Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』1等1階後方センター

2006年08月26日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』1等1階後方センター

『南総里見八犬伝』
8/19(土)に拝見した時よりもますます纏まっていて終始楽しく観ました。簸山宮六@亀蔵さんのハンカチ王子ぷりがGJ(笑)さすがネタを仕入れるのが早い。がんどう返しの信乃@染五郎×現八@信二郎対決?は僅差で染ちゃんの勝ちでした。

千穐楽も三津五郎さんらしく丁寧ですっきりとした芝居を貫いたものでした。物語性という部分を求める観客が多くなっているようなので、この手の『南総里見八犬伝』は次回見られるかどうかかな。舞踊的な動きが基本の今回のお芝居、私はとっても好きなんですが。でも物語性豊かなものも確かに観たいとも思います。もし変えていく必要があるのなら、外部の演出家に携わって欲しいですね。


網干左母二郎/犬山道節@三津五郎さん、 悪役の左母二郎がかなり素敵でした。歌舞伎の正統派悪役ってなぜかカッコイイのよね。道節のほうは派手でしたねー。入りがちょっとばかり長いかな、とも思いましたが引っ込みの六法は迫力がありました。小柄な三津五郎さんが大きく見えます。

伏姫/山下定包@扇雀さん、伏姫のほうがちょっとニンじゃないかなーと。伏姫には清楚な雰囲気が欲しかった。悪役の山下定包はかなり似合ってました。不気味な感じもありましたし押し出しも立派。

浜路/犬村角太郎@孝太郎さん、なんといっても浜路でしょう。健気な可愛いさがよく出ていて、切々とした台詞も聞かせました。ちょっとした仕草に色気が出てきたような気がします。薄幸の少女がよく似合う。角太郎のほうは出番が少ないので…改めて孝太郎さんって小柄なんだなあと思いました。

安西景連/犬江親兵衛@松也さん、怨みを抱えた安西景連が良かったですねー。上手いです。声も朗々と響いてインパクトを残しました。女形も色気があって素敵ですけど、立役も良いですね。 親兵衛のほうは出番が少ないのでやはり印象に残るまではいかないですがだんまりでは先輩方のなかに入って頑張っていました。

犬塚信乃@染五郎さん 、典型的な二枚目を品よく演じていました。贔屓目込み入りますが水も滴る美青年ぶり。動きにかなり気を使っていたんじゃないでしょうか?ひとつひとつの動きがかなり綺麗でした。特に手の動きと形が美しいんですよ。浜路との恋模様の場では非常に舞踊的要素を感じさせました。立ち回りでも同様で、ゆったりとした動きのなかで信乃の敏捷さしなやかさを表現していたように思います。三階さんたちとの息の合い方が良かったです。三階さんたちがきちっと決めるのをしっかり見極めてから見得を切る。ゆったりな立ち回りだけにその呼吸の合わせ方がよくわかりました。

犬川荘助@高麗蔵さん、ただの下僕じゃない雰囲気がきちっと伝わってくる荘助でした。兄弟分な仲のよさもあってある意味、信乃とお似合い(笑)高麗蔵さんは兼ねる役者さんですが最近は特に立役のほうが味わいがあるように思います。

犬飼現八@信二郎さん、拵えが似合ってカッコイイ現八でした。骨太さがほんとに出るようになりましたよね~。昔は優男系の信乃のほうがニンでしたが今は現八のほうがニンかもしれません。ほんとにピッタリ。ずっしりと腰を落とした立ち回りの形が非常に綺麗でした。

後日追記します。
犬田小文吾@弥十郎さん

犬坂毛野@福助さん

荘官大塚蟇六@源左衛門さん

滸我成氏@錦吾さん

簸山宮六/馬加大記@亀蔵さん

金碗大輔@秀調さん

歌舞伎座『納涼歌舞伎 第二部』 1等前方下手寄り

2006年08月20日 | 歌舞伎
歌舞伎座『納涼歌舞伎 第二部』 1等前方下手寄り

華やかさという部分はあまりない第二部でしたが楽しかったです。

『吉原狐』
人情もの。女形さんたちがはっちゃけてました。先代勘三郎さんに当てた演目で45年ぶりの再演だそうですが、福助さんがハマリ役。こういう役だとちょっとやりすぎかなあ…な、はみだし感はあるのですがそれもまた「おきち」という役の個性にも見える。期待?の橋之助さんの女形がでかいけど綺麗だった。すっきりした美女ですよ、素敵。声がお父さんの芝翫さんにそっくりでした。孝太郎さんも可愛かったなあ。遊郭の女のふわふわ感があって。染五郎さんの品がありつつちょっと高慢で崩れた旗本の殿様も美しくってよかった。ワルになりきれない加減さが染五郎さんらしい。この演目は登場人物、全員キュート、というとこが良いですねー。


『団子売』『玉屋』『駕屋』
踊り三種は踊り手の個性の違いを楽しみました。

『団子売』は扇雀さんと孝太郎さんが非常に丁寧に踊っていたという感じだけどあんまり夫婦の情感がなかったような…。孝太郎さんの表情がかわいらしかったです。いつもより綺麗にみえました。

『玉屋』はかなり地味な振り付けで踊り手の風情でみせるものなので、染五郎さんはそういう部分ではまだかなーと思うけど、手捌きの美しさにはうっとり。私、やっぱ染ちゃんのクセのないしなやかな踊りが好きみたいです。

『駕屋』は三津五郎さんらしいメリハリのある踊り。犬の小吉くんがしっかり踊っていて感心。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』 3等A席中央

2006年08月19日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』 3等A席中央

『南総里見八犬伝』
楽しいっ!周囲の歌舞伎ファンやら劇評の評判がいまひとつだったので期待してなかったんですが、うそおお、これ面白いよ。これなんであんまり評判良くないんだろう??不思議不思議。かなり楽しいじゃないですか!見所満載。あの長大で枝葉満載の入り組んだ物語『南総里見八犬伝』のエッセンスをうまーく取り出して絵巻物として歌舞伎らしい一場一場見所主義でまとめたエンターテイメントとしての歌舞伎の基本の芝居じゃないかしら。楷書中の楷書の歌舞伎だよ、これ。

『南総里見八犬伝』のエッセンスを歌舞伎のセオリィに丁寧に当てはめて演じるとこうなるという見本のようなお芝居。これが評価されない、ということは「歌舞伎」に今求められてるものが「物語」であり「演劇」になってきているということだろう。物語性を重要視せず、ストーリーのうねりより、場ごとの様式を求めた今回の舞台。舞踊を基礎とした動き、様式、固定されたキャラクター、ケレン、舞台美術、等々、歌舞伎というものの基本ラインがほぼ入っている構成でかなりお見事と思ったんですけど。転換の間、多さも気になる構成じゃないと思うし。うーん、まあ新本格ミステリに慣れきってしまった人にアガサ・クリスティやエラリー・クイーンを読ませているようなものなのかしらね…。でも楽しいと思うんだけどなあ。

あっ、ちなみに私『南総里見八犬伝』の原作好きでございます。学生時代にちまちまと辞書をひきつつ読んだものです。なのでああ、ここはこう変えたのか、とかこのシーンをこう見せたか、とかまあそういう見方をしていたのも楽しめた一因かもしれませんね。最初からあの膨大な入り組んだ伝奇モノを3時間で纏められるとは到底思っていなかったので、絵面を綺麗に上手く見せてくれただけで満足だったりしたのかもしれません。八犬伝ヲタとしては猿之助さんの『八犬伝』も観てますけど、三津五郎さんと猿之助さん、方向性が全然違うなあと思いました。確かに「みせる」という部分ではスピーディさ物語性のダイナミズム等、猿之助さんのほうが吸引力はあるとは思うのですが、私は三津五郎さんの方向性も必要だと思うんですよね、とか。

今回は原作をギリギリ最低限に刈り込み、主な剣士を紹介するだけの筋立てです。その分、物語性は薄くなります。物語のうねりを求めると、それは残念ながら失われているといっていいでしょう。また人物像もそれぞれが明快な背景がないために感情移入できないのでキャラクターの吸引力は薄くなってしまっています。しかし拵え等、歌舞伎の典型的キャラクターを勢ぞろいさせている。この芝居は物語を求めるのではなく、絵巻物的な絵面を楽しむものだと思います。そして今回、三津五郎さんは歌舞伎様式を丁寧に紹介する目的としての芝居としての位置づけにあるような気がしました。三津五郎さんの考える「歌舞伎の基本」部分でのエンターテイメントを求めた舞台ではなかろうかと私は思います。その分、はみだしたものがなく、いわゆる綺麗すぎる楷書を観るようなもので個性的な面白みは感じられないでしょう。しかし、基本がないと崩せるものが無くなってしまいます。基本の部分でどこまでエンタテイメントが作れるか、そんな心意気を私は感じました。そして役者たちも、自分のキャラクターの役回りをとても丁寧に演じているように思いました。

また、今回思ったのは三津五郎さんが座頭だけに全体的に舞踊的な見せかたを極力しているなという印象。信乃と浜路の恋模様、円塚山の場のくどきや殺しの場、芳流閣の場の屋根の大立ち回り、どこをとってもことさら舞踊的。その丁寧さが私には心地よかった。

役者に関しては千秋楽にもう一度観るのでその時に書こうと思います。まあ、染五郎ファンとしてはちょっと一言。

染贔屓的には今回の信乃の二枚目の優男ぶりが少々不満な向きも多いようだが、元々、信乃は女性の姿で育てられ、運命に翻弄され流されていくわりと受身なキャラクターなので、そのキャラを歌舞伎に当てはめれば典型的な優男になるのは仕方ないことかと思う。また、実はその個性のないキャラを印象付けるためには「女の姿」で育てられながらも剣の腕は立つという部分を最初に見せるべきなのだけど、今回、どうしても毛野と被ってしまうのでその部分が無いのが少々残念ではある。あと舞台の拵えがお家再興を願う落ちぶれた若殿チックなのも減点ポイントかと。彼一人剣士ぽくないんですよね。立ち回りのとこだけは総髪でしたけど、どうせならすべて総髪の拵えでいっていただきたかった。軽々とした舞踊的な流麗な立ち回りは信乃のイメージに合っていたんではないかと思います。犬飼現八のずっしりした重い立ち回りとの対比もよく考えられているなと感心しました。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 1等前方下手寄り

2006年08月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 1等前方下手寄り

なんとなくあっさりした感じもありましたが全体的には楽しく拝見しました。

『慶安太平記』
前半がどうもピリッとしないかな。橋之助さんの丸橋忠弥は人が良すぎて幕府を転覆させようという人物にはチト見えませんぬ。台詞回しや表情にもう少しメリハリが欲しい。もっと底がある人物にしてもらいたかった。しかし後半の体を張った激しい立ち回りは素晴らしかったです。気合が入った唸り声にちょっと惚れ惚れ。力の入りようがよく見えるので立ち回りが激しくなるにつれ舞台上の緊迫感がどんどん増してきます。

立ち回りに関しては三階さん達の頑張りを盛大に褒めたいです。一人一人、とても丁寧にしっかりと動いているのがよくわかります。コンビネーションが崩れると事故にもつながりかねませんから、その緊張感も伝わってきます。今回、初日から怪我人が出て、すでに二人もリタイアしてしまったそう。もう怪我人が出ないことを祈ります。無事千秋楽まで勤めて欲しいです。

おせつの扇雀さん、過不足なく、という感じでしょうか。出すぎることなく忠弥を素直に慕う女房という雰囲気が良かったです。

弓師藤四郎の市蔵さんはちょっと若すぎる。苦渋というものを見せるまでには到ってない。藤四郎は難しい役だなと思った。

松平伊豆守の染五郎は立ち姿が美しくすっきりとした所は良いのですがいかんせん貫禄不足。丸橋忠弥を見送る時のいぶかしげに鋭い目をみせた表情は素敵でした。


『近江のお兼』
福助さんと馬の絡みが可愛かったです。でもあんまり素朴な怪力娘には見えなかったかな~。色気がありすぎるのかな。白布を操るところはちょっとヒヤッとさせる場面もありましたが華やかで見ごたえがありました。


『たのきゅう』
楽しみにしていましたが少々勢いに欠けていたような。子供が楽しめるような可愛らしい舞台でほのぼの感はありましたけどちょっと物足りない。舞台の作りが小さいんですよね~。もっと大きく使ってほしかったなあ。せっかくの歌舞伎座の舞台を小さく小さく使ってどうする。わかぎさんは小劇場系の演出家さんだから持て余したんでしょうか?むーん。

盆の上にプリン型の高台を置き、その周囲を4分割して情景を変え、舞台変換していく作り。セットはミニチュア。見た目はPOPで可愛らしく、民話ベースのお話らしいSetではある。が、しかしその代わりに広がりが無くなる。そして、一番の難点、高台の上の芝居や踊りが観ずらい!!役者が遠い!せっかくの三津五郎さんの踊りがちんまり見える。おろちのせっかくの立ち回りも迫力が欠ける。1階のかなり前で観たにも関わらず、そのストレスは結構大きかったです。物語のほうももう少し芝居の一座の人たちを使ってもいいと思うし、たのきゅうとおろちの掛け合いももっと練ってほしかったかなあ。定番舞踊にしていくにはかなりの練り直しが必要じゃないかなーと思います。

役者さんたちに関しては楽しそうに演じていて、その部分では見ていて気持ちは良かったです。

なんといってもたのきゅうの三津五郎さんが楽しそうに演じているのが良いですね。品よく崩して演じていらっしゃいました。振り付けはキレのよい三津五郎さんらしさを前面にだしたものだったように思います。大きな鬘をかぶっての踊りが楽しかった。小吉くんのお披露目の口上では坂東吉弥さんの事に触れられ、真摯に語られるその言葉には思わず涙してしまいました。

初舞台のぽんきゅうの小吉くん、しっかりご挨拶。可愛いかったです。親戚の弥十郎さんがしっかり見守っており、そして三津五郎さんの口上、小吉くんの口上の時のひとつひとつに一緒に同じように丁寧にお辞儀されていて、こうやって芸を繋いでいくのだなあとしみじみ。

敵役のおろちは染五郎さん。とっても、楽しそうでした(笑)若い爺さんでしたねー。ちゃんと声を老人声にしてましたが体がどうみても若いです。染五郎さんも品よく崩すのが上手です。やりすぎないところで歌舞伎らしさが出たお芝居になっていました。「食っちゃうぞ、シャーーー」のタイミングが楽しい。敵役なんですが可愛らしい憎めないおろちでした。後半、ヤニにやられ本性を現した時のかぶりものがちょっと子供ぽいのが、うーん、どうなんでしょ。個人的にあのかぶりものはいらないかな。立ち廻り、しっぽを操る名題下の三人とともにかなりカッコイイことしてるんですけど、かぶりものと舞台Setのせいで迫力半減してるのがもったいなかったです。