Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立小劇場『九月文楽公演 第一部』 1等真ん中下手寄り

2012年09月15日 | 文楽
国立小劇場『九月文楽公演 第一部』 1等真ん中下手寄り

第一部公演は歌舞伎でもよく上演される演目で比べながら拝見。

『粂仙人吉野花王』
この演目は珍しく歌舞伎『鳴神』のほうが先にあって文楽に取り入れたんだそうな。女性の人形に珍しく足が付いていました。時代設定と名前が違うだけで内容はほとんど歌舞伎と同じ。芝居構成がまんま歌舞伎と同じ。ただ文楽のほうが粂仙人(歌舞伎:鳴神上人)と花ます(歌舞伎:雲の絶間姫)のかけひきがちょっと少なくて仙人がすぐ破戒してしまう(笑)。この演目に関しては役者の腕云々はその時々であるけれど全体の見せ方やかけひきの面白さで歌舞伎のほうに軍配があがるかな。とはいえ文楽には文楽のよさはありエロチックな場面でも品が保たれ華やかな舞台を気持ちよく楽しめる。

太夫では千歳大夫が花ますの仕方話をほんのり色気を含ませつつくっきりと聴かせてきて、言葉をハッキリ聴かせるだけじゃない情感が出てきたなあと思いました。

人形では、清十郎さんの花ますがかけひきの部分で自信をもってというより一生懸命にな雰囲気があって可愛らしかったです。玉也さんの粂仙人は生真面目でお硬い感じがありころっと破戒してしまう様子に可笑し味を与えていました。

『夏祭浪花鑑』
歌舞伎でもよく上演されますがこの演目に関しては歌舞伎独特の入れごとがほとんどないことを知りました。戯曲自体がかなりよく出来た構成なので演出変えたり入れごとが入る隙があまり無いのかもしれない。

歌舞伎では省略されてしまう「道具屋内の段」がつきます。この段を見ると磯之丞の女癖のひどさが…。ほんとにひどい男だ。こんな男のためになぜ身を張らなきゃいけないの?って感じでした…。磯之丞は若い女性のとこに預けちゃダメだ、っていうのはよーくわかりました。道具屋の段がなくてもダメ男だと思っていたけどほんとにひどいダメ男…。磯之丞を守る理由が知りたいです。「住吉鳥居前の段」より前の段を復活してもらいたいです。「道具屋内の段」は場面として外しやすい場面だなとは思いましたが義平次の性根の悪さとか磯之丞のだらしなさはよくわかりますので物語としての説得力は増しますね。

太夫では文字久大夫が住大夫休演で2場面を語ることになりましたがかなり頑張ってらして場の情景がしっかり伝わってくる語りで聴き応えがありました。「長町裏」での団七の源大夫さんは調子があまり良くないのか声量があまりなく祭の音に声が時々消されてしまい気の毒。他の段で語っていただくという選択はなかったのでしょうか。

人形では蓑助さんのお辰が格の違いを見せます。蓑助さんが女の人形を遣うのは久しぶりに拝見しましたがやはりこの方は女のほうが本領ですね。人形に血肉を与えるのが本当に上手い。お辰の凛とした色気とそのなかの鉄火な性根を細かい仕草で見事に伝えてきます。玉女さんの団七が大きくダイナミック。このところ人形の全体の形が良くなってきて勢いが出てきたかなと思います。勘十郎さんの義平次はこせこせした細かい仕草が上手く義平次の性根のいやらしさをあますことなく表現。