Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』 1等1階花道寄り前方

2016年01月23日 | 歌舞伎
歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』 1等1階花道寄り前方

『猩々』
梅玉さんがふんわりと品がよくて、なにより楽しそうに踊られていて観ていて顔がほころぶ。そして腰の入り方、足首の柔らかさが本当に見事で目が釘付け。

『二条城の清正』
清正@幸四郎さんが前回拝見した時より、ぐっと押さえた芝居。金太郎くんの爺としてではなく秀頼を守り抜こうとする清正としてそこにいた。

秀頼@金太郎くん、品のよい凛とした姿と佇まい。主君としての自覚を持つ秀頼としてしっかりと芝居をしている。台詞廻しもいい。この年齢で、よくぞここまで演じきっていると思う。

『玩辞楼十二曲の内 廓文章「吉田屋」』
今月の『吉田屋』はとても楽しい。じゃらじゃらが素直に入ってくるというか、お話もすんなり入ってきて見やすい。いつもよりタイトな感じがしたけど、そのテンポのよさも良かったのかも。

夕霧@玉三郎さんが夢のように美しい。そしてただ美しいだけではなく可愛らしい情味があって絶品。

伊左衛門@鴈治郎さんは大店のぼんぼんらしい品のよさと柔らかさのなかに憎めない愛嬌がある。この役にうまく嵌ってきたんだなという感じがする。無理がない。

『雪暮夜入谷畦道「直侍」』
観た直後は染五郎さんファンとしては、あまりの格好よさにひたすら目がハート。「染ちゃんの生足♪ (〃∇〃)ノ☆ 染ちゃんのほっかむりの横顔(〃´o`)=3 直はんの豆絞りの手拭いに成り代わりたい(*/□\*)」という感じでした(笑)

芝居としても前半の「そば屋」の場はアンサンブルがよく役者も適材適所でかなりの見応えぶり。後半の「大口寮」の場も密度が濃くなっていました。

直次郎@染五郎さん、男ぶりがあがったと思う。花道ですっと顔を上げた瞬間の陰のある色気ったら。佇まいが絵になると同時にリアルにそこにいる。孤独感のある直次郎。前半に拝見した時より役に陰影がつき御家人崩れのどこか頓着のない品と悪党としてのの実感、そのなかでの情の濃さのバランスが良かったと思う。回数を重ねて欲しい役。次は同世代の三千歳とやってみてほしい。

染五郎さんの直次郎は逃げる時に三千歳に「もうこの世では会わねぇぞ」と叫ぶ。自分は別れるために来たという覚悟のほどが強い。完全に三千歳を振り切っていく。これだと花道でのぐっと吹っ切る表情込みで別れの先の暗さが出ますね。

余談:音羽屋さんは「もうこの世では会われねぇぞ」です。これだと自分からの別れが強く出ず、三千歳との関係性が切れるわけではなく余韻がある。松嶋屋さんのはどちらだったかなぁ。わりと陰が強いなという印象があるので「会わねぇぞ」だったかもしれません。

三千歳@芝雀さん、前半に拝見した時は寂しい身の上から逃げたいという恋愛とは別の依存も見えたんですが、23日に拝見した時は直はん一途な純情が見え情味が濃くなってました。切々とした台詞が巧くて一言一言に切実さがある。しっとりとした風情には庇護が欲しい弱さも含んでいるので、年下の直はんよりは年上のほうがもっとしっくりくるかなと。個人的には菊五郎さん直次郎との組み合わせが観てみたいです。

なんというか染五郎さんの直次郎と芝雀さんの三千歳は芝居の質感や間は合っていて見応えも十分あったのですがこの二人を離してしまっては、という比翼の関係という雰囲気は残念ながら見えなかったかなぁと。私が求めすぎなのかもしれませんが…。染五郎さんの直次郎に対しての三千歳、いまのところ一番見て観たいのはやっぱり菊之助さん。やってくれないかな~。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄り

2016年01月09日 | 歌舞伎
歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄り

『猩々』
梅玉さんの猩々が別格。さすがに身体にキレがなくなっていますけど品格といい丸みのある踊り方といい足さばきの人外さといい見事。橋之助さんはきびきびと丁寧に。松緑が酒売りも品よくまとめています。綱をやってすぐにこの役のせいか声が荒れてたのが心配。

『二条城の清正』
金太郎くんの「じい、長生きしておくれよ」の台詞が聞きたくて選んだでしょ的な、幸四郎さんの爺ばか演目のおもむきが若干(^^;) まあ、それもまた歌舞伎を観ていく面白さにもなっていますが。そういう意味で幸四郎さんの清正は主君秀頼を守るために必死な老武士を緊迫感もってストレートに。感情過多かなと思うとこもあれど、幸四郎さんの涙と心情を思うとこれはこれでありとも思う。

金太郎くんの秀頼、さすがに秀頼を10歳でやらせるのはかなり酷だし冒険で、せめてあと3~4年は待っても良かったと思うのだけど、それにきちんと応えた金太郎くんを盛大に褒めたい。品よく爽やかな佇まいに華があり、あの長丁場をだれることなく最後まで凛と秀頼としている。また台詞もただ、きちんとというだけではなく新歌舞伎特有の台詞廻しでこなしている。「じい」のとこだけ地声ぽいのが超可愛いかったです。姿が染五郎さんにそっくり。

左團次さんの家康が飄々と食えないたぬき爺ぶりでぴったりだった(笑)。魁春さんの大政所にさりげない優しさがあり。演目的にはそれほど面白いものではないと思うけど周囲が結構揃ってて、役者さんを楽しんだ。並び腰元が大好きな美女連中だったし。

『玩辞楼十二曲の内 廓文章「吉田屋」』
苦手な『吉田屋』だけどとても楽しく拝見。

鴈治郎さんの伊左衛門は藤十郎さん写しだけど鴈治郎さんらしいすっきりした色気と愛嬌。表情がころころ変わる様が楽しい。やりすぎず根の素直さとぼんぼんの我儘さがいい塩梅。

玉三郎さんの夕霧、売れっ子傾城の大きさとともに女の可愛らしさいじらしさがあってさすがの出来。いつもより可愛らしさが前に出ていたようにも思う。肩の力が抜けて伊左衛門とのじゃらじゃらに素直に乗っている感じというか。ほんと可愛らしかったな~。

『雪暮夜入谷畦道「直侍」』
初日の「大口寮の場」からの舞台中継を見た時には直次郎@染五郎さん、三千歳@芝雀さんとも段取りに追われてるのか息が合ってなくて、バランスもいまひとつ?的な感じでちょっと心配だった『直侍』でしたが、こなれてきたのかとても面白く観られました。

染五郎さんの直次郎、すっきりとした二枚目風情のなか、やさぐれた雰囲気と追われるものの翳を背負っている。その蔭の部分に色気がある。御家人崩れの品と絶えず人目を気にしながらもどこか人寂しそうな甘さがあるのは染五郎さんの個性かな。直次郎の蕎麦屋での立ち振る舞いにはかなり手順があるのですが染五郎さんはその手順を感じさせずごく自然に。決まり部分も溜めて見せずに追われるものの佇まいとしてある。江戸の粋さを強調せずに悪党の悲哀をみせるリアル志向にみえた。丈賀や丑松に対しても、追われるものとしての身の焦りを隠さずいきがらずにごく自然に接し、また三千歳との逢瀬での会話にも誠実さがこもる。悪党なりの人に対する情の濃さがそこにみえる。大口寮の場は見せ場として舞踊に近い場でもあり、清元にのった形はひとつひとつ綺麗に姿よく。全体として様式美を崩さないところで感情をリアルにもっていくやり方かなと。もっと溜めてみせてもいいかなと思う部分はあれどとても良い直次郎だなと思いました。

芝雀さんの三千歳は情味のあるたっぷりとした風情にほんのり色気があり、そのうえに病んでしまった憂いがみえる。この三千歳は直次郎だけが頼りのよるべない寂しさを抱えた女に見えました。直次郎への一途さは可愛らしい情愛だけではない複雑さがみえもし、この三千歳にはもう少し上の役者さんのほうが似合うかな?と思ったりも。全体的には染五郎さんの直次郎と芝雀さんの三千歳、息は合っていてしっとりとした情味は十分に感じましたし、今回は今回でいいバランスにはなっていたと思います。

東蔵さんの丈賀がさすがに巧い。根っからの蕎麦好きの人のよい按摩の風情がそこにありました。ただ、この役を東蔵さんがやらなくてはいけないという状況には多少危機感も。前に田之助さんもやりましたが二人とも本来この役を当てる役者さんではありません。

吉之助の丑松は直次郎の弟分の小悪党らしさを突っ込んで演じていてとても良かったです。蕎麦屋夫婦の高麗五郎さん、幸雀さんの味のあるさりげない芝居も良かった。世話物はちょっとしたバランスで芝居が変わりますから脇がしっかりしていると安心できます。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

2016年01月09日 | 歌舞伎
歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

『廓三番叟』
お正月らしい華やかさ。孝太郎さんの傾城が中央にいる格と大きさがある。孝太郎さんの踊りは安定感があって好き。種之助くんの新造が可愛らしく踊りも柔らか。女形も勉強してみるといいかも。染五郎さんの太鼓持ちは軽妙で華やかで太鼓持ちとして程の良い踊り振り。眉を下げて剽軽なお顔を作っていたようですが上のほうから双眼鏡を使わないで拝見すると素がやはり二枚目なので太鼓持ちというより傾城の間夫ぽいなと思ったりも(笑)

『義経千本桜「鳥居前」』
橋之助さんの忠信は押し出しもよく隈がよくのっていいお顔。見顕し後が狐の怪しさがあまり出てないのが残念。真っ当な’人’すぎるのかも。

門之助さん義経と彌十郎さん弁慶にらしさがあって見ていて落ち着く。

児太郎くんの静御前は守ってあげたくなるような風情。

『梶原平三誉石切』
座組みが鉄板なので面白くないわけがないんだけどそれでも期待を上回る面白さでした。

吉右衛門さんの梶原平三の台詞廻しの自在さに惚れ惚れ。くっきりと台詞を立てていながら音楽的。吉右衛門さんの梶原平三、また武将としての肚の大きさのなかに、人物としての余裕があるご機嫌さが絶妙のバランスで含まれていて良かった。今まではもっと真面目というか少し堅苦しいとこがあったと思うんだけどそのカドが取れて丸みを帯びる。理想的な梶原平三。

歌六さんの六郎大夫が手に内に入ってきたな~と。娘を思う老親の情味とそのなかにある気骨さ、そのなかでの芝居の緩急がきいてる。芝雀さんの梢は当たり役ですがますます可愛らしくまた情味の部分での膨らみが増して艶の部分も出てきた。

又五郎さんの大庭はニンではないと思うのですが人物の輪郭をくっきりと。歌昇くんの俣野が元気よくのびやかに、この座組みのなかで十分以上な出来。ちょっと真面目な大庭・俣野兄弟ではありましたけどwここに種之助くんの奴菊平が入っての親子並びにニヤけてしまう。

剣菱呑助に男女蔵さんでビックリ。並び大名のほうじゃなく、この役でいいの?とは思いしたがきちんとこなしていました。男女蔵さんは器用な役者さんではないですが最近はハズレが無くなってきたかも。味のある役者さんを目指してください。

並び大名には宗之助さんが入っていますが最近はこういうポジションが多いですね。そろそろ女形が観たいです。

『茨木』
玉三郎さんの伯母真柴が非常に素敵でした。妖しさをまったく見せずにゆったりと情景を描写していきます。片手の不自由さを感じさせない踊りぶりが見事。綱が心動かされるのも無理ない真柴でした。玉三郎さんの後ジテの茨木童子は鬼というよりもっと別な深い異を感じさせる独特の迫力。動きは前ほど動けてないのですが、かえってそこに妖しさがみえてくるようでした。最近の玉三郎さんの舞台には立女形としての芯の熱さを感じます。

松緑さんの綱は佇まいに大きさがあり、細くなったのにあの衣装に負けてないのがいいです。また後半の豪胆さのある勢いが非常に良かった。台詞はもう少し頑張れ。

左近くんの太刀持音若がしっかりしていいお顔をしています。踊りも丁寧にかっちり。