晴れ、ときどき映画三昧

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「舞踏会の手帖」(37・仏)80点

2020-02-22 13:14:42 | 外国映画 1945以前 

・未亡人となったヒロインのノスタルジックな旅を描いたJ・デヴィヴィエ監督の名作。
36歳という若くして未亡人となったクリスティーヌが、初めての舞踏会で出会った20年前の踊り相手を訪ねて回るオムニバスドラマ。「望郷」(37)のジュリアン・デュヴィヴィエが監督、マリー・ベルがヒロインで当時の一流俳優たちが共演している。B・マーレイ主演の女性遍歴を訪ねる「ブロークン・フラワーズ」(05・米)の原型は本作だった。
筆者は題名から<美しいヒロインがかつての恋人たちを懐かしむ美しいラブ・ストーリー>だろうと想像していた。
構成は正しく予想通りだったが、最初に訪ねたジョルジュで良い意味で想定外の展開であることが判明。ジョルジュはクリスティーヌの結婚を知り自殺、母は狂ってしまっていた。時間が止まったまま息子の帰りを待ち続ける母を演じたのが名女優フランソワーズ・ロゼ。悲劇的な幕開けだ。
華やかな舞踏会の思い出とともに文学青年だったピエール(ルイ・ジューベ)はキャバレー経営・裏家業は泥棒のボスだった。作曲家志望だったアラン(アリ・ボール)は神父となり厭世的な日々を送り、詩人だったエリック(ピエール・リジャール=ウィルム)はアルプスのガイド、政治家志望のフランソワは田舎町の町長となっていた。それぞれ現実を噛みしめながらこの20年を過ごしていて、クリスティーヌのノスタルジックな世界に浸るのは束の間だった。
さらに悲惨なのは、医者のティエリー(ピエール・ブランシャール)で、ヴェトナムで精神を病みおまけに片眼を失っている。港町で堕胎で稼ぐ闇の稼ぎでクリスティーヌを患者と間違える始末で、斜めの映像が彼の不安な心情を掻き立て不幸な結末が待っていた。
あまりにも想定外の展開を現実に引き戻してくれたのが生まれ故郷で美容師となっていた陽気なファビアン(フェルナンデル)。クリスティーヌを明るく迎えるが20年前に「あなたを一生愛します」といいながら感傷などまるでなく、16歳の娘が行く舞踏会にもガッカリ。
手帖に残っていたパートナー7人は幻想をかき消すしかなかったが、最後に昔の夢を叶えてくれる出来事で幕を閉じる。
モーリス・ジョベールのテーマ曲「灰色のワルツ」とともに華麗な舞踏会の描写や北イタリアのコモ湖の風景で始まり、ショパンのワルツ、ヴェルレーヌの詩やアルプスの風景など人生への愛惜が織り込まれ、最後は少し救いのあるオムニバス・ドラマだった。
この時代想像を絶するほど精力的に映画作りに没頭したデュヴィヴィエ監督。ナチス台頭の不穏な空気を察し、<古き善きフランス文化>を記憶に留めたいという熱意がそうさせたのかもしれない。