・ 創造性豊かなP・T・アンダーソンのラブ・コメ。
「ブギー・ナイツ」(98)、「マグノリア」(99)など豊かな創造性と酷評が背中合わせの鬼才ポーール・トーマス・アンダーソンが、アダム・サンドラーを起用した一風変わったラブ・ストーリー。
LAサンフェルナンド・バレーに住むバリー・イーガンは、倉庫街の一角でトイレの詰りを直すラバー・カップの販売会社を相棒と経営している独身男。
通常は真面目だが、何かの切っ掛けで突然情緒不安定となり泣き出したり暴れたりすることがある。7人の姉たちに囲まれて育ったせいか女性不信に陥っている。
そんなある日、車の修理に訪れた見知らぬ女性からKEYを預かることに。実は姉エリザベスの同僚でバツイチのリナ・レナードで写真を見て一目ぼれ、バリーを下見していたのだ。
バリーに扮したA・サンドラーはアメリカでは最も稼いだコメディアンといわれている程コメディ映画のスターだが、日本では一部の熱狂的なファンを除くとビッグな印象はなく、筆者もドリュー・バリモアと組んだ「ウェディング・シンガー」(99)と「50回目のファーストキス」(04)以外は未見。
当たり役の<バカ男>のイメージはなく、本作とのギャップは感じないで楽しめた。
リナを演じたのはイギリス女優のエミリー・ワトソン。「奇跡の海」(96)で衝撃的なデビューを飾り、「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」(98)、「アンジェラの灰」(99)「レッド・ドラゴン」(02)などシリアスな薄幸の女性役がぴったりなひと。ここでも不幸な結末が待っているのでは?との予感が、付きまとうが・・・。
2人の奇妙なラブ・ストーリーにはジョン・ブライアンの音楽、ロバート・エルスウィットのカメラによるロイヤル・ハワイアン・ホテルでのラブ・シーンは善い意味で予想を裏切ってくれた。
P・T・アンダーソンは「マグノリア」ではカエルが大量に降ってくる逸話を映像化して話題をさらったが、ここではプリンの特典でマイレージを貯めた男の実話をもとに主人公のキャラクターに味付けをしている。
さらに終始ブルーのスーツ・ネクタイ姿でカード詐欺に掛かった相手のいるユタ州からリナを追ってハワイまで飛び回る。
冒頭ハーモニウム(小型オルガン)を拾って大切にデスクに置くシーンもエンディングまで度々登場して気を惹くが、2人の関係を象徴したものか?
その後、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(08)で大作の監督となったアンダーソン。その個性が影響して当たり外れが多いが、こんなオシャレな小品も観てみたい。