・ イザベル・ユペールの魅力をふんだんに描いたミア・ハンセン=ラブ監督の人間ドラマ。
「ある夏の子供たち」(09)など注目の若手・フランス女性監督ミア・ハンセン=ラブが、大女優イザベル・ユペールをイメージした本作で、見事ベルリン映画祭の銀熊(監督)賞を受賞した。
パリの高校で哲学教師をしているナタリー(I・ユペール)は、子供たちも独立し同じ教師の夫・ハインツ(アンドレ・マルコン)との二人暮らし。結婚して25年、充実した人生を送っていた彼女の悩みは母・イヴェット(エディット・スコブ)の我儘な狂言壁ぐらいだった。
ところがバカンス・シーズン目前のある日、夫から離婚を告げられ、老人ホームに入った母も他界してしまう。母の葬儀を終えて乗ったバスから、夫が若い恋人と歩いているのを偶然見て思わず笑いだすナタリー。
おまけに、長い付き合いの出版社から著作契約終了を言い渡される。
それでも事実を受け止め、自分の考えで柔軟に行動するナタリー。バカンスは、お気に入りの元教え子・ファビアン(ロマン・コリンカ)が執筆しながらアナーキスト仲間と暮らすフレンチ・アルプスのヴェルコールを訪れる。
50代のナタリーが陥る家族との別離・仕事・恋愛・加齢などの悩みは、程度の差はあっても誰にでも降りかかる俗事の悩み事。
まだ30代半ばのラブ監督は老いと孤独とどう向き合っていくべきか?について、自身の母親とユペールをイメージして作り上げた主人公の奥深い描写に驚かされた。
大都会パリとブルターニュやヴェルコールを行き来するナタリーが、季節の移ろいとともにその都度起こった出来事を受け止めひたすら行動する姿は、自立した女性の生きザマとして若い女性の憧れの対象になりそう。
ルソー「社会契約論」、アラン「幸福論」、パスカル「パンセ」、レヴィナス「困難な自由」、ジャンケレウィッテ「死」など次々と哲学者とその著作が出て馴染みにくい雰囲気もあるが、これがフランスらしいともいえる。
対照的に音楽はオリジナルのBGMではなく、挿入曲で占められ心地よい。ナタリーが教え子・ファビアンの車で聴くウディ・ガスリーの曲を褒め、元・夫の車で流れるクラシックを聴き飽きたというあたりに女心が伺え可愛らしい。
ドラマは元夫や教え子との関係をほのめかしながらも淡々としたストーリー。 孤独を紛らわせるために入った映画館で、見知らぬ男に付きまとわれるシークエンスはもしやと思わせ、M・ハネケ監督の「ピアニスト」(01)や「エル ELLE」(16)を連想したが、毅然とはねつけ期待を裏切る?展開。
エンディングに流れるフリート・ウッズの「アンチェインド・メロディ」とシューベルトの「水の上で歌う」に、ナタリーが纏う衣装の数々がオーバーラップして見えた。
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