができなかったかなと。こういうとこも「今を生きてしかないよね」ってスタンスのクドカンらしいと言えばクドカンらしいですが(笑)

あとは、ゾンビの造詣ですかね。いわゆるゾンビそのままの造詣で板に乗せてしまいましたが思い切ってデフォルメ化してもう少し可愛らしいクリーチャーにしたら良かったかも。ゾンビ好きさんたちには、もっとおどろおどろしくないと、と言われるとは思いますが、そこはそれ歌舞伎ですから(笑)、デフォルメしていわゆる一般受け(特に女子に!)する造詣にしてみるのが吉だったかなあとか。

歌舞伎とはなんぞや、なんて境界線を議論してもその境界線は人それぞれだし、歌舞伎座にかける芝居かどうか?なんてところはもう個々の好みに帰結するしかないわけなので、私は『大江戸りびんぐでっど』は「これは歌舞伎です」って言われたら「うん、そうだね」って答えます。だって好きなんですもの、この芝居。私、歌舞伎として歌舞伎座に上演したきた芝居のなかでまったく好みじゃない芝居がいくつかあります。さよなら公演中に上演された別の月の芝居のなかにもあります。私の線引きのなかではこれ歌舞伎?って思ったものも…。でも「歌舞伎じゃないから歌舞伎座でかけるべきじゃない」とは言いません。私がどう思おうと歌舞伎だと思う人もいるし歌舞伎座で、歌舞伎として演じられた芝居を観られてよかったと思う人がいるのであればもうそれは「歌舞伎」なんだなと。それでいいじゃないですかね。観たいと思う人が多ければ「歌舞伎」として後世に残っていきますし、長年上演されなくてもどこかで復活狂言としてまた上演されることだってありますから。

国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 特別席前方センター

2009年12月21日 | 歌舞伎
国立大劇場『十二月歌舞伎公演』 特別席前方センター

新歌舞伎3本です。地味な感じは否めませんねえ。

『頼朝の死』
この演目自体が好みでないので…なんとも。芝居に全然乗れなくて辛かったです。良かったのは主人思いの芯がある優しい侍女音羽を演じた吉之丞さんと腹の据わった大江を演じた歌六さん。そしてなんといっても政子の富十郎さん。最初はあまりに女形に作りこんでこないので違和感があったのだけど、それでもあの圧倒的な貫禄に次第に引き込まれる。それと押さえた台詞廻しがいい。『頼朝の死』という芝居はそれぞれの内なる苦悩の物語なのであまり詠いあげないほうが伝わる。

頼家@吉右衛門、重保@歌昇さん、小周防@芝雀さんは芝居方法がこの芝居に合ってないような…熱演が違う方向にいってる。なんだか皆が暑苦しく芝居しているのがこの演目に合わなくて空回りしてるように見えた。まずは台詞廻しが前に押し出しすぎ。押さえて押さえて苦悩を見せるべきだろうと思う。個々の悩みが、元が同じとこから出ているにも関わらず根本的なところで交差しない物語だ。特に頼家@吉右衛門さんも重保@歌昇さんは、深く自分自身に問うような台詞廻しにするべきじゃないかと…。

そもそも吉右衛門さんが頼家というキャラククターに合わないと思う。なんというか全然説得力が無いんですよね…。頼家って優れた歌人だったけど政治手腕はない人物(史実)で、なおかつこの演目では青二才特有の傲慢さと精神的な弱さが同居した浮ついた人物として描かれていると思うんだけど、歌人風情はないわ、芯が強そうだわ、政治手腕ありそうだわ、で全然ハマらない。しかも台詞を詠いすぎて生まれながらの貴人風情がみえてこず暑苦しい。やっぱりこの役は梅玉さんじゃなくきゃって感じがする。台詞回しも梅玉さんくらいのほうが伝わる。個人的のこの芝居の頼家は好きなキャラじゃないけど梅玉さんのは「知りたい」と言いながらもその怒りのなかどこか諦観した寂しさとか哀れさがちゃんと伝わってきて説得力は十分にあったと思う。

重保@歌昇さん、熱演すぎだと思う。苦悩はあまりに表に出しすぎると自分本位だけの悩みになりかねない。台詞自体が饒舌すぎるくらい苦悩しているので抑えて内に秘める風情があったほうが重保の立場の哀れさが出るんじゃないかと。

小周防@芝雀さんは可憐な感じは良かったと思うし、真相を話そうとするのも重保を助けたいがためってわかるのが上手いとは思うけど、吉右衛門さんと歌昇さんのテンションに引きずられている感が…。台詞廻しをもっと押さえつつ一途さを出したほうが哀れがでると思う。

京珠さんのお小姓が何気に可愛かった。

『一休禅師』
絵面の華やかさだけを愛でる。禅問答、わからないし(苦笑)。

一休禅師@富十郎さん、枯れた味わい。踊りのほうは手の動きはさすがなんですが、本当に動けなくなっているんだなあと寂しくも。

かむろ@愛子ちゃんはとっても愛らしく、幼いなりにきちんと役者の踊りをしてました。摺り足がきちんと出来てた。

地獄太夫@魁春さん、優しい大夫さんって感じですね。もう少し色気があってもいいかなあ。髑髏の打ち掛けが凄かった~。 化粧は最近ちょっと気になる…若い時の化粧のままなのかなあ。松江時代、とっても可愛らしかったんですよねえ。でも顔がやはり変わってきているのでもう少し工夫すれば魁春さんはかなり美形になると思うんですが…。

『修善寺物語』
三演目のなかでは面白く拝見できた演目。吉右衛門さんと段四郎さんが若干台詞が怪しかったけど…傷になるほどではなかったです。

夜叉王@吉右衛門さん、頼家こちらの役のほうが断然良いです。台詞廻しはもっとカンの強い芸術家風情があるほうが説得力ありそうだけど、ただの職人というだけでない存在感があるから、わりと納得はいく。

桂@芝雀さん、気位の高いいわゆるツンデレという芝雀さんには珍しいお役だけどこちらのほうが活き活きしてて良かった。着物も可愛い。

楓@高麗蔵さんも役がいつもと違い控えめな役だったけどこちらも意外とお似合い。

春彦@段四郎さんが若いっ。若い声を出すと亀ちゃんだ~~って思う。あ、反対なんですけど(笑)

頼家@錦之助さん、癇癪の強さのなかに寂しい風情があり、似合います。個人的に錦之助さん、芝雀さんカップルが並ぶとなぜかホッとする(笑)。バランスが良いんですよね。

景安@種太郎くん、立ち回りが良かったです。身軽さもあるし、形もなかなか頑張っていました。

歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

2009年12月12日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

『双蝶々曲輪日記 引窓』
丸本物のこってり感はあまり感じなかったのですが、かっちりとした『引窓』でした。それぞれのキャラクーの心持がすっきりとわかりやすい。少々淡々と進んでしまう部分もあれどどういう物語なのかの部分は際立っていたと思います。

南与兵衛後に南方十次兵衛@三津五郎さん、非常に丁寧にしっかりと演じていたという印象。この方が古典を演じると「お手本のような」と思ってしまうことがあるのだけど今回もそうでした。人物造詣の的確さと表現の的確さでその場その場にカッチリと嵌る。特に濡髪の存在を知った後が印象的で良かったです。義母を思う心情がくっきりと見える。そのうえでキッパリと決める型が美しい。表情と体の動きのバランスが良いんですよね。ただ、今回はそこにまだいわゆる味わいや情景の濃密さは残念ながらそれほどは感じず。これから、というところでしょうか。また、カッチリしすぎて町人としての部分での柔らかさ、砕けの部分がちょっと足りない。武士の顔の部分がちょっと強く出すぎな気がしました。

濡髪長五郎@橋之助さん、まずは姿が良いです。こういう拵えをすると橋之助さんて、ほんとに美しい顔をしているなあと思います。やはり、丁寧に演じてきたという感じです。真っ直ぐに演じているだけあって濡髪のその場の状況がわかりやすい。丸本物だと一本調子になりがちな橋之助さんですが義太夫のノリはまだ薄いものの台詞もだいぶ工夫してきているかなと。母への申し訳なさ、という部分をしっかり感じさせてくれました。個人的にはもう少し逃亡の身の翳というか揺れみたいの雰囲気が欲しいような気もしましたが十分な出来かと。

お幸@右之助さんがとても良かったです。丸本物の老け役はあまりなさらないと思うんですが、しっくりハマっていました。佇まいがきちんと姑になっていましたし、お幸の長五郎を思う気持ちもしっかり伝わってきました。義太夫の部分のノリや、情の部分のこってり感じはまだ薄いですが、これからこういうお役も手掛けていけるなと思いました。

お早@扇雀さん、しっかりものの朗らかなお早さんという感じでした。悪くはないけど個人的好みからすると色里にいたという雰囲気がちょっと強いような気がする。もう少し旦那が大好きだけど心根がとっても優しいゆえに姑と濡髪を庇う、という雰囲気があるといいなあ。


『雪傾城』
まったりと楽しむ。芝翫さんが六人の孫達と一緒の舞台にいる、というのを楽しめばいいんじゃないでしょうか。

勘太郎くんが、他の演目では感じなかったのにこの演目だとなぜか勘三郎さんにソックリでした。


『野田版 鼠小僧』
初見です。前回、拝見しておりませんし、映像でも見ていません。おおさっぱに筋だけは知っておりましたけど、その程度の前知識。今月、『野田版 鼠小僧』はあちこちで評判が良いのでとっても楽しみにしていました。私、野田歌舞伎は『愛陀姫』はイマイチだったけど『研辰の討たれ』はわりと好き。歌舞伎以外の野田さんの芝居は好み。で、今回の『野田版 鼠小僧』ですが…正直に書きましょう。ダメでした、これ…。

芝居としての完成度は高いです。再演ということもあるのでしょうけど戯曲としての纏まりが良いし、演出は洗練されてるし、そして一度経験した役者たちですから演技も非常にこなれている。物語運びがいいのでだれることもなく飽きずに一気に楽しめる。役者たちも適材適所だし活き活きしてるし。演出も野田歌舞伎三作品のなかでも一番ダイナミック。評価が高いのはわかります。

でも、なんだか苦手。この芝居の物語が好みではない。観ててなんだかゲッソリする。野田さん、精神状態がよろしくない時に書いたんじゃないの、これ?と思ってしまった。人のイヤな部分をクローズアップして救いの無い物語を描くのはいいと思う。私、ノワールは好きだ、ジム・トンプソンズやジェイムズ・エルロイも好んで読むしミネット・ウォルターズのように人のイヤなところをしつこく描く小説も好き。なので、『野田版 鼠小僧』での野田さんの物語の転がし方も、徹底的にそこ描いてきましたか、って部分では「上手いね」って思う。だけど、この芝居、なんか妙に表面的な嫌らしさで留まってる気がするのよね。突き放してるというか、「結局はあんたらもこうなんだよ、でもわかってないでしょ」みたいな冷たさというか…。そこに救いがほしいわけではないんです。後味が悪くても全然構わない。でもなんというか今回の芝居の野田さんのスタンスがね、なんかどうも私の波長と合わないみたい。人の嫌らしさひっくるめて「人」って哀しいね、って思いたかったんだけど、そう思えなかった。私が苦手な宇野信夫作品歌舞伎と同じ感触を感じたな。今まで野田作品でそれを感じたことがないのでたまたまこの作品に同じ匂いを感じてしまったって感じです。

役者さんたちは皆とっても良かったし、最初のほうはこれは楽しめる、って思っただけに、話が進むにつれなんかだか釈然としない感じに…。とにかくそれぞれ主な役者には見せ場ありで役者を見るという分には十二分な芝居だとは思う。ただ単に私の好みの物語ではなかった、というだけですね。残念だ~。

棺桶屋三太@勘三郎さん、研辰の時同様に独壇場って感じです。声が少々掠れ気味だったけど、気になったのは最初だけ、がんがん押し捲った芝居をして観客を巻き込んでいく。こういうのほんとに上手ですよねえ。小さい人間が状況に流され巻き込まれ、あがいてもあがいても泥沼にハマっていく様がなんとも説得力があって、なんだか観ていて辛かったです。

目明しの清吉@勘太郎くんは真面目でも思い込みの強い男を演じます。いつもの勘太郎くんという感じだったけど、いずれ三太を演じるんだろうな、なんて思いながら観てました。

大岡忠相@三津五郎さん、したたかさと冷たさをしっかり演じていらっしゃいました。抜けの部分も絶妙な間で演じ緩急がお上手です。

與吉@橋之助さん、ハマってました。橋之助さんのイメージを上手く使ったというか。

稲葉幸蔵@染五郎さん、最初に少しだけ出てくるだけですが格好良かった。動きがダイナミックでキレがいい。ここの立ち回りの手がすごく良いと思う。筋書きをまだ買ってないのでわからないのですが今回の殺陣師、どなただったんでしょうか。

大岡妻りよ@孝太郎さんがツボだったかも。面白すぎ。福助さんのはじけっぷりも見事だったけど、孝太郎さんのほうが上手を行ってた気が…。やっていることはそんなに大仰じゃないのですが、でもその突っ込み具合の間がなんとも絶妙で。

歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎 昼の部』 3等A席下手寄り

2009年12月12日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎 昼の部』 3等A席中央列下手寄り

歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎』を昼夜通しての観劇。当初は夜の部だけの予定だったのですが、Web松竹に昼の部3等A席が1枚戻っていたのでうっかり?ポチッとな、してしまいました…。といっても急だったので朝から行くわけにはいかず、初日同様に『身替座禅』からの観劇です。昼夜観た中で『身替座禅』が個人的に今のところ一番良かったです。まずは昼の部の感想から。

『身替座禅』
今月のこれはかなり相当良いですよ。初日もかなり良いと思ったのですが、こなれてきた分ますます良かったです。驚くほどバランスの良い座組み。山蔭右京@勘三郎さんと玉の井@三津五郎さんコンビのお互いの持ち味が十分に引き出されていて、なおかつ均衡がとれている。勘三郎さんの柔らか味と三津五郎さんのほどのよい硬さがなんとも良い。右京の可愛らしさ、玉の井の可愛らしさがほんわかほんわか伝わってくる。そこにやはり可愛気のある太郎冠者@染五郎さんが絡んでくるんだから、楽しいに決まってますね。三人とも品よく、崩れすぎずに可笑し味を伝えてくる。この三人、やっぱり踊り上手いですねえ、とつくづく。きちんきちんと情景が伝わってくだけじゃなく観てて楽しくなってくる踊りです。千枝@巳之助くん、小枝@新悟くんの素直な可愛らしさがプラスされて自然に笑顔になる『身替座禅』でした。


『大江戸りびんぐでっど』
チケットを追加購入してしまった原因がこれです(笑)。実は自分で気に入ってるだか気に入ってないんだかまだよくわかってない…。でも色々と引っかかりがあって、良いも悪いもあれこれ考える余地のある(ツッコミがいがあるというか)ところで、自分的に千穐楽(観劇予定)を待たずに確かめたい気分になってしまっていた芝居。

また初日の芝居に対するなんともいえないような空気感は今もあるのかな?とかクドカンや役者さんたちがそこら辺をどう乗り越えてるのかな?なんていうのも気になったし。 賛否激しくどちらかというと否が多めなこの芝居で前向きに頑張ってる役者さんたちを応援したいし、とか色々…。あ、チケット足した言い訳かな(笑)。でも結構、自分のなかでは気負っての観劇だったんですけどね。でも観始めたらあれこれ考える前に楽しめてしまいました(笑)。クドカンはクドカンよねってこちらが開きなおった観劇だったのと、2回目の余裕で脇の細かい芝居も観られたせいかも。

今回観ても脚本の練り不足やら説明不足やら、使いたい役者が多すぎて余計なもの入れちゃったやら、「ハケン」の部分での社会批判がうまく取り込めてないやら、ラスト、スペクタクルにして若干失敗してるやらってっていう部分のツッコミどころが満載だし、ゾンビ連中特有のまったり感やら物語の焦点がどこにあるのやらの散漫さで長く感じてしまうやらで完成度は高くないって印象は変わってない。でもなんだか嫌いになれないというか、なんか悪くないんじゃ…いやむしろ好きかも?という状態。よーするに私的ツッコミがいがあるという部分で意外とツボなんだろうなと(笑)。

今回もネタばれはしません。

ともかくも初日に比べたら相当締まってきてて芝居にメリハリがついてました。週末ということもあるのかもしれないけど、客席の雰囲気は良い感じだと思いました。引いてる人もモチロンいたのかもしれないけど、初日のあの微妙な空気に比べたらかなり楽しんでる雰囲気でした。幕閉まってからの拍手も長かったです。

全体的にはテンポアップしてました。切り詰められるところを切り詰めて、でも大事なとこは余韻を残すような形になっていました。特に終盤の大事な山場のところ、かなり余韻が出てきてました。芝居もだけど演出の部分でも、少し間を持たせるようにしたのかなと。これだけでだいぶ印象が違う。あとPAの音量、押さえてきてましたね。色々と聴きやすくなっていました。また照明の使い方も決まってきたというか、そう使いたかったのねという部分きっちり見せてこれている気がしました。

半助@染五郎さん、全力投球です。もう開き直って突っ走ってやってる感が(笑)。体の動き方が気を抜いてないというか…そこまできっちりやっちゃう?的な。芝居のメリハリがやはり上手いですね。前半は飄々とどこか調子のいいダラッとしてる感じを、後半ではやさぐれ感と切ない部分を出してきます。こういうやさぐれた芝居をすると色気ありますよね。また染五郎さんがこういう小悪党を演じると悪いことしててもどこか真っ直ぐな雰囲気があるから憎めないというか可哀相な人になる。クドカンもそれを狙ってきた感じがしました。

新吉@勘三郎さん、やはりすごく大事な役まわりだなと。今回、そこら辺がしっかりしてきました。自分のプライドとお葉に対する気持ちと、そこが見えてきたので存在感が大きくなってまました。またこちらも哀れ。

お葉@七之助くんは本当に可愛いです。掃き溜めに鶴、と形容されるのがピッタリな可愛らしさ。また可憐だけどクドカン流の女の強さ、自覚のないしたたかさを持ち合わせた独特のヒロインをものの見事に体現していました。

また初日に比べて、役者さんたちがそれぞれ楽しそうに前のめりに印象的に演じているので、役者ごとに何気にわりと美味しく見せてきていた気がします。大人しいと思った福助さんもだいぶ押し出ししてきた(笑)亀蔵さんの存在感がますます増したなあ。それと猿弥さんは複数回観劇のほうが楽しめるかも。注意深く見ているとかなり細かい芝居してます(笑)踊りがかなり揃ってきたのには驚きました。日本舞踊じゃないのに、基礎があるせいでしょうか皆さん上手で驚きます。

しかしクドカンの芝居はテンションが微妙なところにあるのが特徴だと思うけど、それを体現するのも実は相当大変?っていうのを今回感じました。役柄のテンション押さえつつ、でも大熱演しないと歌舞伎座の尺に合わないってところで、それに応えてる役者を観るだけで面白いです。

歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

2009年12月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 十二月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

歌舞伎座初日です。クドカン歌舞伎が気になってとりあえず3等B席から。都合により『身替座禅』と『大江戸りびんぐでっど』のみ。

『身替座禅』
全体的に可愛らしい『身替座禅』でした。可愛らしく品良くほんわか。踊り上手が揃ったのでとっても判りやすい舞踊劇になっていたと思います。また座組みのバランスがいいのか仲のいい一家って感じで、ほのぼのしました。

山蔭右京@勘三郎さん、非常に良かった、と思います。個人的観点からすると、ここ数年少しばかりトンネルに入っていた勘三郎さんが、トンネルを抜けて戻ってきたかもという感じです。勘三郎さん自身のキュートさがちゃんと右京としてバランスよく収まっていました。あくまでも品良く、ふんわりとした色気を纏った右京さん。踊りの丸みが良いですねえ~。

玉の井@三津五郎さん、顔をさほど作らず品のいい奥方としての顔のほうが強く、そのうえでの悋気なのであまり怖くないです。右京のことが好きで好きでたまらない可愛らしい玉の井でした。右京と玉の井、なんだかんだ仲のいい夫婦なんだろうなと思わせるカップルでした。

太郎冠者@染五郎さんも品良く押さえた可愛らしい太郎冠者。以前、右京@團十郎と玉の井@左團次さんでこの役を演じた時は間に立つ悲哀を感じましたが(笑)、今回は和ませ役としてこの一家のなかで働いてるんだろうなあって感じがありました。

千枝@巳之助くん、小枝@新悟くん、初々しい侍女二人。丁寧に踊っておりました。


『大江戸りびんぐでっど』
新作なのでネタばれ無しの方向で書いてみます。

え~っと、クドカン(宮藤官九郎)でした(笑)。クドカン以外の何物でもない芝居。さすがクドカンと言うべきでしょうか。クドカンの芝居は独特なので好みがかなり分かれると思います。しかもどちらかというと若い世代にコアに支持を受けている作家。そのクドカンワールドをまんま歌舞伎座で上演してるってとこに驚く(笑)。旧世代の多い歌舞伎座での反応はいかに?でしょうね。

さて、私は期待値0で臨みました。いや、期待値はマイナスだったかも…。とにかく今年3月に上演された劇団☆新感線とクドカンがタッグを組み、クドカンワールド色を強く出した『蜉蝣峠』がどうにもこうにも自分的に苦手でちょっとしたトラウマ状態だったからです。基本的に映像仕事でのクドカンは好きですし、同じ劇団☆新感線とタッグを組んだ『メタルマクベス』も評価しています。が、大人計画色が強い方向に出るクドカンとなると、ちょっと入り込めないものがあるのです。そのうえで個人的には今回の『大江戸りびんぐでっど』はプラス方向の評価になりました。まずは私的基準『蜉蝣峠』よりはという評価ですけど。とりあえずガッカリ感はなかったです。普通に面白かったです、というか今のとこ、まあまあ気に入ったかもという感じです。『蜉蝣峠』でクドカンワールドに慣らされた?という気も若干してますが(笑)

これ歌舞伎?という議論は野田歌舞伎が先行にあるのでそれほど出ないかもしれませんが、新作歌舞伎のなかで一番普通の芝居ぽい気はします。歌舞伎のお約束をほぼ使っていません。ただ論理の飛躍という部分に関して「歌舞伎」にしたからこそ違和感なかったのかも、という部分もありました。

単純な喜劇ではないです。悲劇というかシニカルな視点のなかで「まあ、とりあえず現状を受け入れてくしかないよね」というゆるいスタンスがあるって感じ?視点はとても面白いです。わりと先読みができる作りで意外性の部分での驚きはないかな。男は弱くてずるくてジタバタして生きてて、女は強くて男を許す存在というクドカンの基本パターン踏襲しております。

それとクドカンの映像でない作品はあまり観てないんですが、意外とキャラの行動原理の部分、説明不足というか、深くは書かない人なの?という感じを受けましたがどうなんでしょう。それぞれ納得して動いてるぽいんだけど傍からみると「どうしてあなたはそういう行動をするの?」とついツッコミたくなります…。行動に飛躍がありすぎるというか。まあそれがクドカンの特徴でもあるとは思うのですけど。ゾンビ踊らせる前にそこら辺もう少し描いてくれないかな?とか思ったり。でも結局は役者の力技で一気にいってたし、そこが一番見ごたえあるとこなので、私が説明がほしいだけかも?

全体としては初日のグダグダ感たっぷりを差し引いてももう少し短くできたでしょうと思います。ゾンビ集団のあれこれの部分をもっとタイトにしたほうがいいかも。今のところゾンビ集団が主になる箇所がダレるとこが多かった。それとこれは個人的好みになりますが、大詰のエピソードはいらないかなあ。その前で終らせたほうが皮肉が利いてよい気がする…。うやむやなうちにハッピーエンドになってました。

音に関してはPA多用。使うなとは言わないけど、もう少し抑えてほしかった。

舞台美術、舞台転換は良かったです。きちんと歌舞伎座の間口を使えてました。小劇場出身の方なのに舞台が小さい使い方になってないのには驚いた。クドカンはこういうとこきちんと勉強してくるんでしょうね。自分ワールドは決して崩さないけど、表現する尺を場ごとに合わせることを知っているというか。原作翻案が上手いのはその感覚をきちんと持ち合わせているせいかも。

半助@染五郎さんが主役でした。半助は口だけ達者でとっても情けなくて小さい男です。それが自覚できてない男。でも女に一途に惚れてるって男ってところでクドカンのなかで免罪符になってる男。染五郎さんはクドカンが描くいかにもなキャラを思いっきり体現しております(笑)。またさすがにアテガキだけあって染五郎さんに合ってます。小ずるい部分がどこか切ない男に転化するこのキャラの説得力は染五郎さんならではという感じがしました。ジタバタしている部分がかっこ悪いけど、かっこ悪いことじゃないって部分が必要なんですよね。クドカンが描きたい一番のとこだと思うのです。

染五郎さん、相変わらず血糊つけてます(笑)。太ももの大サービスもございました。目の前の席だと目のやり場に困りそうなくらい全開でした。 それと着ぐるみのサービス?も。最初の小ネタでは「うわっ、『蜉蝣峠』の二の舞?」と不安にさせられましたが…まずはクドカンはこういうノリから入る人と認識しておくべきですね…。半助の「口だけ達者」な部分がまだまだですね。かなり大量の台詞を早口で言わなくてはいけない場面が多いのですが、台詞はしっかりと入ってはいるものの呂律があやしいとこがいくつか…。染五郎さん、頑張れ~、です。一番山場の一番大事な部分ではさすがに勘三郎さんとともにかなり見せ場にしてきていました。なぜ、染五郎さんがこの役なのか?という部分がここでハッキリわかる。

余談:クドカンはアテガキの人ですが、染五郎の半助は多分、大人計画の松尾スズキさん演出の『女教師は二度抱かれた』で演じた六郎をかなり意識してるかなと。同じ弱い情けない男ですが、六郎は免罪符を持たない男、半助は免罪符を持った男。同じ大人計画でもクドカンと松尾スズキさんには似た部分とかなり違う部分がそこにあって、ちょっと面白い。

お葉@七之助くんが、ほんと良かったです。クドカンが好きそう~な女を体現しております。凛とした佇まいとそのなかにどこか可愛らしさがあってそこに違和感なくハマっていました。台詞回しも綺麗だし、情感もある。七之助くんはコクーン歌舞伎『桜姫』で一皮剥けたかなあ。愛陀姫とか桜姫の系統なので、クドカンたぶんそこら辺の七くんに触発されてアテガキしたかな?って感じがしました。

新吉@勘三郎さん、出番は多くないですがかなり重要な役。さすがに芝居を締めてきます。見せ場の部分、脚本のほうで行動原理の説明不足の部分あるんですが、そこを力技で一気にみせくる。なぜ?と問う前に納得させてしまう勢いがありました。その勘三郎さんの攻め方が上手いので受ける染五郎さんも乗ってましたし、相互作用というか、いい場になっていたなあと思います。クドカン、勘三郎さんの上手さをうまく引き出してきたなあ。

四十郎@三津五郎さん、ス・テ・キ(笑)。三津五郎さんてば面白すぎ。だいたい、新作歌舞伎だとこういうボジションな三津五郎さんですが、美味しいとこ持っていきます。

大工の辰@勘太郎くん、どうみても『決闘!高田馬場』の又八(笑)。又八が生きてたらああいう大工になってたかなあって思いました。楽しそうです。

喜瀬川@福助さんはとっても綺麗でしたが意外と大人しい。というか役柄がそれほど大きくないからかな。ついハジけっぷりを期待してしまうので…。

女郎お染@扇雀さん、今回は扇雀さんのほうがはじけてます。ちょっとうるさいかななと思うところはあれど締めるとこはしっかり締めました。

芝のぶさんが勘太郎くんのおかみさん役。かなり美味しい役です。芝のぶちゃんファン必見?意外な芝のぶちゃんを拝見できます。強い女、好きだよねえ、クドカン(笑)それと小山三さんがかわゆいです。

と、今回はまあこのくらいで。ネタばれはしてないはず。あとは千穐楽に向けてどう進化してるのか楽しみです。