晴れ、ときどき映画三昧

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「東京暮色」(57・日 )70点

2018-11-26 10:51:47 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)


・ 「エデンの東」をヒントにした小津最後のモノクロ作品は失敗作?

「晩春」(49)から「東京物語」(53)まで、戦後の中流家庭の父と娘の絆を軸に夫婦や家族の在り方を描いてきた小津安二郎が、「エデンの東」をヒントに野田高悟との共同脚本で映画化した最後のモノクロ作品。笠智衆の父、原節子の娘に新人の有馬稲子が次女役で加わっている。

銀行の監査役である杉山周吉(笠智衆)が男手で育てた娘ふたり。長女孝子(原節子)は父が勧めた夫と巧くいかず、ひとり娘を連れて実家へ戻っている。
次女明子(有馬稲子)は恋人を追いかけているが、逃げ回られている。
そんななか、戦前家族を捨てた2人の母親の消息が分かる。

小津といえば原節子がヒロインで父親想いの娘が定番だが、成瀬己喜男が原を起用した「めし」(51)では慎み深いが行動的で内面の葛藤がある女を演じている。
その成瀬が高峰秀子主演の「浮雲」(55)でドロドロした男女の関係を描いて評判を呼んでいた。

本作は前作「早春」(56)同様、男女の関係を描くことは不得手だという定評を覆したいという小津の成瀬への密かな対抗意識で作られたような気がする。

ローアングルでの固定カメラで陰影ある映像は相変わらず小津調だが、家族の崩壊という得意のテーマでありながら余りにも暗く救いのないストーリーは<エデンの東>の翻案に拘りすぎ、野田高梧との確執も尾を引きシナリオに忌憚を来した感がある。

メロドラマ風を避けた乾いた描写は救いのない暗いドラマという印象から抜け出せず、自信満々の作品にも拘らず評価は今ひとつだった。終始流れる斎藤高順の軽快な音楽が流れ、内容の暗さを中和させようという斬新さはあったが大成功とは言い難い。

日本の朝鮮出兵から始まった戦争による家族形態の変化を描き続けてきた小津にとって、その延長線に本作があった。

周吉が京城出張中に夫の部下と不倫の末満州へ逃げる妻を大女優・山田五十鈴が演じている。夫と子供を捨てた大陸から引き揚げ、別の男と麻雀屋を経営しているという設定にも関わらず生々しさが伝わってこなかったのは・・・。
岸洋子の代役で演じたヒロイン・有馬稲子の初々しい美しさは際立っていたが、原節子も脇に回って中途半端な感は拭えない。

それでも、笠をはじめ中村伸郎、杉村春子、山村聰、田中春男、藤原釜足などお馴染みの面々が登場。上野駅でのシーンや自宅前の坂道のカットなど随所に流石と思わせるカットがあって、最後まで目が離せない140分だった。


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