晴れ、ときどき映画三昧

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「河内山宗俊」(36・日) 80点

2015-07-20 14:10:54 | 日本映画 1945(昭和20)以前 

 ・ 大胆な省略でテンポ・アップした山中貞雄の斬新な発想の時代劇。

                   

 若くして26本の作品を遺しながら、現存は3本しかない戦前の天才監督・山中貞雄の作。講談「天保六花撰」を基にした河竹黙阿弥の世話物歌舞伎「天衣粉上野初花ー河内山ー」を、山中が盟友・三村伸太郎に脚本化させた。

 お馴染みのお数寄屋坊主の河内山、浪人・金子市之亟、直侍、三千歳、くらやみの丑松、北村大膳らが登場するが、大胆なアレンジでチャンバラ映画全盛の時代劇に新風を送り込んだ。

 森田屋清蔵親分の用心棒・金子市之亟(中村翫右衛門)は街の寺銭を集める役をしているが、甘酒屋のお浪(原節子)からは、受け取らず想いを寄せていた。

 お浪は広太郎(市川扇升)という弟を案じているが、広太郎は直次郎と名を変えて隠れ賭場を営む茶坊主・河内山宗俊に懐いて家に帰らない。

 おまけに市之亟の嘗ての朋輩・北村大膳(清川荘司)の小柄を盗んで売り飛ばしてしまう。

 旧来の歌舞伎に飽き足らず昭和6年(31)旗揚げした前進座の存在が欠かせない。幻の名作「街の入墨者」(35)や遺作となった「人情紙風船」(37)同様、前進座の当り狂言の映画化である。

 山中は題名・役柄は同じでも、オリジナル・ストーリーであることで映画の存在感を主張している。本作でも、宗俊がお使い僧・道海と偽り松江出雲守に乗り込んでまんまと騙す名場面の設定や、上州屋の娘浪路から小柄に変えられる設定がコミカルなアレンジとなっていた。

 直侍と三千歳の道行もあっさりとしていて、歌舞伎好きには物足りないかも。

 見どころは多彩な登場人物の見事な扱いかた。主役の河内山を始め市之亟の人物像も小悪党だが、決して弱い者苛めはしない人情家。「悪に強きは、善にも」という人情が絡むヒロイズムは健在だ。

 お馴染みの前進座メンバー河原崎長十郎・山岸しづ江夫妻に中村翫右衛門、市川莚司(加東大介)、助高屋助蔵に入って新鮮だったのは、本作が本格デビューであるお浪役の原節子。若干16歳でその可憐さは、大輪の花が咲く前のつぼみという風情。

 山中は<最後のチャンバラ以外見どころはない>と卑下していたというが、大胆な省略による展開の速さは鮮やか。斬新な構図と口語調の台詞ともに髷を付けた現代劇ともいわれ、従来の時代劇にはないエンディングとともに新鮮な驚きだ。

 洋画にも長けていた山中は西部劇・ガンマンの友情物語を意識していたのかもしれない。無い物強請りと承知の上だが、C・イーストウッドでリメイクが観られたらなどど夢物語を想像してしまう。 
 


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