Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

金丸座『第二十七回 こんぴら歌舞伎 第一部』 A席升席中央上手寄り

2011年04月24日 | 歌舞伎
金丸座『第二十七回 こんぴら歌舞伎 第一部』 上場席(A席)升席中央上手寄り

『熊谷陣屋』
集中度の高い芝居で引き込まれました。やはり花形が演じると「物語」がよく見えてくる。武家の世界の主従、夫婦、親子の関係性での悲劇。

熊谷直実@染五郎さん、1年ぶりの2回目の熊谷です。前回、予想以上に良い熊谷直実でしたので期待しておりましたが期待に反せずとても見応えのある芝居を見せてくれました。大きなお役は2度目が大変だと思いますがきちんと前回以上のものになっていました。熊谷にしては若すぎるきらいは確かにありましたがこれは今後きちんと持ち役にしていけると確信しました。

昨年の5月演舞場のときとはだいぶ印象が違いました。前回みえた幸四郎さん(この時は幸四郎さんだけではなく叔父の吉右衛門さんの雰囲気もありました)を一生懸命なぞって演じるという域からは少し脱しつつある感じです。自分の色を少しだけ見せられたかなと。前回は若いからこその「悩める熊谷直実」という染五郎さんらしさは勿論ありましたが、それでも演じる手順に精一杯だったり肩に力が入りすぎていたりと、ぎこちない部分が多々ありました。しかし今回は熊谷という人物の心情をストレートに表現していくという部分に集中できていたように思います。

演じ方でいえば特に前半、幸四郎さん独特のクセまでなぞっていた部分を削ぎ落としてその代わり丁寧に義太夫に乗ることを意識していたと思う。そして場ごとの心持ちをしっかり演じていた。声がよく出ていてかなり太くつくっていたように思う。完全に私感ですが、父、叔父を髣髴させる部分と共に初代吉右衛門(初代の熊谷を映画で見ています)に一瞬重なる部分がありました。

まずは出に愁いと大きさが出てきていて「哀しみ」を底に持つ武将という雰囲気をしっかり見せてきていました。そして相模や藤の方と相対する部分もきちんと武将という立場で相対していました。相模@芝雀さん、藤の方@高麗蔵さんがしっかり受けてくれたのも良かったのかもしれませんが「演じている」という意識が強かった前回に比べ熊谷直実という人物として相対せていたと思います。なので「熊谷陣屋」の「物語」が際立っていた。戦語りでの語り口はやはり上手いです。ストレートで情景がわかりやすい。前回同様ここでは「身代わり」の部分、まったく腹を割らない作り方でした。また相模と藤の方へ語り聞かせるという心持ちが今回のほうが明快でした。

そして後半、昨年演じた時はあまりに感情が前に出ていましたが今回は苦悩を腹に溜め込んで身体全体で表現。後悔というよりやらねばならなかったという苦しみがありました。首実検から制札で驚く女性陣を制する一連の流れに緩急がつき、しっかり見せ場になっていたのと共に直実の辛い気持ちを溜め込んでいるという表現にもなっていたと思う。相模に対しても申し訳なさとともに「判ってくれ」という切なる思いがそこにあったように思います。これは相模役者の持ち味が違うということもあったのかもしれません。今回は夫の想いを受け止めてくれる相模でしたので。ここがあって、出家する直実が一気に武将という鎧の殻を脱ぎ捨て一人の夫、父として戻っていくサマに説得力が出てきたような気がします。なので、1年前に比べ引っ込みが良くなっていました。引っ込みには直実の自身の想いに押しつぶされそうな悲痛さがみえました。やはり若すぎてまだ16年の実感とまではいかなかったかもしれませんが三人家族の幸せな想いに馳せ、やるせなくなってしまった熊谷直実という所まではいったかなと。

拵えがだいぶ馴染んでいたように思ったのですが鬘を少し変えてきたかな?と思いました。坊主姿になった時、素の綺麗な顔立ちが映え非常に綺麗でした。熊谷直実に美しさは必要ないと思いますが子を殺めざるおえなかった一人の男としての愁い、苦悩がそこにあり、この人は戻れないとこまできてしまったんだなという感慨を覚えました。

相模@芝雀さん、初役とは思えないほどとても素敵でした。武将の奥方らしい品と夫、子供を思う愛らしさのなかに芯の強さを垣間見せる。まずは相手を思いやる心根の優しい情の深い女。前半はついつい小次郎を案じ陣屋まで足を運んでしまうしなやかな強さと、直実にしかられ身を小さくしてしまう可愛らしさのバランスがなんとも絶妙。そして後半、母としての子への気持ちに母なる切実さがあって泣けました。相模@芝雀さんは非常に「愛情」が強く、それゆえに熊谷直実がしなければいけなかった所業を理解したうえで母として幸薄かった子を嘆く。ほんとに切なく哀しかった。お父さんの雀右衛門さんを彷彿させる部分も多かったのですが、かといって単になぞるという感じではなくしっかりと芝雀さんらしい相模として存在していたのがお見事でした。ここまで演じられるのになぜ今まで相模を演じなかったのかと思うほどの出来栄え。

藤の方@高麗蔵さん、すっきり品よく美しかったです。高麗蔵さんはストレートに母の部分を出してこないのですがそこがかえって上臈としての立場がみえて面白かった。またきりっとした風情が役に似合ってて予想以上の出来かと。

猿弥さん弥陀六、さすがにまだ色んな部分で若い感じでしたけど丁寧に演じててわかりやすかったです。また若い分、弥陀六の平家の武将であった手強さがしっかり見えました。彌十郎さんに稽古つけていただいたようですね。雰囲気として段四郎さんにも似ていました。とても大事なお役ですしモノにしていっていただきたいです。

『河内山』
松江宅内、玄関先のみの上演。幸四郎さんと梅玉さんが当たり役を伸び伸びと演じとても楽しい一幕でした。

河内山@幸四郎さん、楽しんで演じ自在。客を惹き付けるすべを知ってる。かといって崩しすぎないそのバランスがさすがです。華やかさのなかに品格のある河内山ながら終始茶目っ気があり「上州屋店先」の場がないにも関わらず、どこかしら企みをもつ造詣。なので観客を「この人物は何をしでかすんだろう」とワクワクさせてしまうんですよね。

松江侯@梅玉さん、松江候はこうでなくちゃと思わせます。大名としての品や格があるなかに、どこかしら鷹揚としたワガママさ、癇の強さを見せてくる。河内山が尋ねていて、面倒くさそうに対応する表情がいかにも殿様風情。河内山@幸四郎さんとの間もよく、表情豊かに楽しく見せて行きます。

北村大膳@錦吾さん、相変わらず人がよさそうで悪者ぽく見えませんが何度か演じているだけあって「らしい」押し出しが良くなってきています。河内山@幸四郎さんとの間もいい感じです。

高木小左衛門@東蔵さん、いかにもしっかりしていて思慮深さがみえ、良い家老なんだとという説得力があり。

個人的に気になったのが松江候の太刀持ち。とっても可愛い男の子。14~15才に見えて、あれ?梅玉さんたらまた可愛い部屋子でも入れた?とか思ったり。でもどっかで観たような気がすると思ったら京屋さんのところの京由くんでした。にしても若い、若すぎるっ。

金丸座『第二十七回 こんぴら歌舞伎 第二部』 A席上手升席後方

2011年04月23日 | 歌舞伎
金丸座『第二十七回 こんぴら歌舞伎 第二部』 上場席(A席)上手升席後方

6年ぶりのこんぴら歌舞伎です。金丸座はやはりとても素敵な小屋です。とても楽しかった。また行きたいです。

『御存 鈴ヶ森』
紅顔の美少年が小汚い雲助たちの立ち回りをコミカルに時にグロテスクにみせる歌舞伎独特のちょっと不思議な雰囲気をもった演目。梅玉さんと幸四郎さんがさらりと軽やかに見せました。二人ともお若いです。

白井権八@梅玉さん、当たり役です。前髪の若衆姿がいまだにお似合い。今回は浅黄色の着物で金丸座独特の薄暗い舞台に映えます。さすがに少年という感じではありませんが浮世離れした雰囲気でさらりと人を切っていく様がなにやら不思議な面白さ。

幡随院長兵衛@幸四郎さん、若々しくカッコイイです。白井権八を懐深く受け入れるというより面白い男がいるなと興味津々な様子で引き受けるといった風情。幸四郎さん独特な軽みのある粋な幡随院長兵衛でした。

雲助たちの身体をよく動かしていての立ち回りが楽しい。何気に贅沢な配役だったようなんだけど小汚い拵えなので判別が難しい。

『藤娘』
前幕の闇のなかの舞台『鈴ヶ森』からの対比が良いですね。チョンパで開いた舞台の華やかで明るいこと。大きな藤の木のたもとに華やかな衣装の藤娘が後姿で立っている、その絵面に観客からどよめきが漏れました。

藤娘@芝雀さんがまたなんとも言えない愛らしさ。品があって楚々としてまるで少女のよう。ちょこちょこと歩く姿と可愛らしく首を傾げての三方へのご挨拶のなんてラブリーなこと。丁寧に愛らしく恋模様、酔態を踊っていきます。しなやかさは無いのですが、ふんわりとした空気感があって華やか。女のいじらしい心持ちが伝わってきます。にしても本当に可愛い…お人形にしたいくらい。

『湧昇水鯉滝 鯉つかみ』
40年ぶりの復活狂言です。

荒唐無稽な趣向盛りだくさんの芝居。楽しすぎる。久しぶりに心の底から笑い楽しみました。染五郎さん、やりたい放題。金丸座を思い切り使った演出が最高です。これはもう1回観たい。とはいえ今回の「鯉つかみ」は金丸座だからこそ、じゃないとな演出だから他の劇場が無理でしょうねえ。蛍にしろシルクドソレイユな宙乗りにしろ、早替わり後の爆走にしろ。それにしても楽しかった。臨場感溢れる舞台に観客の皆が楽しくてニコニコ。拍手がなかなか鳴り止みませんでした。

あらすじはざっと書くと「琵琶湖畔、釣家の小桜姫一行がほたる狩りにやってきてそぞろ歩き。胸が痛むと浮かない小桜姫は侍女の呉竹と二人休んでいる。そこへ湖水の彼方から美しい稚児がやってきて…それは姫が恋焦がれる滝窓志賀之助であった。実はその志賀之助は釣家への積年の恨みを晴らそうとして姫をたぶらかす鯉の精。そうとは知らず釣家屋敷で姫と志賀之助の仲立ちをする呉竹。そこへ姫に輿入れを求める信田家の使いがやってきて。妖刀のおかげで志賀之助が鯉の精とバレ、逃げたところに本物の志賀之助がやってきて鯉退治に乗り出だし、琵琶湖で大乱闘の末鯉の精を退治するのであった。」という感じでしょうか。

鯉の精/滝窓志賀之助@染五郎さん、縦横無尽に小屋を使い体を張っての大活躍でした。観客を楽しませようという心意気と、ご自身が楽しんで演じていらっしゃるのが伝わってきました。その熱気というかエネルギーが身体から立ち上っていて観ている側もとても楽しくエネルギーをいただいたという感じです。活き活きとしていて非常に魅力的でした。

鯉の精の志賀之助の稚児姿は可愛らしくも麗しく。笛を吹きながらの引っ込みはゆらゆらと泳ぐように。蝋燭の面明かりをつかって仁木のような雰囲気。その時に天井からホタルがふわふわと。裏方さんが天井からLED下げて光らせていました。小屋を閉めて真っ暗にした中でなのでとっても幻想的で美しかったです。

第二幕では化けの皮が剥がれたところで井戸に飛び込み、すっぽんからドロンドロンと登場したかと思えば宙乗りに。低い宙乗りですのでそのまま二階部分で見得を切り、矢で射られ今度はクルクルとばく転しながら下がっていき、花道七三で苦しみ縦にクルクル回ったり逆さになったり、ジタバタしながらすっぽんに消えていくのもスペクタクル。かと思えば本物志賀之助に早替わりして金丸座の廊下を爆走。それを東座敷の戸を開けて見せちゃうんです。そして西の仮花道から登場。ちょっと妖しい雰囲気だった偽者から凛々しい若者へと大変身。

第三幕の鯉退治の場では舞台全面青く琵琶湖を模しています。花道からなんと板に引かれて泳ぎながらの(笑)登場。大きな鯉との格闘へ。途中、なまずやうどん(笑)やザリガニを間違って掴んでみたり。そんな小芝居挟みつつ、舞台狭しと大格闘。ついには捕まえ大見得切って大団円。身体を張った芝居に観客は大盛り上がり。ドヤ顔もとい、やったぜな染五郎さんの輝いた顔が素敵でした。

また、志賀之助@染五郎さんと大乱闘する鯉ぐるみが可愛い。鯉なのに見得切るんですよ。志賀之助が見得を切ると負けじとば~ったりと(大笑)。また目が動くようになってて目を白黒させたり、染五郎さんとの息もピッタリでとにかく動く動く。中に入っているのは錦二郎さんでした。拍手!

小桜姫@芝雀さん、いかにも赤姫なおっとりといじらしい可愛らしい姫。やはりこういうお役が似合います。

呉竹@高麗蔵さん、姫のためを思い志賀之助との仲立ちを積極的にするキリリとした侍女役でとても素敵でした。

釣家を守る家老の篠村次郎@東蔵さんが舞台を締め、敵役の堅田刑部@門之助さん、栗津郷右衛門@猿弥さんが少ない出番ながらピリリと効かせておりました。

新橋演舞場『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席左袖席

2011年04月16日 | 歌舞伎
新橋演舞場『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席左袖席

『江戸みやげ』
楽しかったです。笑わせてほろりとさせていいお話でした。最近、新歌舞伎の中途半端な古い価値観での理屈ぽい芝居に飽き飽きしているのだけど、新歌舞伎でもこういう普遍な人情味のある芝居だったら歓迎です。やっぱり芝居は脚本次第だよなあってつくづく思いました。

おゆう@翫雀さんがとても良かったです。酒好きのおおらかで人の良いおゆうを自分のキャラクターに引き寄せて いかにも田舎にいそうな可愛らしい太っ腹なおばちゃんを造詣。「いるなあ、こういうおばちゃん」と親近感が湧く。また、心根の優しさが滲み出て、お辻への思いやりが自然。上演中に地震があってヒヤッとしてたのですが翫雀さんがおゆうのキャラそのままで「今日の揺れは長いべね~」ってアドリブで笑わせて、そのおかげで落ち着いて和みました。観客から大きな拍手。

お辻@ 三津五郎さん、こういう役を演じるというのが想像できませんでした。そういう意味でよくこなしていたと思います。まじめで金勘定のうるさいしっかり者のおばちゃんがお酒に酔って大きな気持ちになったところに綺麗な役者に一目惚れ。その役者の難儀をほっておけずに。というキャラをよくとらえてお辻の一生に一度の恋を際立たせていました。しかし、雰囲気がすっきりしすぎて田舎モノの朴訥さが出てないのがちょっと残念だったかなあ。

文字辰@扇雀さん、お金欲しさに娘をめかけにしようとする業欲な母親をてらいなく。ちょっと剣のある居高な役は華やかで押し出しの強い扇雀さんにピッタリ。こういう気の強い女のほうが似合いますよね

阪東栄紫@錦之助さん、いかにも二枚目役者で甲斐性なしな感じ(笑)がピッタリで気の強い女の子に惚れるのにもしっくり、おばちゃんが惚れるのも納得。

お紺@孝太郎さん、こういう気が強いけど男に一途な役はピッタリですね。もうちょっと可愛げでもいいかも。(昨年7月松竹座『竜馬がゆく』のお龍の時のほうが可愛かったような気が)

市川紋吉@萬次郎さん、儲け役を楽しくたっぷりと。上手いです。

女中お長@右之助さん、鳶頭六三郎@亀鶴さん、角兵衛獅子@巳之助さん&子役、それぞれが適材適所で良かったです。

『一條大蔵譚』
個人的好みからすると少々全体的にまったり薄味だったかな。もう少し義太夫味のこってり感が欲しかった。いかにも菊五郎劇団らしいすっきりとした品のよい味わいではありましたが。2008年1月の歌舞伎座での吉右衛門さんの『一條大蔵譚』がインパクト強くて…。芝居の作り方が菊五郎さんと吉右衛門さんではまったく違うので比べることはできないのですが…。

一條大蔵長成@菊五郎さん、作り阿呆の部分では全体的にさらりと品よく。それほど惚けた阿呆ぶりは見せません。あくまでも作った阿呆であるというのを観客に感じさせます。なので後半の本性を現す部分でにインパクトは少なめ。また正気と阿呆のいったりきたりをほとんどみせてこないですね。阿呆と本性が一体化している。一環して源氏に繋がる身である人物として存在している。公家というより源氏の武士のとしての佇まい。そういう意味では一條大蔵長成の得体のしれない凄みはありません。あえてこういう演じ方をしているのでしょうね。「とっとといなしゃませ」は強く一気に言っていました。公家というよりやはり武士の心持ちなのかなと思いました。

常盤御前@時蔵さん、すっきりと美しく、いかにも常盤御前という風貌が良いです。自身の哀しさというものが寂しげな表情にあります。しかし平家への憎悪の面はちょっとあっさりかなあ。このお役難しいですよね。

吉岡鬼次郎@團十郎さん、若々しい風貌。さすがにこの役としてはちょっと押し出しが強すぎる気もしますが存在感があります。とはいえ台詞や所作が少々雑な感じ。決まりが流れてしまってもったいないかな~。

お京@菊之助さん、年齢を感じさせない貫禄。團十郎さんと並んで負けないのが凄いと思いました。芝居のほうは丁寧に型通りという感じか。とはいえ役者本人としての色が出てきてるのがよいです。

八剣勘解由@團蔵さん、團蔵さんらしい鋭い勘解由。まじめになので敵役のおおらかさはありませんが憎たらしい部分は充分。

鳴瀬@家橘さん、声の調子がやられてしまっていたのが残念。       

『封印切』
『封印切』はくどいくらいに濃厚たっぷり。今のところこのたっぷりとべたっとした湿度ある空気感を出せるのは藤十郎さんしかいませんね。貴重な味わいだと思いますが、藤十郎さんの世話物は私にはちょっとくどすぎてしまいます。時代物だとこの藤十郎さんの濃さがとても好きなのですが…。

『封印切』は今は成駒屋型と松嶋屋型に分かれます。芝居全体の基本は一緒ですが舞台の構造と封印を切ってしまう心持ちの部分、そして最後の引っ込みが違います。成駒屋型はあくまでも忠兵衛中心での演出であり、封印切のきっかけは「はずみ」。引っ込みは風俗のリアルさを取り入れ、梅川を先に行かせ、あとで忠兵衛が追いかける。松嶋屋型は忠兵衛と梅川カップルの引き返せない深みにはまったカップルの恋愛模様が中心。封印を切るのは梅川に嫌われたくなくて自ら、そして引っ込みは手を繋いでの死を覚悟した逃避行。

亀屋忠兵衛@藤十郎さん、藤十郎さんにしか出せない味わいのたっぷりとした忠兵衛。じゃらじゃらと短絡的で自尊心が高いゆえに身の破滅に陥る情けない男です。それを押し出し強く、こういうもんじゃという人物造詣で見せていきます。台詞廻しもすでに藤十郎さん型という感じにまでいってる感じですね。

梅川@扇雀さん、いかにも遊女といった崩れと豊満な色気。丁寧に可愛らしく演じようとしていると思いますが私が求める梅川像からすると線が太いというか強いなあ。もっと芯の強さのなかに一途さ弱さが欲しいのです。とはいえ藤十郎さんとのバランスでいえばちょうど良いのかもしれません、

八右衛門@三津五郎さん、歌舞伎の八右衛門は文楽の本当に友人としての八右衛門とは違い完全な憎まれ役です。その憎まれ役という部分を押し出して忠兵衛を追い込んでいっていました。三津五郎さんは上方の役者に囲まれかなり不利な条件のなか上手さを出して小憎らしい八右衛門を造詣していました。

おえん@秀太郎さん、当たり役だけあって自由自在。かなり濃く演じている忠兵衛@藤十郎さんをうまく受けて、時にいなして演じていきます。独特の色気と色町のおかみの矜持をもつ芯とのバランスが絶妙。

治右衛門@我當さん、非常に良い味わい。我當さんの世話物のこの位置での役柄は本当に「らしく」てしっくりきます。槌屋主人としてのずっしりとした存在感。

新橋演舞場『四月大歌舞伎 夜の部』 2等B席左袖

2011年04月09日 | 歌舞伎
新橋演舞場『四月大歌舞伎 夜の部』2等B席左袖

残念ながら乗り切れず。夜の部は全体的に割と薄味だったような気がする。あとたぶん、自分のせいもあると思う。気があちこちに逸れてしまていたので…。

『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」
この演目は有名なわりにあまり掛からないですね。久しぶりに拝見という感じです。私はこの演目は親子の情の部分が強くでると面白くなると思うのですが、今回は残念ながらその部分が伝わってこなかったです。父と息子の情、祖母と母と嫁の情の部分がさら~っと流れてしまった感。全体のバランスがよくなかったですね。情の通い合いがみえず。

十次郎@時蔵さん、個人的にこの演目のなかで一番良かったのは時蔵さんです。この役を女形が?と思いましたが柔らかく流れず芯があり、そのうえで華やさがあり良かったです。 苦しいなかで家族を想う気持ちがしっかり伝わってきましたし予想以上。

初菊@菊之助さん、とても可愛らしく時分の華というのが相応しい華やかさ。見せ場を説得力もっての部分ではまだ一生懸命に演じるというところからは抜けていませんが台詞回しもしっかりしており確実に一歩づつ進んでいるなと感じます。ただ、もうすこし突っ込んだ情味がほしいところ。

光秀@團十郎さん、この段の光秀は團十郎さんばかり観ていますが基本的にニンじゃないと思います。姿や押し出しはとても良く見栄えはしますが、役としての説得力に欠いている。光秀という役は負(陰)の部分が多い主殺しの大罪人、それゆえの因果で自分の親も子も死ぬことになる。それを背負う重さ、辛さ、そのなかでの情というものを見せて欲しいのだけど…。團十郎さんは残念ながら型どおりというか気持ちが前に出てないというか。またその型の動きも妙に大仰で決まりが浅い。私が観る限り精彩に欠いていた。

皐月@秀太郎さん、操@魁春さん、二人ともどうしたことかかなり薄味。台詞廻しなどかなりしっかりしているんですが突っ込み不足というか。皐月と操はやりようによってはかなり存在感がでてくる役のはずですが、残念ながらまだそこまでじゃなかったです。もっとできると思うんですが。なんとなく座組みのなかでバランスがまだ取れていない印象。

真柴久吉@菊五郎さん、佐藤正清@三津五郎さんは役割をしっかりと演じ、場を締めます。菊五郎さん、一時期より身体がよく動き若々しいですね。

『男女道成寺』
この踊りは道成寺ものと思うと、道成寺ものの芯がないし中途半端さを感じるが、趣向の趣向という感じなので場ごとを楽しめばいい舞踊だと思う。趣向の趣向でいえば『奴道成寺』のほうが面白いけど、役者二人の連れ舞やそれぞれの踊りをある程度堪能できると思えば充分。立ち回りも華やかだし。今回は所化含めて若手たちの活きのよい共演。

白拍子花子@菊之助さん、やはり華やかで綺麗です。丁寧にしっかり踊っていきます。手捌き、裾捌きがかなり綺麗になってきていました。玉三郎さんとの『二人道成寺』を何度か経験した成果でしょうか目配りのできた舞踊。特に後半の恋の手習いあたりは玉三郎さんのイキをよく写していましたし、大胆に動く場面もあり、そのうえで色気もあり良い出来。とはいえ、欲を言えば全体的には踊りの余韻があまりないというか緩急がまだしっかりしていなくて全体的に小さい踊りになっている部分も。もう少しふっくらしたものが欲しいです。

白拍子桜子実は狂言師左近@松緑さん、女形の化粧がかなり良くなっていて、桜子がなかなか可愛らしい。女形をほとんど演じないので裾捌きなどはもうひとつなれど、手捌きは綺麗できちんと可愛らしく踊ってなかなか。しかし左近になってからは振り付けをこなすので精一杯な感じ。身体能力は高いのでよく動いているとは思えども、情景描写ができていない。まだ技術が足りない。せっかく動けるのだから精進してほしい。立ち回りの部分はキレもよくとても良かったです。              

松緑さんと菊之助の連れ舞はコンビネーションとしてはいまひとつ。通い合ってないというか、それぞれ自分だけ。相手を意識してないのが残念。せっかくの連れ舞なのだから競争心プラスアルファがあると踊りとして大きくなるし見応えがでるのだけど。

所化のなかでは梅枝くんがかなり上手い。彼は完全に女形の身体の使い方ですね。梅枝くんは同世代のなかでは頭ひとつ抜けてる印象があります。

『権三と助十』
菊五郎劇団らしいコンビネーションのよい芝居で夜の部のなかでは一番楽しかったです。ポンポンとしたやりとりや、基本的に勧善懲悪なオチがスッキリするし、人がわらわらと一杯出てくるのも楽しい。個人的には権三@菊五郎さん、助十@三津五郎さんコンビのほうが好みですが、今回は今回で全体が若返って世代交代がうまくいってるなあ、という感慨も含め面白かったです。

権三@三津五郎さん、いなせな江戸っ子風情がやはり上手い。泥臭さのなかにスマートさがあり、気が短いが根に実直さがあって甘さのある菊五郎さんとはかなり違う味わいでこれはこれで面白い。好みとしてはもう少し色気があってもいいかなあ。

助十@松緑さん、喧嘩早い一本気な助十。根の明るさが権三@三津五郎さんといい対照。早口でまくし立てると言葉が不明瞭になるのでそこは気をつけてほしいかな。でも、市井の江戸っ子らしさが身体にきちんと染みてきてるなと感じさせて良かったです。

権三女房おかん@時蔵さん、長屋の気の強いおかん役の時蔵さんはいつも活き活きしてて大好きです。旦那が大好きなのがきちんとあって、そのうえでの夫婦喧嘩なのがよくみえる。いじらしくてカワイイ。今回もコロコロと転がっていました(笑)

家主六郎兵衛@左團次さん、こういう役はお得意。飄々としつつさりげなく締める。

彦三郎@梅枝さん、大阪の商人という雰囲気ではありませんが商人らしい柔らか味があり、また長男として父の汚名をそそぎたい一途さを過不足なく演じていました。

他、猿廻し与助@秀調さん、助八@亀三郎さん、願人坊主雲哲@亀寿さん、願人坊主願哲@巳之助さん皆が適材適所でどのお役をみてもしっくりきました。