Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 三等A三階前上手寄り

2004年03月21日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 三等A三階前上手寄り

『大石最後の一日』と『義経千本桜 「木の実」「小金吾討死」「すし屋」』をかなり感動しながら見ました。幸四郎さんが昨年あたりから俄然いい状態になっているみたいで存在感が増してきているし、ひさびさの孝太郎さんが健気な娘役を頑張っていた。また、仁左衛門さんは上方ならではのうまい演出と芝居を見せてくれて、秀太郎さんのさりげなくも味のある女房役が素晴らしかったりして大満足。

『元禄忠臣蔵』「大石最後の一日」
この演目は幸四郎さん、吉衛門さんの両方で以前も観ている。わかりやすいし泣けるんで新歌舞伎のなかではわりと好きな演目。やっぱり今回もホロッときちゃいました。いつも観てもうまくまとまったお芝居だなーと思う。今回も非常にバランスのいい配役ということもあり役者たちのセリフのひとつひとつがきっちり届く。幸四郎さんも当たり役だけあって見事な大石だった。最後の引っ込みの泣き笑いが素晴らしい。おみの役の孝太郎さんもいじらしく、磯貝の信二郎さんも端正に演じてて好感。

『達陀』
歌舞伎には珍しい大人数での舞踏ということで楽しみにしていたんだけど、私の好きなタイプの舞踏ではありませんでした。皆さん、頑張って踊っているのはわかったけど、ほとんど印象に残らず。

『義経千本桜』「木の実」「小金吾討死」「すし屋」
仁左衛門が上方形式で権太を演じる。ちょっとわかりずらい場と思っていた「木の実」「小金吾討死」「すし屋」の流れがとてもわかりやすく、すっかり感情移入しながら観ることとなった。しかし仁左衛門さんは相変わらずひとつひとつの型がきれいだわー。上方形式のくどさも仁左衛門さんだとそれほど感じないのは何をやっても品の良さがにじみ出るからなんだろう。

小せん役の秀太郎さんが相変わらずうまい。姉さん女房な色気と強さのバランスが見事。権太の父、弥左衛門の吉弥がこのところ充実している。子を思う切ない老父役はこの人ならではの味わいがある(この役を最後に亡くなられた…もったいないことである。ご冥福をお祈りします)。

小金吾の愛之助は姿が美しく若武者風情がよく似合うけど立ち回りはちょっとくどすぎたかなー。もう少しすっきりやったほうが哀れさがでて良かったかも。お里役の孝太郎さんは可愛らしいけど声のトーンが張り切りすぎ。もう少し押さえてもよかった。「大石最後の一日」のおみの役がよかっただけにちょっと残念。「びびびびー」の部分は弾けてててちゃんと意味がわかって聞けたのは良かった。いままでこの部分はいつも「??」だった。あそこははじけてないと「あっかんべー」にならないのだな。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 一等一階花道寄り真ん中前

2004年03月14日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 一等一階花道寄り真ん中前

『伽羅先代萩』「花水橋」「竹の間」「御殿」「床下」

菊五郎が政岡を演じるのはそうそう無いだろうからと期待した演目。

第一幕「花水橋」
頼兼役の魁春さんが楚々とした雰囲気の女形というイメージがあるので男役はどうかな?と思っていたのだがなかなかに殿様風情に合ってて良かった。ちょっと抜けた感じが可愛らしいし、風格もある。絹川役の松緑さんは荒事扮装が似合う役者になりつつあるなあと思わせてくれたけど、セリフがまだまだなのと、ちょっと無難すぎて印象がちょっと薄い。姿はいいのにキメの部分がまだ弱いのかな?

第二幕「竹の間」「御殿」
なんだかフジテレビ「大奥」ぽいなあと思ったのは内緒(笑)。楽しみにしていた場だったがなんというか緊迫感がもうひとつだったなあ。役者が揃っているので期待していたんだけど、なんというかまとまりが感じられない。まず菊五郎の政岡が子供への情愛はたっぷりあったように思うけど、女傑としての芯があまり感じられず、それゆえに「悲痛さ」もどこか上滑り。むーん、なぜにして。やはりこの役は真女形がやったほうが説得力があるような気がした。八汐の段四郎さんは凄みが足りない。愛嬌のほうが勝ってしまう。もっと憎憎しげに、いじわるそうにやってもいいなあ。しかも受けにまわりすぎてちょっと表面的というか、もう少し芝居のしようがあったと思う。

沖の井の時蔵さんは連番状を後ろ手に持つシーンなどキメの姿がきれいで一番役に沿っていて良かった。でも、この方ももう少し前に出る芝居をしたらもっと良くなりそうと思った。所作の美しさはやはり真女形だけあってほんとにきれいだったなあ。 儲け役の松島役の菊之助はまだまだというか未熟さが際立ってしまっていて残念だった。セリフがいっぱいいっぱいで、所作を考える余裕なしという感じ。しかも、鬘が浮いてしまっていて違和感がっ…。お局役には早すぎたか?。いいなと思ったのは栄御前の芝翫さん。格のある役だと出てきただけでわからせるその雰囲気が素晴らしい。しかも威厳がありながら、ちょっとした人のよさを垣間見せそのせいでかえって栄御前が一筋縄でいかない役になっていてさすがだなと。

子役二人が頑張っていただけに、もったいないなあと思った場でした。

第三幕「床下」
荒獅子男之助の富十郎さんは病後とは思えないほどの勢いがあって今後も期待できそうなのがうれしかった。そして蝋燭の火に灯されゆらりと花道から出てくる仁木弾正に幸四郎さん。見事に異様な雰囲気を出してきて、うーむと唸らされた。このオーラは幸四郎さんならでは。もっと幸四郎さんの仁木弾正を見たいです。「床下」だけの場だけなんてもったいなさすぎ~。

『藤娘』
芝翫さんの藤娘はとても芝居的な踊りでした。ちょこちょこと歩く姿や首を傾げる様がとても可愛らしい。それにしてもやはり同じ踊りでも役者によって本当に雰囲気が変わりますねえ。

個人的には童女のような可愛らしさとふんわりとした色気があった雀右衛門さんと恋情が見えたあだぽいっ色気のある玉三郎 さんのが好きです。

『恋飛脚大和往来』「新口村」
うひゃあ、なんなのこの二人の美しさは…と口を開けて見とれていた場でした。仁左衛門 さんと雀右衛門さんが素晴らしかったです。雪景色のなかお揃いの着物を着たお二人が姿を見せた瞬間「新口村」という場に自分が行き合せたようなそんな気がしたほど引き込まれておりました。忠兵衛、梅川の切ないやりとり、そしてひっそりと隠れるその風情…なんともいえないしっとりとした場面でした。

その緊張を解く万蔵、友右衛門と才蔵、男女蔵の踊りでホッと一息。 仁左衛門さん二役の孫右衛門が戻ってきて、罪人である息子忠兵衛を愛しいと思う気持ちとなぜ罪人になったのだというやるせない気持ちとの複雑な心境を吐露するシーンに胸打たれ、またその心情を受けての梅川の義父を思いやる申し訳なさそうに優しい思いやりを見せるシーンの切なさよ。

「新口村」は昼の部一番の見ものでした。しかし雀右衛門さんのあの美しさはいったい…83歳とは到底思えない。それにしても芝居のしどころがあるお役だと芝居のうまさも際立ちますねえ。うっとり。