・ 藤沢周平の短編を映画化した井上昭監督の遺作。
江戸時代の下級武士や庶民の暮らしを通じて愛の物語を綴った藤沢周平の原作「橋ものがたり」からの一編を時代劇専門チャンネルで映画化。同時に劇場公開もされている。
本所の長屋で暮らす浪人・小谷善左衛門と船頭・吉蔵とお峯の心の内を情感たっぷりに描いた人情ドラマ。監督は公開直前に93歳で亡くなった時代劇の井上昭で<愛のものがたり>を丁寧に綴っている。
最近時代劇製作がメッキリ少なくなり、劇画調か大河ドラマ風が僅かに残るのみ。大映映画で勝新太郎の「座頭市二段斬り」(65)、市川雷蔵の「眠狂四郎多情剣」(66)などを手掛け、TVで「剣客商売」や「鬼平外伝」など数々の時代劇を監督した井上昭にとって最後の作品となった。
主演の中村梅雀は風貌から醸し出す飄々とした温かみのある人物像だが、かつて愛する妻を手掛けてしまったことを悔いながらの浪人暮らし。いつもながらの安定した演技である。
向かいに住む船頭の吉蔵と元船宿の女将・お峯は駆け落ちしてこの長屋に隠れている。柄本佑と安藤サクラという実の夫婦が演じているが微妙な男女の愛の行方を演じている。
安藤は時代劇には経験も少なく不似合いでは?という不安を一掃するしっかりした身のこなしで江戸に生きる女に扮し、これからも時代劇を担って欲しい女優となった。
吉蔵は最初は怯えて躊躇しながらお峯の誘いに負け、おみねは年の離れた旦那・利兵衛(本田博太郎)では飽き足らず若い吉蔵に溺れて行く・・・。しかし時が経ち人目を忍んで暮らす単調な暮らしは退屈な日々としか移らない。
逃したくない吉蔵と<惚れた腫れたで暮らすのはいっときのこと>というお峯のこれからは・・・。
川の向こうには違う暮らしがあるという時代は今なら海外への逃避行というべきか?
近松なら心中となる愛のものがたりを藤沢は女はリアリストで男たちは一途で直情的に描いている。善左衛門は妻のかかえ帯をたすきに筆作りの内職を、吉蔵は愛しいでも不安で憎らしいという気持ちが駆け巡る。
<愛しいなら、殺してはならん>という台詞は現代のDV男にも通じる人生訓か?
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