晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「人生フルーツ」(16・日)80点

2017-11-26 12:43:31 | 2016~(平成28~)


・ お金では手に入らない、豊かな暮らしの老夫婦を見るドキュメンタリー。(いい夫婦の日に観た映画その2)




自分が設計し理想が叶わなかった名古屋近郊のベッドタウン高蔵寺ニュータウンに暮らす、夫90歳と妻87歳の50年間の軌跡を追うドキュメンタリー。

東海TVのドキュメンタリー番組を劇場公開用に再編集している。

若い頃、阿佐ヶ谷・多摩平団地など数々の住宅公団の設計に携わってきた津端修一さん。
伊勢湾台風の被害があった愛知県が郊外にニュータウンを建設する計画で、地形を生かした山沿いに家を建て谷沿いは風が抜けるような雑木林を残す「里山のある暮らし」を構想して基本設計した。
結果、住宅不足から谷は埋められ無機質な大規模団地が林立する破目になってしまった。

修一さんは土地を買って 尊敬するアントニー・レーモンドに倣った30畳一間平屋建て杉の丸太小屋を建て、庭には樹を植え土地を耕し英子さんとともに野菜や果物を作り始める。
畑を耕し、作物のプレートに一言メッセージや絵入りの手紙を書く修一さん。刺繍や機織りが上手で料理が得意な英子さん。
「ガスがついていますよ。忘れないで!」「お風呂忘れないで!」という手作りの伝言板は嫌な思いをしない心遣い。
「英子さんは僕にとって最高のガールフレンド」という修一さん。友達夫婦で<お互い、何事も強要しない>という暗黙の了解が夫婦円満の秘訣だ。

「風が吹いて木の葉が落ちる・・・。」樹木希林のナレーションが心地よく流れる静かな暮らし。

穏やかな暮らしを切り取った構成だが、二人が若かったころの写真とともに戦争体験、結婚した経緯、台湾訪問・名古屋への買い出しなどが織り込まれて行く。

何より素敵なのは、観客にも強要することなく演出過剰でないこと。ふたりの人間性そのものがドラマだ。

突然、英子さんの喪服姿にも驚かされる。畑仕事のあと昼寝したままの最後だった。「ひとりになって寂しいというより空しい>という英子さん。毎日墓前に添えるコロッケが絆を感じる。

晩年、修一さんは新しいプロジェクト(佐賀県伊万里の病院施設)の基本設計にアドバイスしていたことが明かされるブレナイ人生が素晴らしい。

映画は疑似体験という持論の筆者だが、この体験は余りにも真逆で修一さんの足元にも及ばない。