マイレージ、マイライフ
2009年/アメリカ
現代のUSAをタイムリーに捉えた佳作
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 85点
「サンキュー・スモーキング」「UNO/ジュノ」などいつも意外な設定で時代を切り取って行く32歳の俊英ジェイソン・ライトマン監督。いま油が乗りきっているジョージ・クルーニー主演で、煩わしい人との関わりを回避してきた独身の中年男の生活を通して、心模様の変化を描いた人間ドラマ。アカデミー賞作品賞をはじめ主要5部門にノミネートされ無冠に終わったものの、ハイウッドがいかにJ・ライトマンに期待していて、彼がその期待に応えつつあることを実証してくれた作品である。
「リストラ宣告」という過酷な業務の会社に勤めながら年間322日出張するライアン(J・クルーニー)は、<深入りしない人生>をモットーにマイル1000万ポイントを目標に過ごしてきた。キャリア・ウーマンのナタリー(ヴェラ・ファミーガ)とは似たような境遇で、その場限りの恋を楽しんでいた。ところがネット時代の申し子で新入社員のナタリー(アナ・ケンドリック)が、出張費の削減のためネットでの業務改善を提案しボス(ジェイソン・ベイトマン)に受け入れられる。
世代間の相違や業務の合理化など昨今どこにでも見られる状況を背景に、家族を持とうとしない・あるいは持てない男と、大人の女のしたたかさ、若い女の危うさのトライアングルが絶妙に絡まって、地味ながらウィット・ユーモアに溢れるハリウッドの善き伝統が画面に漂う。
さらに妹ジュリー(メラニー・リンスキー)の結婚式で新郎・ジム(ダニー・マクブライド)が結婚恐怖症に陥り、ライアンが説得するなどシニカルな可笑しさが加わって味わい深い人間ドラマとなっている。目標の1000万マイルを達成したときの何とも言えない無力感や、バックパックに入らないものは背負わない信条の男が一緒に生活したいと思う心境の変化など、ここかしこにライトマンの人間描写の素晴らしさが、うかがえる。
J・クルーニーは如何にも自然体でライアン役をこなしはまり役。A・ケンドリックは一見ドライなエリートでありながら実は結婚に憧れる、可愛い娘を好演、自分をしっかり守りながら人生を謳歌する大人の女を演じたV・ファーガミとともにオスカー助演女優賞にノミネートされたのも納得で次回作が楽しみ。
J・K・シモンズ、ザック・ガルフィアナキスなどリストラされる人たちの反応がさまざまだが、ライアンの常套句「帝国を築いた英雄も、挫折の苦境をバネにする」を聴いて思わず納得してしまう。そして「子供の笑顔を見ると励みになる」「妻の一言で元気がでた」などと言う。皮肉にも原題の<UP IN THE AIR(物事が不安定であること)>を地で行くライアンへの最大のメッセージとなっている。
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