晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「スプラッシュ」(84・米 )70点

2018-11-29 16:34:28 | (米国) 1980~99 


・ 大人向け実写のラブ・ファンタジーはディズニー起死回生のヒット作。

幼い頃海で溺れたとき助けてくれた人魚の少女が忘れられないNYで青果卸業を営む青年が、ゴッド岬で美しい娘に出逢ったが、その時の人魚だったというファンタスティック・ラブストーリー。
ロン・ハワード監督がトム・ハンクスを起用したディズニーの大人向け実写第1作目で、起死回生のヒット作となった。

E&Tの人魚版と言われた本作。きわどい題材のファンタジー化はリスクの高いものだったが、NY市街地のカーチェイスなどふんだんに製作費を賭けた冒険が見事に実を結んだ。

ギレルモ・デル・トラ原案という今年のオスカー作品「シェイブ・オブ・ウォーター」は本作のリメイクでは?と思わせるほど構成が良く似ている。

主演のT・ハンクスは当時コメディタッチの青年役に定評があり、その愛くるしい眼差しが武器だった。本作では人魚と分かった途端ショックのあまり途方に暮れるなど、頼りないところもありとても人間らしい。

ヒロインの人魚・マディソンを演じたダリル・ハンナは人魚にふさわしい体形と金髪が眩しい。裸体もラブシーンも厭らしさがなく、手掴みでロブスターに噛みつくところなど圧巻の演技。

コメディ・リリーフとなったコーン・ブース博士(ユージン・レヴィ)、兄フレディ(ジョン・キャンディ)の二人が奮闘し、ドラマの推進役としていい味を出してくれている。

R・ハワードとT・ハンクスは「アポロ・13」(95)、「ダヴィンチ・コード」(06)と11年ごとコンビを組み大御所となって行くが、その原型が本作であることが何とも懐かしい。




「東京暮色」(57・日 )70点

2018-11-26 10:51:47 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)


・ 「エデンの東」をヒントにした小津最後のモノクロ作品は失敗作?

「晩春」(49)から「東京物語」(53)まで、戦後の中流家庭の父と娘の絆を軸に夫婦や家族の在り方を描いてきた小津安二郎が、「エデンの東」をヒントに野田高悟との共同脚本で映画化した最後のモノクロ作品。笠智衆の父、原節子の娘に新人の有馬稲子が次女役で加わっている。

銀行の監査役である杉山周吉(笠智衆)が男手で育てた娘ふたり。長女孝子(原節子)は父が勧めた夫と巧くいかず、ひとり娘を連れて実家へ戻っている。
次女明子(有馬稲子)は恋人を追いかけているが、逃げ回られている。
そんななか、戦前家族を捨てた2人の母親の消息が分かる。

小津といえば原節子がヒロインで父親想いの娘が定番だが、成瀬己喜男が原を起用した「めし」(51)では慎み深いが行動的で内面の葛藤がある女を演じている。
その成瀬が高峰秀子主演の「浮雲」(55)でドロドロした男女の関係を描いて評判を呼んでいた。

本作は前作「早春」(56)同様、男女の関係を描くことは不得手だという定評を覆したいという小津の成瀬への密かな対抗意識で作られたような気がする。

ローアングルでの固定カメラで陰影ある映像は相変わらず小津調だが、家族の崩壊という得意のテーマでありながら余りにも暗く救いのないストーリーは<エデンの東>の翻案に拘りすぎ、野田高梧との確執も尾を引きシナリオに忌憚を来した感がある。

メロドラマ風を避けた乾いた描写は救いのない暗いドラマという印象から抜け出せず、自信満々の作品にも拘らず評価は今ひとつだった。終始流れる斎藤高順の軽快な音楽が流れ、内容の暗さを中和させようという斬新さはあったが大成功とは言い難い。

日本の朝鮮出兵から始まった戦争による家族形態の変化を描き続けてきた小津にとって、その延長線に本作があった。

周吉が京城出張中に夫の部下と不倫の末満州へ逃げる妻を大女優・山田五十鈴が演じている。夫と子供を捨てた大陸から引き揚げ、別の男と麻雀屋を経営しているという設定にも関わらず生々しさが伝わってこなかったのは・・・。
岸洋子の代役で演じたヒロイン・有馬稲子の初々しい美しさは際立っていたが、原節子も脇に回って中途半端な感は拭えない。

それでも、笠をはじめ中村伸郎、杉村春子、山村聰、田中春男、藤原釜足などお馴染みの面々が登場。上野駅でのシーンや自宅前の坂道のカットなど随所に流石と思わせるカットがあって、最後まで目が離せない140分だった。

「モリーズ・ゲーム」(17・米 )65点

2018-11-24 14:10:23 | 2016~(平成28~)


・ 実在ポーカー・ルーム経営女性の栄光と挫折をA・ソーキンが初メガホンで描いた半生記。

セレブが集うポーカー・ルームの若き女性経営者モリー・ブルームの半生記をもとに「ソーシャル・ネットワーク」の脚本家アーロン・ソーキンが初メガホンで撮った栄光と挫折の物語。主演は「女神の見えざる手」のジェシカ・チャステイン。

モーグルで全米オリンピック候補のモリー(J・チャステイン)は予選会でケガをして引退。ロースクール生で頭脳明晰な彼女だったが、休学中アルバイト先のハリウッド・クラブ常連客ディーン・キース(ジェレミー・ストロング)にスカウトされ、セレブが集まる高級ポーカー店のアシスタントとなる。

客のチップが収入源だったが、その才能は桁外れで映画スター・プレイヤーX(マイケル・サラ)と組んで独立。順風満帆のときFBIからゲーム手数料(レーキ)を取った疑いで全財産を差し抑えされ一文無しとなってしまう。

さらに2年後突然逮捕される。FBIの狙いは?

M・ザッカーバーグ(ソーシャル・ネットワーク)、B・ビーン(マネー・ボール)、S・ジョブス(スティーヴ・ジョブス)など実在人物のサクセス・ストーリーの脚本を手掛けているA・ソーキンは、当初興味を示さなかった。

だが、回顧録を読み本人に会って即座に撤回、シナリオのみならず監督まですることに。彼女を弁護するチャーリー・ジャフィー弁護士(イドリス・エルバ)は自身を投影した役柄として登場している。

ソーキンは彼女を父親(ケヴィン・コスナー)との関係を絡め高潔さと負けず嫌いの人格形成にスポットを当て、栄光と挫折から再起へと歩もうとするキャラクターを膨らませている。

一大スキャンダルとなった回顧録には実在の顧客名(L・デカプリオ、T・マグワイア、B・アフレック、A・ロッドなど)があったが、本作では顧客名は決して明かさなかったという設定で、ロシアン・マフィアとの関係もフィクション?とのこと。

男性社会の中で頭脳明晰のエリート女性による栄光と挫折の末、自らの才覚で切り抜けようとポジティブに行動するヒロイン像といえば、J・チャステインしか思い浮かばないほどのハマリヤク。年齢不詳で20代でも通用するはち切れそうな若さと魅力を発散している。

その脇を固めるのがI・エルバとK・コスナーという主役級の存在が贅沢だ。そのため少しいい人過ぎる感も無きにしも非ずだったが・・・。

時系列ではなく過去と現在をシャッフルし、洪水のようなマシンガン・トークの展開はテンポよく140分の長さは感じなかった。

17世紀末に起きた<セイラム魔女裁判>(アーサー・ミラーの戯曲)のような事件だと例えた本作。モーグルも人生も一寸先は闇だが、モリーのように周囲のバックアップと自らの才覚で光が見えてくることで世の女性に共感を与えてくれる。



「ファンタム・スレッド」(17・米 )70点

2018-11-22 12:04:03 | 2016~(平成28~)


・ 2度目のタッグを組んだP・T・アンダーソン監督とD・デイ=ルイス主演作は究極の?ラブ・サスペンス。

50年代のロンドンで高級仕立服の天才として知られる「ハウス・オブ・ウッドコック」の経営者レイノルズ(D・レイ=ルイス)が、平凡なウェイトレス・アルマ(ヴィッキー・クリーヴス)を自身のミューズとして迎える。完璧を目指すエゴイストと若きミューズとの禁断の愛の物語。原題は「幻の糸」という意味でオスカー6部門ノミネート作品。

若くして欧州3大映画祭の監督賞を受賞したアンダーソンと「マイ・レフトフッド」「ゼアウィルビー・ブラッド」「リンカーン」で3度オスカー受賞のデイ=ルイスのタッグは、「ゼアウィルビー・ブラッド」以来2作目。

本作で俳優業引退表明したダニエルの役作りアプローチはデ・ニーロと双璧で、今回も衣装作りを1年間学んで挑んでいる。

脚本はもとより撮影まで関わった完璧主義者のアンダーソンとは似た者同士だ。

天才にありがちな自分のスタイルを崩さないレイノルズ。朝の支度は一分の隙もない身だしなみで、朝食は音を立てることもタブー。そんなレイノルズを見守るのは姉のシリルで、弟に生涯を捧げてきた善き理解者であるという自負がある。演じたレスリー・マンヴィルの弟を溺愛する厳格な演技が光る。

亡き母から裁縫を習ったマザコンのレイノルズは独身で、新たなミューズを見つけ創作意欲が蘇る。見初められたアルマは意外にも男の色には染まらない女で、普通のシンデレラ・ストーリーでは終わらない。

流れが変わったのは二人だけのサプライズ・ディナー。レイノルズが嫌うバターたっぷりのパンやキノコ・パスタやティーカップに注ぐ音。

ここからはヒッチコック風サスペンスが強烈に漂い始め、王女や伯爵夫人が顧客の「マイ・ハウス・ウッドコック」が全てというレイノルズの価値観が揺らいでくる。オスカー衣装デザイン賞受賞のマーク・ブリッジスの50年代英国ファッションとジョニー・グリーンウッドのピアノが奏でる音楽が格調高い。

シックという言葉が流行し始めたこの時代、社会からの疎外・孤独感に苛まれることを予感させるウッドコック家がアルマというミューズによって矯正されるのか?それとも破滅に向かうのか?

毒キノコがもたらす禁断の愛の行方が気になる終焉だ。

エンド・クレジットにあるジョナサン・デミに捧ぐという本作は、これが最後の俳優業を宣言したD・レイ=ルイス。

アンダーソン監督には、かつて靴修行中だった彼を説得したM・スコセッシのように、3度目のタッグを組んで更なる刺激的な物語を映像化して欲しいと願っている。

「お茶漬の味」(52・日 )80点

2018-11-03 14:32:42 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)


・ すれ違い中年夫婦の機微を描いた小津作品。

育ちの違う夫婦の日常・すれ違いと和解を描いた小津安二郎監督作品。戦前の原案<彼氏南京に行く>を野田高梧とともに練り直し、戦後7年の夫婦に置き換えている。

長野出身で質素な暮らしを好む夫・茂吉(佐分利信)と東京のお嬢様育ちの妻・妙子(木暮美千代)は見合い結婚。

丸の内のエリート・サラリーマンでありながら列車は3等車が気楽でいい、タバコはアサヒ・ご飯に味噌汁を掛け猫まんまを好む夫。
家事は女中任せで友人や姪と遊び歩く奔放な妻。修善寺での温泉旅行を楽しみ、池の鯉を観て夫を思い出し鈍感さんと命名して憂さを晴らす。

こんな正反対の夫婦を小津はローアングルで追いながら、寄りと引きで変化を観せている。

戦後の生活文化史的興味も沸く作品として貴重なものとなっている。
路面電車が走る皇居周りや銀座の風景。筆者には懐かしい、野球場・後楽園球場は屋根がなく鶯嬢が呼び出しをしてくれるし、隣には競輪場もあった時代。木暮の上流夫人らしい着物姿、友人・淡島千景や姪の節子・津島恵子のファッションは昭和20年代の庶民には憧れ的存在だ。

庶民にはパチンコが大流行。駅前には小さなパチンコ屋が必ずあって、軍艦マーチの音楽とちんじゃらの音が鳴り響いている。茂吉は若い部下・岡田(鶴田浩二)に誘われ始めて入った店の店主が戦友の笠智衆。自嘲気味に今の暮らしを話し、戦争は絶対やってはいけないがシンガポールの星空が懐かしいという姿が悲哀を感じさせる。

とんかつとラーメンが大好きな岡田は安くて美味くなくちゃとウンチクを節子に語るシーンは当時の若者の典型だ。

歌舞伎座でのお見合いを嫌がる節子を巡って茂吉が言った言葉がキッカケで口も利かなくなった妙子。憂さ晴らしで神戸へ行っている間に茂吉の短期海外赴任が決まり、見送りもないまま飛行場へ・・・。

お茶漬が夫婦の絆を取り戻すことでめでたしめでたしとなるが、「インティメイトでプリミティブな、遠慮や体裁のいらないもっと楽な気安さがいい。」という台詞が如何にもインテリ小津作品らしい。

<男の価値はミテクレだけではないこと>を表現しようとしたという小津にとって、ちょっぴり消化不良の作品だったかもしれない。



「散り椿」(18・日 )75点

2018-11-01 11:53:02 | 2016~(平成28~)



・ 移り行く美しい日本の四季を背景にした本格時代劇。

昨年逝去した葉室麟の原作を、小泉堯史が脚本化、撮影監督の大御所・木村大作が監督も兼ねた本格時代劇。主演は今や時代劇の顔となった岡田准一。共演西島秀俊・黒木華・池松壮亮など今旬な若手に奥田英二・富司純子・石橋蓮司らベテラン脇役陣が顔を揃え、ナレーターを豊川悦司が務めている。

享保15年扇野藩の不正を糺そうとした瓜生新兵衛(岡田准一)が病弱の妻・篠(麻生久美子)の最後の願いを聞き届けるため故郷へ戻る。善き友で因縁の相手・榊原采女(西島秀俊)と対峙した新兵衛は、篠の一途な想いを知ることになる・・・。

鮮血が噴き出す鮮烈な殺陣、岡田自身が考案した散り椿を背景にした新兵衛と采女の決闘シーン。
五色の「八重散り椿」・「龍虎図」など長谷川等伯の屏風を使用した豪華な美術。
眼目山立山寺の並木道などの風情ある富山・彦根・長野などふんだんにあしらったロケ地。
佇まい・セリフ回しに拘った演技。

アニメやCGで時代を超越した時代劇が主流の昨今、黒澤明のカメラ助手だった木村とADだった小泉のコンビによる本作は時代劇の本流を多分に意識した拘りとオマージュが窺える。

俳優陣では岡田の武骨だが一途な男、麻生・黒木の姉妹が時代劇的風情、富司・奥田・石橋のベテラン・トリオの存在感が光る。
池松壮亮は重要な役柄で頑張ったが台詞が時代劇向きではなく、ミスキャスト。平山道場主の柳楽優弥にやって欲しかった。

エンディング近くでの唐突なカット割りや采女の母・滋野(富司純子)の篠への感情はどちらだったのか?など破綻が気になった。 派手さはないが、TVでは果たせない贅沢な時代劇を堪能した。