Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

帝国劇場『レディ・ベス』 A席2階後方

2014年04月29日 | 演劇
帝国劇場『レディ・ベス』 A席2階後方

帝劇はお客様サービスが行き届いていて良い劇場。東宝ミュージカルもきちんとファンサービスをするし、その相乗効果は絶大ではないかと思った本日。

一幕目が物語が散漫でちょっと冗長、二幕目で盛り返した感じ。若手をベテランがしっかり支えてるなあという印象。楽曲は綺麗な曲が多いけど耳に残る曲が無かったのが残念。日本語が綺麗にハマってないとこも多々。そしてこの題材で日本で初演だというのにビックリ。石丸さんと禅さん、この二人、やっぱり良かった。個人的に今回のお目当てでしたが。あと平方元基さんがなかなかいい感じでした。

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『レディ・ベス』
16世紀イギリス。
ヘンリー8世の王女として生まれたレディ・ベスは母親のアン・ブーリンが反逆罪で処刑されたため、
家庭教師ロジャー・アスカムらと共にハートフォードシャーで暮らしていた。
そうしたある日、若き吟遊詩人ロビン・ブレイクと出会う。
ベスは、彼の送っている自由なさすらいの生活に心魅かれる。
メアリーがイングランド女王となると、ベスを脅威に思うメアリーの側近、司教ガーディナーらの謀略はさらに強くなる。
ベスは絶え間なく続く苦境に、自分自身の運命を嘆きながらも、強く生きることを決意し、ロビン・ブレイクと密やかに愛を育む。
メアリーの異教徒への迫害が続くなか、民衆は次第にベスの即位を望むようになる。
そんな中、メアリーはベスへある告白をする…

脚本:ミカエル・クンツェ
作曲:シルベスター・リーヴァイ
演出:小池修一郎

出演者
エリザベス1世:平野綾
メアリー1世:未来優希
ロビン・ブレイク:山崎育三郎
フェリペ:平方元基
アン・ブーリン:和音美桜
シモン・ルナール:吉野圭吾
ガーディナー:石川禅
ロジャー・アスカム:石丸幹二
キャット・アシュリー:涼風真世
ヘンリー・ベディングフィールド:大谷美智浩
トマス・ワイヤット:中山 昇
バギー・リンガー(吟遊詩人):平間壮一
ホラティウス・スィフト(吟遊詩人):加藤潤一
スクラッド・トター(吟遊詩人)寺元健一郎
首切り役人:笠原竜司
メアリーの御女スーザン他:池町映菜
貴族の女他:石田佳名子
フェリペの愛人他:石原絵理
フェリペの愛人他:樺島麻美
女官他:小松春佳
フェリペの愛人他:島田 彩
エミリー・レノックス他:真記子
居酒屋のウェイトレス他:安岡千夏
ヴェイオリンを弾く女他:柳本奈都子

金丸座『第三十回記念 四国こんぴら大芝居 第二部』 A枡席 2回観劇分

2014年04月20日 | 歌舞伎
金丸座『第三十回記念 四国こんぴら大芝居 第二部』 A枡席 2回観劇分

第二部『女殺油地獄』A枡席前方センター(4/19(土))A枡席花道寄り(4/20(日))

『女殺油地獄』は19日と20日続けて二回観ました。この芝居は役者たちのちょっとした演じ方で印象が変わる芝居なので細かい部分を書こうと思えば別に書いたほうがいいと思いますがとりあえず今回は同じ主演の染五郎さん与兵衛でも2011年2月のル・テアトル公演の時とは違い表現しようとする方向性は一緒だと思ったので2日分として書いてしまいます。

二日とも「大当たり」という大向うが飛びましたがまさしく大当たりな芝居になっていたと感じました。この演目のリアルさ、歌舞伎としての様式美のバランスがよく、また物語に強い説得力がありました。染五郎さんが目指す『女殺油地獄』は与兵衛とお吉の二人の物語というだけではなく、親子の物語であり、家族の物語であり、そこにあるコミニュティの物語として、「人の情」を描いていくことなのではないかと思います。ル・テアトルで演じられた時にもその部分がみえましたが今回そこをしっかり見極めてきたかなと。

与兵衛@染五郎さん、今回拝見して染五郎さんはこの演目は完全にモノにしたと思いました。もちろんまだ完成系ではなく、どんどん変化はしていくだろうし続けてみた二日観ただけでも同じ与兵衛ではなかった。でも方向性が固まってきたというかやりたいものが見えたんじゃないかと思う。この演目、染五郎さん何が何でも、これからも続けて演じていくだろうと思う。そして「逮夜の場」は出来うる限り付けて上演していくと思う。それだけの説得力を今回持たせた。

テアトルでの「逮夜の場」はやはり少し浮いていたと思うしテアトルという小屋のせいもあったけど物語主義のほうに向かい歌舞伎味は薄くなっていた。それが面白みでもありましたが。でも今回、「逮夜の場」もきちんと歌舞伎だった。歌舞伎としての『女殺油地獄』の世界としてハマってた。それとテアトルでは演じ方も解釈の変えようだけでなく仁左衛門さんの与兵衛から違う方向に行こうとしすぎてた。役の解釈も極端にコロコロと変えてましたし実験的な、と言っていいほどだった。でもテアトルでの試行錯誤のあれが無ければ、染五郎さんは「歌舞伎」としてみせるにはというところまで行きつかなかったんだと思う。歌舞伎としてみせる、義太夫ものとしての与兵衛と自分が表現したい与兵衛を今回はきちんと重ねてこれていました。細やかな芝居に大胆さが加わり与兵衛という人物を立ち上げてきました。その場その場の感情の赴くままにしか行動できないどうしようもないアホぼんであり、それでもどこか可愛げで切ない、哀れな哀れな与兵衛。

たぶん染五郎さんは与兵衛の、そして家族の、小さいコミュニティの、そのなかでの「人」との関係性や人としての情の物語として「芝居」を昇華しようとしている。その成果が今回は出たと思う。たぶん純粋悪のまったく後悔という概念のない与兵衛は「歌舞伎」としてもう演じないのでは?と思う。でも単純に後悔する与兵衛でもない。ねじれてしまった性根のなかに愛することを知らず、ただただ愛されることだけを求める小さい子供がいる、そんな与兵衛。だから殺しに対して心底後悔できてるのではなくようやくただ「悪いこと」が何かを気づき、自分が「愛されてなかったのではなく愛されていた」と気づいただけの与兵衛だと思う。最後まで家族に甘え、家族も最後まで甘やかす。 染五郎さんの与兵衛は小さい子供のような可愛らしさと色っぽさが同居するアンバランスさが特徴だと思う。純粋でからっぽで寂しくて冷たくて。

与兵衛の友人に種之助くんと廣太郎くん。役としては与兵衛と同じ30歳前後のはずだけど今回は彼らの実年齢そのままな感じ。いかにもぼんぼん育ちの悪ガキでした(笑) そこに実年齢ではかなり離れてる与兵衛@染五郎さんがそんな若い悪ガキ二人の間に入って違和感なし。表情や素振りで若い。今回の与兵衛は性根の部分で「子供」。染五郎さん与兵衛は甘やかす親の上にあぐらをかく与兵衛ではなく、親の愛情を絶えず試すタイプ。感情の赴くままのとても未成熟なガキんちょ。前楽ではどちらかというとワガママな横暴さのなかに愛されてる実感がなくてもっと愛してよと叫ぶ子供がいて、千穐楽ではモロく傷つきやすいがために虚勢を張っている、愛されてないという不安にかられてるような小さい子供がいたように感じました。

お吉@壱太郎さん、風情がきちんと人妻だった。さすがに「母」ではまだなかったけど(笑)まだまだ若妻な色気で三人(歌舞伎じゃ二人だけしか出てこないけど)の娘の母らしさはまだなくて姪を世話してる感。でもその分ちょっとガードが甘いだけに色気のある、つい世話やきをしてしまう隙のあるお吉。どこかウキウキしてる感じなのよね。子供にはとっても優しいんだけど、与兵衛を目の前にしたり旦那を目の前にするとそちらに注意が全部いく。なので、殺し場が「女」として必死なのでエロかった。染・亀(当代、猿之助さん)の時はひたすら凄惨な殺し場だったけど、染・壱は凄惨さのなかにsexの匂いがする殺し場でもあった。染五郎さん与兵衛の目の据わり具合が前回より怖いし動きが様式のなかに動物的なものがあったというのもそれを増幅させた感じ。様式に昇華されてるのに白い肌の絡み合い的なエロさ。にしても金丸座の薄闇のなかの殺し場はあまりに臨場感ありすぎて怖かった。そういえば、壱くんは赤ちゃんをちゃんと抱けてなかった。それじゃ、赤ちゃん安定してなくて苦しいよ、ああ、落としそうってハラハラした(笑)今まで赤ちゃんをちゃんと抱っこしたことないのかも。

おさわ@吉弥さん、元は武家出の商家のお内儀らしい凛とした強さがありつつ内に母としての強い愛情と甘やかすもろさを抱えるおさわでした。どこか愛情を表現するの部分で不器用さも感じさせ、またそういう母が再婚したという生な部分が出る。だからこそ甘えん坊の与兵衛が小さい時に両親の愛情に対して不安感を抱いてしまったのかな?とも思わせた。凛とした風情があるおさわだからこそ、与兵衛を見捨てられないその甘さと母としての切なさが際立ったように思います。

徳兵衛@橘三郎さん、かなり真面目でしっかりしているだけに義父として元は使用人だったという遠慮が強すぎてしまう、そんな徳兵衛。与兵衛に対しどう接したらいいか生真面目に悩みすぎてすれ違ってしまったようだった。親になりきれない、そんな哀しさのある徳兵衛。でも、最後の場で父としての想いは与兵衛に伝わったんだと確信できたのは救いかも。だから最後あんな態度に出られたんだろう。でもようやく対等に親として対峙できたのは運命の歯車が完全に狂ってしまった後なのよね…。

おかち@米吉くん、とても健気で可愛かった。あんな兄でもお兄ちゃんとしてどこか甘やかしちゃうしっかりものの妹だった。

七左衛門@松也さんはいかにも若い感じなので嫉妬するとこがわかりやすい。目端のきく商人的な感じもありました。

森右衛門@亀蔵さん、生真面目で気のいい伯父さんぶりでよかった。どこか情にもろい部分をみせるので妹家族のために奔走するという部分に説得力がありました。

兄太兵衛@宗之助さんはやっぱおかちのほうがしっくりきますね。どことなく兄ぽくない。気のいい友人ぽくみえたかな~。でも真面目でとても真っ当な人という部分はしっかり出ていました。

小菊@高麗蔵さんテアトルのときよりはジャラジャラをみせてきたけどやっぱり江戸の芸者以外なにものでもないかな(笑)小菊できる人、今あまりいないですよね…。

この金丸座でやったことを今度は歌舞伎座でどうできるか。そこに興味がいきました。染五郎さん、歌舞伎座でやらせてもらえないかな~。

金丸座『第三十回記念 四国こんぴら大芝居 第一部』 A席枡前方センター

2014年04月20日 | 歌舞伎
金丸座『第三十回記念 四国こんぴら大芝居 第一部』 A席枡前方センター

4/19~4/20でこんぴら歌舞伎観劇遠征をしました。今回のこんぴら歌舞伎の演目は『菅原伝授手習鑑』の半通しと『女殺油地獄』の通し。今までみどり上演ばかりだった金丸座で初めての通し上演だそうです。みどり上演も色々なものが観られて楽しいですけど、筋が通る通し上演のほうが初心者の多いこんぴら歌舞伎にはいいんじゃないと思ったり。ただ、人数がかなり必要になってしまいますので難しいところかな。今回、役者・スタッフの人数が最多だそうですから。

さて超花形座組みでどうなることやらと花形を見守る気分で観ようと思っていた私ですが自分でもまさかと思うほどどちらも感動してしまいました。勿論、ベテランのとっても素晴らしいものをいくつもを観てきている演目なので個々にまだなところ、粗さや演じきれてないところもいっぱいあげられるんだけど、金丸座マジックってだけではなく、役者の役として伝えようという必死さが伝わって演目全体の物語がダイレクトに伝わってきて感動的でした。また次世代の歌舞伎を担うという矜持が皆から伝わってきました。それが何よりだし、続いていけるって思いました。

そのなかで贔屓目は多分に入ってるとは思いますが座頭の染五郎さんの引っ張りようは見事だったと思います。後半日程で役がこなれてきていた部分もあると思うけど芸に深さと大きさが出てたし、役の心情の伝え方に今まで以上に膨らみが出ていました。そして見事に丸本物の芝居を義太夫ものとしてしっかり舞台に乗せてきていました。常々思っているのですが染五郎さんはやはり義太夫ものをもっともっとやっていくべきだと思います。役者として義太夫ものが得意で細かく芝居を重ねていく吉右衛門さんの芸質に似てるし、そこに染五郎さんの良さが花開くと思う。今回しみじみ思いました。

第一部『菅原伝授手習鑑』A席枡前方センター(4/20(日))

「加茂堤」
物語の年齢とピッタリと合った配役で情景が鮮明になっていました。

桜丸@松也さん、柔らかさがありつつ青年らしい太さがある桜丸。うきうきと恋の仲立ちをするちょっと地に足がついてない感があり、桜丸という人物像をよく捉えているなと。

八重@壱太郎さん、いかにも娘らしい可愛らしさと桜丸に対して一途なしっかりさがあってとても活き活きとした八重。とても似合っていました。

斎世親王@廣太郎さん、上品でおっとりした風情。親王としての格がみえて良かったです。苅屋姫@米吉さん、姫らしいおっとりとした可愛らしさのなかに恋情を湛えた瞳。姫は初めてということですが姫役者かもしれないと思いました。この二人、いかにも若いカップルぶりがリアルでベテランがやるより説得力があったかも。

「車引」
華やかな場になりました。

梅王丸@歌昇くん、超全力勝負的な勢いで身体全体を使い非常に頑張っていました。梅王丸に必要な弾むような丸みがあり台詞もよく伸びていましたし、何より勢いのよさを買う。

桜丸@松也さん、は弱すぎないのがいい。賀茂堤での桜丸との地続き感を大切にしていたと思います。切々と嘆くさまに説得力がありました。松也さん、伝える力が出てきたように思います。

杉王丸@種之助くん、素直な芝居、台詞廻し。輪郭が太くていい。今度ぜひ梅王丸もやってほしい。

松王丸@染五郎さん、前回演じた時は少々無理感があったのですが今回は無理なく大きさを出せていました。また輪郭に太さが出たせいか華やかさがありました。また何より憎体な存在を崩さず対立構造をハッキリさせる松王丸というところがいいです。これなら「賀の祝」もみたかった。

時平@橘三郎さん、出の場面では大きさという面ではそれほど出てなかったのですがどこか怪異を感じさせ得体のしれない怖さがありました。

金棒引@廣太郎さん、斎世親王に比べてこちらの役はまだまだかな。姿はなかなかでしたが台詞が時々現代語ぽくなってしまっていましたね。でも正反対な役を同じ舞台でみせられるというのはなかなか無いことですから勉強になったでしょう。

「寺子屋」
今回の若い座組みでどこまでできるか危惧していましたが登場人物の心持ちがよく伝わりかなりの出来だったかと。

松王丸@染五郎さん、想像以上の出来、あそこまでやれるとは思わなかった。前半、首実検で底割れをせず心を押し殺しての敵役としての松王丸を骨太に演じ、後半に一気に父としてそして夫としてまた家族想いの松王丸として演じる。だからこそ哀しみが真に迫る。松王丸の大きさや心持ちがしっかり表現されてた。染五郎さんが松王丸に対する真摯な思い入れの深さが役に結実してた。松王丸の小太郎に対する想いに思わず涙が出てきました。ベテランの松王丸では何度も胸が迫る思いをしてきましたがまさか花形の染五郎さんの松王丸で涙がでるとは思いませんでした。染五郎さんの松王丸は気持ちがとても温かく優しい人だった。思いやるその優しい想いが溢れ出るだけに子を殺さなければならなかった哀しみが真っ直ぐに伝わってきました。

千代@高麗蔵さん、花形に入るとさすがに年齢が突出して上にみえてしまうのね。でもやはり役どころを丁寧に演じて、よい塩梅での緩急。魁春さんに稽古してもらっただけあって武家の女として範疇を崩さず、それだからこその母として嘆きをみせる。そこにもっと女として機微も欲しいけど初役ですし、本来なら高麗蔵さんのやる役ではないことを考えたら上出来。染五郎さんとの間もよくあって夫婦間の嘆きがよく伝わってきました。

松也くん源蔵@若いだけに悩みに悩んでというより菅秀才を守ることのみの使命感や慄きがあってとても新鮮な源蔵でした。ちょっとバタバタしすぎかな?とも思いましたがそれも追いつめられてしまった源蔵という側面に転嫁されるところもあり良かったです。

戸浪@壱太郎さん、女房の拵えが似合い落ち着きがあって芯の強い戸浪。源蔵との一蓮托生ぶりを真っ直ぐに演じてきて、またまた台詞廻しも丁寧で人物像をクッキリとみせてきました。

松也さん、壱太郎さん、この年齢で破たんなくやっていたのいうのが見事。二人とも巧いです。まだ若い異ので役の心情の細やかな揺れまでは出せてないし緩急はまだまだなところはありますが上出来すぎるくらの出来かと。

玄蕃@亀蔵さん、ベリベリとした手強さと声と台詞の強さがこの役にぴったり。出るところは出て抑えるところは抑える、その緩急がさすが。舞台を締めていました。

歌舞伎座『鳳凰祭四月大歌舞伎 夜の部』 1等A席前方センター

2014年04月12日 | 歌舞伎
歌舞伎座『鳳凰祭四月大歌舞伎 夜の部』 1等A席前方センター

『一條大蔵譚』
これは個人的に吉右衛門さんの当たり役のなかでも特別感があるお役。とにかく吉右衛門さんの大蔵卿が好き。友人にもこれは観といたほうがと、前からかなり押してたんだけど今月観てくれて感動してくれて「ほらね」とニンマリ。とにかく後半幕の在り様が圧巻だと思う。

大蔵卿@吉右衛門さん、毎回演じ方は少しづつ変えてきてるのだけど前回あたりから以前の方向性を少し変えてきている。前回はそこにちょっと違和感を感じた部分もあったけど今月、その部分が自然にハマってきていて役として結実してた。深かった。大蔵卿という個の哀しみだけでなく「そこの時代」に生きる哀しみすらも体現していたかのよう。なんだろ、身体性の熱量が大きいわけではなく精神性の部分で大きく深い。今回、阿呆と正気の切り替えの部分をクッキリとメリハリをつけずかなりさらりと境界線部分を少し曖昧にして演じてきている。その自然さのなかにそう生きてきた大蔵卿の狂気にも似た一途さと孤独が表れていた。もうね、阿呆が作りではない。それも大蔵卿として入り込んでいる。そこまで来ましたかって感じでした、吉右衛門さんの大蔵卿。怒りを超えたところの狂気。そこに辿り着いてしまったら、結果がどうであれ結局は孤独なままでいるだろうと思った。そういう意味でとても怖い大蔵卿だった。

常盤御前@魁春さん、品格のある佇まいのなかに静かな悲哀を纏う。翻弄させられる運命の、やはり「その時代」に生きる女を体現していたよう。このところの魁春さんは時代のなかの女に自然にハマることが多い。

鬼次郎@梅玉さん、ひたすら使命感に燃えてる一本気な鬼次郎。もう少し突っ込んでもいいかなと思う場面もあるけどとても丁寧な造形。

お京@芝雀さんは、ひたすら鬼次郎とともにあらんする可愛らしいお京。以前演じた時より舞の部分にだいぶ柔らかさが出て華やかになってきてた

鳴瀬@歌女之丞さん、この座組みのなかでどれだけの存在感を出せるかな?と思っていましたがしっかりと時代物にハマっていい存在感。これから重要なお役を色々と手掛けていけるだけの実力をきちんと見せてくださいました。


『女伊達』
時蔵さんのすっきりとした味わいの鯔背な女伊達。すっと背筋が伸びた姿がカッコイイです。萬太郎くんがあの若さで頑張っていました。にしても時蔵さんと芝雀さんで何かやらせてほしい~。


『髪結新三』
幸四郎さんの最近の世話物シリーズのなかでも一番合わない役(笑)なのに結構回数重ねてるという。それでも前回演じた時にはだいぶ軽妙さが出てきたかな?と思ってたけど今回、まただいぶ重くなってた。不自然に感じてた動きの部分は自然になってきてたけど、それ以上に重さを感じた。

新三@幸四郎さんの新三は違うだろうと毎回思っているけど所詮田舎出の「上総無宿の入墨新三」を前面を押し出した江戸に馴染みきれてないからこその虚勢を張る新三という解釈はありだと思うし、そういう面での面白さはある。ただそれを演じるには今の幸四郎さんでは大きすぎる。

家主長兵衛@彌十郎さんと萬次郎さん@家主女房おかくと善八@錦吾さんに後家お常@秀太郎さんがそれぞれに突っ込んだ芝居でいい。お熊@児太郎くんがかなり、相当良くなっているには感涙。

忠七@橋之助さんと勝奴@錦之助さんは役が反対な気が…。二人ともかなり健闘してるんだけどもったいない感じのほうが強い。配役、考えられなかったかな。橋之助さんは新三をやってみてもいい人だと思うし。

忠七@橋之助さん、役どころとしてはしっかり演じてると思う。芝翫さんの台詞廻しをよく写してて似てると何度も思って、役とは違うところで切なくなったり。

勝奴@錦之助さんはいまのとこ真面目すぎるかも。

丁稚長松@金太郎ちゃんは可愛かった。いやもう、それだけで(笑) 

錦成くんの按摩がそれほど舞台に立ってなかったわりになかなか達者に。

錦弥さんの魚売りはまだまだ。もうやるだけで精いっぱい的な。何度かやってるのでせめてもう少し余裕欲しいな。頑張れ~。