Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『五月大歌舞伎 海老蔵襲名披露』 一等一階上手前方

2004年05月23日 | 歌舞伎
歌舞伎座『五月大歌舞伎 海老蔵襲名披露』 一等一階上手前方

歌舞伎座は平日だというのに桟敷席下の通路にも補助席を出すほどの人出。歌舞伎座がこんなにすさまじく混んでいるのは初めてかも。まあ、話のタネになるし一度観てみようかという感じの団体客多数、初心者多数という感じでした。そうかチケット入手困難はこの成田屋後援企業の団体客かと納得。しかし歌舞伎に興味を持っていただくのはいいけど私語に夢中だったりなマナー違反者も多数でちょっと悲しかったかも。にしても上演中、まったく舞台を観ないで筋書きを必死に読んでいる方はどういうつもりで来たのでしょう…。せっかく来たのに、あんなに良い席なのにと気になって気になって…海老蔵をただ見たというだけで満足なんでしょうか。ちょっと愚痴でした。

さて、今回は今年の一月歌舞伎に連れて行ってすっかりハマってくれた歌舞伎初心者二人と一緒の観劇でした。二人は「海老蔵きれいー」「菊之助かわいい」と最初のうちは役者を近くで見れることに単純に喜んでくれていたのですが、『勧進帳』と『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』ではすっかり内容に没頭していたようでした。そして「三津五郎さん、すごい、すごい。感動しちゃった~。」の連発。玄人好みの演技と言われている三津五郎さんだけど、あの気迫やうまさは初心者でもわかるのねえ、ととてもうれしくなってしまった。

『碁太平記白石噺』「新吉原揚屋の場」
かなり古い時代浄瑠璃もので、すでに通しでは上演されず七段目の「新吉原揚屋の場」のみ上演されている。その七段も滅多に上演されない演目になっている。確かにこれは難しいかも。動きがほとんどなくほとんど義太夫の語りで話が進む。浄瑠璃に慣れていないと、眠気が襲ってきてしまうかも…案の定こっくりこっくりしている人が。このところすっかり義太夫の面白さに目覚めた私だが、それでもあまりのゆったりとしたテンポに、「これは初心者には難しすぎるっ」と途中、余計な邪念が入ってしまうほどであった。滅多に観られない演目だから寝るにはもったいなさすぎ、と必死に観てましたが、途中半分は語りの葵太夫さんに意識がいってた(笑)。

雀右衛門さんが体調不良のため時蔵さんが代役で主役の傾城宮城野を演じる。時蔵さんは複雑な心境を見せる宮城野を丁寧に演じてとても美しく、牡丹の花のようである。ただ、傾城として花開いたという役柄にしてはちょっとあだぽい色気があまり無かったかな。また動きが少ない分、もう少し「魅せる」ための求心力が欲しいところだが、その部分がちょっと欠けていたのが残念。佇まいだけでふわ~っとした色気をみせる雀右衛門さんが演じていたらどうだっただろうとつい考えてしまったが今回はそれは贅沢な望み。

宮城野の妹の田舎娘、信夫に菊之助。方言丸出しの田舎娘らしいドンくささと一途な健気さが同居した可愛らしい娘になっていた。『先代萩』の松島では未熟さが出てしまっていた菊之介だが、娘役となると役柄にうまくはまることが出来るようでとてもいい出来でした。

揚屋の主人、惣六に富十郎さん。体調が良くなってきたのでしょう、口跡爽やかなセリフが心地よい。ちょっとした出でも大きな人間という印象を与える存在感も素晴らしい。

『十一代目市川海老蔵襲名披露 口上』
団十郎さんがこの場にいないのが寂しかったけど周囲の方々が一生懸命、新海老蔵を盛り立てていて「海老蔵襲名」に立ち会っているのだなあとの感慨が。それにしても女性問題のこととか、破天荒な性格のこととか、結構言いたい放題言われていたかも(笑)。幹部の方のなかでは仕切りをされている雀右衛門さんが祖父の九代目の思い出話をされていて、「こうやって続いていくのだな」としみじみして良かったなあ。お話はやはり幹部の方々のが重みがある。そういえば、雀右衛門さん、ところどころ言葉がつっかえていらしてちょっとお辛そうでした。体調が気がかり…大丈夫かしら、無理しないでほしい。肝心の海老蔵のにらみは端っこだったので奉書を載せた三方に邪魔され一瞬見えないかと焦りましたが、なんとかぎりぎり横顔をみる事ができました。だって、にらんでもらわないと邪気を払ってもらえない。

『勧進帳』
最初は団十郎さんの情たっぷりの弁慶を観たい、代役の三津五郎さんは線が細いし役柄に合ってるのかな?と少々不安な気持ちで観始めたのだが、この三津五郎弁慶が素晴らしかった。指の先の先まで美しい型を作り、小さい体をより大きく見せる。そしてなにより「弁慶」としての主君のために命をかけて臨んだ富樫との対決の場のなんともいえぬ緊張感と気迫が素晴らしく、こちらも息を呑んで見守る。弁慶としてのオーラをどこからか引き寄せてきたような凄まじさでありました。弁慶であんなに集中し緊張しながら観たのは初めてだ。また富樫から見過ごしてもらった後の主君、義経との情溢れるやりとり、そして富樫から酒を振舞われ踊る延年の舞の美しく情感がこもった踊りは言葉に出来ないほどの感動を覚えました。そしてそこでも絶えず義経に気を配ってる風なのがまた素晴らしく、先に発たせた義経たちを追いかけての飛び六法での引っ込みも気迫に溢れとても美しい引っ込みだった。凄まじいまでの気迫さが命を賭けている「弁慶」の気持ちとしてストレートに訴えかけてきて知らず知らず涙がこぼれてしまった。小柄で線が細くても「弁慶」はできるのだ。こういう弁慶のありかたがあるのだと、本当に感動した。

新海老蔵の富樫は姿がまずとても美しく、それだけで満足かなー、とちょっと思ってしまいましたが声を出し始めると台詞廻しがいまひとつ。型をとてもきれいに作っているのは非常に良いんだけど、そこにきちんと台詞をのせていかないと「富樫」にならない。声はよく通るのだが疲れもあったか、無理している感じがありあり。また弁慶の主君への想いに感動する場などは感情を露にしすぎて甘すぎ。複雑な肚を持たないといけない役なので難しいとは思うが、まだまだ精進が必要だなと。父団十郎さんのどこか鷹揚としている弁慶に相対していたのならば、もしかしたらその未熟さもありだったかもしれない。が、代役の三津五郎さん弁慶のぎりぎりまでに神経を鋭くした弁慶と相対してしまうと未熟な部分がハッキリと見えてしまう。

義経の菊五郎さんは柔らかな持ち味を生かしてとても上品で情のある義経であった。周りの役者も揃っており襲名披露を盛り上げるにいい舞台でした。

『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』
妹が殿様のお手打ちにあったと聞いて一家は沈んでいるのだが、なんとか気持ちを盛り立てようとそれぞれが必死になっている様子がおかしくもあり切なくもあり、という世話物。

大役の弁慶に続き、三津五郎さんが宗五郎を演じる。だ、大丈夫なんでしょうか?とこちらが心配してしまうのだが、三津五郎さんは荒事の雰囲気をすっかり消して世話物の登場人物として登場しお見事。恩義を感じている殿様への義理と妹が可哀想という狭間で心揺れる宗五郎を三津五郎さんはキメ細やかに演じていた。このお話は『新皿屋舗』と題名がつくだけあって殿様の磯部主計介は『番町皿屋敷』の青山播磨がモチーフだ。四月に播磨をやった三津五郎さんが、今度は殿様を責める側にいるというのが面白い。

宗五郎を気遣う、女房おはま役の芝雀さんが深い情愛があってとてもいい女房を演じていた。芝雀さんは白塗りのお役しか見たことがなく世話物のしかも女房役で最初驚いたのだが、やはり切々とした情愛を感じさせるお役がとても上手だ。また、酒に酔って殿様のところへ直訴しに行ってしまった後を追う場の引っ込みのきっぱりした姿がまた素敵。ああ、芝雀さんはもっと認めてもらっていい女形だと思う。芝雀さん、好きだなあ。しかしいくらでも美しく化粧をできる方が「ほとんどすっぴん系の普通の女房」なお顔だったのがちょっと寂しい。美人な女房でもいいじゃん、とか…。

三吉役は松緑さん。柄にはピッタリなんだけど、もう一歩。声が大きく聞き易いのはいいのだけどセリフに情感をこめるのがどうもまだまだのようである。やりようによってはかなりの儲け役になりそうな役柄なのにもったいないことである。世話物の難しさなのだろう。

菊之助のおなぎはピッタリ。友人を亡くした悲しさと、理不尽にも殺された友人への義憤のないまぜな表情がいい。また世間知らずなお嬢様ぽい風情がまたよし。

不幸の元凶の殿様、磯部主計介に海老蔵。まあ庶民に殿様が謝るといった役どころではあるが、最後の最後で華を添えるといった役なのでしどころはなし。でもこういう役にきちんと出るところに好感を持つ。

ル テアトル銀座『ピーター・シェファー作・アマデウス』 一等下手前方

2004年05月15日 | 演劇
ル テアトル銀座『ピーター・シェファー作・アマデウス』 一等下手前方

ひさびさに舞台での染五郎を観たくて行ったのだが、松本幸四郎という存在のすごさに圧倒させられた舞台であった。これを観たらサリエーリという役を他の役者がやる、というイメージがまったく湧かないほど幸四郎と「サリエーリ」は同化していた。またすさまじく膨大なセリフを流れるように操り、しかも老人と壮年の声色を巧みに変化させ、ほとばしらせる。そしてそれらひとつひとつの言葉に意味が載って、観ている側に怒涛のように押し寄せてくる。舞台でこれほど「言葉」を明瞭に意識させられたのははじめてかもしれない。ピーター・シェファーが作り上げた『アマデウス』という舞台の脚本の質の高さをまず感じ、それを自在に操る松本幸四郎という役者の底力を感じ鳥肌がたった。全編出ずっぱりで、一人舞台とも錯覚させるような存在感。

舞台が始まる前から舞台の道具のように微動だにしないで椅子に座っていたことを知った時には「役者の業」に触れたような気がして戦慄すら覚えた。観始めた時はただただすさまじい…としかいいようのない空気を感じたのだが、またそれが「モーツァルト」への妄執に取り付かれた「サリエリ」を演じるうえでの狂気を演じていたからこその空気感であったことも知る。老人から壮年へ軽やかに変わると同時にその雰囲気は変わり、滑稽味さえ感じさせるキャラクターへと変貌。また、指先まで神経細やかな立ち振る舞いの美しさはなんともいえない。それでいながら「サリエーリ」の俗な性格さえも感じさせるのだから大したものだ。

対する、モーツァルト役の染五郎も大健闘だった。端正で美しい外見と傍若無人な子供ぽい中身のとギャップを、ステップを踏んでいるような動きと独特の甲高い笑い声でうまく表現していた。特に、笑い声は映画で演じていたトム・ハルスもかなりインパクトのある笑い方をしていたが、それをまねているのではない染五郎独自の笑い声にきちんとしていたのがすごいなと。かなり猥雑なセリフがぽんぽん飛び出してくるのだがそのなかに言葉遊びの部分があるというのがきちんと表現されておりヘンに下品にしてない。子供ぽい表情が豊かで可愛らしく、拗ねた顔なんかはつい真似をしたくなった(笑)。また父親に対する想いや自分の音楽に対する強い想いが入るセリフは深い感情に溢れ胸に染みる。存在感という部分では幸四郎さんには及ばないものの、的確なキャラクター造詣はこれからますます楽しみな役者として認識させるに十分でした。役者としての染五郎はやっぱ好きだなー。

コンスタンツェ役の馬渕英里何は気の強い今どきな女性として演じていた。一筋縄じゃいかなそうな部分はピッタリではあったが、セリフが少々一本調子。もっと緩急をつけてもらいたかったかなー。甘える部分などはもっと可愛らしい感じにしたほうがより説得力があったような気がする。またモーツァルトが亡くなる寸前のセリフがあっさりしすぎ。あの部分が感情豊かだと盛り上がっただろうと思うシーンだったのでかなりもったいない感が。


サリエーリ(松本幸四郎)
モーツァルト(市川染五郎)
コンスタンツェ(馬渕英里何)

帝国劇場『エリザベート』 S席1階12列目

2004年05月11日 | 演劇
帝劇『エリザベート』 S席1階12列目

エリザベート(一路真輝)、トート(内野聖陽)、ルキーニ(高嶋政宏)、ヨーゼフ皇帝(鈴木綜馬)、ルドルフ皇太子(浦井健治)、エルマー(今拓哉)、ゾフィー(初風諄)、マックス(村井国夫)

内野聖陽トートVer.でございます。ミュージカルはひさびさで楽しかった。主役(エリザベート)に感情移入出来なかったのでハマるまではいかなかったけど内野トートと浦井ルドルフにちょっと惚れました(笑)。曲の良さにCDが欲しくなったけど、色々ありすぎてどれを買っていいかわからない。

ミュージカルを観るのは何年ぶりだろう。もう4、5年は観ていないはず。どうやらミュージカルの基本を忘れ去っていたようでセリフのほとんどが「歌」というのに最初戸惑う(笑)。しかし9.5割が歌のミュージカルも珍しいよね?。ほとんどが歌だけの『エリザベート』ナンバーはかなり耳なじみしやすくていい曲が多かったです。ストーリー内容に関してはまあ実在の人物のお話なのでそこら辺よく噛み砕いてお話を作ってるなーとの印象。エリザベートの自由を求める気持ちとそこに伴うエゴイズムとの両方が描かれていました。前半は皇室のなかの窮屈さとそれに抗うエリザベートという部分で今の日本の皇室と重ねて観てしまったりしてそれなりにエリザベートの気持ちに添えたんですが後半かなり自分勝手さが前面に出てて18年も放浪の旅に出てたつーのは育児放棄では?とか随分と自分勝手な女だなあとか思ってしまいちょっと感情移入できなかったのが残念。基本的には少女マンガちっくな部分があるお話だし、ミュージカルだし、史実通りじゃないんだし、もう少しエリザベートの性格を可愛らしくしてもいいんではないかしら、とか。

さてこれからが本題(笑)?。今回なぜこれを観るにいたったかと言うと内野トートのジャイアン(@ドラえもん)と噂のオンチぷりと振り付けが可笑しすぎると噂のトートダンサーズ目当て。笑う気満々で行った私たちはかなり邪道です…。

で、ワクワクドキドキの内野さんの歌のシーン。「あれ?普通に上手なんですけど。しかも声がとっても良いし、歌詞がハッキリわかって一番セリフとして歌が聞ける」でした。前回からかなり上達したんでしょうかね。歌がうますぎる山口祐一さんと較べられたのが不幸だったのか、よほど練習したのか。それともミュージカルから遠ざかり舞台の歌と言えば劇団☆新感線な方々の歌という私の耳がかなり内野さんの歌に甘いとか(笑)。それにしても内野さんは噂通りエロいほどの色気がありました。ひとつひとつの仕草が色っぽい。手が優雅にひらひら動いているし表情もくるくる変わるのでついつい目線は内野さんへ。死の帝王なんだけどなんとなく母性本能くすぐる系表情もあったりして、エリザベートよりよほど恋する乙女な雰囲気があった…いいのか?。でも後半の大胆不敵なニヤリは悪の魅力満載だし、とにかく低い声がかなり素敵で私的にタニス・リーの闇の公子を思い出してみたりして。宗方コーチとは別人な雰囲気が見事。で、内野トートには笑かしてはもらえなかったけどかなり満足しました。

期待通り笑えたのはトートダンサーズでした。予想以上に「ヘン」なんですがっ。前回の振り付けとはどうやらかなり違うらしいのですが、でもあのカクカクした微妙な踊りは面白すぎ。出てくる意味あるの?といった「わらわら」ぶりが笑いのツボに入り堪えるのに必死でした。

観にいった友人と一番良かったとねと言ったシーンはトートとルドルフのデュエットシーン。浦井くん可愛いしー、高めの声質がなんともいえず、また内野さんの声質ともピッタリで一番聞き応え&見ごたえがあって結構感動。他のシーン削ってトートとルドルフの絡みをもっと増やせばいいのにと感想言い合う私たちはフジョシの素質あり?…をい。

ルキーニの高嶋兄さんもうまかった。でもかなりの道化役で「へえ、こういう役もやるのかー」と驚きも。ルキーニという役はスマートに出来そうな役柄なので演出かな?。私的にはスマートにやったほうがお話として引き締まりそうな気がしました。

あっ、肝心の主役もやっぱり上手でした。第一部はちょっと10代には見えないね…な部分がありましたが第二部に入っては堂々たる主役ぶり。あーでもやっぱりエリザベートの性格が苦手だったかも…。弱い部分があまりみえなくて強すぎるんですよねー。

まあ、最初の目的が目的だけにちょっと邪道な見方だったかもしれませんが思ったより普通に楽しめたミュージカルだった。山口祐一郎さんVer.の歌もちょっと聞いてみたいかも。それと海外ver.はすごく観たくなった。演出は日本とは違うよね?まさかあんな少女マンガチックにやるとは思えない。トートのコスプレはどうみても日本の少女マンガだよ。あとトートダンサーズの存在もいるのかどうかも知りたい。

横浜みなとみらいホール『マウリツィオ・ポリーニ ピアノリサイタル Aプログラム』 A席2階RA2列目

2004年05月03日 | 音楽
横浜みなとみらいホール『マウリツィオ・ポリーニ ピアノリサイタル Aプログラム』 A席2階RA2列目

なんというか思っていた以上にすごい体験でした。今まで聴いてきたピアニストといえば、バックハウス、ホロビィッツ、ツィマーマン、アシュケナージ、若手ではキーシンあたりだったんです。なぜかポリーニには縁が無くつい最近まで聴いたことがなかったのです。それがたまたま5月に来日というチラシをみてなんとなく彼のショパンとベートーヴェンのCDを手に取ったら、私が今まで聴いてきたショパンやベートヴェンのイメージからはかなりかけ離れた演奏で本当にビックリ。力強くダイナミックな演奏はとにかくすごいとしか言いようがなく、好きとかそういう範疇を超えて気になる演奏家となりました。で、やはり生で聴いてみたい。でももうチケット完売だし、どうせ高すぎるしねで、まあ諦めていたんですが、ヤフオクをのぞいているうちについポチっと入札してしまいました(笑)。でも行けて良かったと心の底から思いました。用事ができて手放した方に大感謝ですよ。

席が2F席でちょうどポリーニさんの背中の斜め上。指遣いはハッキリ見えるし、音も下からドーンと聴こえてくるかなりのBestポジション。ポリーニさんは私が好きだなあと思う端正で柔らかい音を出すタイプのピアニストではなかったのですが、それでも最初から音そのものに引き込まれて大興奮。しかも私が今まで苦手系だった現代音楽のシューンベルクの音楽がとっても楽しく聴けたのが自分的にうれしかった。あのダイナミックな音色だからこそ楽しめたような気がします。ポリーニの音はとても独特でした。何層にも音が重なり、とても鋭角的なきらめきがありそしてひとつひとつの音が力強く圧倒的な力で迫ってくる。

ベートーヴェン7番、8番では音に体を持ち上げられるような気さえしたくらいです。たぶん、かなりテンポが速い演奏だったように思いますがその勢いがこちらの体の芯に響き、音を内から感じさせてくれたというか。なんと説明すればいいのか…難しい。ラストのシューマンの夜想曲まで弾くたびに勢いはますます増し、聴いてるこちらはただ興奮しっぱなし。それにしても指遣いがすごすぎてそれにも驚かされました。とても大きな手をされていて、早いタッチの部分では指先が独立して動いているのではないかと錯覚しそうになりました。「ミギーだ」ととっさに思う私…なんちゅう喩えだ…。アンコールはシューマン1曲とショパン2曲の大奮発。これまたすごかった。「な、なんですか?これ」(驚)って感じ。ああ、ダメだ。私の言語能力ではうまく説明できません。

<<曲目>>
シェーンベルク:6つのピアノ小品 op.19
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第7番 ニ長調 op.10 No.3
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 op.13「悲愴」
シェーンベルク:3つのピアノ曲 op.11
シューマン:幻想曲 ハ長調 op.17

<<アンコール曲>>
シューマン : 幻想小曲集 第2番「飛翔」
ショパン : 夜想曲 第8番 op.27-2
ショパン : 練習曲 op.10-4

新国立劇場 中ホール『髑髏城の七人 アカドクロ』 S席下手真ん中

2004年05月01日 | 演劇
新国立劇場 中ホール 劇団☆新感線『髑髏城の七人 アカドクロ』 S席下手真ん中

劇団☆新感線が大きくなるきっかけになったお芝居ということで楽しみにしていました。ああ、やっぱり面白い。基本的な部分は「友情」「縁(えにし)」「矜持」「男の純情」「お笑い」と、だいたい同じ路線の芝居なんだなあという感じはありましたがそれでもやはり観ているうちにドキドキわくわくハラハラ。とりあえず帰ってきた梶原善が素晴しかったです。ハリのある声と渋いながらはじけてる演技が印象的でした。

アカで良いと思ったのは断トツに贋鉄斎@梶原善さん。おちゃめさと老獪さが同居している独特のキャラを作っていたし、なによりセリフの明快さが素晴らしい。あと、おっ、と思ったのは蘭兵衛@水野美紀の華ときれいな動き。ただセリフが弱めなのがもったいない。沙霧@佐藤仁美と極楽太夫@坂井真紀は声は通っているし動きもいいのだがなんせ華がない&キャラとしての感情が追いついてなかったように思う。これはまだ舞台がこなれてないところから来てるのが分かったのでたぶん、もっと良いものになったろうなという想像はついたんだけどね。狸穴二郎衛門@佐藤正宏は前半よかったんだけど後半が息切れしたわけじゃないと思うが台詞が弱くなってた(肝心なシーンの台詞が聞き取りにくかったのだ)。

期待してなかっただけに予想以上に良かったのは裏切りの三五@河野まさとさんと磯平@礒野慎吾さん。この二人はほんとに良い味だしていた。動きといい、キメるときの台詞といい、ピンポイントできっちり演じていて目立ってた。

兵庫@橋本じゅんさんはもっとできるだろうと期待しすぎたせいの物足りなさだったかな。動きはもう楽しくて、「ああ、じゅんさんだー」で満足だったけど、仲間を殺されての慟哭のシーンはもっと泣かせてよ、というこちらの先走りな期待が…。たぶん、後半よくなっていたと思う。評判良かったから。

それ以上に物足りないと思ったのは古田新太さん。主役の台詞がきちんと台詞として届かなかったのが大きい。雰囲気はとても良いのにまともにセリフが聞こえないんじゃやはり舞台としてどうよ?と思うのだ。古田さん、もうちょっと台詞回し方法を考えてください。TVでの古田さんはすごーく好きなので舞台でイマイチと思ったのはセリフ術の弱さにあると思う。ところどころ何言ってるのかわかんないんだもの(^^;)。席が1Fのかなり良い席だったから、これにはちょっとガックリしました。女好きでエロおやじ、だけど優しくてまっすぐな捨之介ってキャラにはすごく合っていて感情の振れ具合もいい感じで出してるのにーー。あとは台詞をもっとハッキリしゃべってーー。天魔王のほうはキレ具合が足りませんでした。捨之介のキャラに引きずられたのか恐いというよりおバカな悪役感が…。もうちょっときちんと演じ分けてほしかったな。せっかくの信長の影武者という部分での絆とか妄執とか哀しさとかがあまりみえなかったのがドラマとしてはもったいなさすぎ。

あと一番の問題はほんとうの脇役の方々。色んなことをやらないといけないので動きが中心になるのはわかるが、台詞、全然聞こえてこないし、わからなすぎ。これでいいのか?確かに重要な台詞はないし、ストーリーは動きでわかる。でもやっぱり言ってることが聞こえないストレスは観客として大きいのです。