Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』3等A席上手寄り

2017年01月26日 | 歌舞伎
歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』3等A席上手寄り

今月の歌舞伎座は『沼津』と『井伊大老』がベストだな~。ベテラン組の濃厚さ濃密さは見事だわ。それぞれ配役も良かったし。正月ぽくなかったけどね(笑)『井伊大老』の幸四郎さんが歴史のなか、そこに生きた人物を立ち上げたのとは反対に『沼津』の吉右衛門さんはあくまでも物語のなかの、それでいて「いる」人物として立ち上げていたと思う。その両方が成り立つ歌舞伎ってやっぱ凄い。

『井伊大老』
役者それぞれの役々にその時代にどう生きているか、という生き様がみえくるような感じだった。だから、なお下屋敷の場が活きてきたかなと。

井伊直弼@幸四郎さんとお静の方@玉三郎さんのなんとも自然でそこに生きている、そんな佇まい。好きあっている同士のいたわり合いがとても素敵でした。人物像を生き生きと活写しており、この時代をふと垣間見ている、そんな気さえおこさせ、また二人の会話に二人が生きてきた生活がみえるかのようで、胸がじーんとしてしまいました。

禅師@歌六さんに飄々さが増していい味わい。

雲の井@吉弥さんが可愛かったな~。お静@玉三郎さんとともに感情豊かで普段からきゃぴきゃぴしてそう。

長野主膳@染五郎さん、初旬に見た時は役の方向性が見えづらかったのですが、今回は存在感がきちんと出ました。単に冷たい人物というより、主膳なりの理があり道があり、だからこそ心を殺して進んでいくのだという覚悟がみえてよかったです。

水無部六臣@愛之助さんの無念さの伝わる芝居がとても良かったです。愛之助さんは、久々に拝見したけど全体的にリアルな手触り感があるなと思いました。新歌舞伎系だとこうなるのかな。愛之助さんは今月は似たポジションばかりでしたがきちんと存在感がありました。最終的にこの役が一番印象深かった。

『越後獅子』
鷹之資くんが丁寧にお手本の通りに踊りきった今月でしたねえ。色が出てくるのはまだこれから。初旬に拝見したときより踊りが身体に入っていて動きにキレがでてきていました。客席の暖かい拍手を励みにこれからも頑張って欲しい。

『傾城』
これは玉三郎さんワールド。ただひたすら美しい玉さまを眺める感じに(笑) 打掛の裁き方がすごすぎる。一服の絵。花魁道中はサービスだと思うけど個人的好みとしては座敷からでもいいかな~。集中力がいちど切れちゃうの。

『松浦の太鼓』
松浦候@染五郎さん、まだ発展途上的なとこ含めて超ラブリーでした。台詞の緩急が効いてきてメリハリが出ててた。染五郎さんの松浦候は若いのに声のトーンを今の吉右衛門さんが出す高いトーンそのままで出しているので、かえって落ち着きのなさが出てしまっているのは若干難かな。まだまだ現役感たっぷりで気まぐれな様子がリアル。そのなかに品のいい鷹揚さがあるので役にいやみがないのは良いなと思う。玄関先では台詞廻しや風情に少し8勘三郎さん風味が。興味深々、目がキラキラ的
な前のめり感がそう感じさせたか。このお役に関しては少しづつ熟成させてほしい。10年後が楽しみです。

源吾@愛之助さん、討ち入り姿がよく似合い口跡がよく台詞がわかりやすい。初旬は討ち入りの語り部分の台詞廻しに苦労しているかな?だったけど、昨日はしっかり伝えきれていた。梅玉さんに稽古していただいたようだけど、松嶋屋の芝居だな~というほうが強かったかな。

お縫@壱太郎さん、前半は終始受けの芝居ですが可愛らしく真面目でおぼこな風情がよかったです。

其角@左團次さん、俳人としてどこか自由人でいる風情があるのは左團次さんならではな気がします。押しの強さにもいやみがなく松浦候への扱いの巧さを感じさせます。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 昼の部』3等A席センター

2017年01月14日 | 歌舞伎
歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 昼の部』3等A席センター

『将軍江戸を去る』
役者さんは好きなようでよく上演されてるし、色んな役者で観てるけど、苦手演目のひとつ。寝たりはしないし、それなりに観てしまうけど、なかなか苦手意識が取れない…。今回、それぞれの役者が「らしさ」があって分かりやすい芝居にはなっていたとは思う。台詞は皆さんあまり謳いあげないで抑えめ。新歌舞伎系は好き嫌いの激しい私ですが、なぜこの演目が苦手な部類の入ってるのか自分でもよくわかっていなかったけど今まで慶喜に興味がなかったんだな、というのが今回の気づき。なぜわかったかというと慶喜という人物の知識が増えたから。知識が増えたことで今まで、慶喜の台詞の意味合いをきちんとわかっていなかったんだな~と痛感させられた。だから『将軍江戸を去る』という芝居の慶喜のキャラを受け止めきれてなかったんだなと。とはいえ、今回そこがわかっただけでまだ理解しきれてないのですけど。そこがわかっただけでも収穫は収穫。

慶喜@染五郎さん、運命に対する陰鬱な悲哀とどこか純粋さがある殿ぶりが良かった。台詞廻しは吉右衛門さん譲りか、最後の場の名残を惜しみつつ江戸を去る際の詠嘆は時代の区切りをしみじみを感じさせるものであったように思う。

山岡鉄太郎@愛之助さん、役としての立ち位置が巧く台詞も明快。青果節の抑揚はあまりなくストレート。

高橋伊勢守@又五郎さん、宥め役として非常に落ち着いた芝居で良かった。新歌舞伎の又五郎さんというと暑苦しいくらいの熱さというイメージだったので新鮮でした。

若い、諸士たちの歌昇さん、種之助さん、廣太郎さん、男寅さんが血気に逸る青臭さを体現していました。皆、台詞がしっかりしてきたな~と思ったり。

『大津絵道成寺』
ここでお正月らしい華やかな舞踊を。道成寺ものをご趣向で組み立てたような舞踊ですね。愛之助さんが五役を時に早変わりをしながら踊っておきます。大津絵とお題にあるように立役が中心の愛之助さんらしい輪郭の太く丁寧に踊っていきます。主になる藤娘姿がサマになるのは若い頃、女形が中心だったおかげでしょうか。華がありました。

犬@種之助さん、のびのびと弾むように踊り可愛らしかったです。踊り上手のお父様に似て素直ないい踊り。わんわん六方も勢いがありました。

弁慶@歌昇さん、三枚目がはいったお役ですが思った以上に似合い線の太さと滑稽味と、とても良かったです。

矢の根の五郎@染五郎さん、押し戻しで最後で出ますが荒事のこしらえが本当に似合うようになりました。大きさと格があり一際華やか。声も荒れてなかったですね。もう少し喉を広げて声を前に押し出せると良いんですが。


『沼津』
ベテランの存在感をまざまざと感じさせた演目。舞台の空気が濃密になりますね(『沼津』のみ1等センターで拝見)

十兵衛@吉右衛門さん、前半は正直声が弱いかなという部分があったのだけどその代わり、今の年齢だから出せるキュートさがあって突拍子のない我侭にもみえる言動なのにほっこりさせてしまう力がある。でも、なんといっても真骨頂はやはり平作お米が父、妹と知れた後。ふとした佇まいと台詞で空気を変えていく。それがごく自然にでもくっきりと輪郭をもって描写されている。この空気の変え方は吉右衛門さん独特のものだと思う。

平作@歌六さん、かなり突っ込んだ芝居しててすっかり持ち役にしておりました。人懐こさのなかに頑固な強い芯がある、鋼のような平作だと思いました。情のありようも甘くない。

お米@雀右衛門さん、以前は可愛らしさのほうが先に立ち健気な「娘」の風情でしたが、今月は艶が出て恋しい人のためには手段を選ばない芯の強さもありました。平作の娘だな、というのが伝わってきた。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』3等A席センター

2017年01月07日 | 歌舞伎
歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』3等A席センター

今年の初観劇は歌舞伎座夜の部。楽しかった\(^_^)/

『井伊大老』
かなり見応えがありました。幸四郎さんと玉三郎さんが自然体の風情ある芝居で思った以上に二人のバランスがよくてしみじみした味わい。玉三郎さんの玉手御前と幸四郎さんの合邦で『摂州合邦辻』が観たくなった。

井伊直弼@幸四郎さん、時代の大きな流れのなか大老として真っ直ぐに立とうと心を砕いて生きてきた、その生き様が立ち上がってくるような大きさのある直弼であり、また一人の人としての優しさ、弱さをも感じさせる、魅力的な直弼でした。

お静の方@玉三郎さん、しっとりとした風情のなか繊細で感情豊かな可愛らしい女としてただひたすら自分が愛するものに一途なお静の方。彦根にいた時分からの時の流れも感じさせ直弼に寄り添うその姿がどこまでも自然。

禅師@歌六さん、飄々と人生達観して生きているような禅師。老け役がサマになってきましたねえ。

昌子@雀右衛門さん、いかにも「おひいさま」と言われるようなおっとりとした風情。純粋な子供のような素直さ。お付きの腰元たちが京屋の美人揃いだったのも眼福。

『越後獅子』
鷹之資くんの踊り、素直に基本をきっちり。化粧映えするいいお顔。1ヶ月しっかり踊りきったらとても良い糧になると思う。そういう踊りだった(^-^) しかし富十郎丈、もう七回忌なんですねえ…。

『傾城』
玉三郎さんの踊りは美しさにうっとりしているうちに終る感じ。それでいて情景がくっきり見える。衣装も凝っていた。玉さまの舞踊に関しては後継がいないですねえ。

『松浦の太鼓』
松浦候@染五郎さん、ころころ変わる表情は超可愛い。でもまだここでこう、という意識がある感じ。歌舞伎座だから緊張感があるのかなぁ。巡業時はもっと御機嫌に演じてたと思うんだけど。あの吉右衛門さん特有のハイトーンボイスもやはり今回もなぞってきてた。今は出せてるけど最後まで持つか。殿様としての大きさはしっかり出てた。単なるバカ殿にならず機嫌がころころ変わっても憎めない鷹楊さがあるのが良かった。そこここに真面目さが出てしまうのは若さかな~。