歌舞伎座『柿葺落九月花形歌舞伎 夜の部』 1等前方上手寄り
『陰陽師 滝夜叉姫』
初日に比べ全体的に芝居の間に緩急がつき締まった出来になっていました。役者もそれぞれのキャラクターを真っ直ぐに演じ活き活きと舞台を彩る。ただ、やはり脚本や演出の練り不足は否めないかな~と。印象が散漫になってしまうのですよね。小説ならではの仕掛けがしっかりしているものほど映像化も舞台化も難しいんだと思う。
場面、場面で良いとこや楽しいところはあるし花形役者の絵面は華やかだし単純にそれを愛でるのなら充分なんだろうとは思うし面白くないわけじゃない。だからこそかえってモヤモヤしてしまう、もったいなかったなと。観ている最中は楽しく拝見できたのに何が自分のなかで不満なんだろうと考えたのですが「物語」としての吸引力の薄さかな。あとせっかくの花形ならではの勢いとうか熱気が欲しかったんですよね。でも考えてみたら『陰陽師』の世界観はその熱気からは外れるんですよね。呪術は「言葉」先行ですから。また特に晴明と博雅のやりとりには透明感のある静謐さがある。それを体現させるとしたら、私が求めた「熱気」は必要がないし、それをしたら原作から離れすぎる。そう考えると今回は十分の『陰陽師』という作品を大事にしての歌舞伎化としては正解だったのか、とも思います。花形勢揃いでの個々の役者を活かす作品ではあったし。大作ということでつい違うものを求めてしまった部分は大きい。そういう部分で私としては今回のような大作ではない、通常の短いエピソードの連なりの作品を使った1時間半くらいの芝居を観てみたいな~と思ったりも。
今回印象に残っている場は毬投げの時、 最初の瀧夜叉姫と晴明と博雅の邂逅、そして幼い瀧夜叉と魑魅魍魎の毬投げ、晴明屋敷での晴明と博雅のやりとり、その場面が印象に強く残っています。あと晴明と瀧夜叉姫の所作事仕立ての戦いにも似たやりとりの部分での二人の所作の美しさも、今思い返すと妙に残像として残っています。無条件に楽しかったのは俵藤太と大百足との立ち廻り。
そういえば毬投げのシーンで魑魅魍魎の一匹が俺にも投げてアピールするも無視されてる可哀想な子がいました(笑)
安倍晴明@染五郎さん、超然としつつどこか斜に構えている白皙の美青年。いつもどこかしら笑みをたたえているようなユーモアを身にまといつつもこの世のものではない場所に足を踏み入れている静謐感を漂わせている。原作のイメージを壊さない佇まい。そのなかで染五郎さんらしい造詣だなと思ったのが孤独感のなかに人を愛おしむ温かみがある晴明像。凛とした真っ直ぐな涼やかな声。地の声とも違う不思議な感覚の声色での謳うような台詞廻しが印象に残りました。管狐(白狐)と戯れているところは物語の中でフッと緊張を解く楽しい場面でした。晴明@染五郎さんと博雅@勘九郎さんのやりとりは小気味よくそれでいてゆったりとした空気が流れ『陰陽師』の世界の時空を体現していたように思います。
源博雅@勘九郎さん、優しく情味のある真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐな博雅をてらいなく演じて「いい漢よのう」と言われるだけの懐の深さを見せてくれました。位取りのところで少しばかり砕けすぎではあったけどホッとさせる存在感。また『陰陽師』の世界を噛み砕く役割をしっかり担っていたと思います。
俵藤太@松緑さん、まさしくニンなお役。豪快で一本気な藤太を勢いよく演じて歌舞伎の荒事の世界はこういうものだよという部分をしっかりと見せてくれました。松緑さんの立ち廻りは弾む感じがあって好きです。また対する大百足たちがよく統制が取れていて良かったんですよね~。藤太の恋愛部分の純な部分もさりげなくみせる芝居で抑制がきいていたにもいい感じでした。
平将門@海老蔵さん、こちらもニンにあったお役。正義感溢れ想いに一途ゆえに坂東に戻ってからの悲劇に心が落ち妄執にかられる将門を柄そのままに演じていく。スケール感がそのまま出るのが海老蔵さんの魅力でしょう。将門が変貌した後の陰鬱な部分を強くみせてきたのには個人的に驚きました。お父様とは持ち味がやはり違うんだなと思いましたが今回はその違う部分を魅力的にみせていました。ただ、将門の変化はもっと拵えなどで視覚的にみせても良かったかなと思ったり。せっかく海老蔵さんが演じるなら将門が変貌する場は隈を取りぶっかえりなど見せてもよかったなとか。
興世王/祥仙@愛之助さん、かなりクセのあるお役ですが活き活きと演じてインパクトがありました。ネチっとしたいやらしさを出し、無慈悲で不気味な黒幕であることをよく表現していました。ラストの実は藤原純友での部分の伏線がうまく機能していなかった部分で少し損をしたかなと思いますが、歌舞伎には珍しい言葉巧みな悪役をうまく表現されていました。
桔梗の前@七之助さん、二人の男の間で揺れる薄幸の女性を凛とした佇まいでみせていきます。純朴さのある前半と将門の妻になってからの複雑な心情を抱える大人になった女性との両方を丁寧に描き出していて巧さを感じさせました。
滝夜叉姫@菊之助さん、タイトルロールですが出番は少ない。それでも最初の出の美しさはかなりインパクトがありました。その後の普通の少女としての姫としての存在は可愛らしい。ただ、魑魅魍魎を率いるあやかしに近い部分と優しい人としての姫の部分での揺れや心情を表すシーンが無いために物語のなかでの存在感が出なかったのが残念です。
蘆屋道満@亀蔵さん、インパクトのある拵えと登場の仕方で独特の存在感をみせる。滑稽味がありつつも一筋縄ではいかない道満を面白く造詣していました。原作からはかなり離れた造詣ではありましたが楽しいキャラクターでした。
平貞盛@市蔵さん、小野好古@團蔵さんがさすがはベテランという芝居。どちらも芝居のポイントになる重要な役回りですがその役割を鮮明に描き出していました。
大蛇の精@新悟くんがいい佇まいをしていました。人でないものとしての輪郭をきちんと捉えた芝居だったように思います。
賀茂保憲@亀三郎さん、平維時@亀寿さんが出番は少ないもののしっかりとした芝居で脇を固めていました。、
『陰陽師 滝夜叉姫』
初日に比べ全体的に芝居の間に緩急がつき締まった出来になっていました。役者もそれぞれのキャラクターを真っ直ぐに演じ活き活きと舞台を彩る。ただ、やはり脚本や演出の練り不足は否めないかな~と。印象が散漫になってしまうのですよね。小説ならではの仕掛けがしっかりしているものほど映像化も舞台化も難しいんだと思う。
場面、場面で良いとこや楽しいところはあるし花形役者の絵面は華やかだし単純にそれを愛でるのなら充分なんだろうとは思うし面白くないわけじゃない。だからこそかえってモヤモヤしてしまう、もったいなかったなと。観ている最中は楽しく拝見できたのに何が自分のなかで不満なんだろうと考えたのですが「物語」としての吸引力の薄さかな。あとせっかくの花形ならではの勢いとうか熱気が欲しかったんですよね。でも考えてみたら『陰陽師』の世界観はその熱気からは外れるんですよね。呪術は「言葉」先行ですから。また特に晴明と博雅のやりとりには透明感のある静謐さがある。それを体現させるとしたら、私が求めた「熱気」は必要がないし、それをしたら原作から離れすぎる。そう考えると今回は十分の『陰陽師』という作品を大事にしての歌舞伎化としては正解だったのか、とも思います。花形勢揃いでの個々の役者を活かす作品ではあったし。大作ということでつい違うものを求めてしまった部分は大きい。そういう部分で私としては今回のような大作ではない、通常の短いエピソードの連なりの作品を使った1時間半くらいの芝居を観てみたいな~と思ったりも。
今回印象に残っている場は毬投げの時、 最初の瀧夜叉姫と晴明と博雅の邂逅、そして幼い瀧夜叉と魑魅魍魎の毬投げ、晴明屋敷での晴明と博雅のやりとり、その場面が印象に強く残っています。あと晴明と瀧夜叉姫の所作事仕立ての戦いにも似たやりとりの部分での二人の所作の美しさも、今思い返すと妙に残像として残っています。無条件に楽しかったのは俵藤太と大百足との立ち廻り。
そういえば毬投げのシーンで魑魅魍魎の一匹が俺にも投げてアピールするも無視されてる可哀想な子がいました(笑)
安倍晴明@染五郎さん、超然としつつどこか斜に構えている白皙の美青年。いつもどこかしら笑みをたたえているようなユーモアを身にまといつつもこの世のものではない場所に足を踏み入れている静謐感を漂わせている。原作のイメージを壊さない佇まい。そのなかで染五郎さんらしい造詣だなと思ったのが孤独感のなかに人を愛おしむ温かみがある晴明像。凛とした真っ直ぐな涼やかな声。地の声とも違う不思議な感覚の声色での謳うような台詞廻しが印象に残りました。管狐(白狐)と戯れているところは物語の中でフッと緊張を解く楽しい場面でした。晴明@染五郎さんと博雅@勘九郎さんのやりとりは小気味よくそれでいてゆったりとした空気が流れ『陰陽師』の世界の時空を体現していたように思います。
源博雅@勘九郎さん、優しく情味のある真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐな博雅をてらいなく演じて「いい漢よのう」と言われるだけの懐の深さを見せてくれました。位取りのところで少しばかり砕けすぎではあったけどホッとさせる存在感。また『陰陽師』の世界を噛み砕く役割をしっかり担っていたと思います。
俵藤太@松緑さん、まさしくニンなお役。豪快で一本気な藤太を勢いよく演じて歌舞伎の荒事の世界はこういうものだよという部分をしっかりと見せてくれました。松緑さんの立ち廻りは弾む感じがあって好きです。また対する大百足たちがよく統制が取れていて良かったんですよね~。藤太の恋愛部分の純な部分もさりげなくみせる芝居で抑制がきいていたにもいい感じでした。
平将門@海老蔵さん、こちらもニンにあったお役。正義感溢れ想いに一途ゆえに坂東に戻ってからの悲劇に心が落ち妄執にかられる将門を柄そのままに演じていく。スケール感がそのまま出るのが海老蔵さんの魅力でしょう。将門が変貌した後の陰鬱な部分を強くみせてきたのには個人的に驚きました。お父様とは持ち味がやはり違うんだなと思いましたが今回はその違う部分を魅力的にみせていました。ただ、将門の変化はもっと拵えなどで視覚的にみせても良かったかなと思ったり。せっかく海老蔵さんが演じるなら将門が変貌する場は隈を取りぶっかえりなど見せてもよかったなとか。
興世王/祥仙@愛之助さん、かなりクセのあるお役ですが活き活きと演じてインパクトがありました。ネチっとしたいやらしさを出し、無慈悲で不気味な黒幕であることをよく表現していました。ラストの実は藤原純友での部分の伏線がうまく機能していなかった部分で少し損をしたかなと思いますが、歌舞伎には珍しい言葉巧みな悪役をうまく表現されていました。
桔梗の前@七之助さん、二人の男の間で揺れる薄幸の女性を凛とした佇まいでみせていきます。純朴さのある前半と将門の妻になってからの複雑な心情を抱える大人になった女性との両方を丁寧に描き出していて巧さを感じさせました。
滝夜叉姫@菊之助さん、タイトルロールですが出番は少ない。それでも最初の出の美しさはかなりインパクトがありました。その後の普通の少女としての姫としての存在は可愛らしい。ただ、魑魅魍魎を率いるあやかしに近い部分と優しい人としての姫の部分での揺れや心情を表すシーンが無いために物語のなかでの存在感が出なかったのが残念です。
蘆屋道満@亀蔵さん、インパクトのある拵えと登場の仕方で独特の存在感をみせる。滑稽味がありつつも一筋縄ではいかない道満を面白く造詣していました。原作からはかなり離れた造詣ではありましたが楽しいキャラクターでした。
平貞盛@市蔵さん、小野好古@團蔵さんがさすがはベテランという芝居。どちらも芝居のポイントになる重要な役回りですがその役割を鮮明に描き出していました。
大蛇の精@新悟くんがいい佇まいをしていました。人でないものとしての輪郭をきちんと捉えた芝居だったように思います。
賀茂保憲@亀三郎さん、平維時@亀寿さんが出番は少ないもののしっかりとした芝居で脇を固めていました。、