晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「戦場」(49・米)75点

2020-07-26 16:34:55 | 外国映画 1946~59


 ・ リアル感満載の米軍前線兵士を描いたウェルマン監督によるバルジの戦い。


 第二次大戦末期、独軍の反撃によるバルジの戦いでの米軍101空挺師団第3小隊をモデルにした群像劇。低予算で良質な作品を作るドア・シャリーがMGM移籍後の初作品で、監督はスピルバーグが敬愛し第一回オスカー作品賞(「ツバメ」)監督であるウィリアム・A・ウェルマン。

 パリ入りを目前にしたウォルツ曹長率いる第3小隊はクリスマスを祖国で祝うことを楽しみにしていた。ベルギー・バストーニュ地方の民家に宿営中、戦地へ出動命令が出て舞い戻ってくるハメに・・・。

 ドイツ軍と連合国軍の戦車での壮大な戦いで有名ないわゆる<バルジ大作戦>は何度も映画化されているが、僅か5年後に米軍の小隊の視点で描かれた本作は、戦車の戦いはなくフィクションとはいえリアル感満載の隠れた名作だ。

 戦況も分からず、何処で戦っているかも知らされず命令のまま戦っている前線兵士の実態を、ときにはユーモアを交え臨場感たっぷりに描いたウェルマン監督。
 ウォルツ隊長後退後代わりに指揮を執ったホーリー(ヴァン・ジョンソン)を始め、想像とは違って戸惑う予備兵レイトン(マーシャル・トンプソン)、雪を観て大はしゃぎするロドリゲス(リカルド・モンタルパン)、凍傷で足を引きずりながら奮闘するキニー(ジェームズ・ホイットモア)など、逸話を挟みながら霧の中前進する彼ら。ロバート・ピロッシュの脚本とポール・C・ヴォーゲルのカメラがオスカーを受賞しているだけあって、等身大で兵士の心理状況と戦場の緊迫感が伝わってくる。

 ドイツ司令官へ「NUST!」といった実話も出てくるが、ヘルメットで卵焼きを作ろうとして煙りが敵に知れると慌てて消したり、合い言葉が<テキサス・リーガーズ・ヒットとは?>など如何にもアメリカ的だったりする。一方、突然霧の中銃撃戦で「ママ~」と言って死んで行くシーンなど逸話のオンパレードは戦場とはこうだったのでは?と思わせる。

 <バストーニュのサンドバッグ野郎>とは彼らへの敬意を込めた愛称だが、霧が晴れ空からの軍用機による大量補給物資が戦史に残り彼らの奮闘ぶりは忘れ去られる運命にあった。

 従軍牧師による<この戦争は必要だったか?>という問いには誰も答えなかった。牧師の答えは<自由社会のため必要>だった。<正義のための戦争はない>というのが定説だが・・・・。
 
 戦争を別な切り口で描いた良作だ。
 

「ニノチカ」(47・米)75点

2020-07-23 12:03:20 | 外国映画 1946~59


 ・ ルビッチ監督G・ガルボ主演の洗練されたソ連風刺コメディ。


 サイレント全盛期の名監督エルンスト・ルビッチによるコメディ。41才で引退し伝説の女優となった元祖クール・ビューティ、グレタ・ガルボの主演。当時34才時で笑わない女優の彼女が大笑いするシーンで話題を呼んだ。キャッチフレーズは<ガルボが笑った!>。

 スターリン体制のソ連国家所有の宝飾を売るためパリにやってきた貿易委員3人組の監視役ニノチカ(G・ガルボ)。厳格な共産党員の軍曹がレオン伯爵(メルヴィン・ダグラス)との出逢いを通し自由な社会を知っていく寓話的ラブ・コメディ。

 当時の国際情勢ではナチス・ドイツへの警戒が趨勢だろうと思うが、アメリカは労働者の革命によって生まれた理想社会を謳う社会主義国家ソ連を風刺したコメディを早くも製作していた。

 ガリガリの共産党員ニノチカは華やかなパリで軟弱なプレイボーイのレオンの強引なアタックにも反応しなかった。キスにも「科学的には既に共鳴しあっている」といいながら、最先端のファッションで身を包み鏡に見とれる女心。

 極めつけは労働者食堂でのレオンがずっこける姿を観て思わず笑いが込み上げバカ笑いするニノチカ。いつしかシャンパンを愛しレオンとの逢瀬を待ち焦がれるように・・・。

 二人に嫉妬したのはスワナ大公妃(アイナ・クレア)。宝飾品を取り上げられ、オマケに愛人のレオンまで奪われるのは我慢できない。公務を忘れそうになったニノチカに二者択一を迫る。

 レオンは大公妃の庇護のもと爵位という特権階級を欲しいままに暮らしてきた微妙な立ち位置。自由主義の背景も欺瞞だらけだが、ソ連帰国のニノチカにラブレターを送り続ける。検閲で真っ黒な手紙にも<思い出だけは検閲できない>というほど愛一筋。

 狂言回しの3人組が愛のキューピットとなるラブ・コメディは、プロパガンダ映画を巧く笑いに包んだルビッチのさじ加減で口当たりのいい料理と化した。

 影で支えたのはルビッチを師と仰ぐビリー・ワイルダーが、チャールズ・ブラケットとともに書き起こした脚本であることも納得だ。

「炎のランナー」(81・英/米)75点

2020-07-14 12:08:24 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 100年前の実話をもとに、二人のランナーを通してオリンピックとは?を改めて想う。


 東京オリンピックの開催が新型コロナの影響で不透明のなか、’24パリ・オリンピックで活躍した二人のランナーを通して当時の英国がどのような時代だったかを描いた人間ドラマ。監督はヒュー・ハドソンで作品・脚本・作曲・衣装デザインのオスカー4部門受賞。

 あまりにも有名なヴァンゲリスによる流麗なテーマ音楽にのって始まるこのドラマは二人の実在人物が中心で、英国ケンブリッジ大学の短距離走者エイブラハム(ベン・クロス)とリデル(イアン・チャールソン)。二人は良きライバルだが、走ることの意義は好対照である。
ユダヤ人のエイブラハムは、排他主義が深く根強い英国において栄光を勝ち取ることで真の英国人であることを認知させる必要があった。
対するリデルはスコットランド人牧師として神のために走るという篤い想いからであり、いずれも<英国の栄誉のため>は副次的なものであった。

 近代オリンピックの精神は参加することに意義があると言われてきたが、100年前から国家高揚のためであったことは間違いない。加えて英国にはアマチュアイズムが建前として根強く、人種の壁も厚いものがあった。 
代表には選ばれたもののリデルに敗れたエイブラハムは、どうしても勝ちたいとイタリア系のプロコーチ、サム・ムサビーニ(イアン・ホルム)に指導を受け学内で批判されるが敢然と拒否、その必死さは並大抵ではなく相当なもの。

 オリンピックの実話をもとにしたドラマというと涙と感動を前面に押し出したストーリーを思い浮かべるが、本作は趣が少し違っていた。
若者たちの友情や進路の悩み・恋愛も描かれるが、むしろオリンピックを通して英国社会の歪みを浮き彫りにした辛口な味付けが印象的。それはエンディングでも表れていた。

 100年後パリで再び開催されるオリンピック。その意義や出場国の多彩さは隔世の感がある。オリンピックにまつわるドラマはこれからも続いて行くことだろう。

 追記:筆者のブログPV数が100万に達しました。つたない映画プレビューを読んで頂き本当にありがとうございました。これからもマイペースで綴って参りますので,機会がございましたら覗いて頂ければ幸いです。

 

「ハリーの災難」(55・米)75点

2020-07-05 13:09:31 | 外国映画 1946~59


 ・ヒッチコックによるエンディングが微笑ましいブラック・コメディ。


 アルフレッド・ヒッチコックがジャック・トレヴァー・ストーリーの原作を映画化したブラック・コメディ。「34丁目の奇跡」のエドモンド・グエン、ジョンフォーサイス、これが映画デビュー作のシャーリー・マクレーン、ミルドレッド・ナトウィックの共演。

 紅葉が色鮮やかなバーモント州のある村。森のなかで男の死体が見つかる。発見者は4才の男の子アーニーだが、自分が殺してしまったのでは?という人物が3人いた。やがて男はハリーという名で保身のため埋められたり掘り返されたりされるハメに・・・。

 最初に現れたのは元船長のアルバート(E・グエン)で禁猟区でウサギを撃ったつもりがハリーに当たったとオドオドする。
 そこに現れたのは中年独身女性・アイビー(M・ナトウィック)でアルバートは経緯を話しお昼の約束を取り付ける。次に現れたのは息子アーニーの母ジェニファー(S・マクレーン)でハリーは夫だと判明する。
 不思議なことに死体を観ても二人とも驚いたり嘆き悲しんだりしないこと。さらに流れ者はハリーの靴を持って行くし、歩きながら読書の医者は死体につまずいても気づかない。売れない青年画家サム(J・フォーサイズ)は死体のスケッチをする始末。

 悲壮感皆無のシュールな展開だが、まるで舞台劇を観ているような錯覚に陥る流れは、ヒッチ独特の人間心理描写と演技上手な俳優に身を委ねてしまう。

 ヒッチ自信満々の作品は、テンポのある米国向けのコメディではないため不評だったが欧州(特にパリ)では大好評で面目を施し、次回作「知りすぎていた男」の大ヒットへとつながった。
 おなじみのカメオ出演は凡そ20分後、大富豪の車の奥に歩いている男で登場している。

 20才で映画デビューしたS・マクレーンの若いママ役はベテラン陣に囲まれても物怖じしない堂々の演技。その後「アパートの鍵貸します」(60)、「あなただけ今晩は」(63)、「愛と喝采の日々」(77)、「愛と追憶の日々」(83)など長年第一線で活躍、「あなたの旅立ち、綴ります」(18)でも健在ぶりを発揮し、生涯女優を貫いている掛け替えのない存在だ。

 死体を埋めたり、掘り返したり人間の尊厳を無視したようなコメディだが、初コンビのバーナード・ハーマンの音楽とともに微笑ましい台詞でハッピーエンドとなるまで和ましてくれた。