晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「帰郷」(19・日)70点

2020-02-15 13:08:41 | 2016~(平成28~)

・8K映像による杉田監督・仲代達矢主演のヤクザ映画。
藤沢周平の短編を「果し合い」の杉田成道監督・仲代達矢主演で映画化。時代劇専門チャンネルによる8K映像TV映画の期間限定上映があったもの。
本格時代劇の衰退は著しいが、視点を変えたユニークな作品が出始めている。ただ筆者のような少年時代から時代劇に馴染んできた高齢者にはなかなか食指が動かなかったものも多くあり、本作は久々の本格ヤクザ時代劇だ。
自らの死期を悟った渡世人・宇之吉(仲代)が30年ぶり木曾福島の故郷へ帰ってくる。そこで出会ったのは一人で大勢を相手に刀を振り回す若者・源太(緒方直人)で、昔の自分を辿るようだった。
おそらくこれが最後の主演作では?という仲代は年老いたヤクザを渾身の演技で大型画面ならではの存在感で魅せている。よろよろと歩く姿を見て流石に年を感じさせたが、監督によるとこれも演技だったとか。大御所C・イーストウッド同様、いくつになっても俳優であることを実感させられる。
美しい木曽路と御嶽山を背景に繰り広げられる8K映像は美点もあるが、アップの多用は粗が目立ちやすく女優泣かせで、美術・照明などスタッフも苦労が多かったことだろう。本作では見事に克服されていた。
仲代の熱意に呼応して幼馴染みの佐一(橋爪功)、かつての兄貴分で敵役・久蔵(中村敦夫)、親分の妻・おこう(三田佳子)などベテランが脇を固め安定の演技。さらに30年前の宇之吉に北村一輝、源太に緒方直人の中堅俳優、ヒロインおくみに常磐貴子、おとしに田中美里、お秋に前田亜季の女優陣がそれぞれの持ち味を醸し出して好演。さらに久蔵の子分・浅吉の谷田歩がヤクザらしい佇まいで目を惹いた。
最後にモーツァルトのレクイエムが流れる贖罪や死生観を描いていてピンとこない若い観客もいたと思うが、日本人が潜在的に持つ義理・人情を丁寧に描写した時代劇に仕上がっていたと思う。
時代に沿った新しい時代劇もいいが、たまには本作のようなオーソドックスな作品も観てみたい。海外でも評価されるような新作を期待したい。