晴れ、ときどき映画三昧

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「マネーショート 華麗なる大逆転」(15・米)80点

2016-09-04 14:14:03 | (米国) 2010~15

 ・ 経済破綻をコメディ・タッチで描いたA・マッケイの手腕に拍手!


   

 「マネー・ボール」のマイケル・ルイス原作「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」をコメディ出身のアダム・マッケイが監督、チャールズ・ランドレフと共同脚本化した<リーマンショック時に実在した金融トレーラーたちの物語>。

 リーマン・ショックの元凶は、低所得者層への高金利住宅ローン(サブ・プライム・ローン)を業者から大手の投資銀行が買い取って不動産担保証券(モーゲージ債)<MBS>化した。

 さらにそれを組み込みローンや公社債を担保に発行した債務担保証券<CDO>とする。世界中に広まって利益を享受していたが、07年住宅バブル崩壊でサブプライム・ローンの不良債権化を引き起こしてしまった。

 ベア・スターンズは政府に救済されたが、08年リーマン・ブラザースが破綻したことでこの不名誉な名称となった。

 A・マッケイはこの金融用語を入浴中のマーゴット・ロビーが住宅ローンの危険性を語ったり、セレーナ・ゴメスやリチャード・セイラーがMBSの概念を用語解説したりすることで、分かったような気分にさせる。

 とくにシェフのアンソニーが、CDOを腐った魚を混ぜて作ったシチューで如何に酷いものかを説明するのが秀逸。

 登場する金融トレーダーのメインはクリスチャン・ベイルが演じたヘビメタ・ドラマーの元精神医のマイケル・バーリ。裸足でT・シャツ、短パン姿の異端児は、綿密なリサーチで銀行家や政府に住宅金融商品が債務不履行になることを訴える。いづれも相手にされず、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という一種の保険証券を考案する。

 損失が発生したとき保証してもらう保険のようなもので、これを買うのは<アカの他人が死にそうだと思う人へ勝手に保険をかけるようなこと>。しかもオプション取引(一定期間に商品を現時点で売る権利)。格付けAAAであるMBSの値下がりを賭けた逆張りを大手ファンドがするはずもない。

 たまたまマークの資料を目にした銀行マン・トレーダーのジャレッド・ベネット(ライアン・ゴズリング)は、ヘッジファンド・マネージャーのマーク・バウム(スティーヴ・カレル)を巻き込んでCDS購入を勧誘する。

 金融界の腐敗ぶりに怒りを隠さないマークは、状況視察したフロリダでサブプライム・ローンのいい加減さに衝撃を受け、歯止めを懸けるためCDS買いに加わる。

 もう一人若き投資家ジェイミーとチャーリーのバックアップのため引退していた伝説のトレーラー、ベン・リカードが復帰する。ベンにはプロデューサーとしても名を連ねるブラッド・ピットが扮し、出番は少ないがオイシイ役を演じている。

 「俺たちが勝つことは多くの人たちが負けることを意味するんだ。もちろん死人も出る。」というセリフは第二・第三のリーマンショックを生んではいけないという金融界への警鐘を鳴らす言葉でもある。

 こんな難しい経済の仕組みをポップに分かりやすく?描写したA・マッケイの手腕に拍手を送りたい。