歌舞伎座『十二月大歌舞伎 夜の部』3等B席前方上手寄り
今月のお目当ては菊五郎さんの『出刃打ちお玉』。池波正太郎さんがどんな歌舞伎を書いたのか観たくて。落としどころが池波さんだなあってちょっと思いました。面白かったです。『神霊矢口渡』は菊ちゃんが頑張っていました。『紅葉狩』は海老蔵さんはコミック歌舞伎道邁進中なのね、という感じでした。
『神霊矢口渡』
若手の女形さんを見せるのは格好の題材だなあと思いました。私はこれが初見。亀治郎さん、孝太郎さんが最近演じていらしたのですがこちらも見たかった。それぞれかなり違ったお舟だったでしょうねえ。
菊之助さんのお舟は品の良い可愛らしさのあるお舟。義峯に一目惚れするシーンはおぼこさがあってうっとりした表情が可愛い。それと女形の体の作りが非常に上手くなりましたねえ。特に肩のラインが柔らかくなった。後半、義峯の身代わりになった後、一途な部分はしっかりあって、義太夫へのノリも丁寧。菊之助さんらしい端正な娘で良いとは思うんだけど、この場はもっと恋情の激しさが欲しいような気がする。理が勝りすぎてる感じ。
富十郎さんの頓兵衛は少々迫力不足。姿は良いんだけど、力強さ、勢いがあんまりない。強欲さもそれほど見えなかったし。うーん、頓兵衛がもっと憎々しげだと面白いと思うんだけどな。
義峯の友右衛門さんが地味だけど品のよさと少々浮世離れした感覚があって思った以上に良かった。
うてなの松也さんは綺麗系で菊之助さんと好対照なのが良いけど裾の捌き方が雑。先月もちょっと思ったので松也さん、女形の時の裾捌きをもっと研究してくださいな。
『出刃打お玉』
菊五郎さん、私的に久々の大ヒット!。特に若い時のお玉が出色。菊五郎さんのお玉は色ぽくって、それでいて女気溢れていてすこぶるいい女。ちょっと男勝りで、さばさばしてて、でも女の色気はたっぷり。いいじゃないですか~、かっこいいです~。ただし後半の老婆になった部分が作りすぎじゃないでしょうか?ちょこちょこ歩くところなど、少しばかり受け狙いに走りすぎのような?老婆になったお玉はすごく哀しさのある女だと思うんですよね。その哀れさが隠れてしまう。幕切れ、もっと切なく出来るんじゃないかなあ。そのほうが私の好みだったりするってことなんですけど。
正蔵の梅玉さんもかなり良い味。青臭い23歳が妙に似合ってました。違和感ないんだもんなあ。そりゃ、「23歳」って言われた時には笑ってしまいましたけど、でもひ弱な純情男にどんどん見えてきちゃう。そして後半の変貌したエロおやじな正蔵も、慢心した雰囲気があって、世間のアカをいっぱいつけちゃった男って感じで良し。お玉の仕返しを「身から出たサビ」と言える、という部分がきちんとあった。
田之助さんの広円和尚がいかにも好色そうで、えーっ?田之助さん?ってちょっとビックリしました(笑)
おろくの時蔵さん、後半のイヤな女ぶりが良かったです。中年女性らしい体型を作ってきてて、それが雰囲気にピッタリで。
『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』
9月に復活舞踊として『鬼揃紅葉狩』を観たばかりですが、舞踊の構成としてはやはり『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』のほうがシンプルでわかりやすくて好き。ただ久しぶりに『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』を観て、『鬼揃紅葉狩』の花道の使い方は上手だったなあと思いました。
更科姫実は戸隠山の鬼女の海老蔵さん、何を目指しているんでしょう?先月演舞場に引き続き、「コミック歌舞伎」と名づけたい演じぶり。更科姫のほうはお顔は本当に美しくて姿も綺麗。肩のラインが男な部分を除けば、踊りのほうは一生懸命さがあって頑張ってると思いました。扇の捌きもしっかりしてましたし丁寧さに好感。ただ控えてる姿勢が赤姫じゃない。腕を落としすぎるし、ふらふらクネクネするのはよしたほうがいいかなあと。でも前半は十分な出来だと思いました。ビックリしたのは鬼女の正体を現す部分から…。ちょっとした仕草で魔性のもの、と知らしめるとこが上手く出てないなあ、なんて思っていた直後…、足を大またに広げ(股割りしてるのかってぐらい)着物の裾をばっさばっさと見得を切るのは正直、えっ?ええっと、それは鬼女ではなく、「おいらは男です」って正体現しただけでは?としか思えませんでした。鬼の魔性さは全然無いんですけど。で鬼女になってからは鬼女ではなく鬼というか、それは怪獣?「シャー」とか「ガーッ」とか吼えるのはアリなんでしょうか?まあ、パリのお客様にはわかりやすくていいかも?個人的には隈取の勇壮さで十分だとは思いますけど。まあそれはいいとしても正直、鬼になってからの踊りはいただけませんでした。海老蔵さんとしてはこちらのほうがきちんとしてないといけないと思います。腰がふらふらで全体的に美しくありませんでした。顔だけで表現しようとしないで体全体で表現するようにしていただきたいです。
海老蔵さんの関しては、才能があると思うからこそ期待してました。だからこその辛口感想です。ただこのところの海老蔵さんの方向性は私にはついていけないものがあるので、今月の評をもって海老蔵さんの芝居について感想を書くのを当分やめようかと思います。今の海老蔵さんの方向性を支持する方も多いことですし、辛口を書く自分自身がいやになってきました。そこまで思い入れをする必要もないし。
やりすぎ、という部分では岩橋の亀蔵さんもやりすぎ。「コミック歌舞伎」を助長させています。ほんのりした楽しさ、くらいまでに留めてほしかったです。
平維茂の松緑さん、踊りがとても丁寧で腰もしっかり決まっていて姿がよくなっています。かなり良い出来。ただし、酒宴の席での終始お堅い雰囲気なのはどうでしょ?不機嫌そうに見えるのはよくないかと。少し酔った風情や色気があるともっと良い維茂になるんじゃないかと思います。
局田毎の門之助さんが要所要所で締めており、また踊りも丁寧で非常に良かったです。
山神の尾上右近くん、声が辛そうでしたが頑張ってましたね。子役の頃のキレがまだ戻っていないようですがひとつひとつ丁寧でした。足踏みはもう少し力強くしてほしいかも。
今月のお目当ては菊五郎さんの『出刃打ちお玉』。池波正太郎さんがどんな歌舞伎を書いたのか観たくて。落としどころが池波さんだなあってちょっと思いました。面白かったです。『神霊矢口渡』は菊ちゃんが頑張っていました。『紅葉狩』は海老蔵さんはコミック歌舞伎道邁進中なのね、という感じでした。
『神霊矢口渡』
若手の女形さんを見せるのは格好の題材だなあと思いました。私はこれが初見。亀治郎さん、孝太郎さんが最近演じていらしたのですがこちらも見たかった。それぞれかなり違ったお舟だったでしょうねえ。
菊之助さんのお舟は品の良い可愛らしさのあるお舟。義峯に一目惚れするシーンはおぼこさがあってうっとりした表情が可愛い。それと女形の体の作りが非常に上手くなりましたねえ。特に肩のラインが柔らかくなった。後半、義峯の身代わりになった後、一途な部分はしっかりあって、義太夫へのノリも丁寧。菊之助さんらしい端正な娘で良いとは思うんだけど、この場はもっと恋情の激しさが欲しいような気がする。理が勝りすぎてる感じ。
富十郎さんの頓兵衛は少々迫力不足。姿は良いんだけど、力強さ、勢いがあんまりない。強欲さもそれほど見えなかったし。うーん、頓兵衛がもっと憎々しげだと面白いと思うんだけどな。
義峯の友右衛門さんが地味だけど品のよさと少々浮世離れした感覚があって思った以上に良かった。
うてなの松也さんは綺麗系で菊之助さんと好対照なのが良いけど裾の捌き方が雑。先月もちょっと思ったので松也さん、女形の時の裾捌きをもっと研究してくださいな。
『出刃打お玉』
菊五郎さん、私的に久々の大ヒット!。特に若い時のお玉が出色。菊五郎さんのお玉は色ぽくって、それでいて女気溢れていてすこぶるいい女。ちょっと男勝りで、さばさばしてて、でも女の色気はたっぷり。いいじゃないですか~、かっこいいです~。ただし後半の老婆になった部分が作りすぎじゃないでしょうか?ちょこちょこ歩くところなど、少しばかり受け狙いに走りすぎのような?老婆になったお玉はすごく哀しさのある女だと思うんですよね。その哀れさが隠れてしまう。幕切れ、もっと切なく出来るんじゃないかなあ。そのほうが私の好みだったりするってことなんですけど。
正蔵の梅玉さんもかなり良い味。青臭い23歳が妙に似合ってました。違和感ないんだもんなあ。そりゃ、「23歳」って言われた時には笑ってしまいましたけど、でもひ弱な純情男にどんどん見えてきちゃう。そして後半の変貌したエロおやじな正蔵も、慢心した雰囲気があって、世間のアカをいっぱいつけちゃった男って感じで良し。お玉の仕返しを「身から出たサビ」と言える、という部分がきちんとあった。
田之助さんの広円和尚がいかにも好色そうで、えーっ?田之助さん?ってちょっとビックリしました(笑)
おろくの時蔵さん、後半のイヤな女ぶりが良かったです。中年女性らしい体型を作ってきてて、それが雰囲気にピッタリで。
『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』
9月に復活舞踊として『鬼揃紅葉狩』を観たばかりですが、舞踊の構成としてはやはり『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』のほうがシンプルでわかりやすくて好き。ただ久しぶりに『新歌舞伎十八番の内 紅葉狩』を観て、『鬼揃紅葉狩』の花道の使い方は上手だったなあと思いました。
更科姫実は戸隠山の鬼女の海老蔵さん、何を目指しているんでしょう?先月演舞場に引き続き、「コミック歌舞伎」と名づけたい演じぶり。更科姫のほうはお顔は本当に美しくて姿も綺麗。肩のラインが男な部分を除けば、踊りのほうは一生懸命さがあって頑張ってると思いました。扇の捌きもしっかりしてましたし丁寧さに好感。ただ控えてる姿勢が赤姫じゃない。腕を落としすぎるし、ふらふらクネクネするのはよしたほうがいいかなあと。でも前半は十分な出来だと思いました。ビックリしたのは鬼女の正体を現す部分から…。ちょっとした仕草で魔性のもの、と知らしめるとこが上手く出てないなあ、なんて思っていた直後…、足を大またに広げ(股割りしてるのかってぐらい)着物の裾をばっさばっさと見得を切るのは正直、えっ?ええっと、それは鬼女ではなく、「おいらは男です」って正体現しただけでは?としか思えませんでした。鬼の魔性さは全然無いんですけど。で鬼女になってからは鬼女ではなく鬼というか、それは怪獣?「シャー」とか「ガーッ」とか吼えるのはアリなんでしょうか?まあ、パリのお客様にはわかりやすくていいかも?個人的には隈取の勇壮さで十分だとは思いますけど。まあそれはいいとしても正直、鬼になってからの踊りはいただけませんでした。海老蔵さんとしてはこちらのほうがきちんとしてないといけないと思います。腰がふらふらで全体的に美しくありませんでした。顔だけで表現しようとしないで体全体で表現するようにしていただきたいです。
海老蔵さんの関しては、才能があると思うからこそ期待してました。だからこその辛口感想です。ただこのところの海老蔵さんの方向性は私にはついていけないものがあるので、今月の評をもって海老蔵さんの芝居について感想を書くのを当分やめようかと思います。今の海老蔵さんの方向性を支持する方も多いことですし、辛口を書く自分自身がいやになってきました。そこまで思い入れをする必要もないし。
やりすぎ、という部分では岩橋の亀蔵さんもやりすぎ。「コミック歌舞伎」を助長させています。ほんのりした楽しさ、くらいまでに留めてほしかったです。
平維茂の松緑さん、踊りがとても丁寧で腰もしっかり決まっていて姿がよくなっています。かなり良い出来。ただし、酒宴の席での終始お堅い雰囲気なのはどうでしょ?不機嫌そうに見えるのはよくないかと。少し酔った風情や色気があるともっと良い維茂になるんじゃないかと思います。
局田毎の門之助さんが要所要所で締めており、また踊りも丁寧で非常に良かったです。
山神の尾上右近くん、声が辛そうでしたが頑張ってましたね。子役の頃のキレがまだ戻っていないようですがひとつひとつ丁寧でした。足踏みはもう少し力強くしてほしいかも。