晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「巴里の屋根の下」(30・仏)80点

2020-02-08 12:58:09 | 外国映画 1945以前 

・サイレントの映像と音声を融合させたR・クレール監督初のトーキー。
シャンソンの名曲としてモーリス・シュバリエ始め多くの歌手が歌い、90年後の今も歌われている主題歌が印象的なルネ・クレール監督・脚本によるフランス映画。
パリの下町で暮らす大道演歌師とルーマニア出身の娘のラブ・ストーリー。
大型セットのスタジオを設置し、大胆なカメラワークでパリを舞台に厭世的なラブ・ストーリーと労働者階級の暮らしを描いた<詩的リアリズム>と呼ばれる一連のフランス映画の切っ掛けとなった作品。
サイレント映画へのこだわりがあったR・クレールは、歌と自然な音声を駆使して無声映画への郷愁を活かした映像作りに成功している。
オープニングのパリの風景を俯瞰で捉え、アパートの四階からカメラが下へ移動すし、その前の広場で歌声が聞こえるシーンは映画史に残る名シーン。これがロケではなく全てラザール・メールソンによる大型セットであることに驚かされる。
演歌師アルベール(アルベール・プレジャン)は歌を歌いながら楽譜を売って暮らす若者で、ポーラ(ポーラ・イレリー)に一目惚れ。街の不良のボス・フレッド(ガストン・モド)につきまとわれるポーラを救おうと決闘を挑んだり、不良仲間の悪巧みで刑務所に入れられたりしながらポーラを思い続ける。二人きりになってもベッドを共にしないフェミニストぶり。
一方ポーラは男たちを翻弄する強かさを備えフレッドとも踊りに行ったり、アルベールの親友で男前のルイ(エドモンド・T・グレヴィル)に傾いたりアルベールをヤキモキさせる。
クレールは、煙突が林立しアコーディオンが奏でるパリの下町を愛すべき街の風景として捉え、貧しいながら決して暗くならず日々楽しく生きる若者たちを愛情込めて描いている。
チャップリンを始め著名な監督が敬愛し、淀川長治が生涯のベストテンに入るという本作は、今見ても映画の素晴らしさを伝えてくれる。