Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

帝国劇場 劇団☆新感線『SHIROH』 2階前方下手寄り

2004年12月16日 | 演劇
帝国劇場 劇団☆新感線『SHIROH』 2階前方下手寄り

期待しすぎました…。基本的にはいのうえ歌舞伎なんだろうと思ってのぞんだ観劇でした。稽古風景を見る限り、新感染のような歌舞伎&ストレートプレイ&小劇団ネタ系のジャンルミックスがうまく融合した『阿修羅城の瞳』『髑髏城の七人』と同じ感覚で観られると思っていました。が、それは裏切られました。

良い意味ではきちんとミュージカルになっており思った以上に歌を堪能できたという部分。

反対に悪い意味では、新感線劇団員がミュージカルという枠なのなかで完全に浮いてて、どう贔屓目で見ても良いとは思えなかった部分。また演出のなかで頑張りすぎて違っちゃったという部分があり、その最たるものがモニター。多数使用していたのだが完全に邪魔だった。2階席から見るとチカチカして役者を観るのに邪魔になりうっとおしい。またその使い方も歌詞や台詞を映し出してみたり。おい、おい、歌の台詞を聞かせる自信が無いわけ?と邪推してしまった。

一番ダメだったのは脚本かも。あんなにだらだらメリハリの無いストーリーでいいんでしょうか?書きたくないけど正直に言えば、『SHIROH』という芝居のなかで新感線劇団員すべてがいなくても成り立ったであろう、そしてその部分を脚本で切ってしまったほうがより良い芝居になりそうと思ってしまう出来だったのが一番がっかりした部分です。これは新感線らしさを出そうとした演出のせいでもありますが、客演と劇団員がまるでかみ合ってない状況のなか、客演が良い出来だっただけに、劇団の贔屓役者の良さがまったく出てないというか悪い方向に出ているのを目の当たりにした悲しさに泣きそうになりました。観る人によってはあれでいいのかもしれないけど…だから劇団員個々に言及しません。

私が今回良かったと思ったのはすべて客演の人たちでした。特に上川さんは芝居の地力が違うという感じ。そして中川さんの歌のうまさと華だけで魅せられる存在に圧倒させられました。メリハリの無いストーリーでしたが個々の役者の魅力で持たせたようなものです。

上川隆也さんは小劇団出身でミュージカル初体験という新感線劇団員と同じ土俵にいるはずなのに、突出して役者としてのうまさ、凄さをみせました…。凄いと思ったのがミュージカルという演劇体系のなかにきっちり自分を持っていってしまっていた部分。これからミュージカルにもっと出ない?と言われてもおかしくない出来だった。歌はすごく上手いわけではないけど、台詞であり役の感情を表す表現としての歌がきっちり出来ていました。しかも声が艶やかで非常に聞きやすい。役柄的にはしどころが無い感じで難しい役だったと思いますが、それをまっすぐに演じて芯としての存在感がありました。

中川晃教さんは芝居はちょっと出来てない感じで台詞になかなか感情がのってこない一本調子。でも歌になると俄然、感情が表に表れてきます。歌い方はちょっと独特で正統派ミュージカルの歌い方ではない。でもハイトーンの歌声は今回の天の声を持つ天草四郎役にはピッタリだったと思います。またとても華があるのと同時に純粋な雰囲気が出ていたのも役柄的に良かったです。

高橋由美子さんは、TVのイメージと違っていて一番の驚きだったかも。あれほどきちんとミュージカル女優としての存在感があるとは思ってもみませんでした。芝居は元々うまいけど歌が非常に安定していて、時に激しい感情を歌にのせる部分がかなりの迫力。見直しました。上川さんと高橋さんのシーンをもっと増やしてほしいと思う。高橋さんはもったいない使い方だったなあ。

吉野圭吾さんはなんとネタキャラを振り当てられていたのですが、それがなんともハマってて楽しい。歌や身体性が優れているだけに、ネタキャラとして一番目立っておりました。劇団員を食ってましたね。彼を見てミュージカルでネタキャラをするときはミュージカル役者としての資質がないとダメなのねと思った…。

秋山菜津子さんは「うまい」その一言。ある意味一番キャラ立ちしていた。唯一、きちんと心情に訴えかけてくる役柄でキャラ的に美味しいとはいえ、表現のうまさでメリハリのないストーリーを救っていました。

泉見洋平さんは天草四郎の友人役。最初のうちはそれほど目立たず注目しなかったのですがなぜか途中から視線がいくようになりました。可愛らしい男の子といった一生懸命さに好感を持つといった感じ。歌も非常に上手という感じはしないのですが聞きやすく安定しておりました。

杏子さんはあのハスキーボイスがかっこいい。役に合ってるか?という部分ではちょっとどうかな?とも思うし、ミュージカルの歌い方ではなく、まさしくロックボーカリストの歌。でも、役云々ではなくやっぱり歌いだすとかっこいい~というあの存在感が私は好きです。あと歌ってる時の煽りのフリがうまい。自分がピンのときは控えめにしてるけどアンサブルで歌うときの踊り方がまさしくアンサブルを煽ってるような感じがする。あのノリの良さはボーカリストとして板に立ってきた人ならではで、つい目がいく。

江守徹さんは書くまでもなく、独特の存在感で舞台を支配しております。決してうまいとは思えないけどブルースのような歌が似合って、スコンと舞台にハマってる。また細かい台詞がしっかり届いちゃう台詞術にも、ああやっぱりうまいなと。この方が一番楽しそうにやってます。

アンサンブルは歌のハーモニーがとても良く、アンサンブルとしての仕事をしっかりこなしていて好感度抜群です。