晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「キャロル」(15・米) 80点

2016-09-09 14:26:58 | (米国) 2010~15

  ・ 50年代のアメリカを完璧に再現した、禁断のラブ・ストーリー


    

 「太陽がいっぱい」で名高いパトリシア・ハイスミスの原作「ザ・サプライズ・オブ・ソルト」をもとにフィリス・ナジーが脚色、トッド・ヘインズ監督で映画化された。

 52年NYのデパートでアルバイトしていたテレーズが、娘のプレゼントを買いに来た華やかで魅力的なキャロルに一目で惹かれてしまう。

 キャロルは艶やかな金髪で豪華な毛皮のコートを身に纏う4歳の娘を溺愛する女性。ただいま夫とは巧く行かず離婚調停中で過去には女性関係もあった。

 テレーズは恋人リチャードがいるが、プロポーズを受けこのまま結婚することに漠然と不安を抱いている。写真家に憧れていたが、無理だと自覚もしていた。

 そんな生まれも育ちも違う2人が偶然巡り逢って、激しく惹かれ合う恋の行方を描いたラブ・ストーリー。

 障害が高いほど、恋は燃え上がるもの。今でも偏見がある同性愛が、60数年前禁断の恋であったことは想像を超えるタブーだったのは間違いない。

 キャロルに扮したケイト・ブランシェットは、タバコをくゆらせ、香水と真っ赤なルージュとマニュキア。その佇まいだけで魅力を振りまいてその風貌・言動に秘められた憂いも感じさせ、まさにオスカー女優の貫禄。そのブルーの瞳はテレーズを虜にするが、少し怖いほど。

 対するテレーズ役のルーニー・マーラは素朴なファッションを身に纏い「天から落ちてきたヒト」とキャロルに言わせるほど。その無垢な魅力は、「ドラゴン・タトゥーの女」(06)とは両極の役で、かつてのオードリーを思わせる。

 その2人が心の内の葛藤を振り払うように惹かれ合い、<心に従って生きなければ、人生は無意味>というキャロルの言葉を実践するようにNYからシカゴへの逃避行へ。

 結末は?2週間後には後悔するとリチャードに言われたテレーズ、離婚調停中のキャロルには致命的な事態をどう受け止めたのか?

 F・ナジーのシナリオは、ホテル・リッツのレストランでのシーンが冒頭と終盤でどうなるかを想定しながら、観客をラスト・シーンへ誘って行くストーリー展開が見事。

 T・ヘインズは「エデンより彼方に」(02)で、50年代の上流社会のタブー(同性愛・白人と黒人の愛)を描いて手腕を発揮している。

 今回はさらに綿密な時代の再現を図り、パーフェクトな画面作り。詩情豊かなソフト・フォーカスを多用し、60数年前のアメリカへ観客を導いてくれた。