Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『四月花形歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』昼/夜の部』2等A席2階右袖/2等B席2階左袖

2012年04月25日 | 歌舞伎
新橋演舞場『四月花形歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』昼/夜の部』2等A席2階右袖/2等B席2階左袖

花形歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』の千穐楽を昼夜通しで観てきました。色々と感無量。胸が熱くなりました。昼の部は初日ぶりでしたけど独特の緊張感と花形の精一杯演じる熱はそのままに舞台の密度が濃くなっていました。余裕が出たとはまだ言えないけどひたすら真っ直ぐに演じられた舞台が心地よかった。今月の花形の『仮名手本忠臣蔵』は花形ならではの空気感だった。10年後もし同じ配役でやっても次はまた全然違うものになるのでしょうね。

【昼の部】
高師直@松緑さん、拵えをずいぶん変えたような感じ。かなりきつい老けメイクだったけど少しあっさり。そして全体的に憎々しさを強調するよりもう少し愛嬌を前に出して可愛気になっていました。尊大さのなかに子供ぽいだだっ子のような気質の高師直。位取りの高さが若干減ってしまったのが残念だけど判官への追い詰めぶりは見事でした。

若狭之助@獅童さん、正義感溢れるけど短気な若狭之助という人物を本当によく演じていたと思う。声が通って台詞にクセがないのも良い。

判官@菊之助さん、初日に拝見したより表情がお父様の菊五郎さんに本当にソックリだった。いわゆる芸の輪郭は違っててお父様のふんわりした柔らか味はないのだけど硬質な透明感が今回の若い座組みのなかでは活きていたと思う。爽やかで道理をわきまえた青年が理不尽にバカにされ武士のプライドが傷つけられたことで底にある熱いものを徐々に噴出させていく様が見事だった。その悔しさ怒りの表出がとてもストレートでその熱さが「仇討ち」へと繋がった今回の忠臣蔵だったと思う。切腹後、大星に託す想いも激しい。そして想いを託せたことでようやく気持ちを昇華させた判官だった。

由良之助@染五郎さん、菊之助さん判官の熱い無念さをそのまま身のうちに取り込んだのが染五郎さんの由良之助だったと思う。判官切腹を目の当たりにし主君の無念さと哀しみを一瞬で受け止めた。そして判官の眼差しを一心に受け止め高師直への怒りをそのまま飲み込む。ベテラン役者と比べてしまえば貫禄ある大人物がどーん引き受けたっていう大きさはない。でも若いからこその判官の想いを飲み込み自分の無念、悔しさとともに表出させてしまう熱い由良之助もありかな~と思いました。主君の血を舐めてしまうくらいですから、ハラに収めるのではなく全身から気持ちを表してしまう熱さがあってもそれはそれで良いかなと。染五郎さんは四段目の由良之助は完全に幸四郎さん写しで初日よりそれが濃かったような気がしますが低音がやっぱ時々白鸚さんの声でした。

演出面で気がついたのですが四段目の門外の場、家紋の提灯の枠を外す時に門の近くに行ってから外していました。いつもなら門が下がるときに枠が残されちゃって気になってはいたんだけど今回は門と一緒に運ばれていった。良い演出変更だと思います。初日ではいつも通りだったような気がするので途中からの変更でしょう。花形でもこういう演出変更するんですね。

勘平@亀治郎さん、目元の拵えをだいぶ変えていました。初日に拝見した時は目つきが鋭すぎるようにみえましたが今回は切れ長のいい二枚目ぶり。またあまりに周囲に神経を張り巡らせすぎでは?な雰囲気も減り、自分への後悔と共にお軽への気遣いに感謝してる風情もあって良かったと思います。踊りぶりはやはり柔らかですが立ち回りには大きさも出てました。

お軽@福助さん、華やかで本当に可愛いお軽です。「道行」で亀治郎さんの勘平より背を盗んで踊られたのには驚きました。相当、腰に負担がかかると思うのですがそれが実にさりげなく形が綺麗。亀治郎さんを引き立てるようにそしてそれが見事にお軽の勘平への気遣いになっており見事でした。

鷺坂判内@猿弥さん、すっかりこういう軽妙なお役が持ち役となりました。存在感があり、またやりすぎず、ほどのよい軽味があって非常に良かったです。こういうお役をする時の台詞回し、数年前まではまだこなれてないと思うことがありましたがすっかり自分のものになさっています。

【夜の部】
勘平@亀治郎さん、今月、見事に藤十郎さん写しでやはり台詞回しが特に似ていましたけど千穐楽では切腹後の運びが亀治郎さんの激しさというかご自身の持ち味に引き寄せていたと思います。そして丁寧に演じているのは変わらずに手順が手順ではなくなっていました。亀治郎さんの勘平は間の悪さや弱さのある勘平という部分より仇討ちに加わりたい武士の一念、それが生きている縁だった勘平さんでした。それゆえに必死に繕う様が哀れでした。亀治郎という名前での最後の芝居。前へ前へと乗り出すような熱演でした。

おやか@竹三郎さん、真に迫りすぎていてただひたすら凄いと思うしかありませんでした。お軽の母であり与市兵衛の女房であり勘平の姑である人物がそこにいました。おかやの心情が言葉に立ち振る舞いのすべてが表れていた。竹三郎さんの細やかで輪郭のハッキリした芝居が勘平@亀治郎さんの振る舞いのすべてに説得力を与えていた。あまりに見事でつい竹三郎さんを目で追ってしまう場面も。竹三郎さんは常におかやという女性でいました。控えている時も演じてる役そのままでまったく気を抜かないどころかこの人ならそうするであろう芝居をしてる。勘平への疑いが晴れ、連番状に名を連ねることができたことをお軽の着物に語りかけて祈っていました。普通なら客席からは見えない角度にいらっしゃる場面です。私は2階袖席でちょうど奥まで見えたのでわかったのですが邪魔になるようなことはしてないけどきちんと芝居をしていらっしゃいました。その細やかさに感嘆するとともにああ上方の役者さんなんだなあとしみじみ思わせていただきました。

定九郎@獅童さんはまだちょっと苦戦中でしたかしら。拵えはインパクトがあってほんと似あってるんですけど。

由良之助@染五郎さん、耳馴染みの良い緩急の効いたしっかりした台詞廻し。幸四郎さん写しではなく吉右衛門さん写しじゃないのかという感じがするほど。雰囲気も酔態にだいぶ鷹揚さが出てきていました。いかにも若いという印象には変わりないですがほんのり余韻というか幅が出来てきたかなと。ふんわりした酔態と本心の厳しさにメリハリが出てきていました。酔態している由良さんの物腰の柔らかな風情に色気があり、そして本心を表す場では芯のなかに憤怒を隠した厳しさを見せていきます。通してみると染五郎さんの由良之助のなかに無念さと怒りを抱えた判官その人がそのままにいるのがよくわかります。迷いのない激情の由良之助でした。

平右衛門@松緑さんはやはり少し台詞の調子が気になるけど前回拝見した時より間延びする抑揚の部分はだいぶ抑えていた感じもしました。そのためより心情がストレートに伝わってきました。家族を思う包容力と気質としての一本気なところが身体から滲み出るのがとても良いです。芝居の緩急はまだまだですがやはり松緑さん平右衛門というキャラにはピッタリで、このお役に関して、だからこそもっと上を目指していただきたいなあとつくづく思った平右衛門でした。

お軽@福助さん、可愛くていじらくて、勘平さんが大好きで仕方のないお軽でした。目の前にあることに対して精一杯に自身の気持ちに真っ直ぐに生きている少女のようなお軽でもありました。福助さん、本当にシンプルに削ぎ落として「お軽」を演じていらしたように思います。そして今月は本当によく若手を支えていらっしゃいました。皆をさりげなくリードし支えている。相手をしっかり受けそしてしっかりと返す、そうすることで場を締め逸らさせない。

昼夜通して亀三郎さん、亀寿さんの役に対する揺るぎ無い安定感が印象に残りました。これからどんどん貴重な役者さんになっていくんだろうなあと思いました。また亀鶴さんや蒔車さんもとても良かったし、このポジションの役者がしっかりしてるのが非常に心強い。そしてベテランの役者さんたちの「しっかりした芝居」というだけでない厚みや細やかさにただ感じ入った月でもありました。

新橋演舞場『四月花形歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』夜の部』

2012年04月21日 | 歌舞伎
新橋演舞場『四月花形歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』夜の部』

昼の部を初日に観て少し間が空いてしまいましたがようやく夜の部を拝見。夜の部も花形ゆえの足りなさはあれこれあるけど、どの場もしっかりと見せてきたし十分に面白かったです。彼らの次が本当に楽しみ。昼より夜の部のほうが難しいんだなというのも感じました。昼もかなり難しいと思いますが夜の部のほうが為所が多いうえに風情も大切でその両方が必要ゆえか芝居の手順が手順としてかえってよく見えてしまう場面が多々。ベテランの役者がどれだけ自然にさりげなく演じているのかと個人的に色々と発見も多かった。

「五段目・六段目」
亀治郎さんの勘平は上方方式の演出、獅童さんの定九郎は江戸方式の演出を取っていますので五段目が上方と江戸の演じ方の折衷での舞台でした。勘平は板付きでの登場で細かい部分で上方の演じ方を取っていますが定九郎は完全に江戸方式の色悪のいでたちで手順もそのままなので流れとしては江戸方式に近いイメージ。猪も江戸方式の一回りする形。六段目は完全に上方方式(当代・坂田藤十郎の演じ方・演出)です。

勘平@亀治郎さん、久しぶりに亀治郎さんにしては珍しく手順でいっぱいいっぱい感を感じました。が、それが勘平の必死さに繋がり密度の濃い芝居でした。見事に藤十郎さん写しでの演じよう。ここまでそのままに写してくるとは思わなかったので驚きました。台詞廻し、そして細かい体の使い方や手順をよく写していました。特に台詞廻しの音使いがもうほんとにソックリ。亀治郎さん、いつもとだいぶ違う声の出し方だなと思っていましたら口のあけ方まで似せていました。ただ、藤十郎さんとは持ち味が違うのでかなり雰囲気は違いました。藤十郎さんは武士としての芯があるつつ、うっかり流されてしまう弱さ甘さを持ち合わせた勘平ですが亀治郎さんは今のところあまり弱さや甘さの風情がないのでどこか意思の強さを感じさせ随分と鋭利な勘平。その場その場で非常に自覚的に動いている感がありました。それゆえに想いが空回りし誤解の果てに自害せざるおえない哀れさがストレート。

また上方の演じ方をとっているせいもありますが物語の流れや行動論理をわかりやすく台詞をくっきり立たせ、物語の輪郭をしっかり見せてきていました。また昼の部の「道行き」と違って五段目、六段目では立役の大きさも出ていました。姑おかやの竹三郎さんとの息もよくあっていました。ただ腹を切った後の台詞は熱演すぎて元気すぎたかも。もう少し息遣いに緩急があると瀕死のなかでの後悔と喜びが際立ったんじゃないかな~。個人的には勘平にはもう少し間の悪さや弱さ愚かさがある風情が欲しかったかな。でも間の悪いオロオロダメンズな勘平が苦手な人には今回の亀ちゃん勘平のほうが観やすいかもしれませんね。

おかや@竹三郎さん、ほんとに良くてベテランの凄みさえ感じさせました。亀治郎さんの輪郭の強い勘平を見事に引っ張り支えていました。それがまたさりげないのが見事。またその場その場のおかやの感情が明確。夫や娘を思う情愛と、これからの頼りと思う勘平への気遣いと裏切られたと思った嘆き悔しさ、それが手に取るようにわかる。六段目はおかやが良くないと芝居を支えられないんだと痛感しました。

お軽@福助さん、お軽はいつもより抑え加減がかえってお軽のいじらしさを際立たせていて、ほんと良かったです。勘平さん大好きオーラが可愛らしかった。こういう為所の少ない場面だとかえって芝居の上手い人だというのがよくわかります。

お才@亀鶴さんかなり良いのでビックリ。女形をあれだけこなせるとは。格という部分ではまだ若いけど遊郭の女将としての才気とちょっと蓮っ葉な色気が混在してて魅力。

定九郎@獅童さん、拵えが似合って凄みがあります。たぶん、花形のなかで一番、定九郎らしさを見せることのできる役者かなと。ところが動くとその凄みがちょっと消えてしまいます。江戸方式の定九郎はほぼ所作事なので動きが綺麗でないと見せきれないんですよね。似合う役なので所作をもっと頑張っていただきたいです。

不破数右衛門@亀三郎さん、完全に持ち役になるというところまで持ってきていました。丁寧にこなすだけではなく人物像に膨らみを持たせていた。台詞廻しがおじいさまにソックリな気がします。良いお声です。

千崎弥五郎@亀寿くん、筋が通った一本気なところがあって台詞も明快。やはり本役にできるでしょう。

源六@薪車さん、昼の部の原郷右衛門で存在感出した薪車さんですが夜の部もの源六を拵えや台詞廻しで上手くこなしてました。この役はもっとクセのある味わいが必要だとは思うけど初役であれだけこなせれば十分。キリの場できちんと昼の部に続く原郷右衛門の顔になっていたのも良い。2月松竹座でかなり成長したなと思っていましたけど、一気に役の幅を広げた感。なかなか東京で拝見してなかったからそう思うのかもしれないのですが、それにしてもこの方はかなり力が付いたと思います。

「七段目」「十一段目」
由良之助@染五郎さん、お父様の幸四郎さん写しで最初のうちは幸四郎さんの姿がみえましたが演じていくうちに台詞廻しの部分がどんどん叔父の吉右衛門さんのほうに近くなっていきます。それがちょっと面白かったです。そして昼の部と同様に祖父さまの白鸚さんを意識してるんだろうか?という声と表情が一瞬ですが時々出ます。さて由良之助@染五郎さん、七段目となるとやはり演じる熱だけでは出せない厚みやゆったりとした大きさがまだ不足。とはいえ出の瞬間、ぞろりと着つけた紫の着物が良く似合い色気がありました。動いている時は思った以上に悠然とした役者ぶりがきちんと出せていたと思うのですが寝入ってしまう姿が残念ながらぺったりとしてまい存在が希薄になってしまってました。それと酔態にぎこちなさが残り余白というか遊びが足りない感じ。それゆえに仇討ちへの計算が秘め切れてない部分が。

仇討ちへの想いを表出して演じる幸四郎さん写しの由良之助なので酔態しきれず仇討ちの想いがハッキリ見え隠れしてしまうのは仕方ないかもしれない。さよなら公演で拝見した仁左衛門さんの由良さんも放蕩の風情より鋭さのほうが勝った由良さんだったのでこの場はかなり難しいのでしょう。当代では吉右衛門さんの由良さんが酔態に大きさと色気があって想いをハラに溜め込む白鸚さん譲りの由良さんで一番好きです。ただ染五郎さんの七段目の酔いの部分はすでに父と叔父とは違う個性がみえる。風情に優美さがあってそこに大きさのある色気がでると面白くなるような気がしました。そういう意味で今回はまだ貫目は足りないですが酔いからは本性を出す場での切り替えは非常に良かったです。とても厳しさのある由良之助で迫力もありました。また染五郎さんの凛とした個性もよく出ており本領が発揮されたと思います。由良之助@染五郎さんは要所要所の佇まいがしっかり由良之助然としていて、その身体の使い方が美しくあるのが良いのと、義太夫によくのった緩急ある台詞廻しが思った以上に良く場ごとの心持をしっかり聴かせられるのが良いです。今後に期待を持たせる出来だった。身体に馴染ませて余裕を持てればもっと溜め込む芝居ができると思います。「十一段目」は頭目としての存在感がきちんとあったのが良し。最後の感無量の表情が印象的。陣太鼓はもう少し落ち着いて打ってもいいかも(笑)

平右衛門@松緑さん、柄によくあっていてガサツだけど根が真っ直ぐで気の良い兄さんぶりが際立っています。まさしくニンにあったお役と言えると思う。また初役ではなく三回目だけあって動きもこなれている。平右衛門としての存在感があった。惜しむらくは台詞。特に前半がかなり崩れていた…。抑揚というかリズムがおかしい。後半、福助さんとの絡みでようやく持ち直してきたけど。台詞が安定していないので芝居が押し一方の一本調子なのがもったいない。おおらかで妹思いの部分と身分関係なく徒党に加えて欲しい仇討ちにかける一途さはよく伝わりましたが台詞に緩急ができるとそこに足軽ゆえの悲哀が加わると思うのです。芝居を押し引きすることで人物像にもっと厚みがでると思います。松緑さんは奴がよく似合います。でも似合うだけにそこに安住せずに奴の独特の台詞の抑揚をもっと精密にしてほしい。舌足らずがだいぶ直ってきて口跡がよくなってきたので尚更そう思います。

お軽@福助さん、今月は本当によく若手を支えています。七段目では染五郎さん、松緑さんをしっかり受けて七段目という場の芯を押さえ際立たせ相手に合わせつつも空気を締めていきます。そしてそのなかでお軽の無邪気さや勘平一途な愛らしさを真っ直ぐに表現。若手相手なのでいつもだとたっぷり演じるところをシンプルに演じているのがかえって福助さんの良さを引き立てています。やはりベテランのなかに入るべきお軽だというものがそこにあるのがよくわかる。

小林平八郎@亀鶴さん、2月松竹座で拝見した立ち回りで上手い人だと確信しましたけどやはり立ち回りが上手いです。踊り上手な人の殺陣はちょっと違いますね。身体と刀の捌き方がとても綺麗でした。

超若手組はいかにもお勉強的ではありますが皆、頑張っていました。

力弥@児太郎くん、七段目の台詞はかなり頑張ってました。所作事のほうはまだ腰が決まらない感じ。討ち入りの場の台詞はまだちょっと浮ついてしまうかな。

喜多八@萬太郎くん、七段目ではしっかり喰らい付いて形もいいです。立ち回りはまだ見せるというとこまではいかないけど華やかさがありかなり頑張ってました。

金丸座『第二十八回 四国こんぴら大芝居 第二部』 上場席上手寄りセンター

2012年04月13日 | 歌舞伎
金丸座『第二十八回 四国こんぴら大芝居 第二部』 上場席上手寄りセンター

昨年に続きこんぴら歌舞伎見物をしてまいりました。金丸座は本当に風情があって良い小屋ですね。

『戻駕色相肩』
次郎作@歌六さん、舞踊はほとんど拝見したことがありません。ここまで踊りこんだものを拝見するのは初めてかも。芝居上手な方ですが舞踊もなかなか。大きさや華やかさはないのだけど体の表情が豊かで情景をしっかり描写。

与四郎@錦之助さん、二枚目ぶりが際立つ。所作のひとつひとつを指先まで丁寧にしっかりと。錦之助さんは地道にタイプだと思うけど輪郭がだいぶ太くなってきましたよね~。拵えも前より上手くなってるかな?

禿たより@隼人くん、こんぴらでの隼人くんには実は個人的に思い入れが。7年前にこんぴら歌舞伎で初演された吉右衛門さん主演の『日向嶋景清』で娘役の糸滝を隼人くんが大役を任され11歳で一生懸命に演じていた姿が感動的でした。あれから7年、隼人くん、大きくなったな~って感慨が。しかも同じ女形姿での舞台ですから。細くて骨ばった体格の隼人くんなので女形姿があまり似合わないけど拵えがだいぶ上手くなってきたかな。きちんと体を殺しての丁寧な所作に好感。不器用そうだけど地道に成長してると思う。

『三代目中村又五郎 四代目中村歌昇 襲名披露口上』
こじんまりした金丸座でこじんまりとした口上が味わい深い。播磨屋と萬屋と京屋だけの座組みなので裃の色が芝雀さん以外、全部同じ色で紋が蝶々だらけ(笑)。歌六さんはこんぴら歌舞伎お初の登場なんですね~。

『義経千本桜「川連法眼館の場」』
良かったです。凄く良かった!!金丸座マジック差し引いても相当良い『四の切』だったと思います。

忠信@又五郎さん、本物忠信も狐忠信も両方とも見事だった。気持ちがしっかり伝わってくる。又五郎さんは襲名して芸格あがったと思う。真っ直ぐさが勝ってた芸に緩急がついた感じがします。見た目、若干たぬ~ですけど動きにはキレがあってお客さんを喜ばせていました。そして何より親を思う心持ちが溢れんばかりに出ていて胸を打つ。狐言葉に無理がなく台詞が非常に聴きやすい。又五郎さんの今までのお役のなかでもこのお役、かなり好きです。

静御前@芝雀さん、この役は当たり役ですけど赤姫姿が本当に似合って可愛い。またこの所、可愛さのなかに艶やかさが出てきたような気がします。この場の静御前の行動原理、気持ちを本当に明快に演じてきて存在感がありました。

源義経@吉右衛門さん、さすがの貫禄というか義経としての説得力がお見事。義経の追われる立場としての境遇や哀しみを存在感と巧みな台詞術で表現していく。吉右衛門さんの義経は単なるご馳走と思っていましたがとんでもなかったです。また拵えが似合うかな?って思ってましたけどとても似合ってかっこよかったです。少し痩せられたかしら?

亀井六郎@歌昇くん、のびやかにしっかりとした芝居。体の芯がきちんと安定しているので体の使い方がで綺麗です。声も良く出ていてます。歌昇くんは年齢のわりにすでに個性が強い役者さんですね。お父様の又五郎さんとはだいぶ違う方向に行きそうな感じ。

駿河次郎@隼人くん、こちらの拵えはすっきりとしててお似合い。まだ体の芯が出来てないので所作がなかなか決まりませんが丁寧にこなしておりました。

新橋演舞場『四月花形歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』 昼の部』 1等A席前方花道寄り

2012年04月01日 | 歌舞伎
新橋演舞場『四月花形歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』 昼の部』 1等A席前方花道寄り

花形の『仮名手本忠臣蔵』昼の部初日を拝見。とても良かったです。皆が凄い気迫で見応えありました。初日でこれだけの出来とは。確実に次の世代が育っているなと感じました。

とにかく役者皆から『仮名手本忠臣蔵』という芝居を大事にしっかり伝えようという気構えをひしひしと感じられました。そしてその方向性で皆が一つになっていた。まずはそこに感動しました。まだいっぱいいっぱいでですし、必死すぎて緩急の緩が全然効いてないなど細かい部分を言えば粗は勿論あります。でも役をしっかり捉え、場の空気を作り観客を引き込ませることができていた。まったくだれることがなかった。皆、ここからがスタート。もっと良くなっていくでしょう。その先がきちんとみえました。

大序はまだ緊張のほうが強かったようですが三段目からどんどん良くなっていきました。芝居の密度の濃さは四段目が一番だったかな。道行は華やかで四段目の緊張から解き放たれホッとする場となっていました。

大序の様式美が私はとても好きです。今回はさすがに人形ぶりの部分はまだまだ。人形に生気が宿り、そこから物語が始まっていくという過程の部分がハッキリしない。あそこの場、難しいんですね…。しかし、生気が宿り物語が始まると役者が活き活きと立ち上がってきました。役柄をよく捉え物語の発端をよくみせていたと思います。三段目ではそれぞれのキャラクターの思惑を丁寧に演じしっかりと流れを作っていきます。四段目では物語の核になる緊張した場面を緻密に張り詰めた空気を最後までしっかり保って濃い空気を作っていく。個人的に非常に難しいと言われている四段目をあそこまで見せて来られたことに感動しました。判官@菊之助さん、由良之助@染五郎さんの集中度が凄かったように思います。そしてピンと張り詰めた四段目から一転華やかな道行。たっぷりとした踊りを見せて良い追い出しに。それにしてもほんと皆が役に体当たりして取りこぼさない。そこに熱があってとっても良い舞台になっていました。花形歌舞伎は時に若さが傷になることがありますが今回は良い方向にいっていると思います。またポイントポイントでベテランの役者さんがフォローし締めてくださっていました。色んな意味で芸の継承を感じさせる舞台でなんだか涙が出そうになってしまいました。

由良之助@染五郎さん、まだいわゆる出からいかにも由良之助といったオーラはまだあまり無いものの、出のところから気迫十分。判官切腹を目の当たりにし、辛そうに悔しそうに平伏する姿に判官への想いが溢れておりました。そしてその溢れる想いを押し殺し真正面からしっかりと判官の気持ちを受取り、複雑な思いを飲み込み腹を決める。代々続いた主君「塩谷家」の重みを背負っての覚悟の大きさと遣り遂げるという決意の鋭さがそこにあり、家臣を纏めるだけの品格の大きさを醸し出しておりました。引っ込みの場の抑えた思い入れもよく表現していたと思います。拵えも工夫していたのでしょうがしっかり由良之助でした。染五郎さんの由良之助はお父様の幸四郎さん写しですけど、声質のせいかほんのりと叔父さんの雰囲気もどこか漂う。またそれだけでなく、おじい様の白鸚さんの姿が透けてみえる部分がありました。声か雰囲気か、それにはちょっとビックリしました。幸四郎さんの由良之助には白鸚さんを感じたことがありません。しかし染五郎さんの由良さんにはほんのりとそのエッセンスがありました。

塩谷判官@菊之助さん、品がよくおっとりと爽やか。優しげな風情で高師直と若狭之助の間でハラハラと見守る風情が優しげ。三段目では丁寧に判官の心持の変化を表現。戸惑いから怒り、お家大事よりプライドが傷つけられた悔しさを少しづつ表情に出していく。怒りの表現が菊ちゃんにしてはかなりストレートでそこがとても良かった。四段目は覚悟を決めた儚さとともに切羽詰った感があって、由良之助へ想いを託す部分の切実さがよかった。揺れ動く情感をしっかり出していてお父様の菊五郎さんかと見間違いそうになること度々。菊之助さんはどちらかというとおじい様の梅幸さんを思わせることが多いですが今回はお父様写しでした。

高師直@松緑さん、老けで位取りの高いお役なので難しかったと思いますがよくこなしていたと思います。高師直の下世話さと憎々しさをきちんと出していましたし、判官@菊之助さんよく追い詰めている。高師直という役のキモの部分をわかって演じてるのがまず良い。また身体の使い方も丁寧で老け役のなかに大きさを出していてこれは大健闘。しかしちょっとこの役をやるには若すぎるかな、若さが時々ひょっこり顔を出します。高師直にある位取りの高さが自然に出てこないのと高師直の風雅からくる愛嬌はまだこれからですね。とはいえクセのあるお役をここまでしっかりこなせたら大したものです。あと台詞廻しの緩急をもう研究していただきたいな。松緑さんもこのお役ではほんのりとおじい様がみえたような気がします。

若狭之助@獅童さん、まずは拵えが良く似合っていました。また今までの獅童さんからすると想像以上にしっかりやっていました。若狭之助の熱血漢ぶりをよく表現している。相変わらず腰高で所作がバタバタしてしまっていますが、それをうまく若狭之助というキャラに転化できていました。台詞廻しも今まででしたら棒になりがちでしたが今回はそこにしっかり感情も入っていました。獅童さんはもっと所作事を勉強すればもっと伸びると思います。

勘平@亀治郎さん、まずは居住まいが華やかで色気があり二枚目風情も出ていました。踊りはとても丁寧に勘平の心持ちを表現していて的確。立役ですとまだ大きさがそれほど出なくて小ぶりなのがちょっと残念かな。また鋭い知が見え隠れして勘平のダメンズオーラがあまり出てない感じで若干、道行の忠信ぽいかも…まあ私の先入観も手伝ってしまっているかもしれません。個人的に踊りの柔らかさについ今の亀治郎さんにはお軽を演じて欲しかったなという思いをかえって強くしてしまいました。

お軽@福助さん、何度も手がけていらっしゃるお役なので手の内に入った踊り。丁寧に勘平を思うお軽を表現していきます。また勘平@亀治郎さんをしっかり立ててるのがさすが。いつもより抑えた踊りぶりだったように思います。ただ福助さんのお軽だと正直なところ若手ばかりのなかではバランスが悪い…。夜の部を拝見しないとわかりませんが福助さんはすでに芸格があがっていらっしゃるしベテラン役者のなかでお軽を演じてこそ光る役者さんだと思います。

顔世御前@松也さん、まずは品よく丁寧に丁寧に演じているのが良かったです。また憂いを帯びた佇まいが顔世御前らしい。久ぶりの女形でしょう、まだ体を作りきれてないかなという大ぶりさを感じましたが少しづつこなれていくでしょう。

足利直義@亀寿くんの、品よく丁寧にこなし存在感を失わなかった。

石堂@亀三郎さん、清潔感と情味があってとても良かったです。相変わらず良いお声です。

薬師寺@亀鶴さん、愛嬌が先にたつ。

原郷右衛門@薪車さん、抜擢といっていい配役だと思いますが十二分に応えました。無念の想いを胸に秘めつつ信頼できる存在としてしっかりそこにいました。

他に斧九太夫@錦吾さん、鷺坂判内@橘太郎さん、本蔵@幸太郎さんなどベテランがポイントポイントでしっかり演じてくださり若手を盛りたててくださっていました。