・ バットマンのヴィラン誕生秘話をもとに描いた社会派エンタテインメント。
原作コミック「バットマン」のヴィラン(悪役)として登場し映画でもジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレット・レトら名優たちが演じてその名をはせた<ジョーカー>。ゴッサムシティで人々を恐怖に陥れた悪のカリスマの誕生秘話を、ホワキン・フェニックス主演、トッド・フィリップス監督・共同脚本で描いたオリジナル・ストーリー。
社会から疎外された孤独だが心優しい純粋な心の持ち主がどのようにして悪のカリスマへ変貌していったか?フィリップス監督は初期に手掛けたドキュメンタリーで培った力で<ジョーカー>を独自の目線で描いている。
原作コミックからのファンには物足りないかもしれないが、今までいわゆるアメコミというものを敬遠していた人にも独自のドラマとして充分楽しめるつくりとなっている。
監督が意識したのはM・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演の「タクシー・ドライバー」(76)、「キング・オブ・コメディ」(83)。そのためTV司会者マレー・フランクリン役にデ・ニーロが決まったとき大喜びしたという。
ジョーカー役には当初から「ザ・マスター」(12)以後毎年異色の役柄を演じてのりにのっているJ・フェニックスをイメージしていた。自分をとことん追い詰めそのキャラクターに成り切ろうとする姿勢に惚れ込んでの起用は本作でも遺憾なく発揮され、骨と皮ばかりの肉体改造による外見と苦悩や問題を抱えた内面を演じ切った怪演は本作最大のみどころ。
架空都市ゴッサムシティは現代にも通じる矛盾を抱えていて、一握りの大富豪が支配する貧富の格差に苛まれ、貧しい人々の鬱憤は人種差別や暴力へと顕在化して行き、一歩間違えると暴動になりかねない。
そんなとき地下鉄で酔ったビジネスマン三人を殺害したアーサーは謎の道化師として貧しい人々の英雄と化して行く。発作的に笑い出す病気を抱えながらコメディアンの夢を追う大道芸人が起こした偶発的な事件だった。
カウンセリングの閉鎖と服用役を絶たれ現実と妄想が行き交う中、好意を抱いたアパートの隣人ソフィー(ザジー・ビーツ)、愛する母ペニー、憧れのマレー・フランクリンとの関わりが絶望となったときアーサーはジョーカーへと変貌していく。
どこまでが幻想でどこからが現実か?または、ほとんどが幻想か?観客を試すようなストーリーはラスト・シーンまで惹きつけて止まない。
「ロックンロールPART2」の曲にあわせ階段で狂ったように踊るアーサーは間違いなくジョーカーへ変身した瞬間だ。
さらに「That’s Life」が流れるたびに孤独な男のつぶやきが聞こえてくる。
ベネチアでスタンディング・オベーションが鳴り止まず金獅子賞を受賞した本作。来年のオスカーはどうなるのだろうか?
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