晴れ、ときどき映画三昧

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「野良犬」(49・日)80点

2016-01-19 15:46:10 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

 ・ 刑事ものの原型となった黒澤・三船コンビのサスペンス・ドラマ。

                  

 戦後の傷跡が残る東京。満員バスでピストルを盗まれた若い刑事がその行方を必死になって追うが、その間に強盗事件が発生し実弾が刑事所有のものと判明する。ベテラン刑事とコンビを組んだ2人が、地道に事件を捜査する様子をドキュメント・タッチで描いたサスペンス。

 黒澤明が三船敏郎とコンビを組んだ「酔いどれ天使」(48)、「静かなる決闘」(49)に続く3作目
で初の刑事ドラマ。脚本家・菊島隆三との初コンビによるもので、本作が一連の刑事サスペンスの原型となった。

 戦後の闇市を汗を拭き拭き必死に歩き回る青年刑事の姿はとてもリアルだが、これは助監督・本多猪四郎の盗み撮りによるもの。山田一夫カメラマンとともに新橋・上野の闇市を無許可で撮った戦後の映像は、貴重な文化遺産でもある。刑事の足は三船ではなく本多のものだったという。名作「第三の男」(49・英)と並ぶ苦心の映像だ。

 警視庁のエリート青年刑事・村上(三船敏郎)と所轄(淀橋)ベテラン刑事・佐藤(志村喬)の描かれ方が味わい深く、若さゆえ情にほだされ易い村上と、人情刑事だがリアリストで職務に忠実な佐藤のコンビは後の刑事ドラマのお手本となっている。

 猪突猛進して歩き回る村上と、スリのお銀(岸輝子)とアイスキャンディを食べながら情報を巧みに引き出す佐藤に捜査手法の違いを見せ、双方が上手く絡み合って犯人を追い詰める様子はなかなか見応えがあった。

 野球場(後楽園)での巨人VS南海戦のロケもなかなか貴重な映像だった。少年時代のヒーロー川上が映っていたのは感動もの。ただ、売り子の協力で5万人の中から拳銃ブローカーを見つけるのは至難の業では?

 本作の最大の見所は犯人逮捕のラストシーン。復員兵で全財産のリュックを盗まれた同じ境遇だった刑事と犯人。のどかなソラチネアルバム・ピアノ曲と子供たちが歌う<蝶々>とともに2人が縺れ合うシークエンスは、画期的な対位法と呼ばれ、類似の手法は「ゴッドファーザー」シリーズを始め数々の名作にも見受けられる。

 ヤクザ(酔いどれ天使)、青年医師(静かなる決闘)から本作の刑事と役柄を変え、黒澤に揉まれた三船のスケールの大きさを感じる作品でもあった。

 

 

 
  


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