晴れ、ときどき映画三昧

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「荒野にて」(17・英)80点

2019-08-16 12:00:54 | 2016~(平成28~)


 ・ アンドリュー・ヘイ監督が描いた居場所探しの少年の旅。


 アメリカ北西部ポートランドに住む15歳の少年が父を亡くし、殺処分が決まった競走馬とともに自分の居場所を探すため旅に出る人間ドラマ。
 「さざなみ」(16)のアンドリュー・ヘイ監督がウィリー・ブロンティンの小説を脚色。「ゲティ家の身代金」(17)で注目されたチャーリー・プラマーが主演し、ヴェネチアで新人賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)を受賞した。

 米国北西部のロード・ムービーを英国人監督が映画化した珍しい作品で、アメリカン・ドリームの現実を少年を通して映し出していて、ハートウォーミングな少年と馬の交流ではない。
 その抑制の効いた演出と美しい広大な風景と猥雑な街並みが交互に映し出される映像が現代のアメリカを的確に捉えている。

 主演した少年チャーリー役のチャーリー・プラマーが素晴らしい。とてもナイーブだが、純粋で芯が強い。環境が恵まれず学校にも行っていないが、フットボール好きな繊細な15歳を分身のように演じている。これからが楽しみな演技派俳優に育つことだろう。

 前半登場する父レイ(トラヴィス・フィメル)は生活力もなく欠陥の多い駄目親父だが、チャーリーを愛していて父性愛は深い。チャーリーが幼いころ捨てていった妻にも決して憎しみを抱いていない。たった一人父と息子を心配するチャーリーの伯母とも疎遠なのは、息子を獲られたくなかったのだろう。

 競走馬リーオンピートの馬主デル(スティーブ・ブシェ)や女性騎手ボニー(クロエ・セビニー)からは生きていくことの大変さを身をもって教えられるが、チャ-リーにとって唯一心を許せるのは殺処分が決まったピートだけだった。

 疎遠だった伯母を訪ねるためワイオミングへのピートとの旅は、馬へ語りかける幼い頃の楽しい思い出や不遇だった近況やその心情が浮かび上がって、何とか彼の旅が成功することを願わずにはいられない。

 旅先で出会うウェイトレス(救ってくれる女性)には何人か遭遇するが、荒野は弱者が必死に生きていく世界で足を痛めた競走馬と15歳の少年の居場所はどこにもなかった。

 弱者がもっと弱いものを踏みつけて生き残る社会を知ったチャーリーの旅はララミーで安息の場を得て終わるがラストシーンはチャーリーの始まりでもあった。

 S・ブシェ、C・セビニー、スティーブ・ザーン(ホームレス・シルバー役)、A・エリオット(伯母)などインディペンデントの名優たちが脇を固め、揺るぎのないドラマに仕上がっていた。

 A・ヘイ監督にはチャーリーのその後を期待したい。

 
 

 


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