晴れ、ときどき映画三昧

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「ヘッドライト」(55・仏)80点

2017-11-23 15:41:46 | 外国映画 1946~59

・ 中年男の哀感を滲ませたJ・ギャバンのメロドラマ。




パリとボルドー間を往復する定期便の中年トラック運転手(ジャン・ギャバン)と街道筋の定宿で働くメイド(フランソワーズ・アルヌール)との儚い恋の物語。

セルジュ・グルッサールの原作<しがない人々>をアンリ・ヴェルヌイユが監督・脚本を務め、「禁じられた遊び」の原作者フランソワ・ボワイエが共同脚本に加わっている。

フランス映画全盛時代、「フレンチ・カンカン」で共演した人気NO1同士が違った役柄で再共演して一世を風靡したとのことだが、評論家筋には単純なストーリーとスター同士の単なるメロドラマとして受け止められ、暗いだけの陰鬱なドラマとの評価もあった。

しかし時代を経てその輝きは増し、日本では裕次郎など大スターが憧れる役柄となって「道」(86)というタイトルでリメイクされている。

「道」は蔵原唯繕監督・仲代達矢、藤谷美和子、若山富三郎、柴田恭兵の競演だったが、友情と片想いいに悩む若山の好演が印象的だった。

オリジナルは50代を迎えたJ・ギャバンの渋さが秀逸。パリのアパートに住むトラック運転手で妻子を抱え体力の衰えを気力でカバーするしがない中年男を好演している。

妻ソランジュ(イヴェット・エティエベント)には愚痴をこぼされ、17歳の長女ジャクリーン(ダニー・カレル)は反抗期で、疲れた身体は癒されない。

そんななか、束の間の休息場でもあるドライブイン「ラ・キャラバン」に新しく入った若いメイド・のクロチルド(H・アルヌール)との出逢いは新鮮だった。

砂埃が舞う片田舎の国道沿いにあるドライブ・インには寂寥感が漂い、クリスマスとは縁のない人しかいない。健気なクロは一輪の花的存在で、親との確執から流れついたのがここだった。

人気絶頂のF・アルヌールの演じたクロは古典的ヒロインではあるが、彼女が演じると可憐かつ官能的な眼と唇が小悪魔的な魅力で男性ファンを虜にしてしまう。B・バルドー、M・ドモンジョと続くフランス女優の先駆者的スターだ。

脇を固める若い相棒のピエロ・バーディ、ラ・キャラバンの亭主ポール・フランクール、売春宿の女将リラ・ケドロヴアも存在感ある演技で2人を盛り立てている。

ジョセフ・コズマのテルミンが奏でるメランコリックな主題曲が何度も流れ、ルイ・ページュのカメラによる2人を乗せた霧に包まれたトラックは先が見えない不安感を掻き立てる。

仕事と家庭の板挟みだった中年男に差し込んだひとすじの光は、やがて霧の中で迷走し始め、希望のない貧しさ故の悲恋物語へ突入して行く。

若い頃には親子ほど年の差がある男女が不倫するドラマはピンとこなかったが、中高年男の夢物語としてはこれ以上ない珠玉のラブ・ストーリー。

J・ギャバンとF・アルヌールが演じることで成り立ったドラマでもある。