晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「パンチドランク・ラブ」(02・米)70点

2015-05-27 18:06:19 | (米国) 2000~09 

 ・ 創造性豊かなP・T・アンダーソンのラブ・コメ。

                

 「ブギー・ナイツ」(98)、「マグノリア」(99)など豊かな創造性と酷評が背中合わせの鬼才ポーール・トーマス・アンダーソンが、アダム・サンドラーを起用した一風変わったラブ・ストーリー。

 LAサンフェルナンド・バレーに住むバリー・イーガンは、倉庫街の一角でトイレの詰りを直すラバー・カップの販売会社を相棒と経営している独身男。

 通常は真面目だが、何かの切っ掛けで突然情緒不安定となり泣き出したり暴れたりすることがある。7人の姉たちに囲まれて育ったせいか女性不信に陥っている。

 そんなある日、車の修理に訪れた見知らぬ女性からKEYを預かることに。実は姉エリザベスの同僚でバツイチのリナ・レナードで写真を見て一目ぼれ、バリーを下見していたのだ。

 バリーに扮したA・サンドラーはアメリカでは最も稼いだコメディアンといわれている程コメディ映画のスターだが、日本では一部の熱狂的なファンを除くとビッグな印象はなく、筆者もドリュー・バリモアと組んだ「ウェディング・シンガー」(99)と「50回目のファーストキス」(04)以外は未見。

 当たり役の<バカ男>のイメージはなく、本作とのギャップは感じないで楽しめた。

 リナを演じたのはイギリス女優のエミリー・ワトソン。「奇跡の海」(96)で衝撃的なデビューを飾り、「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」(98)、「アンジェラの灰」(99)「レッド・ドラゴン」(02)などシリアスな薄幸の女性役がぴったりなひと。ここでも不幸な結末が待っているのでは?との予感が、付きまとうが・・・。

 2人の奇妙なラブ・ストーリーにはジョン・ブライアンの音楽、ロバート・エルスウィットのカメラによるロイヤル・ハワイアン・ホテルでのラブ・シーンは善い意味で予想を裏切ってくれた。

 P・T・アンダーソンは「マグノリア」ではカエルが大量に降ってくる逸話を映像化して話題をさらったが、ここではプリンの特典でマイレージを貯めた男の実話をもとに主人公のキャラクターに味付けをしている。

 さらに終始ブルーのスーツ・ネクタイ姿でカード詐欺に掛かった相手のいるユタ州からリナを追ってハワイまで飛び回る。

 冒頭ハーモニウム(小型オルガン)を拾って大切にデスクに置くシーンもエンディングまで度々登場して気を惹くが、2人の関係を象徴したものか?

 その後、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(08)で大作の監督となったアンダーソン。その個性が影響して当たり外れが多いが、こんなオシャレな小品も観てみたい。
                   

「ルーキー」(90・米)60点

2015-05-22 17:28:15 | (米国) 1980~99 

 ・C・イーストウッドからC・シーンへバトンタッチされた刑事アクション。

                   

 ’88に終結した「ダーティ・ハリー」シリーズ。C・イーストウッドが「許されざる者」(92)で再ブレークする間に監督・主演したポリス・アクション。

 LA警察・自動車盗難課のベテラン刑事・ニック(C・イーストウッド)は、高級車専門の窃盗グループに相棒を殺され、組織壊滅に没頭している。そんななかデイヴィッドという新人刑事が相棒として配属されてきた。

 裕福な家庭で育ったデイヴィッドが、幼い弟を死に追いやったトラウマを抱えながら警官になって刑事らしく成長してゆく姿を描いている。

 演じたのは「プラトーン」(84)で注目され「ヤング・ガン」(88)「メジャーリーグ」(89)と立て続けにヒット作に出演している、当時若手の有望株チャーリー・シーン。

 60歳のC・イーストウッドは刑事アクションものの後継者としてC・シーンを選んだのだろう。刑事ものにはよくあるベテランと若手が組み、仕事を通じて成長を見守るというオン・ザ・ジョブの物語だ。

 前半でのカーチェイス、後半の大爆発する工場・車の大ジャンプなど派手なシーン満載ながら今改めて見るとそれ程の驚きはない。

 イースウッドらしいウィットに富んだ会話や、イントロとラストのモチーフが一緒という楽しさもあるが、強盗犯の情婦(ソニア・グラガ)に逆レイプされるシーンばかりが印象に残っている。彼の持つ毒の部分が裏目に出たようだ。

 C・シーンのブチ切れたアクションは、後の彼の私生活にオーバラップしそうな過激なシーンのオンパレード。本作以降、「ホット・ショット」(91)「ザ・チェイス」(94)など映画主演はあったもののジリ貧傾向でイーストウッドの期待にも答えられず、本作もシリーズ化はならなかった。

 しばらく音沙汰がなかったが、近年TV界で復活し<最も稼いでいる俳優>と言われているとか。まだ47歳、スキャンダルで賑わせるだけでなく映画で復活した姿を見せて欲しい俳優のひとりでもある。

 

 

「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」(97・米)80点

2015-05-18 16:04:38 | (米国) 1980~99 
 ・ 悩める若者たちへのメッセージを描いた良作。

                

 当時最も旬な俳優だったマット・デイモンとベン・アフレック。2つ違いで幼馴染の2人が共同執筆して、オスカー最優秀脚本賞を獲得した作品として有名。

 深い心の傷から非行に走るウィル・ハンティング。マサチューセッツ工科大学の清掃員として働いているとき、ランボー教授が出した学生たちが誰も答えられない問題を解いて、その天才ぶりが見出される。

 傷害事件を起こし刑務所入りしたウィルに、教授は週2回研究室での勉強と週1回のセラピーを受ける条件で、身元引受人となった。

 その間チャッキーらの悪友たちや、ハーバード大学生のスカイラーというガールフレンドとの交流がありながらも、教授はもとよりセラピストたちへの誹謗は続いていて手に負えないありさま。

 困り果てた教授が最後の手立てで思いついたのは、疎遠になっていた元学友でライバル関係にあったコミュニティカレッジの講師ショーン・マグワイアだった。

 孤児で虐待を受けた経験から心を閉ざし続けているウィルと、妻を亡くし失意の底から立ち直れないショーン。ぶつかり合いながらウィルは真の愛情・友情が育まれ、ショーンはウィルのセラピーを機に新たな人生へ踏み出す勇気を持つことに。

 M・デイモンがハーバード大在学中に授業で書いた40ページの戯曲をもとに、親友B・アフレックとともに映画シナリオ化してプロデューサーの目に留まり完成するまで5年の歳月を要している。

 監督は長廻しのカメラで若者の心理描写を惹き出すのが巧みなガス・ヴァンサント。奇を衒わずにじっくりと心の変化を映し出して行く姿勢は、真にオーソドックで少し照れくさい気も・・・。

 それを中和してくれたのは、ショーン役のロビン・ウィリアムス。ワールドシリーズの切符を反故にしてまで一目ぼれしたという愛妻家ぶりは、少し現実離れしているが彼が演じると不自然さを感じさせない。「いまを生きる」(90)で定評があった<若者への善き理解者の役柄はぴったり>で、オスカー最優秀助演男優賞受賞も納得。

 B・アフレックが悪友チャッキー役でM・デイモン扮するウィルに「20年経ってお前がここに住んでいたら俺はお前をぶっ殺してやる。お前は宝くじの当たり券を持っていてそれを現金化する勇気がない。それを無駄にするなんて許せない。」というセリフが実生活を想像させて興味深い。

 本作で別れ別れとなった2人は、まもなく俳優生活でも離れ離れで活動。紆余曲折はあったが、今は和解して交流があるという。2人の競演も見てみたい。
 
 肩書きで人を観たり、書物や情報だけで物事を決めつけることへの批判を込めた本作。以て他山の石としたい。
 
 

「続・荒野の用心棒」(66・伊)60点

2015-05-14 11:51:36 | 外国映画 1960~79

 ・ これこそ、純粋マカロニ・ウェスタン。

                   

 セルジオ・レオーネと並ぶマカロニ・ウェスタンの両雄、セルジオ・コルブッチ監督作品。主演したフランコ・ネロの出世作でもある。

 原題は「ジャンゴ」でF・ネロ扮する早撃ちガンマンの名前だが、ジャズギターの名手ジャンゴ・ラインハルトから命名したという。

 いまや「ジャンゴ」はマカロニ・ウェスタンの象徴で、30本以上制作されたコルブッチ作品で主人公の名前は海外では全て「ジャンゴ」にされたほど。

 元北軍の兵士ジャンゴがメキシコ国境の街トムストーンへ向かう途中、元南軍少佐ジャクソンの部下にリンチを受けていた混血娘マリアを救う。

 泥濘のなか何故か棺桶を引きずりながら酒場へ着いたジャンゴ。ジャクソン少佐の威嚇にも動じない。

 40人の部下を引き連れたジャクソンに向かって棺桶から取り出した機関銃で一蹴し、ジャクソンは落馬して泥だらけの辱めを受け復讐を誓う。

 酒場の主人ナタニエーレによると、縄張り争いをしているメキシコ独立革命の将軍ロドリゲスと諍いが絶えないが、ここは中立的立場で女たちを置いて商売が成り立っているという。

 マリアは少佐の愛妾だったが、メキシコへ逃げ舞い戻ってきたのでリンチされたらしい。

 邦題の「続・荒野の・・・」は、設定が黒澤の「用心棒」をもとにしたC・イーストウッド主演「荒野の用心棒」と似ていたことと、日本人には原題より馴染みやすいということでまるっきり別物。今なら考えられない大らかさだ。

 通称マカロニ・ウェスタンとは、スパゲッティともイタリアンとも呼ばれた低予算のイタリア製西部劇のこと。孤高なダーティ・ヒーローが主演し、残酷描写とリアリティを無視した奇想天外な展開が売り物だ。

  本作でも、いきなり棺桶を引きずりながらジャンゴが登場、しかも棺桶の中に機関銃が入っている発想が如何にもという感じ。若干23歳だったF・ネロはスタントなしで演じ切り、一気にスター入り。近作「ジュリエットからの手紙」(10)でも健在ぶりを見せてくれた。

 ジャンゴは愛する人を南軍兵士に殺されたらしく寄り添うマリアには冷たいが、金欲はあるらしい。

 メキシコ政府軍の営倉にある砂金をロドリゲスと共謀し奪い取り、山分けの約束を守らないロドリゲスから砂金を盗むが、追われる途中底なし沼へ落とし危うく絶命寸前となり、マリアに救われるという人間味あふれる設定。

 残酷描写には事欠かないがマリアへの鞭打ちにはじまり、メキシコ農民の銃殺はまるでゲームのよう。少佐の手下としてみかじめ料の集金をする神父は、メキシコ革命軍の兵士に耳を切られその耳を咥えながら殺される。

 極めつけはジャンゴへのリンチでイギリスでは上映禁止となったほど。

 刺激的な描写だけでなく、泥んこプロレスまがいの娼婦たちの取っ組み合いや、有名な墓場でのラストシーンなど見所たっぷりのエンタテインメント満載の93分。

 本作の大ファンであるC・タランティーノがオマージュ作品「ジャンゴ 繋がれざる者」(12)を制作したほどで、突っ込みどころ満載ながら主題歌<さすらいのジャンゴ>とともに映画史には欠かせない作品となった。久しぶりにマカロニウェスタンの世界に酔わせてもらった。
 

 

「エマニュエルの贈りもの」(05・米)80点

2015-05-12 10:32:25 | (米国) 2000~09 

 ・ 真の英雄とは、こういうヒトのことだ。

                    
 障害者アスリート財団・創始者のひとりボブ・バビットが、リサ・ラックスとナンシー・スターンに紹介したことがキッカケで映画化されたドキュメンタリー。アトランタ映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞している。

 ガーナのエマニュエル・オフィス・エボワは生まれながら右足がないハンデ・キャッパー。ガーナは人口の10%、200万人の障害者がいることに驚かされる。障害者は呪われているといわれ、ひっそりと家に籠って暮らすか物乞いをするしか道がなかった。エマニュエルは父に逃げられながら、母親の愛情に支えられ夢を叶えるために前向きに生きていく。支援者に自転車を贈ってもらい、ガーナ中を単独走破する。

 これがアメリカに伝わり、受賞賞金をもとに自国に教育基金を設立し、子供達を健常者と同じ教育を受けさせる。やがて政府を動かして、障害者法が成立するに至る。

 エマニュエルがアメリカで得たものは人々の善意。尊敬するジム・マクラーレンや自分と同じ境遇のトライアスロン競技者のルディ・ガルシア・トルソン。その象徴が彼にプレゼントされた義足である。その善意を自分だけにしないで、母国へ何倍にもして貢献する姿勢に胸を打たれる。死んだ母を心から愛し、捨てられた父を赦す心の広さを知ると<真の英雄とはこういうヒトだ>とつくづく思う。

 黒人女性として唯一のパーソナリティを長年務めるオブラ・ウィンフリーがナレーターをしている。ロビン・ウィリアムスがトライアスロン表彰式で出ているが、本作のための別撮りではない。

 ナイキがスポンサーのプロモーションフィルムでもおかしくないが、エマニュエル本人のキャラクターが長編映画として充分伝わってくる。   

「サイド・エフェクト」(13・米)70点

2015-05-10 08:28:57 | (米国) 2010~15

 ・ S・ソーダーバーグ最後?の作品。

                  


 スティーヴン・ソダーバーグが50歳の若さで、劇場公開映画から引退を声明。これが最後の作品となった。

 彼の作品でおなじみのジュード・ロウ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、チャニング・テイタムが顔を揃え、ルーニー・マーラが初出演した豪華キャストのサイコ・サスペンス。

 NYのエリート金融マンと結婚したエミリー。夫がインサイダー取引で刑務所入りして彼女の人生は一気に暗転し、うつ病に悩まされてしまう。

 4年後出所した夫を迎え新しい生活が始まった直後、自殺まがいの事故で入院するが、夫の元へ帰りたいというエミリーの願いを聞いた精神科医・ジョナサンは主治医となることで退院を許可する。

 殺傷事件が起きるのはプロローグの室内に流れる血の跡で暗示されるので、それが何時/何処で/誰が/誰を/何故・・・という謎解きがあるとインプットされている。

 ヒロインのエミリーが絡んでゆくのは間違いなさそうだが・・・。

 始まって60分ほどで事件の経緯が判明すると、医薬業界の裏面を抉る社会派サスペンスを思わせる展開だっだのが、終盤で急旋回して観客のミスリードを楽しむようなストーリーだ。

 主演したJ・ロウは上昇志向のある医師で、美しい妻と可愛い一人息子と暮らすため奮闘するが、新薬の臨床に協力することで5万ドルの報酬を得ようとする。思いもよらぬ転落を余儀なくされるなど、等身大の人間であるところに落とし穴があった。

 ヒロイン・エミリーを演じたR・マーラはうつ病に悩む薄幸な若い妻役を演じながら、彼女の演技次第でこの作品の評価が大きく変わる重要な役を背負っていた。当初キャスティングされたブレイク・ライヴリーが降板したのは難役に感じたからだろうか?

 「ソーシャルネットワーク」(10)、「ドラゴンタトゥーの女」(11)と両極の役柄を使い分けできる彼女ならではの役ともいえる。

 K・ゼタ=ジョーンズの精神科医とヒロインの夫で出演したC・テイタムは、ソダーバーグの引退作品でなければ引き受けない役だっただろう。

 先進国ならではの薬漬け人間が金を目当てにおこなった犯罪が、<一事不再理>という法律で裁かれるこのストーリーを、クールに俯瞰するようなトーマス・ニューマンの音楽とソダーバーグのカメラが引っ張って行く。

 事件は終盤でテンポアップして106分という短さでエンディングを迎えるが、だいぶ編集でカットした省略部分があるようで、筆者にはスッキリしない不条理さが残ってしまった。

 まるでソダーバーグの引退宣言のように・・・。また、復活して納得できる作品を見せて欲しい。