暖流(1957)
1957年/日本
増村安造監督、気合いのリメイク
shinakamさん
男性
総合 70点
ストーリー 75点
キャスト 80点
演出 70点
ビジュアル 75点
音楽 70点
岸田国士の原作で戦前吉村公三郎監督作品を大胆に脚色した増村安造の監督3作目。
大恩ある院長から病院を再建を託され上京した男が、看護婦から情報収集し粛正するかたわら院長一家の行く末に孤軍奮闘する。
増村はイタリアに留学してフェリーニ、ヴィスコンティに映画作りを学んだ新進気鋭の監督で「自分の映画の方法論は、近代的人間像を日本映画に打ち立てるもの」と自負してやまないだけあって、気合いのリメイクに挑んだ本作は斬新で大胆な演出が目立った。
どちらかというとドロドロとした人間関係になりがちな展開を、戦後の新しい女性像を組み入れあっさりと描いている。その象徴が院長の娘・啓子で、アメリカ留学帰りのお嬢様。インテリで傲慢だが意外とサバサバしてる。もうひとりは看護婦・石渡ぎん。終戦孤児で感情丸出し、一直線な性格で異常に明るくメゲナイ。この2人が繰り広げる恋愛劇に巻き込まれながら、主人公の日疋が、どう人生を歩もうとしているかがテンポ良く描かれている。
なんといっても圧巻はぎんに扮した左幸子の熱演。好きな男のためなら何でも嬉嬉として行動して逞しい。「愛は、すれっからしになることよ」と啓子に言ったり、いまでは禁句・死語の「妾でも2号でもいいから、待ってる」と東京駅の改札で叫んだりする。前作の水戸光子が演じた、耐え忍ぶ女のイメージをがらりと変えてしまった。
啓子に扮した野添ひとみは庶民派で良家のお嬢さまとはイメージが違うが、大きなひとみが感情表現が苦手な不思議な魅力を発揮している。主役の根上淳が霞むぐらい怪演したのは、啓子の義兄・泰彦役の船越英二の放蕩息子ぶり。「メケメケ ハモハモ バッキャヤロー」と意味不明の鼻歌を歌いながら白いスーツで胸に赤いバラで登場。「だって僕は君が好き~。」という可笑しな歌まで作ってしまう。ほかにも啓子の婚約者・笹島役の品川隆二も結婚観が呆れるほど破天荒。愛人宅で啓子に妻と愛人の違いを独自の理論で展開し、啓子に平手打ちを喰う。
増村の気合いが空回りしたきらいのある本作は失敗作だと思うが、従来の映画作りとは違った新しい風が吹いたことは間違いない。
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