Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『八代目 中村芝翫襲名披露 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』3等A席前方下手寄り

2016年11月19日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八代目 中村芝翫襲名披露 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部』3等A席前方下手寄り

長かったけど最後まで楽しく拝見(^-^)

『御浜御殿綱豊卿』
綱豊卿@仁左衛門さん、すっかり自家薬籠のものにして、技巧をかなりこらした台詞廻しも佇まいも綱豊としてごく自然にそこにあるものとして在るよう。華があり品があり、上に立つものとして大きさのなかに情熱を秘めている綱豊卿です。筋が通ろうが通るまいが、その情熱ですべてをおおいつくす。仁左衛門さんの綱豊卿は大石内蔵助へのシンパシーを隠さない。むしろ自分と内蔵助を同化させ完全に呼応させている。リーダーとしてこうありたい、その想いが伝わる。仁左衛門さんは『元禄忠臣蔵』が大好きなんだろうなって感じる。『大石最後の一日』をぜひやっていただきたい。

助右衛門@染五郎さん、演じ方は前回、大阪松竹座で仁左さん綱豊卿相手に演じた時と基本変わらないけど、造形の輪郭が太くなったのと受けの芝居に以前より緩急がついたので綱豊卿とのやり取りでの仁左衛門さんの少しずつあがる熱量と絶妙の間合いで呼応している。丁々発止が場の密度をあげていた。

仁左衛門さんの綱豊卿は大石内蔵助と完全に呼応させている。だから助右衛門には仇討ち以外眼中にない直情と志士ゆえの切実感が欲しいのだと思う。助右衛門@染五郎さんには真面目さのなかに哀がある。たぶん、そこが染五郎さんをずっと相手に選ぶ一要因かなと思ったり。喉を痛めてなければなあ。高い声が出せてたらもっと仁左さんと台詞廻しを合わせているのが明解だったろうに。助右衛門のキャラを前半、軽めに演じてるのは前からで、それが本質的なキャラではないというのを少しずつ見せていく。

助右衛門て拗ね者を自称してるけど本質的にはそうではない。そこをハッキリ見せてきたのが染五郎さんで、その部分を仁左衛門さんは望んだのだと、やはり思う。仁左衛門さんの綱豊卿の内蔵助への思い入れは綱豊卿の孤高さと繋がる。仁左衛門さんにとっては元禄忠臣蔵はあくまでも内蔵助の物語なんだと思う。染五郎さんの助右衛門は小者にみせよう、殿様が相手をするような人物ではないと必死にアピールしている。助右衛門は助右衛門で綱豊卿が評判通りの放蕩な人物ではないのがわかっているからだ。自身が浅野の殿様の無念さを内に抱えた志士だと暴かれたらどう転ぶか。殿さまの真意を図りかねての物言い。それなのに綱豊卿は引いてくれない。宥めすかし、脅しつつ追い詰める。そこに助右衛門は乗ってしまうし、殿さまの本音、真意を引き出せないかと、真っ直ぐに気持ちを吐き出していくのだと思う。真っ直ぐでないと届かない。染五郎さんの助右衛門はそこの台詞に悲哀がある。そうでないといけないのだと思う。

お喜世@梅枝さん、楚々としてしっとりした風情のなかに芯の強さをみせた。ウキウキとした町娘感は少な目だけど心根が真っ直ぐな娘なんだろうと感じさせてくれました。台詞の緩急が上手いですね。

綱豊卿って一介の浪人の助右衛門のことをよく知っている。江戸詰めの200石のお側用人だったと。いままでは、助右衛門が来た事をを知って話をするためにわざわざ調べさせた?と思ってたんだけど、今回、なんとなくお喜世から「兄さま」のことを問わず語りに耳にしていたのかなと思った。今回の梅枝さんのお喜世からそういう感じを受けた。雀右衛門さんのお喜は綱豊卿一途でな、それこそおぼこさのあるウキウキとした純粋な女だったけど、梅枝さんは、密かに助右衛門を兄としての信頼以上の好意をもっていたのでは?ってちょっと思わせた。

助右衛門が綱豊卿を激昂させた時、綱豊卿の刀を汚さないためにではなく自分が出ることで兄を守ろうとしてるようにみえた。手引きすると決めた時、助右衛門とともに一緒に死ぬ覚悟であったろうし吉良を討つのに成功したにせよ失敗したにせよ自害した気がする。梅枝お喜世はその雰囲気が一番強い。今回の梅枝@お喜世と染五郎@助右衛門からみえた関係性は10月の一連托生な染・梅の夫婦像をみたせいかもしれないので妄想を広げすぎたかもだけど。

江島@時蔵さんがかっこよかったです。知的なお役が似合いますよねえ。鏡山の尾上がまた観たい。

浦尾@竹三郎さんだったのが嬉しい。最近、豪華な衣装の竹三郎さんを拝見してなかったから。いじわるなお役だけど、やっぱりカッコイイ。

お古宇@宗之助さん、楚々として素敵だった。美人さん。

新井勘解由@左團次さん、どこかおおらかで綱豊卿のよき相談相手といった風情。

『口上』
ずらりと並び壮観です。口上はなにをするわけではないのですが楽しいです。新、芝翫さんの人柄が垣間見ることができる和やかで楽しい口上でした。いい話⇒オチになる口上が多かったような(笑)やっぱり左團次さんがフリーダムだった(笑)そしてなんと梅玉さんも!

『盛綱陣屋』
盛綱@芝翫さんのが丁寧に押さえた芝居、後半いつもの熱演になったけど、それほど悪いほうには出ず、いずれそれが味になるかも。台詞廻しはお父様の巧さはないのだけど、まだまだこれから。情味のある優しい盛綱でした。後半、声が割れてた感じになってたのが残念。

小四郎@左近くん、もう一人の主役といっていい小四郎を可愛らしく健気。台詞も達者でとても良かったです。

微妙@秀太郎さん、この役はどうかな?と思いましたが位取りがしっかりあったのがさすが。終始、情にもろいのが秀太郎さんらしい。

篝火@時蔵さんは鉄板。敵の陣屋に忍びこむほどの芯の強さと母として子を心配する風情の塩梅のよさ。

早瀬@扇雀さん、凛として似合ってました。個人的にはもう少し情味があって欲しかったかな。

和田兵衛秀盛@幸四郎さん、さすがの姿のよさ。赤っ面は珍しいですがカッコイイですね。ただ声が出ておらず体調悪いのかな?と心配に。口上の時も少しお元気でなかったし…心配。

時政@彦三郎さんは押し出しよくて、姿に「らしさ」があって想像以上によかったです。

信楽太郎@染五郎さんは舞台が明るくなったような華やか。身体もよく動き戦語りがさすがに上手い。所作台がいい音を出してました。

藤太@鴈治郎さんはおちゃめだけど品を落とさず、ふんわりと。

『芝翫奴』
私が拝見したのは歌之助くん。丁寧にきっちりと。頑張ってました~。演奏が豪華でしたね。

国立大劇場『11月歌舞伎公演『仮名手本忠臣蔵 第二部』』 特別席前方センター

2016年11月12日 | 歌舞伎
国立大劇場『11月歌舞伎公演『仮名手本忠臣蔵 第二部』』 特別席前方センター

今月の国立『仮名手本忠臣蔵』もアンサンブルがよかった。今月は先月のような混成チームではなく手慣れた座組みではあったけど、それでもアンサンブルの良さはより芝居が立つなあとしみじみ思った。

「道行旅路の花聟」
この段は従来の戯曲にはない段で、義太夫ではなく清元の歌舞伎舞踊。今回、先月「裏門」をつけたのになぜわざわざここを上演するのだろう?と思いましたが今月、ここをつけると「お軽の物語」としても物語がいつも以上に浮きあがってくる形になるのですね。

お軽@菊之助さん、クールビューティ的な綺麗さ。勘平を引っ張っていく芯の強さがある。先月の「裏門」でのお軽と繋がるように演じていたのかなと思いました。

勘平@錦之助さん、お軽@菊之助さんと並ぶといかにも美男美女で目の保養。芯としてはちょっと弱いかな。お軽にずるずると引っ張られていく弱さがその代わりあって、この場の勘平としてはいい塩梅なのかも。

伴内@亀三郎さん、まじめで滑稽味は少なめ。勘平より強そうだった(笑)

「五・六段目」
勘平@菊五郎さん、何度も拝見しているけど今月の菊五郎さんの勘平は今までと違うというか、死ぬゆく運命の儚さがそこにあって心の底から納得できた。とにかく素晴らしかった。どう生きて行くべきかを悩んでいるような、そこにいることの居心地の悪さを感じているような佇まい、武士としての誇りを取り戻したい一身の心の揺れを見事に体現させていた。また、短慮さのなかに誠実さもあり、お軽を想う気持ちににもブレはなく、揺れ動く男としての色気がそこにある。

おかや@東蔵さん、菊五郎さん勘平に対する東蔵さんのおかやが役のうえでの力関係が絶妙で見応えありまくりだった。この二人の台詞の巧さが引き立ったのでは?と思う。

お軽@菊之助さん、実家に戻り勘平に添えたことで浮ついたところが無くなり落ち着いた感。女房として、そして娘として本楽の素朴で素直なお軽に戻ったのかな~と思わせました。可愛らしかったです。

原郷右衛門@歌六さんの落ち着き、千崎弥五郎@権十郎さんの実直さ、源六@團蔵さんの世間知の高い押し引き、お才@魁 春さんの情味から一歩引いた絶妙な置屋の女房風情と、皆さんとてもよくて、場をより締めたと思う。

五段目で重要な斧定九郎@松緑さん、骨太でいかにも山賊といった風が強かったです。

「七段目」
吉右衛門さんの由良さんのストイックさがいつも以上に際立っていた。七段目の由良さんは吉右衛門さんがベストと思ってるのですがやっぱり好みです。自然に出る色気と内心の覚悟の強さと大きさ。芝居の緩急のつけ方がほんと巧い。台詞の間合いはいつもより早めにトントンとやっていたような。

お軽@雀右衛門さんがまた良くて。勘平一途さの可愛らしさだけでなくそのなかの女の情熱が今回見えた。やはり襲名して芸が一段あがった気がする。この方は台詞に哀愁があるのだけどそこに華がついてきたなあと思う。

平右衛門@又五郎さんもとても良かった。前半は熱演すぎてもう少し緩急が欲しいけど後半のいかにも兄妹間の情愛の温かさと徒党に加わりたい必死さがストレートに出てて。又五郎さん平右衛門と雀右衛門さんお軽は完璧に兄妹だった。会話しているなかでの距離感とか雰囲気とか。顔も似た系統だからかな?

歌舞伎座『八代目 中村芝翫襲名披露 吉例顔見世大歌舞伎 昼の部』3等A席前方センター

2016年11月05日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八代目 中村芝翫襲名披露 吉例顔見世大歌舞伎 昼の部』3等A席前方センター

歌舞伎座昼の部、最初はこの演目並びはどうかな?的心配があったけど、今月も襲名だけあって華やかだし皆で成駒屋を祝うという温かさもあって良かったです。

『四季三葉草』
三番叟を基にした祝祭舞踊です。

翁@梅玉さんの品格ある佇まいが素晴らしかったです。千歳@扇雀さんは柔らかく、三番叟@鴈治郎さんは丁寧にきっかりと。晴れやかな舞踊でした。 
     

『歌舞伎十八番の内 毛抜』
明るく楽しい一幕となっておりました。

粂寺弾正@染五郎さん、役柄的にどうかな?と思っていたのですが意外に似合っており、華やかで知的でありつつ可愛らしい従来の雰囲気とは違う爽やかさがあるユニークな粂寺弾正でした。おおらかさという点ではまだまだですがとても明るく演じており、お客さんも楽しそうに笑って観ていて予想外の良い出来。こなれて緩急出たらもっと楽しくなりそうな感じがしました。染五郎さんのこのところの喉の不調は治っておらず、声が万全ならもっと良かっただそうにと思いました。

秦秀太郎@松也さん、正義感溢れるお小姓姿が似合っていました。少し痩せましたかね?高い声がきつそうでしたがやはり喉が不調かな。

腰元巻絹@梅枝さん、きりりっとした風情が素敵でhした。弾正に言い寄られる場面でのビビビーが可愛かったです。

八剣玄蕃@彌十郎さん、悪役もいかにも悪そうに押し出しよく。

八剣数馬@廣太郎くん、雰囲気的には赤っ面のタイプではありませんがしっかりと輪郭太く。

秦民部@高麗蔵さん、こういう凛とした正義感溢れる立役もいいですね。

『祝勢揃壽連獅子』
四人連獅子、普段の連獅子とかなり違っていました。構成考えるの大変だったでしょうね。新・橋之助くんの気合いが凄かった。お父さんとは違うタイプの役者になりそう。親子それぞれの個性が見えた踊りでした。

慶雲阿闍梨@仁左衛門さんと昌光上人@梅玉さん、役がかなり被るお二人だけど個性の違いがほんの少しの時間でわかる間狂言。二人とも品格が衣装きてるような高僧でした。文殊菩薩@藤十郎さんは出るだけで華やかでふっくりと。も

萬太郎くん、尾上右近の間狂言。二人とも丁寧にきっちりと。間の取り方の違いなど個性が出ていました。

『盲長屋梅加賀鳶』
期待以上に面白かったです。

天神町梅吉/竹垣道玄@幸四郎さん、この役は三度目ですね。最初は似合っているとは思えなかった役なのですが、回を重ねて役をどんどん自分のものにしているのがさすがですね。小悪党の道玄に小悪党らしさが出て押しの強さのなかの小心さを緩急効かせて巧くみせる。

お兼@秀太郎さん、悪女なんですが自分に正直で道玄に惚れ込んでいる女の可愛らしさがあって憎めません。

松蔵@梅玉さん、さらっと貫禄をみせて知的さが前に出る松蔵ですね。かっこいいです。

道玄女房おせつ@梅花、お朝@児太郎さんの叔母姪の関係の濃密さが良かった。よかれと思ったことが薄幸な運命へと転がっていく不幸感が切なかったです。


横浜みなとみらい大ホール『ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノリサイタル』1等1階前方上手寄り

2016年11月03日 | 音楽
横浜みなとみらい大ホール『ユリアンナ・アヴデーエワ ピアノリサイタル』1等1階前方上手寄り

昨年、初めて聴いたピアニスト。音色の芯のある美しさとパワフルさに魅了され、今回のリサイタルに。どの音も明快でかつ滑らか。そしてパワフルで音に向かっていく集中度もすごい。素晴らしかったです。前半のベートーヴェンは私にとってはちょっと不思議な音出しというか、丁寧にゆったりとした演奏。白眉は後半のリスト。低音の重さと広がり、高音の滑らかさ、そして静謐さすら感じさせる余韻。すごいものを聴いた、と思いました。あのなんともいえない空気感。ほんと良かった~。

アンコールはショパン。こちらもパワフルかつ一音一音の明快さに感嘆。響かせ方がかなり好みです。

【曲目】
ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 op.90
創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO.80
ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調「告別」 op.81a
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リスト:
悲しみのゴンドラ
凶星!
リヒャルト・ワーグナー - ヴェネツィア
ピアノ・ソナタ ロ短調

【アンコール】
ショパン:
ノクターン第8番 op.15-2
マズルカ変ロ長調 op.59-3
ポロネーズ第6番変イ長調「英雄」op.53