Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 夜の部』 1等前方上手寄り

2013年09月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 夜の部』 1等前方上手寄り

『陰陽師 滝夜叉姫』
初日に比べ全体的に芝居の間に緩急がつき締まった出来になっていました。役者もそれぞれのキャラクターを真っ直ぐに演じ活き活きと舞台を彩る。ただ、やはり脚本や演出の練り不足は否めないかな~と。印象が散漫になってしまうのですよね。小説ならではの仕掛けがしっかりしているものほど映像化も舞台化も難しいんだと思う。

場面、場面で良いとこや楽しいところはあるし花形役者の絵面は華やかだし単純にそれを愛でるのなら充分なんだろうとは思うし面白くないわけじゃない。だからこそかえってモヤモヤしてしまう、もったいなかったなと。観ている最中は楽しく拝見できたのに何が自分のなかで不満なんだろうと考えたのですが「物語」としての吸引力の薄さかな。あとせっかくの花形ならではの勢いとうか熱気が欲しかったんですよね。でも考えてみたら『陰陽師』の世界観はその熱気からは外れるんですよね。呪術は「言葉」先行ですから。また特に晴明と博雅のやりとりには透明感のある静謐さがある。それを体現させるとしたら、私が求めた「熱気」は必要がないし、それをしたら原作から離れすぎる。そう考えると今回は十分の『陰陽師』という作品を大事にしての歌舞伎化としては正解だったのか、とも思います。花形勢揃いでの個々の役者を活かす作品ではあったし。大作ということでつい違うものを求めてしまった部分は大きい。そういう部分で私としては今回のような大作ではない、通常の短いエピソードの連なりの作品を使った1時間半くらいの芝居を観てみたいな~と思ったりも。

今回印象に残っている場は毬投げの時、 最初の瀧夜叉姫と晴明と博雅の邂逅、そして幼い瀧夜叉と魑魅魍魎の毬投げ、晴明屋敷での晴明と博雅のやりとり、その場面が印象に強く残っています。あと晴明と瀧夜叉姫の所作事仕立ての戦いにも似たやりとりの部分での二人の所作の美しさも、今思い返すと妙に残像として残っています。無条件に楽しかったのは俵藤太と大百足との立ち廻り。

そういえば毬投げのシーンで魑魅魍魎の一匹が俺にも投げてアピールするも無視されてる可哀想な子がいました(笑)

安倍晴明@染五郎さん、超然としつつどこか斜に構えている白皙の美青年。いつもどこかしら笑みをたたえているようなユーモアを身にまといつつもこの世のものではない場所に足を踏み入れている静謐感を漂わせている。原作のイメージを壊さない佇まい。そのなかで染五郎さんらしい造詣だなと思ったのが孤独感のなかに人を愛おしむ温かみがある晴明像。凛とした真っ直ぐな涼やかな声。地の声とも違う不思議な感覚の声色での謳うような台詞廻しが印象に残りました。管狐(白狐)と戯れているところは物語の中でフッと緊張を解く楽しい場面でした。晴明@染五郎さんと博雅@勘九郎さんのやりとりは小気味よくそれでいてゆったりとした空気が流れ『陰陽師』の世界の時空を体現していたように思います。

源博雅@勘九郎さん、優しく情味のある真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐな博雅をてらいなく演じて「いい漢よのう」と言われるだけの懐の深さを見せてくれました。位取りのところで少しばかり砕けすぎではあったけどホッとさせる存在感。また『陰陽師』の世界を噛み砕く役割をしっかり担っていたと思います。

俵藤太@松緑さん、まさしくニンなお役。豪快で一本気な藤太を勢いよく演じて歌舞伎の荒事の世界はこういうものだよという部分をしっかりと見せてくれました。松緑さんの立ち廻りは弾む感じがあって好きです。また対する大百足たちがよく統制が取れていて良かったんですよね~。藤太の恋愛部分の純な部分もさりげなくみせる芝居で抑制がきいていたにもいい感じでした。

平将門@海老蔵さん、こちらもニンにあったお役。正義感溢れ想いに一途ゆえに坂東に戻ってからの悲劇に心が落ち妄執にかられる将門を柄そのままに演じていく。スケール感がそのまま出るのが海老蔵さんの魅力でしょう。将門が変貌した後の陰鬱な部分を強くみせてきたのには個人的に驚きました。お父様とは持ち味がやはり違うんだなと思いましたが今回はその違う部分を魅力的にみせていました。ただ、将門の変化はもっと拵えなどで視覚的にみせても良かったかなと思ったり。せっかく海老蔵さんが演じるなら将門が変貌する場は隈を取りぶっかえりなど見せてもよかったなとか。

興世王/祥仙@愛之助さん、かなりクセのあるお役ですが活き活きと演じてインパクトがありました。ネチっとしたいやらしさを出し、無慈悲で不気味な黒幕であることをよく表現していました。ラストの実は藤原純友での部分の伏線がうまく機能していなかった部分で少し損をしたかなと思いますが、歌舞伎には珍しい言葉巧みな悪役をうまく表現されていました。

桔梗の前@七之助さん、二人の男の間で揺れる薄幸の女性を凛とした佇まいでみせていきます。純朴さのある前半と将門の妻になってからの複雑な心情を抱える大人になった女性との両方を丁寧に描き出していて巧さを感じさせました。

滝夜叉姫@菊之助さん、タイトルロールですが出番は少ない。それでも最初の出の美しさはかなりインパクトがありました。その後の普通の少女としての姫としての存在は可愛らしい。ただ、魑魅魍魎を率いるあやかしに近い部分と優しい人としての姫の部分での揺れや心情を表すシーンが無いために物語のなかでの存在感が出なかったのが残念です。

蘆屋道満@亀蔵さん、インパクトのある拵えと登場の仕方で独特の存在感をみせる。滑稽味がありつつも一筋縄ではいかない道満を面白く造詣していました。原作からはかなり離れた造詣ではありましたが楽しいキャラクターでした。

平貞盛@市蔵さん、小野好古@團蔵さんがさすがはベテランという芝居。どちらも芝居のポイントになる重要な役回りですがその役割を鮮明に描き出していました。

大蛇の精@新悟くんがいい佇まいをしていました。人でないものとしての輪郭をきちんと捉えた芝居だったように思います。

賀茂保憲@亀三郎さん、平維時@亀寿さんが出番は少ないもののしっかりとした芝居で脇を固めていました。、


歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 昼の部』2回目 1等席前方センター

2013年09月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 昼の部』2回目 1等席前方センター

個々の役者が役にハマってきただけでなくアンサンブルがよくなってきて全体的に締まってきてたと思う。やはり日々進化し変化するんですよね。花形だし勿論、課題もあるけど「あ、これなら大丈夫」って思わせてくれただけで私は嬉しい。

『新薄雪物語』
満足度高し!初日比べかなり密度が高くなっていました。花形だけでこれだけのものを見せていたのは大手柄だよなあとしみじみ。全員が良かったしそれぞれ役にしっかりハマってきていた。それと古典の強みも感じました。でも花形がそこをきちんと表現できていたってこと。場としてはやっぱり『合腹』が芝居として一段抜けていたと思う。

今月の花形の三人笑いは子を想う親心の悲哀が強い。ベテランだと哀しみのなか無理に笑う切ない梅の方とは対照に兵衛・伊賀守の男性には悲哀だけでなく男同士、やれることはやった感というか少しばかり解放感があるんだけど今月の兵衛・伊賀守は子ゆえの犠牲の部分が強くでてた。たぶん、若いせいかな。達観がないんでしょうね。その気持ちの余裕のなさの部分に緊迫感が出てた。反対に梅の方はひたすら「母」のたっぷりした哀しみがあって対照的。それぞれが苦悩を抱えてる感じでそのバランスがまた花形ならではの場として成り立っていたように感じた。

兵衛@染五郎さん、緻密に積み重ねた芝居なかに感情のリアルさを表現していく。詮議の間はまだ若々しすぎるきらいはあるものの初日に比べたら立場ゆえの苦悩、左衛門の父としての存在感は出てた。でもやはり三幕目からが断然本領発揮。怒り、悟り、覚悟、子への、妻への想いが丁寧に緻密に積み重ねられていく。表情の変化、台詞の緩急で場を表現していく。梅の方@菊之助さんの心からの「母」の想いをしっかり受け止めて表現するところまできていた。真面目な武士像のなかの愛情がしっかりみえました。初日は父・叔父成分多め仁左衛門さんmix的だったのに今日は「ニザ様だろ、それ」って感じでした。声も顔も連想させるとこはまったくないのに。今回は表情の作りと緩急の間が仁左衛門さんソックリで驚きました。

梅の方@菊之助さん、声の使い方がここ数年で一気に上手くなっていますよね。あと武家の女を演じるうえでの格がついた。その武家の女という範疇のなかでの母としての情愛と夫への信頼、それがしっかり表現。そして泣き笑いでの戸惑いや悲しみが本当によく伝わってきました。また情味の部分、今まではどこかクールな部分がみえた菊之助さんですが気持ちを相手にぶつける、そこの部分の芝居を突っ込んでできるようになったなあと。今回は玉三郎さんに稽古つけてもらっていますよね、な玉三郎さんの凛質の部分が透けてくるのと女性としての柔らか味をしっかり表現しているんですがそれだけじゃなく菊之助さんの義太夫をかなり訓練しているという素地の部分で自分の色を付けてきてる段階ですねえ。

兵衛@染五郎さんと梅の方@菊之助さんの夫婦間の愛情や信頼が今回しっかりみえた。それゆえに懐の大きさのある伊賀守夫婦に比べて兵衛・梅の方夫婦はかなり真面目で若い夫婦なんだなっていう対比がきちんと見えたのもよかった。初日はそこまでの対比は出てなかったように思う。夫婦の愛情あってこその子のための犠牲なので。

伊賀守@松緑さん、幸四郎さんに稽古つけてもらったというだけあって陰腹を切った後の体の使い方が良い意味でリアルな説得力。細かい部分に神経がいっているし、押せ押せの一本調子なところがある松緑くんだけど緩急が効いて存在感がある。ただ初日より台詞が若干よれてる部分が…。試行錯誤中なんでしょうね。

左衛門@勘九郎さん、今回、ぐんと良くなったと感じたのは勘九郎さんの左衛門。柔らか味が出てきて二枚目風情がより出ててとてもよくなっていました。とことん真面目なところがまた良いのです。

薄雪姫@梅枝くん、序幕はもう少しおっとりたっぷりした左衛門らぶ感が欲しいなあ。詮議の場以降は芝居が的確だし可愛らしい。

籬@七之助さん、まずは腰元のなかでも指示する立場にいるという格が落ちないのがいい。おせっかいなほどの世話焼きも何より姫のためという凛としたところでかえって可愛らしさに繋がっている。間の上手さを感じる。ただ妻平らぶ度が薄い。恋人同士に見えないんだよな~。なぜかしらん。

妻平@愛之助さん、初日から言うことなし。こういうのを本役というのだろうな。一番無理のない配役だし美味しい役ではあるけど落ち着きのなかにほんのり茶目っ気をのぞかせて存在感がありました。立ち廻りの芯としてもいつもより大きさが出てたと思う。

大膳/民部@海老蔵さん、大膳はまだもう一つ。似合う拵えなのですがなぜか大きさが出てない。役柄として似合うはずなんですけどね。台詞に凄みが足りない感じ。声の出し方をもう少し研究してもらいたいです。民部は初日は大膳が化けてるのか?的な暗さがありましたけど今回はきちんと温情ある捌き役になっていました。おっとり感があるのがお父様に似てまたよし。ここでも声が安定しないのは相変わらずでしたけどだいぶ改善されてて感涙。やれば出来る!

団九郎@亀三郎さん、かなり存在感があってよかった。小悪党なのにカッコイイんですよね。海老蔵さんと対峙して負けてない。芝居の地力が表に出てきたように思います。大きな役をもっとつけてもいい役者さんです。


『吉原雀』
前の幕が緊迫感のある重い狂言ですのでこういう軽めの舞踊で追い出しはいいですね。

勘九郎くん、七之助さん、爽やかで綺麗なカップル。この舞踊に必要な軽みというか洒脱さはまだまだ。真面目な踊りになってしまっていましたが、若い二人なのでこれからというところでしょう。

シアターオーブ『ロミオ&とジュリエット』ソワレ B席

2013年09月14日 | 演劇
シアターオーブ『ロミオ&とジュリエット』ソワレ B席

全体としては演出、照明、装置、衣装とも好みじゃなかった。中途半端なゴテゴテ感と中途半端な時代設定…。演出、潤色ともなんであんなに中途半端なんだろうな~。フランス版もそうなの??現代の小道具を使いたいならレオ様の『ロミオ+ジュリエット』くらいに置き換えてほしかったな。携帯もスマホもFBも意味がなかったよ。もっと役者を信じて活かした舞台にして欲しかったな~。役者さんたちは若手はすごい頑張って熱演でベテランは若手をしっかり支えてました。

ベンヴォーリオ@松也くん、今回のお目当てです。想像以上にとても良かった!やっぱさすがに芝居が上手いし、あと歌も上手!!単に上手いってだけじゃなくきちんと感情が入った歌声。ただ踊りは…一人だけ「ワンツースリー」のダンスじゃなく「ひいふうみい」の日本舞踊ちっくでした(笑)

ロミオ@柿澤勇人さん、華は少し欠けるけど純粋な雰囲気がロミオらしくてよかった。歌が上手。

ティボルト@城田優さん、柄が大きいからってだけじゃなく華があって主役の人という感じ。自分をみせるのが上手い。

ジュリエット@フランク莉奈さん、勢いがありました。

新橋演舞場『九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

2013年09月07日 | 歌舞伎
新橋演舞場『九月大歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

久しぶりの演舞場、客層が面白かったです。若いのから年の方まで男性率がかなり高かったです。歌舞伎が初めてな雰囲気がありあり。題材に惹かれてきたぽい。そして終演後、皆さん楽しそうでした。

『不知火検校』
ムダに役者が豪華!配役をきちんと調べていかなかったので驚きました。確かに大歌舞伎
でした。また大道具が何気に大掛かりで好みでした。ただしその分、場面転換はまったりしてたかな。でもまだ初日近くですし、もっと転換は早くなるでしょう。カラスが動いていたのにはビックリしました。かなり効果的な使い方。幸四郎さんは大道具の使い方が上手な役者さんだと思います。

富の市@幸四郎さん、極悪非道な悪役を凄みのなかにどこか飄々とした味を利かせ見せていきます。芝居の緩急が巧く吸引力がありますね。盲目なのに悪党の中心になっていくだけの胆があります。冷酷さのなかに盲目である寂しさがのぞくのが幸四郎さんらしい造詣でかなりいやらしいキャラクターのはずですが観客の視点を自分のところにもっていってしまう。特に検校になってからの凄みが本当にお見事。

生首の次郎@橋之助さん、颯爽としつつもやることはいかにも小悪党。そのギャップが面白かったです。淡々と富の市の悪さに加担していく。どこか人間らしい感情に欠いてるように思えてゾッとします。

鳥羽屋丹治@彌十郎さん、いかにも根っからの悪党である程度の才覚もありながら、どんどん富の市に使われていってしまう弱さのバランスがよかったです。

玉太郎@亀鶴さん、兄の丹治とともに根っから小悪党ではありつつ心の弱さをもつキャラクターを、その時々の感情に振り回されていくような芝居で説得力がありました。

おはん@孝太郎さん、いわゆる美人ではないですが色気があるので巷で大人気な娘というのがよくわかる造詣。ちょっとプライドが高く、自分を捨てない強情さなど巧み。孝太郎さんの巧さが発揮されたお役かと。女のいやらしい部分をそらさずに見せる。感嘆しました。

浪江@魁春さん、旗本の奥方らしい品のなかに女の弱さをのぞかせそこが色っぽくてなかなか良かったです。富の市に騙された時の戸惑い、何もできない悔しさが明確に伝わってきました。こういう感情表現を歌舞伎でみせるのって大変だと思うのですが的確だったと思います。

富之助が@玉太郎くん、悪の萌芽をみせる子供の頃の富の市をそれらしくみせたのがお手柄。玉太郎くんはこのところ芝居が上手くなってきましたね。

おはんの母親の秀太郎さん、幸吉の女房のおつまの高麗蔵さんが少ない出番で「女」としての存在感をみせて印象に残ります。


『馬盗人』
この演目はほのぼのと楽しくて大好きな演目です。三津五郎さんがいらっしゃなかったのがやはりとても残念でしたし、三津五郎さんのキレ味のよい動きをつい求める場もありつつも翫雀さん、橋之助さん、巳之助さんのチームワークの良さがあって気持ちのよい追い出し狂言でした。なんといってもお馬さんの大活躍ぶりに拍手喝采。

歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

2013年09月01日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 夜の部』 3等A席前方上手寄り

まずは初日に拝見。

『陰陽師 滝夜叉姫』
新作にしてはかなりしっかりした作りだったけどあの作りならもっとグルーヴ感やインパクトが欲しかったかな。せっかくの花形勢揃いでしかも動ける役者ばかりなのに、そういう部分で活かしきれてない。ただあの時系列が入り混じり登場人物も多いあの長編原作をきちんと纏め舞台化したというのは大したものだとは思う。個々の役者もそれぞれ役柄にあっていて頑張っていたと思う。しかし花形それぞれに見せ場を作ろうとしてか視点がバラバラで物語の吸引力が弱めで密度が薄い。舞台としてはそれはかなりもったいないなあ。見せ場主義すぎて進化(深化)させるの難しそう。

この作品は『陰陽師 滝夜叉姫』というタイトルとは違い、陰陽師、安部晴明も瀧夜叉姫は狂言廻しの役割で主役は平将門と俵藤太(藤原秀郷)です。舞台でもまずはそこをきちんと押さえて、そこに絡む桔梗を原作以上に大事な立場に置かせたのは上手い脚色だと思いました。そのうえで、原作では面白かった様々なエピソードをかなりカットし主なキャラクターたちにある程度見せ場を作ったのはバランスとしては良かったと思います。ただ、そこまで脚色するなら時系列を原作のようにあちこち飛ばさずに素直に時系列通りのほうがわかりやすかったかなと。最初の場の「晴明、百鬼夜行に遇いしこと」で晴明と博雅が瀧夜叉姫に出会うシーンに関しては『陰陽師』の世界観を印象付けるのにはかなり効果的だと思いましたので、そこは外さず、あとは一気に過去のエピソードを時系列通りに持っていけばキャラクターの肉付けももう少しできたかな?と。

演出家の齋藤さんはやはり理詰めな方向性。地に着いた演出。こういう伝奇ものだと思いきってどこか大掛かりな部分や説明しない時空の飛ばし方があってもいいかなと思ったり。ただ筋道をきちんと追えるような演出はさすが。時折抜け感のある場があるのは晴明を演じた座頭の染五郎さんの意向というか個性だろうというのは想像きました。特に晴明宅と大詰め狐の使い方とか(笑) 

個々の役者さんたちはそれぞのキャラクターを魅力的に演じていたと思います。うまく個性が活きた。

歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 昼の部』 3等B席センター

2013年09月01日 | 歌舞伎
歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 昼の部』 3等B席センター

まずは初日拝見。

『新薄雪物語』
最初に発表された時にベテランの大顔合わせで上演する演目だと思っていたのでこの演目を花形で?とかなり心配していましたが想像以上の出来。花形で全幕しっかりと演じ切りました。これなら大丈夫、そう思わせてくれた花形に拍手です。花形の皆がしっかりバトンを繋いで行ってるんだなあという感慨が(感涙)

「花見」
序幕は花形らしい若々しい華やかさが出ており、立ち廻りも派手で楽しい一幕になっておりました。

薄雪姫@梅枝くん、時代物の姫らしい風情があるのが良し。ただまだまだ型通りで左衛門への恋の部分がかなりあっさりだったかな。たっぷり演じるのって難しいのでしょうね。

籬@七之助さん、思った以上に役に合っていてとても良かったです。籬というキャラクターがが持つお節介さ、洒落っ気などを品を落とさずに、突っ込んで演じていました。主人想いという心根が鮮明に出てたのも良し。個人的に「ああ、芝翫さんに似てる」そう強烈に思いました。また拵えもよく似合い華やか。たあ妻平と恋仲という部分が薄く、そこら辺はもっと濃く演じて欲しかったかな。身体全体から「恋する風情」を出すのは若手には難しいのかもしれないですね。

左衛門@勘九郎さん、真面目でキリっとした左衛門。真面目すぎて薄雪姫からの恋情をなかなか受け止められない部分が鮮明でわかりやすかった。ただ柔らか味というか水も滴る二枚目風情はあまり無かったかも。

妻平@愛之助さん、まずは役にぴったりハマっていて観てて気持ち良かったです。明るくちょっと下世話な雰囲気もありつつ主人想いで信頼できる真っ直ぐさを持ち合わせる。

大膳@海老蔵さん、姿はとても良いのですが思ったほど悪の大きさが出てなかったのが残念。重々しくしようとしたのかなんだか妙に暗い感じがしました。化粧のせいもあるかな?もっとカラッと演じたほうが海老蔵さんには合うのでは?と思いました。

団九郎@亀三郎さん、小気味のよい小悪党風情。芝居も的確で団九郎の立ち位置がよくわかります。また声の良さが目立ちました。

「花見」の場は立ち廻りもかなりの見せ場です。今回、三階さんのなかでもかなり若手中心に組立てたのかな?と思いました。まだフォーメーションなどたどたどしい部分はありつつも皆さん、とても頑張っていらっしゃいました。後半にいくにつれまとまっていくでしょう。

「詮議」
左衛門@勘九郎さん、薄雪姫@梅枝くん共に序幕より良い芝居をしていました。こちらの場のほうが動きもあるし為所が多いので若手には演じやすいのかもしれません。

左衛門@勘九郎さんは揺れ動く場ごとの気持ちが鮮明。やはり真面目さの部分が出るところの芝居がより良かったかな。特に疑いを掛けられ、頼みの国行の死骸を見せられたシーンの追いつめられ感がよかったです。

薄雪姫@梅枝くん、この場の薄いピンクの衣装のほうが似合っていました。いかにも可愛らしく、左衛門への一途さもよく出ていました。

松ケ枝@上村吉弥さん、さすがベテランという風情。出てくるだけでたっぷり感があるのですよね。またとても自然に若いカップルへの気遣いや娘可愛さの心情が伝わる。さすがです。

後半、花道から葛城民部@海老蔵さん、秋月大学@亀蔵さん、園部兵衛@染五郎さん、伊賀守@松緑さんが出てきます。花道から出た時は正直、「あらら皆若い、若すぎる」と不安になる感じでした。でも正面に来るとそれなりにサマになり、また華やかさがありまずホッと一安心。

この場では一番為所のある葛城民部@海老蔵さん、声に不安定さはあるものの台詞を丁寧にこなそうとしているのに好感を持ちました。また正義感が思わず溢れ出てしまう部分が時折、お父さんの團十郎の表情にソックリになり、少しづつだけど実をつけようと努力しているんだななという役者ぶりを見せました。ただこちらも時代物を意識しすぎてか重々しくやろうとしてか少々暗さと語尾の間延び感じがあったのが残念。自分の出やすい声の調子を捕まえて欲しい。

園部兵衛@染五郎さん、為所が少なく控えている場面が多いため顔の綺麗な染五郎さんだと必要以上に若さが出てしまいます。左衛門の親ではなく兄な雰囲気。ただやはり動き、台詞が入ると途端に活き活きし兵衛の父としての苦悩や武士たらんとする真面目さはきちんと表現されていきます。

伊賀守@松緑さん、老けの拵えのおかげもありまた輪郭太くあろうとする風情で薄雪姫の父にしっかり見えたのが良し。若さが時折覗くもののそれが伊賀守の鋭さや親としての愚直さに繋がって良かったです。

大学@亀蔵さんは、拵えが似合い古怪さが出たのが良かったです。どうせなら大学ではなく序幕で大膳をやらせてそのままこの場でも大膳で登場のほうが観客にはわかりやすかったかなと。

「広間・合腹」
三幕目が開き園部邸広間から。ここから花形には一番難しい場が始まります。どこまでやれるだろう?とかなり危惧しましたが終始緊張感を保ち、見応えのある場に仕上がって、兵衛@染五郎さん、伊賀守@松緑さん、梅の方@菊之助さんの三人がかなり頑張ったなと。時代物らしい間合いがあり場の空気がさらりと流れなかった。これは大したものだと思いました。


梅の方@菊之助さん、まず思った以上に片はずしの拵えが似合い「母」らしい風情がしっかりと。また義太夫をよく稽古しているのが分かる身についた台詞廻しの良さで梅の方の気持ちをしっかりと伝えてきます。菊之助さんは丸本物を的確に演じる基本は義太夫であると身を以て証明していますね。義母としての薄雪姫への思いやりや情け、優しさがよく表現されていました。また息子が殺されたと聞き及び、ひたすらに嘆き哀しむ、その情愛もよく伝わってきます。勿論まだ若さもあって母として身を捩るようなとまではいきませんし、その後、夫と伊賀守の知らないうちの共闘に驚き悲しみ、それを哀しをもって受け止めるなどの細かい部分はこれからだと思いましたがこの年齢でここまで演じられたら言うことないと思います。三人笑いでは技巧が一番光っており、梅の方の戸惑いや悲しみの笑いを真っ直ぐに観客に届けます。本当に見事でした。

兵衛@染五郎さん、最初のうちの受けの芝居では若さが目立ちましたが台詞が多くなってくると俄然、芝居の巧さや台詞の巧さの持ち味が活きてくる。薄雪姫への言い聞かせも親心からの強い決意からの選択であることが明快。そして使いの刎川兵蔵の報告を受けての怒りから刀を見、伊賀守の真意を悟る場では表情も台詞も丁寧に細かく演じ、試案し決意するその過程をさりげなく明快に観客に伝え、その場の空気をピンと締めて引っ張って行っていました。また真面目な武士らしい厳しさの顔に奥方への武骨な愛情を感じさせたのが印象的。ここらへんは教わった仁左衛門さんらしい表現だなと思ったり。そして三人笑いでは腹の痛みでなかなか笑い声を出せないという技巧を表現していきますがここはまだ少し弱い感じでした。そこを通り越しての一気の笑いの部分に哀しさが秘められていてそこがとても良く十分な出来。

伊賀守@松緑さん、丁寧に丁寧に伊賀守という人物を表現していきます。いつもより細かい部分に神経がいっており、平坦になりがちな松緑さんですがきちんと芝居に緩急がありました。また落ち着きが感じられしっかり年長者らしい大きさや格を感じせたのがとても良かった。左衛門への一喝は心の底からの親としての想いが伝わりました。三人笑いは声にクセが出てしまい技巧の部分ではまだまだでしたが、悲しみのなかの安堵感などの気持ちは伝わりやはり十分な出来。

三人笑いでの悲劇性を兵衛@染五郎さん、伊賀守@松緑さん、梅の方@菊之助さんはかなり緊迫感を保ち演じ切りまたそのなかで武家のなかの物語という格も感じさせ、見応えがありました。