晴れ、ときどき映画三昧

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「天井桟敷の人々」(45・仏) 80点

2014-06-07 18:02:17 | 外国映画 1945以前 
 ・ フランス映画史上ベスト・ワンを大画面で満喫。

                    

 ナチス・ドイツ占領下で製作し、戦後公開され’46ヴェネチア映画祭特別賞を受賞したフランス映画。’79セザール賞特別名誉賞を受賞した理由は、仏映画史上ベストワンであるという評価だった。

 日本では’52に公開され反響を呼び、80年キネマ旬報で歴代外国映画ベストワンに選ばれている。映画マニア必見の作品だけにヌーベルバーグ育ちの筆者も20代で観ているが、リバイバル上映で映像・音声も鮮明ではなくガッカリした記憶しかない。

 近年修正された「午前10時の映画祭」での再上映で観たときは、戦時中の製作にも拘わらず如何にも伝統的フランス映画らしい<詩的リアリズム>を満喫した。

 第一幕 犯罪大通り

 19世紀のパリ。犯罪大通りと言われる繁華街で暮らす人々を描いていて、美しい女・ガランスを巡る4人の男たちの恋模様を中心に展開される。<天井桟敷の人々>とは原題でいう<天国の子供たち>の訳。パントマイム劇場「フェナンビュール座」の最上階・最後方の席は<天国>と呼ばれ最下層の民衆が楽しむ席で声援・ヤジが子供のような賑やかさからつけられた。

 パントマイム役者バチストは、女芸人ガランスを懐中時計を盗んだ容疑者で連行されるのを、得意のパントマイムで救うことで巡り合い恋に落ちる。

 純粋なバチストに対してガランスは「恋なんて簡単よ」というだけあって、女たらしのシェークスピア役者・フレデリック、代筆業で裏では強盗・殺人も厭わない無頼詩人・ラスチーヌとの関わりも隠さない。バチストを秘かに愛する座長の娘ナタリーはやきもきするが、ガランスに心を奪われたモントレー伯爵が救愛してバチストの純愛は終わりを告げる。

 第二幕 白い男

 5年後、バチストは「フェナンビュール座」の花形となり、ナタリーとの間には可愛い息子も生まれる。バチストを観るため毎晩通い詰める貴婦人が現れ、それが伯爵夫人のガランスだと分かると4人の男たちに運命的な変化が訪れる。

 ナチス占領とともに海外へ逃亡した映画人のなかで、マルセル・カルネ監督はフランスに留まり、イタリアの資金援助のもとニースでオープンセットを作り本作に取り掛かった。資金中断の困難を乗り切って、「枯葉」で知られる詩人でもある脚本家ジャック・プレヴェールとの名コンビで、3年3カ月を要した本作はフランス人の映画魂を観る想い。

 ヒロインは当時47歳のアルレッティ。ナチス高官の恋人だったため戦後は恵まれず本作が代表作。その美しさを感じるにはR+40の鑑賞をお薦めしたい。

 バチスト、フレデリック、ラスネールはモデルになった実在人物がいる。バチストを演じたジャン=ルイバローはパントマイムで魅せ、純粋さが悲劇を誘う哀しい男がぴったり。

 名台詞のオンパレードなので1~2度見ただけではその深さは分かりにくく、ある程度歳を重ねて理解も深まる作品だろう。バロメータは190分を長く感じたかどうかで量れそう。