晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「八重子のハミング」(16・日) 70点

2017-11-25 16:12:13 | 2016~(平成28~)


・ 優しさが全編に溢れる夫婦愛の物語。(いい夫婦の日に観た映画その1)




陽信孝の手記をもとに佐々部清が9年前に脚本化したが受け手がなく、自ら映画化した山口県萩市を舞台に描いた夫婦愛の物語。

若年性アルツハイマー病を患った妻・八重子の介護経験や、ふたりの思い出を語る石崎誠吾の講演会で始まるこのドラマは撮影13日間で完成させている。

4度のガン手術を乗り越え、夫が妻を介護した4000日の記録は、全編が愛溢れるものだった。

現在、介護に絡む事件がニュースで流れるたびに深刻な社会問題を実感するが、このドラマのように夫婦の純愛ドラマを観ると、現実離れした美談では?と違和感を感じてしまうほど。

ふたりは元小学校教師で男先生・女先生と呼ばれていた若い頃に結ばれ、夫は校長の50代まで順風満帆の教師生活を送ってきた。

夫の闘病と妻の認知症発生が同時並行しながらも事実を受けとめ、共に過ごした12年間は夫の献身的な介護と家族や周りの支えがあってこそ。万人ができることではない。

しっかり者の母親、教育者の両親から育った長女とその夫、可愛い孫の理解協力あってこそだろう。友人の医者や教え子の励ましもあり、孤立しなかった。

萩という土地柄か?さらし者扱いという陰口もありながらすっかり街の有名人となり、馴染みがあったことなど英断も幸いしたことだろう。

何から何まで二人を取り巻く環境がこの純愛物語のベースとなっている。

徘徊や排泄物の世話など全体に暗くなりそうな話に、時々ユーモアを交えた語り口は、講演会という形式ならでは。

夫・誠吾を演じた升毅は、長いキャリアで本作が初主演を熱演。
妻・八重子に扮した高橋洋子は、28年ぶりの復活。10代の初々しい姿の印象が強かったが、作家活動で画面でお目に掛かる機会がなかった。本作での変貌して行く姿を見事に演じ切って貴重な女優であることを証明してくれた。

他では誠吾の友人・榎木医院長役、梅沢冨美男の真面目な演技が好印象だった。

映画は疑似体験という持論の筆者だが、この体験は余りにも辛く誠吾の足元にも及びそうもない。