Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 一等一階真ん中上手真ん中

2004年08月28日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 一等一階真ん中上手真ん中

『元禄忠臣蔵』「御浜御殿綱豊卿」
若手中心の配役しかも台詞劇ということで、最初正直なところ歌舞伎座の大きい舞台でどの程度の空間を埋められるか心配だった。ヘタすれば舞台の空間がスカスカになってしまう危険性があるなあと思っていた。出演している役者が大好きな人たちばかりだったので尚更、ドキドキしながらの観劇になった。が、その心配はうれしいことに杞憂だった。思っていた以上に良い舞台で話自体をかなり面白く観ることが出来た。それぞれの役者が持ち味を生かしていてとても見ごたえのあるものでした。全体的にテンポが早くたっぷり魅せるという部分では先輩たちにはまだまだ及ばないものの、勢いがあり、また一生懸命さがうまく噛み合ってとてもわかりやすいものになっていたと思う。これから彼らが「歌舞伎」を引っ張っていくんだなーという想いを感じつつ、爽やかな気持ちになれました。

綱豊卿役の染五郎の貫禄ぶりにまずは驚かされた。どちらかというと初々しく若々しい感じの姿が似合うし、そういう役しか観た事がなかったせいか今まで貫禄という部分を感じたことがなかった。ところが今回は大きい存在感があり、きっちり受ける芝居をしていたのが印象的。膨大な台詞を高麗屋ならではの調子の良い節回しで語り聞かせてくれる。またその台詞にあまり飲み込まれることなく殿様としての心情を言葉の端々に感じさせてくれました。なんというかもどかしさとか寂しさみたいなのが伝わってきた。勿論、もう少し聞かせどころでたっぷり台詞を言って欲しかったとか、ちょっといっぱいいっぱいな部分もあったし手放しでは褒められない部分もいくつかはあった。けれど初役でしかも腹で性根を見せる難しい役だったにも関わらず、かなり良い出来だったと思う。それになんといっても姿が麗しくていいわ。最後の能衣装での立ち回りの部分は「美しか~」と見惚れちゃいました(笑)。白塗りお殿様で美しいと思わせられる役者はあまりいないし、台詞術の部分ではこの役は染五郎の柄に合う役だし、今後もやっていくであろう役なのでどんどん深めていってほしい。

助右衛門役の勘太郎は大熱演。一途な田舎侍というこの役にぴったりで朴訥さと熱血漢のバランスが良い。一本気なところが勘太郎の若さと相まって、とても説得力があった。台詞術はお父さんの勘九郎にそっくりで、ちょっとした間の取り方が絶妙。これは天性のものもあるだろう。涙を流しながら綱豊卿と丁々発止でやりとりする部分などはその熱い心情に胸を打たれる。勘太郎くんは確かに勘九郎さんの芸風を確実に受け取る役者になっていくだろう。今ある品のよさとこってりした勘九郎の芸風をうまくかみ合わせていってほしい。すでに勘太郎ならではの芸風がかなり出てきているし今後が楽しみ。

お喜世役の七之助の最近成長著しい。女形をやることが多いが姿がすっきりきれいだし、なんといっても声がいい。助右衛門とのやりとり部分の必死さに愛情がみえてとても良い場面にしていた。もう少しふっくら可愛らしい雰囲気と殿様への甲斐甲斐しさが出れば、お喜世という役柄により説得力が出たかなとは思うけど、けなげさがきちんと見えるのはとてもよかった。

江島役の孝太郎さんも予想外の良さ。柄からいうとお喜世役のほうが合うかなあと思っていたのだが、才の切れる江島役を落ち着いた雰囲気でこなし、こういうお役も出来るんだあと感心してしまいました。あんなに小柄なのに奥と取り仕切っている女性としての大きさがありました。。お喜世をいじめる局たちを諌めるシーンでもきっぱりしてて、なんというかカッコイイ女性をかっこよく演じてて気持ちよさげ。またさりげなく綱豊卿を気遣う姿がちょっといじらしい雰囲気もあって孝太郎さんらしい。

新井勘解由役の橋之助は今回の舞台のなかでは一番落ち着いてわりとキーになる要所をきっちり引き締めておりました。 綱豊卿と勘解由のやりとりの部分がしっかりしているので後半がきちんと生きてきた感じ。殿の相談役という部分以外に気を許せる友人といった感じがあって綱豊卿の普段の生活がどれだけ緊張感のなかでのものなのかが垣間見えるものとなっていた。

『蜘蛛の拍子舞』
華やかで楽しい舞踏劇でした。福助さんの傾城姿は本当に色っぽい。福助さんの色気は肉感的でかなり女性ぽいのです。それが後半、蜘蛛の精での荒々しい化粧に大胆な足捌きになるギャップがお見事。迫力があってよかったです。

三津五郎さんが相変わらず踊りの美しさを見せます。でもバランス的には資質が同じ橋之助さんとの踊りのほうがより華やかに見えますねえ。勘九郎さんが金時役で終盤にでて、美味しい部分をもっていきました。観客を喜ばせることに関してはお見事。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』 一等一階下手前方

2004年08月21日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第三部』 一等一階下手前方

『東海道四谷怪談』
京極夏彦『嗤う伊右衛門』のイメージとか映画『忠臣蔵外伝 四谷怪談』のイメージが入ってしまっていたようで民谷伊右衛門のあまりの非道ぶりに唖然。こ、こんなにひどいやつだったのかーーと今更。歌舞伎キャラはわりと非道なやつはとことん非道なんですが、まあそういうキャラだしねで普通済んでしまうのです。でも伊右衛門は家庭内暴力夫なのでまじで許せませんでしたよ。姿がかっこいいキャラ(歌舞伎用語で色悪というキャラクター)だけにお岩様の哀れさが引き立つのかもしれないけど…。それにしてもお岩様が可哀想すぎるーー(泣)。薬と称した毒を飲もうとする場で思わず「飲んじゃだめー」と声を出してしまった私であった…。

勘九郎さんのお岩様は武家の女としてのプライドを切ないほど持ち合わせ、毒を飲まされた後に身支度を整えようという場面はとても哀しい。なんとなく勘九郎さんだったら強いお岩様なのかなと思っていたのですが、女の弱さをじっくり見せて、幽霊になった後の恨みの深さがきちんと伝わってきました。怪談ではありますが恐怖というより、哀しいお話という部分が私的には良かったです。死んだ後の場はかなり派手な演出で見ごたえありました。早代わりがお見事。

橋之助さんの伊右衛門はピッタリでした。橋之助さんはわりと良い人の役柄ばかり多く見てきたので色悪はどうなんだろう?と思っていたのですがなかなかに悪も似合ってる。形もきれいだし、いかにも歌舞伎役者然とした顔に凄みがあっていい。この人はひょうきんな役よりこういう役のほうがいいかも。

三津五郎さんの直助もさすがというかうまい。いかにも小悪党な風情をいやらしい一歩手前で演じているのが三津五郎さんらしいうまさ。ひとつひとつのポーズにほんとうに隙がないです。直助の見せ場の三角屋敷の場がないのはもったいない。

時間的に全幕上演ができないため「三角屋敷の場」をカットだそうで、そのあらすじを舞台番として染五郎が幕間で説明。イキな浴衣姿で軽妙にわかりやすく、そしてお客さんを「お岩様が、それそちらに…」と脅かすのも忘れず(笑)、場を繋いでおりました。説明時のちょっとした動きがきれいで、少しの出番ですが印象に残しました。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第二部』 二等一階下手前寄り

2004年08月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第二部』 二等一階下手前寄り

『蘭平物狂』
わりとたいくつしがちな前半の踊り部分が三津五郎さんの雄弁な踊りのおかげで楽しいものになっていた。後半は若い松緑さんの勢いのある立ち回りにはさすがに及ばなかったけど、3階さんたちとの息はピッタリで丁寧な立ち回りで魅せてくれました。子への情の部分はさすがにうまい。

『仇ゆめ』
狸が遊女に恋をしてという面白くもやがて悲しきの舞踏劇。狸の勘九郎さんが独壇場。あの愛嬌のある動きは勘九郎さん以外考えられない。あの振り付けとノリのいい音楽はいったい…。元々そういうものなんでしょうか?楽しすぎ。揚屋の亭主というよりは若旦那な染五郎との掛け合いがまた楽しい。皆、楽しそうに踊っているので観ているほうもとても楽しくなってしまう。また遊女役の福助さんが可愛らしい。勘九郎さんとの間が絶妙でコメディエンヌぶりを見せつつも踊りの師匠い対する切ない恋心を切々と訴えるところは悲哀をだしての太夫ぶりには胸を打たれた。

すみだトリフォニーホール『グローバル・フィルハーモニック・オーケストラ 第33回定期演奏会』

2004年08月01日 | 音楽
すみだトリフォニーホール『グローバル・フィルハーモニック・オーケストラ 第33回定期演奏会』

指揮 / キンボー・イシイ=エトウ
ソプラノ/ベッティーナ・イェンセ

シュトラウスの『交響詩「死と変容」作品24』は音の面白さを堪能させてくれた。音と音の繋がりの多様さに引き込まれ、それが後半一つになり押し寄せてくる感じ。題名の「死」から想像する暗さはなく、死へと浄化されていく美しさのようなものを感じた。いい曲だ~。

『四つの最後の歌』はしみじみと心に訴えてくる歌曲。美しく力強い音色のオーケストラにまったく負けていないイェンセの深みのある歌声が素晴らしい。なんともドラマチックで情景が立ち上ってくるよう。オケと歌声のどちらかが勝るというものではなく両方の音が見事にマッチして静かに深く訴えてくる演目でした。

ベートーヴェン『交響曲第5番「運命」作品67』、超有名な楽曲のひとつですがひさびさに生で聞きました。まずは楽曲のよさをつくづくと感じましたねえ。なんというか体全体で乗って聞いてしまう。迫力と繊細さが同居している曲なんだなあと。キンボー氏の指揮もよかったのかもしれない。音のひとつひとつを引き寄せて弾かせる感じがしました。とても明るい「運命」でこの演奏かなり私好みかも。

3曲でかなり満足しているところにアンコール曲がなーんとオペラ楽曲ですよ。うれしすぎ。J・シュトラウス『こうもり』序曲。キンボウ氏が演奏前に一言お話され「指揮者カルロス・クライバーの訃報には泣いちゃいました。追悼の意味も込めまして」などとおっしゃり、とてもキュートな方だなあとの印象。皆さんもそう思われたみたいでお話されている最中に拍手も湧いたりして。アンコールの曲目がうまく聞き取れなかったんですが、出だしですぐわかって「あっ、うわ~『こうもり』だ、最高!」でした。なんと奇遇なことにクライバー指揮のJ・シュトラウス『こうもり』のCDをちょうど聞いたばかりだったのですよ。もうそれでうれしくなってしまい、ノリノリで聞いてしまいました。この曲はノリノリで聞かなくちゃな曲ですものね。

で、気分高揚なところに、今度はイェンセさん登場。レハール『メリー・ウィドウ』を楽しそうに朗々と歌われた日にゃ、もうがっちりハートにがんがんに響いてまいりました。男性パートをオーケストラの管楽器担当の数人で歌われてたのですがこれまた上手で驚き。楽しい、楽しい~!。大満足でございました。「楽しかった~!」、とにかく今回の演奏会はそれに尽きるかも。

曲目:
R. シュトラウス『交響詩「死と変容」作品24』
R. シュトラウス『四つの最後の歌』
L.v. ベートーヴェン『交響曲第5番「運命」作品67』
アンコール曲:
J・シュトラウス『こうもり』序曲
レハール『メリー・ウィドウ』から