Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第三部』 1等B席1階花道寄り後方

2011年08月20日 | 歌舞伎
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第三部』 1等B席1階花道寄り後方

『宿の月』
初めて観る舞踊劇。わかりやすいので近年の作品ですね(筋書きを買っていないので確認できず)。内容的に橋之助さんと扇雀さんのキャラにピッタリ(笑)。とっても可愛い夫婦でした。舞踊劇としての舞踊の部分の面白味はあまりないかな~。なんとなく構成がこなれてない感じ。内容は可愛らしくてとても良いのでもう少し振り付けを手直しするといいかも。

『怪談乳房榎』
以前観た時は早替りの趣向を楽しむ演目と知らず円朝の物語を求めてしまい物足りなさを感じたのですが今回は趣向のための演目と割り切って観に行きました。なので趣向のワクワクだけを期待しそこは勘太郎くん十分に果たしてくれたと思います。楽しみました。

今回、早替わりに勘太郎くんにかなり顔が似ているいてうさんを使っているので普段より吹き替えの役者が顔を出していました。体の線が違うのですぐわかってはしまうのですが顔で注目していると一瞬わからなくなるので大詰めの入り乱れがかなり面白かったです。

うわばみ三次/下男正助/菱川重信/三遊亭円朝@勘太郎くんがかなり頑張っていました。早替りがとにかく鮮やか。若いだけに体のキレもよく、早替り後の「どう、早かったでしょ」の押し出しも良い。役としては三次が一番よかった。小憎たらしい小悪党風情がよくでていました。勘三郎さんと台詞廻しはソックリで親子で役としてよく似合う役ではありますが雰囲気が違うのが面白いですね。正助が意外にも似合ってて朴訥さと流されがちな性格がよく表現できていて良かったです。重信はまだ少々手に余る感じかな。でもよくやっていました。円朝は相変わらず落語家風情が無し。説明台詞としてはきちんと語れてるんですがいわゆる仕方噺という語りにはまだまだ。これは今後の課題でしょう。

今回思ったのですが勘太郎くんは台詞があまりに勘三郎さんソックリなので、かえって損してる部分もあるかなあと。まあ、勘三郎さんの華と色気を今の勘太郎くんに求めるのは間違いなんでしょうね。勘三郎さんと持ち味がかなり違う勘太郎くんの個性はこれから伸びていくのでしょうから。

お関@七之助さんは寂しげな風情で薄幸の美女といった趣。しかし全体的に色んな意味で固かったかな。もう少し人妻の色気とか子への情味が欲しかったな。

磯貝浪江@獅童さんは…お顔はいかにも色悪でいいんですけど…佇まいや台詞回しが色悪らしからぬ軽さ。また決まりのところできちっと決まらない場面も多く場が締まらない…。台詞の軽さは初役ですし今回は仕方ないにしろ、絵面の美しさを決めるキメの部分は重心をしっかり落として体の芯の線をすっきりともっとしっかり決めてほしいです。
              
茶屋娘@小山三さんが相変わらずステキでした。お誕生日観劇してよかった。声もお肌もハリがあってキラキラしてしていました。

新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第二部』 3等B席右袖

2011年08月19日 | 歌舞伎
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第二部』 3等B席右袖

『東雲鳥恋真似琴』
G2さんの新作歌舞伎です。新作としてはかなりまとまっていると思いましたし全体的に舞台として安定感がありました。しかし個人的にはもうひとつ何か足りなかったです。もう少し物語にグルーブ感というか熱が欲しかったかな。舞台装置、演出はなかなか良かったと思います。特に人形棚がせり出してくるところは見ごたえがありました。回り舞台もうるさくない使い方。物語も普遍的な人の心持ちを扱っているところに好感。しかしながらその普遍的な心の部分の表面をなでている感じで物語として薄かったかなあ。もう人物造詣を突っ込んで描いてもらいたかった。

藤川新左衛門@橋之助さん、アテガキだと思うのですがキャラに説得力がありました。堅物で友人思いでまっすぐ。そんな純粋な人間が初めての恋に溺れてしまう。ひたすら一途に愛する人を見つめ周囲がみえなくなってしまう。周りからみると可哀想な人だけ本人は幸せ、そんな新左衛門をひたすら陽で演じていく。だから悲壮感がなく、ああ、この人は幸せなんだなと納得させてしまう。

関口多膳@扇雀さん、立役はあまりなさらないけど今回、非常に良かったです。出世に対して貪欲で自分中心ではあるけど、単なる悪役ではない心の弱さやある程度の道理もわきまえてる人としてふくらみのある多膳で好演。立ち姿もキリリとされていて扇雀さんは今後、立役ももう少し手掛けていってもいいかも。

高橋秋之丞@勘太郎さん、新作だと勘三郎さんに似ないんです。勘太郎さんそのものが前に出る。熱血感でちょっとおっちょこちょいで家族思い。そんなまっすぐな秋之丞をそのまま真っ直ぐに演じておりました。

お若@七之助さん、健気で必死に尽くすお若をとても可愛らしく演じていて、この子には幸せになってほしいと思わせるだけの器量を見せてきました。

お弓@萬次郎さん、いい味わいです。藤川家を守るために必死に立ち回る風情に母としての顔と家を守らなければいけない武家の女の両方を感じさせ、またそこにどこか滑稽味を感じさせる。武家の女としての風情をしっかり保っているからこその存在感のあるお弓。

小夜@福助さん、花魁の小夜はとても良かったです。女としての矜持がしっかりあって凛としている。しかし人形の小夜のほうはちょっと微妙。人形振りで演じますが表情を崩しすぎ。あそこまで表情を作らないほうが人形の怨念が感じられると思うのですが…。好みでしょうかねえ。

左宝月@獅童さん、一人だけどうにも浮いていました…。台詞廻しも佇まいも軽すぎるんですよね。一人歌舞伎ではありませんでした。何を演じたいのかみえませんでした。左宝月という天才的な人形師としての業をなぜ表現しないんでしょう。新作や新作に近い復活狂言となると獅童さんはどうもきちんと人物を造詣できない。ニンでないお役だとなおさら。映像ではきちんと芝居ができると思うんですが舞台だとなぜこうなるんでしょうか?

『夏 魂まつり』
芝翫さんのお元気な姿を拝見で満足しました。 橋之助さんの女形が綺麗ですね。全体の姿はやはり福助さんが段違いに綺麗ですが。

新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第一部』 3等B席上手後方

2011年08月19日 | 歌舞伎
新橋演舞場『八月花形歌舞伎 第一部』 3等B席上手後方

『花魁草』
私は北條秀司の男子ドリーム的な女性観が苦手なので「ああ、またか、というかやっぱりね」というのが先に立ち今一つ盛り上がらず。結局は男の都合にいい女で、まあそれは良いとしても、過去の殺人が母の血ゆえとか、そもそもそういう設定必要?と思ってしまうんですよね。女の血は穢れていて男の血は純血とか、そういう意識まるだし。近代の作品なのでそれが鼻につく。それが芝居として立体的に現れるとなおさら…。字面だけだったら余韻ある小品かもしれないけど…って感じかなあ。

地震から逃げてきてという設定のこの作品を選んだのは3月の東日本大震災が念頭にあったのでしょうがちょっとタイミングが早すぎた気もします。まだ冷静に振り返る時期じゃないですから…。

役者さんたちはそれぞれ役に合ってて良かったと思います。

お蝶@福助さん、苦界に身を落としたやるせない女を演じるのが本当に上手いですね。明るく装ってはいてもどこか足が地についてない根無し草のような女。また、狂気ともいえる一途さゆえの危うさと純情を描き出して良かったと思います。
                
幸太郎@獅童さん、柄に合ったお役でしたね。獅童さんが演じるものをいくつか観てきて思うのは、純粋で心根が優しい青年というキャラが獅童さんには一番似合うなという印象。独特の風貌で色悪などを演じることが多いですが実際のニンはその反対なのだと思います。芝居特に歌舞伎に関してはかなり不器用で基礎の部分もまだまだと思うことが多々ありますが、時々それを気にさせないような役があります。今回の役はまさにそういう役だったかなと思います。純情でちょっと甘え上手で根が不器用で、という青年にピッタリでした。

米之助@勘太郎さん、いかにもな田舎の人のよさのなかに才覚を秘めた米之助。単なる人のいい人物でないキャラをよく造詣してきたと思います。台詞廻しがお父さんの勘三郎さんソックリでした。台詞の間合いなど勘三郎さんに稽古つけてもらったかもしれませんね。

米之助女房@芝のぶさん、田舎の生活に根を生やしている人の良さが前面に出て米之助@勘太郎さんといい一対。芝のぶさんはこういう地味な役で特に地力をみせますね。

勘左衛門@彌十郎さん、先見の明がある懐の広い座元を裏表無く演じて気持ちよい芝居。

お栄@扇雀さん、幸太郎にほれ込んでいる後家さんをいかにも扇雀さんらしい気の強さと思い入れの強さで演じて印象に残しました。

小料理屋女房@歌江さん、最初の幕だけのご出演でしたけどさすがの存在感ですね。佇まいが良いのですよねえ。

『伊達娘恋緋鹿子 櫓のお七』
舞踊仕立てにした「火の見櫓の段」のみの上演です。歌舞伎では『松竹梅湯島掛額』の最終幕につけることが多いですね。今回は客席に降りる趣向になっていました。こういうファンサービスはいいですね。

八百屋お七@七之助さん、まずは黄八丈の拵えがとても似合っていて非常に可愛いです。世間知らずののんびりほんわかしたお嬢様風情もよく出ていました。踊りのほうは拙い部分はあれども人形振りとしてのケレンは成功してました。細身の体も手伝って人形そのものに見えましたし、「本物の人形みたい!」との感嘆の声も聞こえました。ただ、人形の部分に魂が入っていたかというと残念ながらまだまだ。人形振りのなかに恋の情念をみせないといけないと思うのですが、吉三郎ラブな気持ちはなかなか見えてこなかったです。文楽でいえば若手が一生懸命操っています、までの段階かな。また人形から解けて人に戻った後もまだ人形ぽさが抜けずメリハリがまだまだ。

個人的に『櫓のお七』は菊之助さんと亀治郎さんのがかなり印象に残っています。この二人のお七には吉三郎が恋しいどんなことでもして恋人の元へ行きたいという気持ちが人形振りのなかに込められていました。そして人に戻った時の活き活きとした表情もとても良かったです。

人形振りってことでは玉三郎さんと勘三郎さんと福助さんの道行きが凄かったなと時折思い出します。

神奈川芸術劇場『杉本文楽 曾根崎心中』 S席1階L席

2011年08月14日 | 文楽
神奈川芸術劇場『杉本文楽 曾根崎心中』 S席1階L席

初日を観に行きました。KAATは文楽観るには大きすぎ。私は1階L席(実際は中二階)でしたけど残念ながら人形の細かい表情がみえず。二階、三階席の人、双眼鏡ないときつかったんじゃないかな~。 1階サイド席は奥行きのある舞台使いを観るにはちょうど良いポジションではありましたが、舞台の大きさと人形の大きさのバランスの悪さも感じました。特に最初の一人遣いでのお初がちんまりしてみえて…。舞台のインパクトに負けていました。

全体的に試みとしては面白かったです。ただ思ったほど新味な感じはせず。現行の演出からほとんど逸脱してないかなと。古典芸能としての文楽の枠組みの強固さを思い知った感。

普段掛からない「観音廻り」、やっぱり必要ない場だね~とは思ったんですが確立された演出がない分、一番演出に自由度を感じた。シンプルで暗い舞台で弾かせた三味線と胡弓の音は耳が研ぎすまされる分インパクトがあり引き込まれる。ただ音響は悪くはないと思うがヘンな方向に残響。 そのヘンな方向の残響のせいでPA使いに聞こえるのはちょっとどうか…。映像使用もあったがただの説明映像であまり意味を感じず。そして奥行きがありすぎて一人遣いの人形は生かされてなかった。

生玉の社の場での三人遣いから人形が生きてくる。またシンプルな舞台背景だけに物語を語り聞かせる「文楽」というものが見えてくる。空間の広がりの開放感はありつつ場が基本、平面の使い方になるからだと思う。そこは崩せないのだなと。

基本、暗い舞台にピンスポという演出。最初こそインパクトはあれどその演出ばかりが続き目が慣れると演出としてのメリハリがなくなる。照明の使い方、もう少しメリハリ利かせてほしかった。また青系のピンスポだと人形や着物の美しさが際立たない感じ。また暗い中で人形遣いが皆頭巾を被って操るのは「人形」を目立たせるためであろうけれど、個人的には「出遣い」の表現のほうがなぜか立体的に人形が映えるような気がする。

しかし、舞台の新演出となるとシンプルな方向ばかりにいくのはなぜだろう。舞台背景を作りこんだ立体的で緻密な演出という方向の選択は難しいのかな。スタイリッシュでおしゃれ感はあるが、単に引き算をしただけにも見える。人形自体の演出が従来と変化がないのでそう思ったのかもしれない。立ち居地、表現そのものはほぼ変化なし。なので従来の曽根崎心中の演出を突っ込んで解体してるわけではない。もっと現代アート的な面白さを求めていたのでそこはもっと突っ込んで欲しかったかなあ。三人遣いの遣い手たちをピンスポで多角的に見せる演出は世田谷パブリックシアターで野村萬斎さん主催の『MANSAI◎解体新書/その拾四「ひとがた(人形)」~自己と他者のディスタンス~』ですでに見せていただいてたので大きな驚きがなかったというのもあるかも。

ラストの「死」は魂が入ったまま。木偶に戻さない「死」。魂が入ったままだと死を美しく演出してしまうのだな。死への恍惚(sexのイメージもある)がそこにある。私は通常演出の死の悲惨さを含んだ「死」のほうが好み。えぐいほどの死を見せたほうが二人の生き様がみえる気がするのです。

今回の演出、ヨーロッパの人が喜びそうだなと思いました。仏教に根ざした日本の「死」の観念をシンプルに綺麗に表現したってところで。今回の杉本さん演出は映像的。スクリーンのイメージとして出来上がってるのを舞台化したんじゃないか?と思いました。

杉本演出だからではないのだけど…。『曽根崎心中』を観るたびに思うんですけど九平次のキャラが突っ込みどころ満載。裏切りが唐突すぎるんだよね。徳兵衛が兄弟仲とまで思っていた親友のはずなのに。どういう人物造詣だよ、近松さん!!

太夫・三味線、人形遣いとも皆さん力が入っててよかったです。太夫・三味線方にとっては特に音が響く劇場ということもあったんでしょうけど。鶴澤清治さんの三味線は心に沁みる。

簑助さんは今回は徳兵衛を遣う。出来ればお初が観たかったけど…。最初のうちいつもより動きが小さく感じた。後半にいくにつれ簑助さんらしい表情豊かな徳兵衛がふんわりと浮いて出てきた。簑助さんの徳兵衛は精神が未熟な幼さを抱えてる感じだった。自分というものに自信がなく絶えず揺れている。

勘十郎さんのお初はかなり大人だったな。芯が強く潔い。弱い徳兵衛を守る姉さん恋人のようだった。可憐さとか初恋に浮かれるという少女ぽさみたいなものがないので死に向かう様に切なさはなかったかな。その代わり死ぬざまの覚悟の強さに透明感のあるエロスがりました。

杉本文楽、なんだかんだ書きましたけど見る価値は大いにありました。新しい試みはこれからも色々していっていただきたいです。最後、カテコがありました。簑助さんがお茶目。嶋大夫さんがヨーダだった(笑)、可愛い。勘十郎さんの消耗ぶりに新しいことをすることの大変さが伝わってきました。

国立小劇場『稚魚の会・歌舞伎会合同公演 A班』 前方センター

2011年08月13日 | 歌舞伎
国立小劇場『稚魚の会・歌舞伎会合同公演 A班』前方センター

初日行ってきました。ロビーで田之助さん、團十郎さん、魁春さん、芝雀さん、東蔵さん、松江さん、玉太郎くん、春猿さん、段治郎さんに遭遇。初日ならではの光景でちょっと得した気分。梅玉さん、吉右衛門さんもいらしてたようだけど残念ながら拝見できず。

さて舞台ですが初日でしかも師匠方に見守られで皆さん大緊張してました。汗だくで必死。肩に力が入りすぎて余裕がない感じで見るほうも緊張。でも丁寧にしっかりこなしていたので回を追うごとに良くなってくると思います。

『寿曽我対面』「工藤祐経館の場」
中村梅玉=監修・指導
中村魁春=監修・指導
市川團蔵=監修・指導

工藤祐経@升六さん、存在感がありきちんと座頭の風格を見せ非常に良かったです。大健闘。

曽我十郎@京純さん、白塗りが似合いすっきりと爽やかな十郎。柔らか味はなく和事にはなってないものの男ぽいしっかりとした兄といった風情でなかなか。

曽我五郎@茂之助さん、一生懸命さが五郎の必死さにつながりよく演じていたと思います。

『一條大蔵譚』「大蔵館奥殿の場」
中村吉右衛門=監修・指導
中村芝雀=監修・指導

『一條大蔵譚』は難しい演目だなあとつくづく。特に主役、かなり大変だったんではないでしょうか。頑張っていらっしゃいました。

常盤御前@笑野さん、佇まいが美しく、また常盤の秘めた心情がよく伝わりとても良かったです。

お京@京珠さん、キリリとした芯の強いお京。女スパイをするだけの度胸が感じられました。

鬼次郎@猿琉さん、力が入りすぎな面もありましたがカドカドが丁寧で華やかさがありました。

『戻駕色相肩』常磐津連中
藤間勘祖=振付

与四郎@新十郎さん、いかにも二枚目風情にすっきりと爽やかに踊っていきます。

次郎作@升一丈さん、成田屋さんらしい骨太さがありそこはかなとなく可笑し味がありました。

禿@京由さん、お人形のように可愛い。一生懸命丁寧に丁寧に踊っていらっしゃいました。拙いものの踊り、だいぶ上達していました。

日本橋劇場『第四回 趣向の華特別公演』 1等1階席前方

2011年08月09日 | 歌舞伎
日本橋劇場『第四回 趣向の華特別公演』 1等1階席前方

8/8(月)のプレ公演に続き、本公演を昼夜続けてみました。とても楽しかったです。この試みは続けていってほしいです。

【昼の部】
長唄・清元『喜撰』
さすがにプレ公演のときより纏まった演奏でした。長唄と清元の掛け合いでの演奏はこの趣向の華の会ならでは。変化があって面白い。

清元は勘十郎さん中心に梅枝くん、廣松くんがきちんと唄っていました。梅枝くんは声が良いですね。鳴物では先導するのは太鼓の青楓さん。梅丸くんの小鼓がなかなか良い音を出しておりましたね。長唄、三味線は出だしがちょっとヒヤッとさせましたが演奏していくうちに音が揃っていきました。今回も何人かには後ろから調律する先生の手が伸びてましたけど(笑)それもご愛嬌。三味線の音を合わせるのは難しいと思いますけど皆さん結構頑張ってたと思います。立三味線の染五郎さんは譜面から顔が上がりませんでしたが苦手のはずの三味線で演奏は無難にまとめてきてました。掛け声は少々自信なさげだったかも(笑)。

長唄『阿古屋三曲琴責め』
勘十郎さんが琴、三味線、胡弓の三曲を弾きこなします。改めて難しい曲だなあと思いつつ、勘十郎さんの達者な演奏に感心。琴こそかなり緊張されての演奏でしたけどお得意の三味線、胡弓では安定した演奏。ほんとお上手です。にしても勘十郎さんはほんとマルチ人間ですね。なんでも出来るってだけじゃなくそれぞれレベルが高い。

常磐津『三世相錦文章』
唄だけで8時間かかるという大曲。そのなかの一部分の件を語ります。内容がかなり面白く聴き応えありました。脚色して歌舞伎上演してほしいなあ。
浄瑠璃を青楓さん、三味線を勘十郎さん。青楓さんは本当に美声。また語り分けがお上手です。舞踊家だけにしておくのもったいない(笑)。勘十郎さんの三味線も毎年パワーアップしている。『阿古屋』の時よりのびのびして音が良くなってました。『阿古屋』のときはやはり緊張されていたのかも。

歌舞伎舞踊抄『続花形一寸顔見世』
歌舞伎舞踊のメドレーです。大曲が並びます。演奏者たちも聴かせどころが多いのでかなりヒートアップしてたかも。勘十郎さん、青楓さんの安定感はもとより染五郎さんの小鼓が立鼓方としてかなりの上達ぶり。良い音が安定して出ていましたし掛け声がハリのある声で素敵でした。あと太鼓の壱太郎さんがかなり頑張ってました。思わず目が釘付けになる場面も。

『操り三番叟』
翁の廣太郎くん、千歳の男寅くんが丁寧に丁寧に。男寅くん、大きくなりましたねえ。男前になってきた。

後見の米吉くんが無駄のない動きでなかなか良い感じです。芝居っ気もありそう。

三番叟の種太郎くんは…一生懸命に踊っていました。が、人形にみえないかも…若干お猿さん…。操り三番叟って高度な踊りなのねって思いました。そういや勘太郎くんも苦戦してたもんな。

『船弁慶』
前シテ静御前を梅枝くん、やっぱり梅枝くんは上手いです。女形らしい柔らかさがありとても可愛らしい静御前。切々と、哀愁のの部分はまだかなと思えども思い入れはきちんと見えたし、いずれ本公演で観てみたいと思わせた。

後シテ平知盛は萬太郎くん、大きく丁寧に動いて爽やかな知盛でした~。

『宗論』
種之助くんと廣松くんが一生懸命に丁寧に演じてて、そのマジメさのところで可笑し味が出てて楽しかったです。余計なことしないのが良い。

『連獅子 後ジテ』
染五郎さんが生前の富十郎さんと約束していたという鷹之資くんと金太郎くんの『連獅子』には思わず涙がこぼれました。鷹之資くんの親獅子姿が富十郎さんソックリなんだもの。鷹之資くんはお兄ちゃん分としてきちんと金太郎ちゃんをリードしてて、そんな姿にもうるうる。富十郎さんが降りてきて近くで舞台を観てるような気がして、つい泣きまくってしまった『連獅子』でした。

この二人、とにかく可愛い親子獅子でした。二人が出てきた瞬間から大盛り上がりでなんだかすごいことになってました(笑)

ちっこい親子獅子でもちゃんと花道を後ろ向きで下がっていくのもしっかりこなしてました。鷹之資くんは毛を足に挟んで、金太郎くんは毛を脇に寄せて、まっすぐ前を見ながらススッと花道を下がっていきます。

鷹之資くんは堂々と所作もピタっと決めていきます。キレ味は富十郎さん譲りでしょうか。毛振りは勢いよく。途中二度ばかり毛が引っかかりやり直していましたが、あまり気にならず。きちんと獅子としての佇まいを忘れていませんでした。

金太郎くんは本当に小さくてとっても可愛い仔獅子。あの小さい体で毛の重さにバランスを崩しそうになりながらも体いっぱい一生懸命に踊っていました。また高い台を一足飛びにちゃんと乗っていたし、よくぞ頑張ったなあ。それと毛振りがかなり上手かった。腰から廻して、しかもリズムが一定でまったく止まらずかなり綺麗な毛振り。さすが獅子大好きっ子だけあります。

【夜の部】
袴歌舞伎『染錦絵化生景事』
藤間勘十郎 作/市川染五郎 演出

楽しかった!!やりたいこと全部つっこみました~なノリが良し。ベテランが舞台を締め、中堅花形が華やかにしっかり物語を動かし、若手が一所懸命に必死に演じ、観ててウキウキしました。

紋付袴だけの素歌舞伎なので体の動きがモロにわかる。それもまた見どころ。やっぱり中堅以上の役者さんは素でもきちんとキャラが立ち拵えした姿が浮かぶくらい。女形さんは男だけどしっかり女形なんだよね。すごいなあ。

今回の演目は豆腐小僧を題材にした歌舞伎をとの染五郎さんの発案で勘十郎さんがいかにもな筋立てに仕立てた新作の義太夫歌舞伎。新作とはいっても筋がさまざまな古典をベースにしているので観てて安心感が。染五郎さんの演出はシンプルでわかりやすく立体的に組み立て、また所々擽りもいれて楽しく見せていきました。まずは口上で染五郎さんが物語の発端を役々の役者を並べ台詞を入れつつ説明し、語り終えるとそのまま自分のお役に入ってしまう、という趣向。

ベテランは友右衛門さんが珍しく大悪党を演じ、魁春さんはほんのちょっと出番ですが大事なお役で場を締めます。

中堅花形の亀三郎さん、亀寿さん兄弟の存在感はこれからもっといい味わいになっていくんだろうなあと思わせました。二人とも声がほんとに良いですよね。また孝太郎さんの上手さが印象的。翫雀さんは意地悪な妖怪ばばあを楽しそうにユーモアたっぷりに。翫雀さんのほのぼのキャラは楽しい。

若手では梅枝くんが頭ひとつ抜けている感じ。人形振りも丁寧にしっかりこなす。彼はあとは型に想いのせるとこを目指す段階にきてるかな。集中度がすごいと思う。後見の種太郎くんもしっかりと。彼はこの後見が一番よかった。あ、幽霊のだんまりも楽しかったです。それにしても若手が前のめりに頑張る姿には元気をもらえる。これからも頑張っていってほしい。彼らはこういう良い機会を与えられてるのだか幸せです。

青楓さんが珍しく役者として登場。やっぱり上手い。お嬢様が誕生されたとのことでサプライズでお祝いされてました~。おめでとうございます。

また演奏のほうでは義太夫に東蔵さんまで出演。さすがにお上手ですねえ。義太夫は梅丸くんも語ってました。なかなかしっかり語れてました。

袴歌舞伎のお約束、大薩摩に勘十郎さん・青楓さん。やっぱ上手いよ。勘十郎さんの三味線、疲れてるどころかすごいことになってました。相変わらず台運びは染五郎さん(笑)。ラストでまた鳴り物勢ぞろい。染五郎さんも鼓叩いてましたけど疲れてたかも。出だしの音が面白いことに…その後しっかり持ち直していました。 壱太郎くんも太鼓で登場。どうやら黒御簾内でずっと太鼓を叩いてた模様。今回はずっと裏方で頑張ってたのね。