晴れ、ときどき映画三昧

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「戦争と平和」(56・伊・米) 70点

2016-09-14 16:08:48 | 外国映画 1946~59
 ・長編小説のあらすじを知るには最適なダイジェスト版。 

       

 ロシアの文豪・トルストイの文芸大作を、イタリアのカルロ・ポンティとディノ・デ・ラウレンティスの二大プロデューサーがハリウッドに声を掛け映画化が実現した。そのため、キャスト・セット・ロケとも莫大な費用を掛けた英語版の大河ドラマ風の208分で監督はキング・ヴィター。
 19世紀の帝政ロシア末期、ナポレオンによるロシア侵攻という歴史的な事件を背景に、ロシア貴族のピエールと伯爵令嬢ナターシャとの波乱万丈の恋愛ドラマ。

 トルストイが苦手な筆者には、あらすじを知るためのダイジェスト版として最適だが、原作愛好家には不満の残る作品だろう。

 ヒロイン・ナターシャには「ローマの休日」(53)で一躍スターとなったオードリー・ヘプバーンが扮し、可憐な姿を披露している。当時実年齢は27歳のはずだが、恋に憧れ自分の言動が周りにどう影響するかの分別がつかない若い娘を演じても、不自然さを感じさせない雰囲気は天性のもの。

 ナターシャは妻子持ちのアンドレイ公爵がお産で妻を亡くし後添えとなるが、アンドレイが戦地へ赴く間プレイボーイ・アナトーリーの誘惑に乗って逃避行を企てる。

 アンドレイを演じたのがオードリーの夫メル・ファーラーだった。2人はブロードウェイ「オンディーヌ」で共演した54年に結婚してまだアツアツの頃。M・ファーラーにとっては4度目の結婚だが、17歳年下のオードリーはこのドラマのナターシャのような一途な恋心で結ばれた感がある。

 間一髪アンドレイの親友ピエールに救われる。ピエールはナターシャが好きだったが私生児であり、年も離れているためプロポーズできないでいた。 
 ピエールに扮したのはヘンリー・フォンダ。生真面目だが屈折した心の持ち主でもあった。暴力を憎み出征しなかったが、妻エレーナの不倫相手とは決闘するという矛盾を抱えていた。

 前半は、ナターシャを巡ってアンドレイ・ピエール・アナトーリーなど貴族の暮らしぶりが艶やかに繰り広げられる。

 後半は一転して、ボロティノの決戦を中心とするナポレオン軍とクトゥーゾフ将軍の戦いが壮大に描かれ、戦争の悲惨さとともにナポレオンの失政振りや帝政ロシアの崩壊の先駆けの予兆を感じさせる出来事がシニカルなタッチで描かれる。

 ハリウッドの威光を見せつけるような大勢(1万5千人)のエキストラ動員、チネチッタでのモスクワ宮殿のセットでモスクワのパレードで始まり、雪の行進で終盤を迎えるこのドラマは、ナターシャの人間愛が芽生え大人の女性へと成長することで幕を閉じる。

 筆者はこれで納得したが、ハリウッド調のエンディングに不満のある方は、65~67年ソ連が威信をかけて製作した4部作をお勧めしたい。