Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 1等1階花道ブロック真ん中列周辺

2017年03月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 1等1階花道ブロック真ん中列周辺

『引窓』
初日周辺に観た時より全体的に芝居が締まっていてお互いがお互いを想う家族の物語がよりストレートに伝わってくるようだった。人として繋がっていくのに義理ゆえにの部分あってこそ、強く繋がっていく。家族は血だけで繋がるものではない。私の席の周囲の初心者らしき方々が「いいお話ね~」としみじみ語ってらしたり「今回ようやく内容が理解できた」という方もいて、芝居としてわかりやすい作りだったのかなと思う。

右之助さんのお幸は今後当たり役になると思う。右之助は近頃、存在感が出てきたなと思う。幸四郎さんは濡髪役者なんだよなとつくづく思った。でも今回の南与兵衛は受けに徹していてどこか母への不器用な愛情が感じられて、キャラ違いな部分はあるけど十分な作りかなと思った。

『女五右衛門』
近くで見ると迫力。衣装も綺麗。

『助六由縁江戸桜』
海老蔵さんの助六は出端は力加減がいい塩梅でやはりとても良い。全体的には大人になった分、芝居の熱が少し薄れた気もする。ここら辺は観客の好みかな。いい方向になってる部分もあるのだし。台詞回しはもう海老蔵さん助六はこれでいくって感じで捉えていいのかな…。

初日周辺からぐっと良くなったのは雀右衛門さんの揚巻。格の大きさが出て、台詞にも力強さも加わった。花道の出はもっと押し出し強くしてもいいかなと思うけど本舞台で本領発揮。包容力のある優しく、それでいて芯もある良い揚巻。これが出来るなら次もあるなと思った。

梅枝くんの白玉は落ち着きがあって品がいい。年齢以上の貫禄もあってやはりこの年代のなかでは頭一つ抜けている感。もっと華がつけばいうことなしですね。並び傾城の5人は美しいだけではなくそれぞれ個性があって魅力的。廣松くん、化粧変えたかな?初日近くより綺麗になってた(^^)

歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

2017年03月04日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

『引窓』
この演目が好きということもあり、昼の部での疲れを忘れて楽しんだ。私は幸四郎さんが座頭の時の芝居のアンサンブルに心地良さを感じるようだ。役者として押しが強くそこに目が行き勝ちだけど、それ以上に周囲とのバランスもよく考えていると思う。役者たちの役のなかにある個性を大事にしている感じがします。

南与兵衛@幸四郎さんはこの役はとても久しぶりに拝見。以前のは義に厚いヒーロー的なカッコイイ南与兵衛だったという記憶。今回はその部分もありつつ、情の厚さ、根の優しさが前面に出ていたように思う。どちらかというと武張っていて町人らしい柔らかさや愛嬌とか色気はあまりないのだけど、無骨さのなかに義母お幸と濡髪長五郎への心配りを見せていく。母を終始立てるとても大人な南与兵衛。

幸四郎さんのことだからもっと前に出ることもできるはずだけど押さえて受けに徹し、お幸と濡髪親子を立てていた。最近『双蝶々曲輪日記』の通し狂言で濡髪を演じたことで、南与兵衛という人物像を再構築したかなと思ったり。それにしても出るところと押さえるところの緩急がほんと巧い。見せ場になると一瞬で惹きつける。若々しい。

お幸@右之助さんがとても良かった。控えめななかの情の強さが右之助さんらしさ。母として義理の母としての揺れ動く心持ちが佇まいにも台詞廻しにもあますことなく表現されていた。この手のお役をぜひきわめてほしい。弱さのなかの強さ、というところを演じられる老けの女形さんは少ない。とても貴重。

濡髪@彌十郎さん、大きい体躯だからの大きさだけではなく追われる立場のやるせなさ、母への思い、真っ直ぐな気性といった役の輪郭を丁寧に太く演じることで存在感をみせてきたと思う。

魁春さんのお早は遊女だったというじゃらつきは少ないんだけど一生懸命生きてきた女だなと思われるとこと、手に入れた大好きな家族を守ろうとしている健気さがあっていいなあと思う。


『女五右衛門』
役者を観て楽しみ、絢爛な大道具を楽しめばそれでよし。藤十郎さん、いつまでもお元気でいてください!仁左衛門さんはひたすらスマートでかっこよし。

『助六由縁江戸桜』
歌舞伎十八番のなかでも人気の華やかで楽しい演目。物語がわかりやすい作りで曽我ものを知らなくても楽しめるし、個性的な登 場人物たちにそれぞれ見所を設けているし。よく出来た演目だなと思う。河東節が成田屋だけのものになったのは実は最近だそうな。

海老蔵さん@助六、一番合うお役だと思う。拵えがほんとに似合う。回数を重ねた役だけあって難しいであろう出端のところがひとつひとつ丁寧でありながら自然。だいぶ落ち着いた感じでやんちゃな青年からちょっと落ち着いた大人な雰囲気になったなあ。出し方もだいぶ落ち着いてきてるかな。いわゆる台詞廻しはいつも通りだけど聞き取り易くなってたような。私の好みの問題だけど、ここは絶対團十郎さんの台詞廻しでお願いってとこが一番違ってたりするのがチト残念。

揚巻@雀右衛門さん、華やかさを前面に出さないといけない役なのでちょっと心配していたけど、余計な心配でした。美しさだけでなく華やかさもあり。揚巻を演じる役者としての格もあったと思う。お父上にますます似てきたな。台詞回しや声がお父様にかなり似てた。人気傾城としての大きさ、プライドの高さみたいなのは無いけど助六をたしなめるのも庇うのも、愛らしさや恋する人への一途さのほうが強く出ているのがらしいなあと思う。助六@海老蔵さんと並んでまったく違和感なく恋人同士に見えた。

白酒売り@菊五郎さん、キュートで華やかで明るくてほわほわっとしていて、でも兄としての芯がそこはかとなくこれぞ白酒売りといった風情。出た北だけで舞台を大きくし舞台の空気を濃くする。舞台が一段と明るくなるのよね。根っからの明るさというか開放感のある白酒売りは菊五郎さんの次は勘三郎さんのはずだった。次世代でこういう白酒売りができる役者がいるんだろうか?と不安になる。陽の役者が今、少なめよね。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

2017年03月04日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

『明君行状記』
初めて観る演目。構図としては『御浜御殿』に近くいかにも青果ものという芝居。役者が適材適所で完成度も高かったと思う。でも好みか?と言われたら私には感覚的にあまり好みではない。光政と善左衛門の探りあいを楽しむものなんだろうけど林助が可哀想だわね…となる。

光政@梅玉さんは嵌りすぎくらい嵌っているし、それだけでなく光政という人物像に明快に迷い無く切り込んでいってる感があり圧巻であった。この役を説得力もって演じられるのは梅玉さんくらいかも。

対する善左衛門@亀三郎さんも声と口跡のよさで台詞をしっかり伝えてきたのと生真面目な風情が合ってて良かったです。

妻ぬい@高麗蔵さんが若々しい美しさと品のよさで目を惹き、大五郎@萬太郎くんも目配りのよさでキャラに合ってた。先月気になった化粧は今回は顔に合っててよかった。

歌舞伎座『渡海屋・大物浦』
仁仁左衛門さんの知盛を拝見するの久しぶり。とても純粋に自分を全うしようとする気迫のなかに悲壮感があるカッコイイ知盛でした。渡海屋の銀平からかなり鋭く、渡海屋の主人のしての鷹揚さよりは初手からどこか使命感を帯びた雰囲気。好みからするとここはもう少し隠してもいいんじゃないかな?と思いつつも、そこから一気呵成に知盛として突き進んでいく感じもあり。大物浦ではかなり派手な演じ方。ヘタすると格が減じてしまうと思うのだけど、今の仁左衛門さんが演じると悲壮感、無念さが際立ち、物語にうねりがでて良かったと思う。

典侍の局@時蔵さん、お柳は仁左衛門さんと同様に渡海屋から凛として夫婦というより同士の感じが大きい。お柳から典侍の局になってからの佇まいに哀があって、そのなかで安徳帝への情をみせていくので悲劇性が増す。ここ私的に好みでした。

義経@梅玉さんは鉄板で、弁慶@彌十郎さん、このところいい感じに一皮向けたような気が。役の存在感が出ていました安徳帝@右近ちゃんが、落ち着いていてほんと立派。

『どんつく』
幕が開いて板付きの巳之助くんが一瞬、三津五郎さんに見えてドキッとした。動き始めるといつものみっくんなんだけどね。松緑くんと亀寿くんに引っ張られながら、踊りきる。この踊りは回を重ねていってほしい。

代替わりなんだなあとしみじみ思いつつ後ろで鷹揚に見守る菊五郎さんの厳しくも優しいまなざしが印象に残る。『どんつく』はやっぱり皆での連舞が楽しいね。