・難民・移民問題を抱える中東を舞台にしたエンタメ・法廷ドラマ。
レバノンの首都ベイルートで起きた、レバノン人男性とパレスチナ難民男性による住宅排水工事を巡っての口論が、だんだんエスカレートし裁判沙汰となる。
はじめは些細なケンカから始まった裁判だったが、メディアが大々的に取り上げたことから政治的問題に発展してしまう。
レバノンのジアド・ドゥエイリ監督の長編4作目で、原題は「The Insult(侮辱)」。
筆者にとっての中東は、宗教・人種の違いによる変遷から歴史的にもとても複雑で、理解するのが難しい地域。
本作でもレバノン人・トニーとパレスチナ難民・ヤーセルの諍いには、些細なケンカとは言えない本質的な民族問題を抱えているのが明らかになってくる。
とはいえ本作は、社会的テーマをダイナミックに取り入れながら普遍的テーマである<家族のドラマ>を織り込んで、エンタテイメント法廷ドラマへ仕立て上げている。
監督と共同脚本を担当したのは離婚手続きの最中だった元妻のジョエル・トゥーマで、裁判シーンではトニー側を監督、ヤーセル側をトゥーマが担当しているのが巧く噛み合っていたのが成功要因のひとつ。
演技陣では、主演したトニー役のアデル・カラムがキリスト教右派「レバノン軍団」党大会集会に参加する熱血漢でありながら、自動車修理工場を叩き上げで経営する愛妻家の男を好演している。
対する無口で骨太な男・ヤーセルに扮したカメル・エル・バシャは舞台俳優で、映画初出演のため撮影に不慣れで監督を悩ませたという。ところが結果はベネチア最優秀男優賞を獲得し本作の高評価に繋がった。
トニーとヤーセルの裁判にはそれぞれの弁護士がつくが、親子であるというのもエンタメ要素を盛り上げているし、男たちが意地を張っているのに夫々の妻や判事など女たちの冷静な対応ぶりも印象的。
法廷ドラマとしても充分楽しめるのは、監督が19歳で渡米してタランティーノのアシスタント・カメラなどハリウッド修行したことと、弁護士である母親の協力を得たからかもしれない。
中東問題は世界に波及し、いまや遠い国の出来事とは言えない。人間同士の交流や女性の社会参加がモット大切では?という気にしてくれる作品である。
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