Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

2017年03月04日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

『引窓』
この演目が好きということもあり、昼の部での疲れを忘れて楽しんだ。私は幸四郎さんが座頭の時の芝居のアンサンブルに心地良さを感じるようだ。役者として押しが強くそこに目が行き勝ちだけど、それ以上に周囲とのバランスもよく考えていると思う。役者たちの役のなかにある個性を大事にしている感じがします。

南与兵衛@幸四郎さんはこの役はとても久しぶりに拝見。以前のは義に厚いヒーロー的なカッコイイ南与兵衛だったという記憶。今回はその部分もありつつ、情の厚さ、根の優しさが前面に出ていたように思う。どちらかというと武張っていて町人らしい柔らかさや愛嬌とか色気はあまりないのだけど、無骨さのなかに義母お幸と濡髪長五郎への心配りを見せていく。母を終始立てるとても大人な南与兵衛。

幸四郎さんのことだからもっと前に出ることもできるはずだけど押さえて受けに徹し、お幸と濡髪親子を立てていた。最近『双蝶々曲輪日記』の通し狂言で濡髪を演じたことで、南与兵衛という人物像を再構築したかなと思ったり。それにしても出るところと押さえるところの緩急がほんと巧い。見せ場になると一瞬で惹きつける。若々しい。

お幸@右之助さんがとても良かった。控えめななかの情の強さが右之助さんらしさ。母として義理の母としての揺れ動く心持ちが佇まいにも台詞廻しにもあますことなく表現されていた。この手のお役をぜひきわめてほしい。弱さのなかの強さ、というところを演じられる老けの女形さんは少ない。とても貴重。

濡髪@彌十郎さん、大きい体躯だからの大きさだけではなく追われる立場のやるせなさ、母への思い、真っ直ぐな気性といった役の輪郭を丁寧に太く演じることで存在感をみせてきたと思う。

魁春さんのお早は遊女だったというじゃらつきは少ないんだけど一生懸命生きてきた女だなと思われるとこと、手に入れた大好きな家族を守ろうとしている健気さがあっていいなあと思う。


『女五右衛門』
役者を観て楽しみ、絢爛な大道具を楽しめばそれでよし。藤十郎さん、いつまでもお元気でいてください!仁左衛門さんはひたすらスマートでかっこよし。

『助六由縁江戸桜』
歌舞伎十八番のなかでも人気の華やかで楽しい演目。物語がわかりやすい作りで曽我ものを知らなくても楽しめるし、個性的な登 場人物たちにそれぞれ見所を設けているし。よく出来た演目だなと思う。河東節が成田屋だけのものになったのは実は最近だそうな。

海老蔵さん@助六、一番合うお役だと思う。拵えがほんとに似合う。回数を重ねた役だけあって難しいであろう出端のところがひとつひとつ丁寧でありながら自然。だいぶ落ち着いた感じでやんちゃな青年からちょっと落ち着いた大人な雰囲気になったなあ。出し方もだいぶ落ち着いてきてるかな。いわゆる台詞廻しはいつも通りだけど聞き取り易くなってたような。私の好みの問題だけど、ここは絶対團十郎さんの台詞廻しでお願いってとこが一番違ってたりするのがチト残念。

揚巻@雀右衛門さん、華やかさを前面に出さないといけない役なのでちょっと心配していたけど、余計な心配でした。美しさだけでなく華やかさもあり。揚巻を演じる役者としての格もあったと思う。お父上にますます似てきたな。台詞回しや声がお父様にかなり似てた。人気傾城としての大きさ、プライドの高さみたいなのは無いけど助六をたしなめるのも庇うのも、愛らしさや恋する人への一途さのほうが強く出ているのがらしいなあと思う。助六@海老蔵さんと並んでまったく違和感なく恋人同士に見えた。

白酒売り@菊五郎さん、キュートで華やかで明るくてほわほわっとしていて、でも兄としての芯がそこはかとなくこれぞ白酒売りといった風情。出た北だけで舞台を大きくし舞台の空気を濃くする。舞台が一段と明るくなるのよね。根っからの明るさというか開放感のある白酒売りは菊五郎さんの次は勘三郎さんのはずだった。次世代でこういう白酒売りができる役者がいるんだろうか?と不安になる。陽の役者が今、少なめよね。