・ ヒューマンなストーリーテーラー、ヤスミン・アフマド監督の遺作
51歳で急逝したヤスミン・アフマド監督。他民族国家マレーシアで、人間と人間を恣意的に分断しないことを信条にヒューマン・ストーリーテーラーを自称した彼女の遺作。
音楽や踊りを競い合うコンクール<タレンタイム>が開催されることになった高校で、ピアノの弾き語りが得意なムルー、ギターでリジナル曲を歌う転校生ハフィズ、二胡が得意な優等生カーホウがタレンタイムに挑む。
マレーシアで暮らす高校生とその家族の心情を瑞々しいタッチで描いた群像ドラマ。
ヒロイン・ムルーの家族は裕福で自宅にピアノがあり、中国人メイドのメイリンがいる。ひょうきんで大らかな父と2人の妹のマレー系5人家族。父は英国とマレーシアの混血らしく、その母はイギリス人。どうやらアフマド監督の家族構成がモデルのようで、母とメイドがフランクな関係はマレーシアでは異色。ムスリムだがとても緩やかな一家だ。
そんなムルーの送迎係に選ばれたのがインド人のマシュ。母と姉との3人暮らしで近くに住む叔父が何かと気遣いしてくれる。熱心なヒンドゥー教徒で女手ひとつで育てられたマシュは聾唖者でもあった。
対照的な2人の幼い恋を中心に、闘病中の母を気に掛けるハフィズと中華系の優等生カーホウとのライバル心、コンクールへの高揚感とともにドラマは進行する。
一歩間違えると悲惨な展開だがユーモアを随所に交え、若い世代の純粋な感性に託す語り口に好感を覚えた。
タレンタイムの審査員アディバ先生を演じたマツコ・デラックス似のアディバ・ヌールは国民的歌手と言われ、ハフィズの母に扮したアゼアン・イルワダティは有名女優だが闘病中で、監督の強い要望で寝たきりの出演が実現したという。
このドラマのユーモア溢れるシーンとヒューマンなストーリー展開の柱的存在だ。
冒頭、教室での試験風景で多民族国家であることを認識させるシーンで始まる青春ドラマは様々な言語が飛び交うが、そのまま表現することはこの国ではタブーで全てマレー語に変更されていた。
監督はそれを乗り越え、それぞれの言語を使い、さらに手話を入れることで言葉による障害は乗り越えられるという強い思いを感じた。
アフマド監督はマシュの叔父に起こる悲劇、マレー系優遇の「ブミプトラ政策」による確執、マレー系とインド系の宗教感の違いから起こる不寛容さなどを包含させながら、それを乗り越える人間愛の普遍性を訴えている。
ピート・テオの音楽がそのままドラマに沁みこんで、ムルーとマヘシュの悲恋も、ハフィズとカーホウの確執も希望の光を感じさせてくれる。
母系の祖母が日本人のアフマド監督の長編は6作しか残っていないが、人間愛を語る作品はこれからも若い映画ファンに伝えられていくことだろう。
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