Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『五月花形歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄りセンター

2010年05月28日 | 歌舞伎
新橋演舞場『五月花形歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄りセンター

『熊谷陣屋』
23日に拝見した時にとても良いと思いましたが3階B席からだとどうだろう…と思っていました。しかしそれは杞憂、十分楽しめました。花形の『熊谷陣屋』でここまできちんと芝居を見せてくれるとは想像してなかったです。それだけ皆が頑張ってきたし、染五郎の熊谷、七之助の相模、松也の藤の方、歌六の弥陀六と口跡の良い役者が揃っていたということだと思う。歌舞伎としての濃密度はまだそれほどありませんが物語としてきちんと伝えることができたのは見事だったと思う。

前回観てから日が間もないにも関わらず、全体的に成長してました。そこが嬉しい。次に確実に繋がる出来だったかと。今回の熊谷、相模夫婦はやはり幼い子をもつ親にしか見えなかったけど、夫婦間の絆がしっかりみえたし、子をなくした嘆きがストレートに伝わってきました。これは義太夫にしっかり乗った台詞廻しができていたことと、そこに情感を加えることができていたためかと。染五郎と七之助の芝居はとても繊細。細かい部分を非常に丁寧に演じることでの積み重ねがよくできている。演じていくうちにもっと輪郭の太い芝居になっていくだろう。

熊谷直実@染五郎さん、やはり花道の出はまだ弱い。深いものをしょった背を表現するのにはちょっとやそっとでは無理なのだろう。年月を得て獲得するものでもあるだろうから、今回は仕方ないかなあ…。やはり戦語りから俄然良くなる。戦語りをかなり集中して聞けました。メリハリがきいて情景描写のわかりやすさに繋がっていたからだと思います。また熊谷の造詣として前半のハラの割らなさもいい。義太夫の流れそのままの感情をしっかりと表現しようとしているからだと思う。陣屋に来てしまった相模に対しまずはきちんと怒っている。また後半の少しづつ感情が漏れだしていくサマが本当によかった。引っ込みは等身大の熊谷だ。子を殺したことへの罪悪と哀しみに押しつぶされそうな熊谷であった。引っ込みは本当に涙を流していたように見えた。「十六年は~」の台詞は前回、あっさりぎみでしたが、相当たっぷり言うようになってきていました。

全体のメリハリが効いてきたのは、熊谷の動きが身体に沁みてきて台詞にもっと注意が向くようになってきたからでしょうか。造詣は幸四郎さん&吉右衛門さんmixという感じです。後半は特に吉右衛門さんに似ていました。幸四郎さんに稽古つけてもらったはずなのに吉右衛門さんの顔、台詞廻しがひょっこり出るんですね。ぜひ今後、お父様と叔父様の良いとこ取りになっていくと嬉しいですね。ただひたすら精進を重ねていくしかないのでしょう。あと同じ役を重ねていくことの大切さも感じました。一歩一歩進んでいって熟成させていって欲しいです。近い将来また見てみたいです。

相模@七之助さんも、動きと台詞が一致してきたことで感情が見えやすくなってきていました。妻としての部分、母としての部分の両方がしっかりあるバランスのよさ。若すぎる相模でしたが、そのなかでも、七之助さん演じる相模の人物像に説得力がありました。また、一途さという部分で、つい陣屋まで足を運んでしまった芯の強さというものも感じられました。それと台詞廻しが声がどんどん芝翫さんを彷彿させていっていました。これにはビックリ!相当しっかり稽古つけてもらったのでしょう。そこをしっかりなぞってこれてきたってことで、芝翫さんの相模にある母としてのそこの情の厚さを演じられたのではないかと思う。七之助さんも相模は回数を重ねていってほしい。確実に良い相模を演じていけると思う。

藤の方@松也さん、拵えや声質が藤の方という役にあっているのが何より。所作が時々大雑把にみえてしまう部分が若干気にはなったけど、それ以上に若さゆえか熊谷に対しての気迫がアグレッシブで、子ゆえにの強さを見せてきたのが良い。。その部分でアラを隠している。松也さんは兼ねる役者だけど、女形をもっと今まで以上に勉強したらどうだろう。役の幅が広がりそう。なんとなくこれから貰う役のこと考えたらを魁春さんあたり、どうだろうとか思ってみたり。

弥陀六@歌六さん、びっくりするほど良くなっていました。台詞の部分がかなり良くなっていたのが大きい。前回、もっとできるでしょう~~と思ってたのですが、やはりそこまで持ってきた。弥平兵衛宗清としての顔が明快になってきたのもいい。平家側の人間としての悔しさ怒りがきちんと伝わってきました。

余談:
歌舞伎で丸本ものといわれている義太夫狂言は元の浄瑠璃の床本から変質していることが多いです。役者本位に書き換えられたり(役者の言いやすいように台詞が変わったり、より劇的にするために演出が変わったり)あとはみどり上演(有名場面のみ上演)で前段の複線が使えない場合もわかりやすく台詞を変えたりと工夫したり。私はそれが歌舞伎だ、と思っているのですべて元の浄瑠璃に沿うことはないとは思います。

それでも理に沿うように見直しするのもまた試みとして必要だとも思います。特に役者が言い間違った台詞や所作が後年そのまま残る場合もあるようで、そこら辺の見直しはしてもいいかなと思ったりも。『熊谷陣屋』の義経の台詞で「父義朝や、母常盤の回向な頼む」は言い間違いの例じゃないかと。こう言う役者さんが多い気がします。床本では「父義朝や、母常盤の回向も頼む」です。「回向な頼む」だと熊谷が小次郎を亡くしたことへの思いやりが感じられません。「回向も頼む」だとだいぶニュアンスが変わりますよね。もちろん「回向も頼む」とおっしゃている役者さんもいます。とはいえ、細かいところで印象って大きく変化するのもまたライブの面白さでもあるので一概に「ダメ」とは言いたくはありませんし、なかなか難しいところですねえ。


『うかれ坊主』
松緑さん、この難しい踊りを一ヶ月頑張りましたって感じかな。まだまだ洒脱さ、軽みを見せるとまではいかなかったけどキャラ的には合っていたしこれからもこの舞踊を踊っていくんだろうなと思わせただけでも上々。しかし、なぜに今月、この難しい舞踊だったのか…いまだに謎。


『助六由縁江戸桜』
お遊びが二つ。

くわんぺら門兵衛@松緑さんが助六に「おれの従兄弟によく似た~」と入れごとを。松緑くんが入れごとをするのは珍しいような~。なんだか楽しかった。

白酒売新兵衛@染五郎さんが通人@猿弥さんに意地悪を(笑)本来、通人に「コーラはお好き?」と聞かれ白酒売は「コーラはイヤ」と否定し「コーラはいや?コーラ、いや、高麗屋!」と続けるところを、「コーラは好き」と肯定しちゃったよ(笑)。そこは猿弥さん、苦労しつつも、「コーラがお好き?!コーラが好き…、コーラは良い、コーラ良い~~(嬉)、高麗屋!」とうまく着地。二人とも楽しそうでした。

揚巻@福助さん、啖呵がカッコイイ。

白玉@七之助くん、ふんわりとした感じになってきて可愛らしかった。

福山のかつぎ@亀三郎さん、江戸っ子風情が心地よし。

朝顔仙平:亀寿さん、だいぶこなれてきていました。

新橋演舞場『五月花形歌舞伎 夜の部』1等後方花道寄り

2010年05月22日 | 歌舞伎
新橋演舞場『五月花形歌舞伎 夜の部』1等後方花道寄り

個人的には今月の『五月花形歌舞伎』は昼の部より夜の部のほうが充実していたと思います。とても楽しめて満足です。

『熊谷陣屋』
今月の演目のなかで花形には一番荷が重い演目だろうと心配していました。ところがこれが予想以上の大健闘。初役の花形ばかりでよくここまで持ってきたなと思いました。

熊谷直実@染五郎さん、こういう骨太な役はほとんど演じてきていないなか、この難しい役を初役でよくぞここまで演じてきたなと思いました。肩に力が入り過ぎている部分、なぞるので精一杯な部分も多かったと思いますし、色んな部分で緩急もまだまだで、細かい部分を言えばあれこれありますが、それでも極めてしっかりと熊谷像を作り上げてきていたなと。熊谷の気持ちの在り様が非常に良かったです。特に後半、首実検あたりからの小次郎や相模に対する思い入れの深い芝居には感動すら覚えました。声もよく出ていましたし、台詞廻しも大健闘。前半は完全に幸四郎さん写しだなと思いましたが後半にいくにつれ吉右衛門さんの熊谷も彷彿とさせる。台詞廻しがどんどん吉右衛門さんに似てくるんですよね。声質が叔父さんのほうに似ているのでしょうか。それでいて、染五郎さん自身の熊谷というものも感じさせるものでした。染五郎さん、これから熊谷を演じていくし熟成させていくんだろうな、と先の楽しみを充分に感じさせてくれました。

熊谷の最初の出はさすがに線が細く、深い哀しみを押し隠した背には見えず、また相模や藤の方と相対する部分もひたすら父幸四郎の熊谷をひたすらなぞっている感があり硬いなと。やはりこの役は難しいと改めて思い知らされた感じがしていました。しかし戦語りから乗ってきたのかグッと良くなっていきます。戦語りでの語り口はストレートで情景がわかりやすく、また体の使い方はさすがに踊り上手な染五郎さん、鮮やかです。ここでは「身代わり」の部分、まったく腹を割らない作り方です。

そして後半、義経の首実検から熊谷の苦しい感情が表に出てきます。その覚悟の強さと、そのなかで押さえても押さえきれない、底から湧き出てくるような苦しさを染五郎さんは本当に搾り出すようにひたすら真っ直ぐに演じてきていました。相模に「こりゃ女房」と首を渡し、相模のクドキを聞く場での表情は、相模への申し訳なさや労わり、そして小次郎を思う悲しさが一緒くたになったような表情。とても悲しそうに、でも相模を見つめる目は限りなく優しげで熊谷の苦しさ、切なさが伝わってきます。若さ、という部分で出たのかもしれませんが、相模の夫であり、小次郎の父であり、という部分での感情がストレートで苦渋の選択をした熊谷の切ない部分に共感できるものになっていた気がします。

出家姿になってからは、自分の押えようとした感情に耐え切れなくなっていく熊谷直実でした。我が子を手に掛けた申し訳なさ、悲しさに押しつぶされそう。諦観はありません、苦しみのなかで足掻いている感じ。この人は出家するしか無かったのだな、と思いました。引っ込みは芝居としての大きさはまだありません。ひたすら、子を亡くした等身大の若すぎる熊谷像でした。物語の熊谷直実としてはまだまだだと思いますがそれでも胸に迫ってくる熊谷像でありました。

相模@七之助さん、染五郎さんの熊谷と同様、とても若い相模。16歳の母というよりはまだ幼い子供がいる母のように見えます。ただ、妻であり母である、という部分がしっかりあったのがとても良かった。またもう少し緩急が欲しいと思うところはあれど、台詞廻しがしっかりしている。七之助さん、ここ最近、本当に台詞廻しが非常に良くなっているように思います。今回も夫への気遣い、小次郎可愛さの情味をきちんと含ませてきていました。まだまだ情味の厚さはなく、そこはかとなく感じさせる段階ではありますが、若さゆえの硬さが悪い方向にはいってない。子の亡くした悲痛さの部分で、「なぜ?小次郎が、なぜ?」という惑いになり、哀れさが漂ったと思う。

ただ、相模という女性としての体の使い方のほうはまだまだですね。台詞がある時はその台詞でカヴァーできますが、台詞のない受けの場、控えている場では相模としての佇まいの存在感はまだまだ。また、藤の方との女同士の共感といった絆あたりの部分もまだ感じさせる、まではいきません。でも、この年齢でここまで演じられたら大健闘かと思います。相模の、直実の妻、小次郎の母という核の部分はしっかりあったと思う。

藤の方@松也さん、綺麗な藤の方でした。きちんと格の高さがみえたのがいいと思います。また藤の方の思いを懸命に表現しようとしっかり前のめりぎみに芝居しているのも良かったです。松也さんはいわゆる芝居のうまさがあるように思いました。ただ、やはりこの役も難しいのだなと。敦盛を思う子への情の部分、相模との女としての共感、絆といった部分がやはりまだまだ。女形として相模と藤の方を演じることの難しさを改めて思った次第。

白毫弥陀六@歌六さん、この方は本当になんでもこなしますね。弥陀六という人物像の輪郭はまださすがに太くありませんが弥平兵衛宗清としての鋭さ、厳しさが勝った弥陀六。義経との関係性が非常にわかりやすかったです。台詞廻しは、もう少したっぷりして欲しい気もしましたが、花形のなかではこのくらいのほうがちょうど良いかもしれません。力強い弥陀六で、これから当たり役にしていくのではないかと思いました。
         
源義経@海老蔵さん、團十郎さん譲りの御大将としての存在感、格がある義経でした。きちんと團十郎さんの義経をなぞっていましたし台詞も丁寧でした。時々、語尾が上がり気味になるのを気をつけていただければ十分な出来。欲を言えばお父様の義経にある情味を出してもらいたいかなあと。情味の部分が薄いと義経の非情な部分が浮き出てしまうので。熊谷に子供を殺せと命令し、その上に自身の父母の回向も頼むってちょっとずうずうしいとかつい思ってしまうんです(^^;)。これは海老蔵さんに限らずで、若手だと情の厚みがなかなか出せないのでそうなりがち。だいぶ前ですが染五郎さんが『熊谷陣屋』の義経を演じた時もちょっと思ったんですよねえ。ベテランだと人物像の深さ厚みでこういうところ説得させちゃうのだなと思った次第。

軍次@亀三郎さん、非常に丁寧に演じていましたし、熊谷の部下という立場の距離感もしっかりあって良い出来。          

梶原平次景高@錦吾さん、ここだけ大歌舞伎。まさか、この役で錦吾さんが付き合ってくださるとは。染五郎さんを盛り立てようという親心に密かにじーんと来てしまった私でした。

『うかれ坊主』
願人坊主@松緑さん、この難しい踊りによくトライしました。非常に丁寧にしっかりと踊っていたと思いますし、体をよく動かしていました。またコミカルな部分では楽しい踊りになっていたと思います。

ただ、この舞踊はそれでいい舞踊ではないのが大変なところ。富十郎さんの当たり役で、その姿が目に焼きついている身には、もっともっと踊りこんできてとついつい思ってしまいます。この舞踊に必要な洒脱さや柔らかさ、そこに加え情景描写の確かさがもっと欲しい。特に色模様の部分、まだまだ表現しきれてない感じでした。それでも『熊谷陣屋』という重い狂言のあと、軽味のある舞踊で気分を変えさせるという役目は果たしたと思います。

『助六由縁江戸桜』
花形ながらそれぞれ役に合った配役というのもあり、とても楽しく拝見しました。22年ぶりに上演された水入りの場は初めて観たのですが、個人的にはあまり必要ないかな、と感じました。助六のキャラが小さくなってしまうように思うんですよね。珍しい場を拝見できたのは嬉しかったんですが。

揚巻@福助さん、とても情味のある輪郭のハッキリした揚巻で素晴らしい出来だったと思います。さすが先輩格だけあって、花形の『助六』のなかで一際、存在感がありました。姿、佇まいの美しさ、花魁の矜持と恋する女の両方の風情が相まってなんともいえない色気。また何より台詞がいいです。初音の悪態はとても小気味よく、何より終始、助六に対する情味の厚さを感じられました。傾城を演じる時の福助さん、ただ綺麗なだけじゃなく「女」の色んなものをリアルに内に秘め哀愁が帯びるのが個人的にとても好きです。水入りの啖呵は切ないまでにカッコよかったです。水入りの場は揚巻が主役だったように見えました。玉三郎さんの揚巻は華やかな存在感のなか花魁の象徴としてそこの在る感じですが福助さんのは一個の女としての花魁という感じ。どちらも好きです。

助六@海老蔵さん、何度か拝見していますが海老蔵さんは助六に関しては本当に当たり役だと思います。今回5度目ということもあり、手馴れた安定感がありました。また前回の海老蔵襲名披露時の時より段違いに良くもなっていました。特に花道の出の一連の流れの部分、とても丁寧に演じていて形が非常に綺麗でしたし鮮やかでした。また生意気盛りの伊達男という風情も十分ですし、海老蔵さんの色鮮やかなオーラが充分に活かされた助六でした。助六を演じるというより、海老蔵に助六を引き寄せた感じでしょうか。またそこに説得力がありました。台詞廻しは前よりはだいぶ良くなっていたように思いますがこちらはもっと精進して欲しいです。張った台詞が篭ってしまいがちなのと抑揚が時々あれ?という感じですが、ここは精進すれば海老蔵助六の持ち味になりそうではあります。ただし抜け感のある台詞はいただけません。歌舞伎の台詞になっていないというか、素の現代語にしか聞こえません。ここはもっとお父様の團十郎さんの独特の可愛らしい抜け感のある台詞廻しを勉強していただきたい。抜けのある台詞にこそ助六の人物が立ち現れると思いますし、そこに厚みが出るのかなと思います。

白酒売新兵衛@染五郎さん、とっても品のいい可愛らしい白酒売りです。染五郎さん、今月これも初役なんですよね。柔らか味のなかにも崩れない芯の部分の品格があり江戸和事のキャラを見事に体現。ふんわりとした佇まいのなかにもしっかり助六の兄としての格がありました。また、台詞の間がいいので、場をのほほんと和ませていきます。勘三郎さんに稽古をつけていただいたようで、台詞廻しや人物造詣は基本に勘三郎さん写しという部分も感じました。持ち味が違うので雰囲気は随分違う感じですが。そういう部分で言えば台詞廻しが、勘三郎さんの愛嬌のある抜け感のある巧さにはまだまだ及ばす。やはりキャラクターに厚みが出てきていません。なかなか演じる機会は少ないでしょうがここら辺、もっと厚みを出せると良い白酒売りになるでしょう。

三浦屋白玉@七之助さん、綺麗ですが動きがちょっとたどたどしいかなあ。本格的に女形を目指し始めたばかりなので、やはり女形の所作がまだまだ。ただ、やはり台詞がいいですね。

髭の意休@歌六さん、なんでもこなす歌六さんですが、これはまだまだ、でしたかね。幅のある声や台詞の巧さでうまく表現してきたとは思いますが貫禄不足でしょうか。小柄だからではないんですよね、こういうのは。富十郎さんの意休を拝見していますが存在感が大きかったですから。大きく見せる工夫も色々あると思いますし、これから研究していってこの役もモノにしていっていだきたいです。

くわんぺら門兵衛@松緑さん、キャラクターに合ってて楽しい出来。メリハリがあって良いです。

福山かつぎ@亀三郎さん、勢いのある江戸っ子風情でピッタリ。声のよさ、口跡のよさが存分に活かされ、これは当たり役になるでしょう。非常に良かったですし、拍手もかなり沸いていました。

朝顔仙平@亀寿さん、こちらはまだまだというところかな。ちょっと硬いですね。ただ、くわんぺら門兵衛@松緑さんとの息がピッタリ合っていたのが良かったです。

通人里暁@猿弥さん、さらりと楽しく演じてきましたこういうところ上手ですね。洒脱さを出すのはこれからでしょう。花形の助六・白酒売コンビにはちょうどいい塩梅。

曽我満江@秀太郎さん、さすがに母の貫禄を見せます。そこはかとなく色気があるのが秀太郎さんですねえ。
           
国侍利金太@市蔵さん、手馴れた役ですね。とても楽しいです。遣手お辰@右之助、なかなかいい感じで目を惹きました。三浦屋女房@友右衛門さん、女形の姿を拝見するのは久しぶりですが、違和感なし。もっと女形も手がけていいのでは?と思いました。

新橋演舞場『五月花形歌舞伎 昼の部』1等前方花道寄りセンター

2010年05月15日 | 歌舞伎
新橋演舞場『五月花形歌舞伎 昼の部』1等前方花道寄りセンター

全体の感想としては所詮は花形歌舞伎(笑)。やあ、確かにそうなんだけどね…。皆、頑張っているのは好感持てたし、きちんと見せてはいたし、花形らしい華やかさもあったんだけど、どこか物足りない。ついつい大顔合わせの時の芝居と比べてしまう。自分でも、求めるものが高すぎ?と思わなくもないけど…でもそれでも「おおっ」って思わせて欲しいのよ。でも、私的には大顔合わせと比べてしまったって部分では、花形だからという割り切りが出来ない部分もあったということ。そういう意味で花形の皆さんがだいぶ成長していた、という証拠かなと思ってもいます。

『寺小屋』
花形らしく、物語の筋がわかりやすい芝居でした。でもまだ、それだけかなと。色々と厚みが足りない。それぞれ頑張っているのはわかったけど、『寺小屋』は最近でも先月とか秀山祭とかいわゆる大顔合わせの大舞台の印象が強すぎるので、どうしても比べてしまいます。

源蔵@染五郎さん、全体かたいえば花形の先輩格としてさりげなく引っ張っていく芝居をしていたなと思います。しかしまだ、いっぱいいっぱいだしちょっと線が細いかなと。なんというか源蔵の悩める男が等身大すぎる感じ。でも台詞廻しとか居所とか立ち振る舞いとか、よく吉右衛門さんの源蔵を写してきている。 着物の裾が乱れて脛が見えちゃうのも同じ、なのには少し笑ってしまいましたが(笑)。台詞廻しがとにかくかなり細やかです。また源蔵の生真面目さの部分で、菅秀才ひいては菅丞相のため、という一点が決してぶれない。菅丞相に仕えている身としての行動という部分が明快。これは吉右衛門さん演じる源蔵の特色だと思っていた部分ですが、そのまま染五郎の源蔵にもあった。ただ、吉右衛門さんの源蔵にあるしたたかさはない。吉右衛門さんの場合は身替りがばれても、諦めなさそうなしぶとさがある、そこがまた「なにがなんでも」の悲壮さがでるんですけど、染五郎さんが源蔵をやると、本当に一か八かの賭けであるし、ばれたら菅秀才もろともにが妙に実感させられる。それは確かに物語通りなのかもしれないが、もっとなにがなんでも守るという気迫が欲しいと思う。身替りが図らずも成功して腰抜かす源蔵の場面は染五郎さんの源蔵が、ほんとに腰抜かしたんだね、って感じが強烈ではあったが(笑)

また真相を千代に聞いた後は、ほんとに疚しい心苦しい、という気持ちが強い。あそこまで申し訳なさそうになる源蔵は初めてみました。源蔵夫婦にしても命がけの覚悟でしたことだから、あそこまで苦しそうにすることはないと個人的には思う。なんというか、源蔵には苦悩のなかにも、人の子を手に書ける非情ができる強さが必要かと思う。そういう意味で、染五郎さんの源蔵は線が細いと思ってしまう。染五郎さんは、ある種のしたたかさをもう少し表現できるようにしたほうがいいと思う。 造詣への物足りなさはあったものの、源蔵の立場が非常に明快だった部分はとてもよかったし、源蔵はかなり段取りが多い芝居ですが、それをそれと感じさせない佇まいも良かったです。それとさりげない所作の美しさ。佇まいでの背のライン、足のラインがなんとも美しかった。これで、もっと芝居を前に押し出せたらな、と思います。後半に向けてどんどん良くなっていきそうな雰囲気ではありましたが、染五郎さんはもっと義太夫狂言を手掛けていったほうがいいですね。

戸浪@七之助くん、芯がかなり強い戸浪でした。しっかりものの戸浪で、そういう部分で染五郎さんの源蔵とはバランスがよかったかも。いざというときの女の強さ、底の部分でのしたたかさが明快。これは勘三郎さん戸浪にもあったので、しっかり写してきたのだろうと思う。七之助くんはこのところ急成長ぶりを見せてる。細々した手順もかなり丁寧にこなしてて感心。とはいえ、やはり自分のすることで手一杯な部分がまだ多い感じも。もう少し夫源蔵に対する気遣いとか、ちょっとしたところにまで気が回るとかなり良くなりそう。染・七コンビって今まで無く、昨年の『大江戸りびんぐでっど』で共演し、ほぼ不思議なバランスのよさがあると思ったのだけど、今回もやはりバランスの良さを感じました。いわゆる相性の部分ではまだ凄くいいという気はしないけど、この二人のコンビだけの独特の空気が流れてる気がするので、これからももっと共演していってもらいたい感じ。

勘太郎くんの千代。誰に稽古つけてもらったのかな?勘三郎さん?芝翫さん?なんとなく勘三郎さんのほうを連想させる台詞回し。女形が久しぶりでしょうか?身体をまだうまく殺せてなかった。時々、海老蔵さんより大きく見えました。とはいえ、芝居の上手さをみせました。嘆く部分での母としての情味がとてもよかったです。源蔵と相対するところは私的な好みからすると覚悟が強すぎて、「小太郎や」と呼ぶところではもう少し母の顔が観たかったかも。まだそこまで台詞がこなれてないのかなとも思いましたので後半もっと良くなるかも。にしても染五郎さんと勘太郎さんは間の相性がやはり良いですね。源蔵と千代の立ち回り、かなり迫力があって良かったです。それにしても、つくづく義太夫狂言への身体の沁み方は勘太郎くんが一番だなと思いました。勘が良いというだけでなく平成中村座や浅草でかなり義太夫狂言を演じ、身につけてきたというのが大きいだろう。

松王丸@海老蔵さん、前半、元気よすぎかなあ。仮病にしろ病をおしてには、全然見えない。咳も咳って感じがしないし…。台詞廻しがまったく義太夫にのれてないし…。造詣としては前半は敵役として通していい役なので憎たらしいだけの松王丸で十分良いので造詣としては悪くはない。こういう前半と後半の落差をみせるやり方も面白い。ただ、成田屋型の首実検にはどうも納得いかない。検分しないくていいのかな?玄蕃にばれるよ、とついツッコミが。どうしても、辛くて見られない、というようにも見えなかったんですよね…。なので首を見ないで「よくやった」って言われても…。小太郎への思い入れが出来にくいんじゃないかなあ。確かにこの型は派手だし、成田屋らしいのかな?とは思いますが。それなら小太郎の首の位置か、自分の居所を工夫したほうがいいのでは?。どうも納得できませんでした。

後半で一気に、実は菅丞相のために悲劇を強いられた人物として現われるのは良かった。ただ、台詞廻しが前半以上に崩れていてそれを表現しきれてないきらいが。声を張り上げすぎて、哀しみの表現になってない。だんだん荒事風になっていくんですよね。う~む。源蔵、戸浪、千代がしっかり義太夫狂言の人物としているだけに、そのズレが大きいような…。

涎くり与太郎@猿弥さん、ちゃんと15歳の坊主になっているのがさすが。芝居っ気があるので楽しい。

『吉野山』
静御前@福助さん、身体の使い方がとにかく綺麗。ふっと決まった時の身体の線がなんともいえず。絵になっている。華やかだし、義経への思いいれもみえるし、良い出来。ただし、やっぱり時々、表情を作りすぎ。福助さん、表情筋が柔らかすぎるのか…。

忠信@勘太郎くん、丁寧にきちんと踊ってる。ただ私が期待しすぎたかも。以前の勘太郎くんにあった踊りでの鮮やかさ、柔らか味があまり今回出てなかったような。雑に踊っているわけではないんだけど、肩に力が入りすぎな感じがしました。なので踊りのなかできちんと物語れていない部分が…。踊りをただ踊ってるだけになってる。狐の妖しさ、愛嬌が無いんですよねえ。いつもだったたらある、勘太郎くんの「踊りが楽しい」って気持ちが前に出てきてない。ちょうど年齢的に無邪気ではいられない時期で難しいのかな。こういう時期は誰にでもあるし、我慢のしどころなのだろう。見る側も。ただ、化粧は上手くなったし、目が利くようになって、そういう部分で派手さが出てきたなと思いました。

藤太@猿弥さん、さぞかし似合うと思っていたが、まだまだかなあ。この役、難しいんだなと思いました。台詞廻しが義太夫に乗り切れてなくて甘いし、滑稽味がそれほど出てない。役としては似合うから頑張ってください。

『魚屋宗五郎』
これは期待しすぎたか…。『魚屋宗五郎』ってこんなに長い芝居だっけ?とかなり長く感じてしまった。アンサンブルは悪くないと思うんですが…。

宗五郎@松緑くん、この役はまさしく彼のニンだと思うし、昨年、国立で初演で演じた時、拙いとは思ったけど悪くなかった。これは物にしていけると好評価だったんだけど…。う~ん、こんなに台詞廻しが拙かったっけ??それと気持ちの入りようも昨年に比べると薄く感じてしまった。妹お蔦を亡くした哀しみとか、悔しさは国立のほうが際立っていたと思うんだけどなあ。菊五郎が細かく稽古つけてくれた昨年とは違って、チェックする目がなくて、かえって勢いだけで演じちゃってるのかも?勢いだけじゃ見せられる芝居じゃないから、これ。あと相手が手堅い芝雀さんだから、拙さも目立ったってこともありかな??柄が合う部分で、よく演じているとは思うけど、昨年よりもっと成長している姿を見たかったというのもあり少々残念なり。

おはま@芝雀さん、さすがにとても良かったです。どうみても姉さん女房だけど、決してお母さんにはなってない、ちゃんと女房。ちょこちょこと気が回り、夫や舅への気遣い、情味がありつつ、きっぱりとした芯がある。色んな役者さんのおはまを観てきたし、それぞれに好きなんだけど、宗五郎を追いかけて花道を駆けて行くところは芝雀さんのが一番好きなんです。なんだろ、絶対連れて帰るという気持ちが強いように思います。

三吉@亀寿くん、こちらは国立の時に比べ大成長。緩急が出てきてし、亀寿くんなりの三吉像がみえてきた感じ。その時々の状況がうまく読めないキャラとして演じてきていた。個人的好みからしたら、これでもう少し、家族の哀しみにきちんと呼応して、という部分があるといいなあとは思う。

太兵衛@市蔵さん、老け役にしてはハリがありすぎて若すぎる気もするけど、お蔦の父としての気持ちはしっかり伝わってくる。これからこういう老け役もこなしていく役者さんになるのあろうな。

おなぎ@七之助くん、やはり台詞を伝えるという部分、本当に上手くなってきた。おなぎにしては、ちょっと芝居っ気がありすぎる感じはあるけど、お蔦が殺された状況説明はかなり分りやすかった。

浦戸十左衛門@左團次さん、なんか、みていて落ち着く(笑)。手堅さにちょっとホッするというか。

磯部主計之助@海老蔵さん、これは良かったです。いかにも殿らしい佇まいだし、台詞も丁寧だし。こういう役はいつも悪くない。なにより存在感があるのが良いです。

『お祭り』
染五郎さん、立ち姿が綺麗ですね。すっきりとした鳶頭でカッコイイです。でも少々長く感じました…。藤間勘十郎さんの振り付けって、いつも思うけど今のところ色々とくどいところが…。若いだけにあれもこれもと入れたくなるのでしょう。立ち回りとかこの半分くらいでいいような気がします。立ち回りの上手い名題下の面々がたっぷり観られるのは嬉しいけど。でも『寺子屋』『吉野山』『魚屋宗五郎』の後なのでもう少しあっさり追い出ししてもいいかなと。

にしても染五郎さん、『お祭り』ってこんなにちゃんと舞踊でしたっけ?な踊りっぷり。そんなにしっかり踊らなくてもとも(笑)。もっと芝居っ気たっぷりに粋さを前面に出してもっと楽しく~~と思いました。もう少し、客とのやりとりを楽しんでほしいというか。間をたっぷり取って欲しい。でも、ふんわりとした色気とかちょっとした時の柔らかさ、なんかはとても良かったです。「ちょっと聞いておくんなさい」からの色模様の詞章の部分での情景が明快だったのが染五郎さんらしい上手さ。お祭りらしい華やかさもあったし。もっと踊りこんで余裕がでると楽しくなるかなあ。

普段なら芸者との絡みにするところを若い者との絡みにしていました。その若い者は高麗屋の部屋子の錦成くん。部屋子を育てるってことなのでしょうね。とにかく頑張れ!って感じでしょうか。