Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席左袖席

2011年04月16日 | 歌舞伎
新橋演舞場『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席左袖席

『江戸みやげ』
楽しかったです。笑わせてほろりとさせていいお話でした。最近、新歌舞伎の中途半端な古い価値観での理屈ぽい芝居に飽き飽きしているのだけど、新歌舞伎でもこういう普遍な人情味のある芝居だったら歓迎です。やっぱり芝居は脚本次第だよなあってつくづく思いました。

おゆう@翫雀さんがとても良かったです。酒好きのおおらかで人の良いおゆうを自分のキャラクターに引き寄せて いかにも田舎にいそうな可愛らしい太っ腹なおばちゃんを造詣。「いるなあ、こういうおばちゃん」と親近感が湧く。また、心根の優しさが滲み出て、お辻への思いやりが自然。上演中に地震があってヒヤッとしてたのですが翫雀さんがおゆうのキャラそのままで「今日の揺れは長いべね~」ってアドリブで笑わせて、そのおかげで落ち着いて和みました。観客から大きな拍手。

お辻@ 三津五郎さん、こういう役を演じるというのが想像できませんでした。そういう意味でよくこなしていたと思います。まじめで金勘定のうるさいしっかり者のおばちゃんがお酒に酔って大きな気持ちになったところに綺麗な役者に一目惚れ。その役者の難儀をほっておけずに。というキャラをよくとらえてお辻の一生に一度の恋を際立たせていました。しかし、雰囲気がすっきりしすぎて田舎モノの朴訥さが出てないのがちょっと残念だったかなあ。

文字辰@扇雀さん、お金欲しさに娘をめかけにしようとする業欲な母親をてらいなく。ちょっと剣のある居高な役は華やかで押し出しの強い扇雀さんにピッタリ。こういう気の強い女のほうが似合いますよね

阪東栄紫@錦之助さん、いかにも二枚目役者で甲斐性なしな感じ(笑)がピッタリで気の強い女の子に惚れるのにもしっくり、おばちゃんが惚れるのも納得。

お紺@孝太郎さん、こういう気が強いけど男に一途な役はピッタリですね。もうちょっと可愛げでもいいかも。(昨年7月松竹座『竜馬がゆく』のお龍の時のほうが可愛かったような気が)

市川紋吉@萬次郎さん、儲け役を楽しくたっぷりと。上手いです。

女中お長@右之助さん、鳶頭六三郎@亀鶴さん、角兵衛獅子@巳之助さん&子役、それぞれが適材適所で良かったです。

『一條大蔵譚』
個人的好みからすると少々全体的にまったり薄味だったかな。もう少し義太夫味のこってり感が欲しかった。いかにも菊五郎劇団らしいすっきりとした品のよい味わいではありましたが。2008年1月の歌舞伎座での吉右衛門さんの『一條大蔵譚』がインパクト強くて…。芝居の作り方が菊五郎さんと吉右衛門さんではまったく違うので比べることはできないのですが…。

一條大蔵長成@菊五郎さん、作り阿呆の部分では全体的にさらりと品よく。それほど惚けた阿呆ぶりは見せません。あくまでも作った阿呆であるというのを観客に感じさせます。なので後半の本性を現す部分でにインパクトは少なめ。また正気と阿呆のいったりきたりをほとんどみせてこないですね。阿呆と本性が一体化している。一環して源氏に繋がる身である人物として存在している。公家というより源氏の武士のとしての佇まい。そういう意味では一條大蔵長成の得体のしれない凄みはありません。あえてこういう演じ方をしているのでしょうね。「とっとといなしゃませ」は強く一気に言っていました。公家というよりやはり武士の心持ちなのかなと思いました。

常盤御前@時蔵さん、すっきりと美しく、いかにも常盤御前という風貌が良いです。自身の哀しさというものが寂しげな表情にあります。しかし平家への憎悪の面はちょっとあっさりかなあ。このお役難しいですよね。

吉岡鬼次郎@團十郎さん、若々しい風貌。さすがにこの役としてはちょっと押し出しが強すぎる気もしますが存在感があります。とはいえ台詞や所作が少々雑な感じ。決まりが流れてしまってもったいないかな~。

お京@菊之助さん、年齢を感じさせない貫禄。團十郎さんと並んで負けないのが凄いと思いました。芝居のほうは丁寧に型通りという感じか。とはいえ役者本人としての色が出てきてるのがよいです。

八剣勘解由@團蔵さん、團蔵さんらしい鋭い勘解由。まじめになので敵役のおおらかさはありませんが憎たらしい部分は充分。

鳴瀬@家橘さん、声の調子がやられてしまっていたのが残念。       

『封印切』
『封印切』はくどいくらいに濃厚たっぷり。今のところこのたっぷりとべたっとした湿度ある空気感を出せるのは藤十郎さんしかいませんね。貴重な味わいだと思いますが、藤十郎さんの世話物は私にはちょっとくどすぎてしまいます。時代物だとこの藤十郎さんの濃さがとても好きなのですが…。

『封印切』は今は成駒屋型と松嶋屋型に分かれます。芝居全体の基本は一緒ですが舞台の構造と封印を切ってしまう心持ちの部分、そして最後の引っ込みが違います。成駒屋型はあくまでも忠兵衛中心での演出であり、封印切のきっかけは「はずみ」。引っ込みは風俗のリアルさを取り入れ、梅川を先に行かせ、あとで忠兵衛が追いかける。松嶋屋型は忠兵衛と梅川カップルの引き返せない深みにはまったカップルの恋愛模様が中心。封印を切るのは梅川に嫌われたくなくて自ら、そして引っ込みは手を繋いでの死を覚悟した逃避行。

亀屋忠兵衛@藤十郎さん、藤十郎さんにしか出せない味わいのたっぷりとした忠兵衛。じゃらじゃらと短絡的で自尊心が高いゆえに身の破滅に陥る情けない男です。それを押し出し強く、こういうもんじゃという人物造詣で見せていきます。台詞廻しもすでに藤十郎さん型という感じにまでいってる感じですね。

梅川@扇雀さん、いかにも遊女といった崩れと豊満な色気。丁寧に可愛らしく演じようとしていると思いますが私が求める梅川像からすると線が太いというか強いなあ。もっと芯の強さのなかに一途さ弱さが欲しいのです。とはいえ藤十郎さんとのバランスでいえばちょうど良いのかもしれません、

八右衛門@三津五郎さん、歌舞伎の八右衛門は文楽の本当に友人としての八右衛門とは違い完全な憎まれ役です。その憎まれ役という部分を押し出して忠兵衛を追い込んでいっていました。三津五郎さんは上方の役者に囲まれかなり不利な条件のなか上手さを出して小憎らしい八右衛門を造詣していました。

おえん@秀太郎さん、当たり役だけあって自由自在。かなり濃く演じている忠兵衛@藤十郎さんをうまく受けて、時にいなして演じていきます。独特の色気と色町のおかみの矜持をもつ芯とのバランスが絶妙。

治右衛門@我當さん、非常に良い味わい。我當さんの世話物のこの位置での役柄は本当に「らしく」てしっくりきます。槌屋主人としてのずっしりとした存在感。