晴れ、ときどき映画三昧

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「わが青春に悔なし」(46・日) 60点

2017-04-26 12:03:09 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

 ・ 原節子主演による<強く逞しく生きる女性像>を描いた黒澤明


   

 GHQ占領下の黒澤明監督作品で、戦時中に起きた滝川事件(33年)とゾルゲ事件(44)をヒントにした久板英二郎の脚本を映像化。

 満州事変を契機に軍閥のファッショ強圧により学園追放された八木原教授(大河内傅次郎)の娘幸枝(原節子)が、自らの信念で<強く逞しく生きていく姿を描いた>作品。

 後年小津作品で魅せる人物像とは違う原節子の変貌ぶりが凄い。教授の一人娘時代は自由奔放なお嬢さん、上京して一人で暮らすOL時代、恋人野毛(藤田進)に再会し同棲するが特高警察の屈辱に耐え、野毛が亡くなり農村でガムシャラに働く女へ。

 野毛のモデルとなったのはゾルゲ事件でスパイとして獄死した尾崎秀美。中国研究の名のもとに反戦運動に没頭。幸枝に「信念に悔いなし。10年後国民に感謝される。」と言って獄死する。

 学生時代のライバルで対照的な旧友に糸川(河野秋武)がいる。卑屈な小心者として上京後検事となり平穏な暮らし歩んでいる。野毛の墓参りにきたときも幸枝に追い返される気の毒な役割だ。

 黒澤は軍閥による戦意高揚映画「一番美しく」(44)とは違ったGHQの検閲に悩まされ、脚本も改編せざるを得なかったとのこと。

 その怒りが、後半の裏切者との冷たい視線を浴びながら農作業に没頭する幸枝に投影されていて、あおり気味のカメラアングルでクローズアップが多様されている。

 <自由の裏に苦しい犠牲と責任がある>とか<顧みて悔いない生活>など如何にもGHQ推奨の民主主義映画のテイストとなった。

 翌年、米国は<赤狩り>が始まり、対共産主義に険しい道へと歩み始める。1年違いで無事公開されたのは、目まぐるしい時代の変遷ぶりが窺える。

 黒澤はその後「白痴」(51)で原を悪女役で起用し、人間の持つ自我や激しい部分を託している。

 原は本作で女優として目覚めたようだ。
 
 

 


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