Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方下手寄り

2015年06月20日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 夜の部』 1等1階前方下手寄り

『新薄雪物語』
「広間」「合腹」
良かった~。さすがベテランの底力。新薄雪物語は「合腹」までは通して上演すべき。「正宗内」は外伝的な場だから別で上演しても問題ないと思うけど。

役者が違うとほんと受ける印象が違う。2008年上演の『新薄雪物語』での顔合わせがもうとにかくツボに嵌って大好きでやっぱりいまでもあれは好きだな~、ほんとに良かったなあという印象は変わらずで、でも今月の『新薄雪物語』もとても良くて両方観られて私は幸せ。

2008年(園部兵衛:幸四郎、伊賀守:吉右衛門、梅の方:芝翫)と2015年(園部兵衛:仁左衛門、伊賀守:幸四郎、梅の方:魁春)の新薄雪物語「広間」「合腹」じゃら受ける印象が相当違ってた。これは役者の組み合わせの違いからくるものだったと思う。お互いの化学反応でできあがるものが違う。

2008年のは園部兵衛:幸四郎、伊賀守:吉右衛門はさすが兄弟ならではな絶妙な息の合い方。芯の部分が同じで似てるだけに写し鏡のような存在にみえ、言わずともわかりあえる強烈な絆を感じさせた。この男同士だけの連帯感というか解放感というか、それがこの二人にはあって女は置いてきぼり的なww

今回の園部兵衛:仁左衛門、伊賀守:幸四郎はお互い相手がどう出てくるか探り合いをしている部分がみえてくる。そのなかで親としての情の部分が同じというところで、ぴたっと息が合う。細かい心理描写が透けてみえる。そこに奥さんの存在も強烈に感じさせるので今回は男同士より家族同士の、がみえた。

梅の方の在り様も違ってた。芝翫さんの梅の方は守ってあげたくなる、どこまでも可愛らしい奥方でとても優しい母親だった。魁春さんの梅の方はもっと武家の女たらんとする気概があって夫婦感がもっと対等で凛とした母性。笑いにも表情にも持ち味の違いがくっきり。でもどちらも哀しみ溢れ切なかった


「正宗内」
久しぶりの上演だそうな。初見ですがここだけ観ると「合腹」から通す必要なしの場でした。どうせやるなら大膳と団九郎が共謀する序からやればよかったのに。思ったよりは面白かった。全体としてメリハリが足りない気がしたけど脚本を密にしていけば、もっと良くなりそう。

余談:こけら落としでの花形での『新薄雪物語』もほんとよくやっていたなあ。格違いは改めて感じたけど今月の師匠たち(園部兵衛:仁左衛門→染五郎、伊賀守:幸四郎→松緑、等)の芝居を観ると花形たちがどんだけきちんと写して芝居してたのかもよくわかった。

『夕顔棚』
ほのぼのとした舞踊劇で打ち出し。菊五郎さんの婆さんが愛嬌と色気があって絶品(笑)

歌舞伎座『六月大歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

2015年06月13日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 昼の部』1等1階前方センター

『天保遊俠録』
小吉@橋之助さん、ダメ男だけど粋で情味のあるこの役にぴったりで活き活きと演じてらした。橋之助さんのちょっと性急さのある台詞廻しもぴったりはまる。2009年の納涼歌舞伎で上演した時も非常にいいなと思ったんですが今回はもっと嵌ってました。

八重次@ 芝雀さんの風情がとても良かった。ほんのりとした色気があり、すれきっていない女の情がたっぷり。
阿茶の局 @魁春さんは出てきた瞬間から格の違いをみせる貫録ある佇まい。

そして麟太郎役の子が声も良く健気で可愛かった。周囲のよさもあって芝居が弾んだ。

井上角兵衛@團蔵さんがこの座組みにいるのが面白く、今回のようなワタワタしたこういうお役も意外に似合ってていいなあと思う。

茶良吉@児太郎くんは声が福助さんそっくりで。芝居はまだまだ。庄之助@国生くん、この役は国生くんにはちょっと難しいお役だった気がする。

『新薄雪物語』
「花見」
華やかで歌舞伎ならではの歌舞伎らしい場。今回はそれぞれ似合うお役揃いでしたがちょっと真面目にやりすぎな気もした。もっとゆるくてもいいかなとか。反面、場としてはわかりやすくはなってましたが。この場の派手な立ち廻りは楽しくて好き。

妻平@菊五郎さん、奴にしてはどっしりとした存在感というか重量級。妻平はもう少し軽くていいかなと思いつつ、立ち廻りの芯としてはやっぱりさすが華やか。それと声がやっぱり良いな~。

左衛門@錦之助さんは手に入ったお役。真面目で優男な二枚目ぶりがはまる。

籬@時蔵さんは衣装も似合い、いかにも世話好きな腰元風情。こういう役、巧いですね~。

薄雪姫@梅枝くんは楚々としているけどおぼこな風情よりはもっと大人びてる感。花形でやった時も思ったけど、こういうぼんじゃりタイプの姫はちょっとハマらないかな。

団九郎@吉右衛門さん、出の瞬間がとても若々しく小悪党風情もしっかりありつつも存在感抜群。

大膳@仁左衛門さんは冴え冴えと美しい大悪党。やってることは大きくないけどw。この二人の対比がが良く、舞台に映えた。

「詮議」
ここは思った以上に見応えありました。菊五郎さん、幸四郎さん、仁左衛門さんのそれぞれの個性とそれぞれの肚芸を楽しめるというか。舞台が狭く感じた。彦三郎さん、芝雀さん、錦之助も安定感あるし、児太郎くんも皆に引っ張られてか良かったし。

葛城民部@菊五郎さん、捌き役の真面目さのなかに懐の深さと優しさがあって情に落ちずに捌き役としての芯もあり、私は妻平よりこちらのほうが好きです。台詞のたっぷりさも良かった

伊賀守@幸四郎さん、園部兵衛の時の印象が強くこちらの役はどうかな?と思ってましたが、とても良かった!ぐっと感情を抑えに抑えて静かにいながらもでも全身で場の状況を捉えようとしている、そんな伊賀守でした。こういう古武士的な雰囲気も出せるとは。

園部兵衛@ 仁左衛門さん、こちらは感情細やかに場ごとの感情が手に取るようにわかる。親としての苦渋に満ちた想いが「詮議」の場の物語を動かしていく。やはり園部兵衛って若いんだな。受け止め方が真直ぐで親としての情も真直ぐ。仁左衛門さんのこの真直ぐな園部兵衛があるゆえに伊賀守@幸四郎さんの深い想いも際立つ。この二人の間合いが非常によく合っていて、父としての想いがこの場でもよく伝わってきました。幸四郎さんと仁左衛門さんの組み合わせがここまで合うとは思わなかった。

松ヶ枝@芝雀さんの出の格の在り様にびっくり。いつの間にこの押し出しが出るようになったのか。また母としての強さや愛情の深さも感じさせとても良かった。

左衛門@錦之助さん、難儀に巻き込まれていく若者の立場がよくみえて、やっぱり伊達に前回演じた時からまたしっかりと芸が磨かれているなあと。

薄雪姫@児太郎くん、芸者より姫のほうが似合う。ぼんじゃりで隙のあるおぼこさ。まずはそこがあるのがいい。