・歌と愛に生きたカラスを一人称構成で描いたドキュメンタリー。
20世紀最高のソプラノ、マリア・カラスの人生を描いたトム・ボルフ監督によるドキュメンタリー。未完の自叙伝原稿や400通あまりのプライベートな手紙、世界中から集めた映像をもとにオペラ歌手としての信念と女性として愛に忠実に生きる姿が一人称構成で描かれる。
手紙の朗読や語りを「永遠のマリア・カラス」(02)で晩年のカラスに扮したファニー・アルダンが行っている。
厳しい母親の監視のもと英才教育を受けた貧しい少女時代。13歳のとき17歳と偽って音楽学校に入学、誰よりも早く来て遅くまで残っていた逸話に始まり、高度なベルカント唱法とエキゾチックな風貌でカリスマ性のあるディーバとなっていくさまが本人の語りや元教師の言葉で綴られる。
一方ローマ歌劇場での一幕で降板しバッシングを受け、メトロポリタン歌劇場の支配人とのバトル、オナシスとの大恋愛と夫との離婚などスキャンダルがメディアに取り上げられることでオペラそのもの以外で絶えず話題となった。
歌姫として栄光と挫折を重ねた53年のドラマチックな人生を送ったカラス。映画の題材には興味深い人物だけに21世紀になって3度映画化されているが、マリア・カラスやオペラに詳しくなくても充分楽しめる構成となっている。
彼女自身の舞台でお馴染みの<ノルマ>や65年のメトでの<トスカ>、<カルメン>や<私のお父さん>などファンでなくても聴いたことがある曲も随所に登場するが、筆者には蝶々夫人の舞台が最も新鮮だった。
自叙伝をもとにした構成からマリア・カラス賛歌の視点で描かれて一人称構成が相応しいつくりのため、ドキュメンタリーとしては甘さもあるが、もろさと強さを兼ね備えた歌姫マリア・カラスの素顔に迫るものがちりばめられてていた。
数々のスキャンダルにもメゲズ、<歌は私の唯一の言葉だから>といった彼女の記憶が21世紀も消えることはないだろう。
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