警察日記
1955年/日本
久松監督・井手脚本のコンビ出世作
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 75点
伊藤永之介の同名小説を久松静児監督、井手俊郎脚色による映画化で2人の出世作でもある。戦後10年余り、まだまだ貧しい地方(会津磐梯山麓の小さな町)で繰り広げられる市井の人々の暮らしをユーモアとペーソスを交えながら描いた群像劇。田舎のバスが登場するだけで郷愁を誘う冒頭。乗客に花嫁が乗っていて、その荷物を馬で運ぶ男が祝い酒に酔いつぶれ、仏像泥棒と間違えられる。警察には人身売買、捨て子、万引き・無銭飲食など貧しさゆえの犯罪事件が次々と起こる。そのエピソードと村の出来事(火事や通産大臣の帰郷歓迎など)が絡んでドラマが展開される。
散漫にならずしっかりドラマとして流れて行くのは井手脚本の見事さと達者な俳優たちの演技を引き出した久松監督の手腕の賜物だろう。
巷間では二木てるみの名子役振りが高名だが、やはり森繁久彌の自然な演技が秀逸だ。当初出演予定のなかった彼が代表作となった「夫婦善哉」のクランク・イン遅れのためキャスティングされたのが幸運だった。子沢山の人情家巡査は素朴な味わいが滲み出て<人情味溢れる庶民の味方の警察>のお手本。42歳だった森繁が老境に入ったような控えめな演技を見せたのは演技力の確かさを示している。
もうひとつの顔は署長の三島雅夫で町の名士としてメンツを持ちながら戦前の暗いイメージを一掃する<明るい開かれた警察>を象徴している。無銭飲食の親子にかつ丼を食べさせ、身銭を切ってお金を渡したりする情もある。
町には1台しかない消防自動車が大活躍?する。いざ火事というときポンコツでエンストを起こしたり、農民の巡回行事用には規則で使わせなかったのに、有力者に押し切られ大臣歓迎のパレードには使われる寛容?さ。
捨て子を管轄するのは町役場・孤児収容所・保健所・民生保護委員とタライ回しにあったり、人身売買紛いの周旋屋を送検する権限争いのサマを風刺するシークエンスも寂が利いている。
文部省特選となった郷愁を誘う感動ドラマをつくりあげたのは高度成長期前のエネルギー溢れる市井の人々を演じ切った豪華なキャストと、磐梯山の雄大な情景を見事に映像化した姫田真佐久だろう。
次郎長三国志 第三部 次郎長と石松
1953年/日本
名匠・マキノ雅弘と名優・森繁の出会い
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 65点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 80点
村上元三の人気小説「次郎長三国志」をもとに名匠・マキノ雅弘が監督したシリーズ9作の第3話。映画界の草分け牧野省三の長男で戦前若干20歳から監督をしていたマキノが、戦後復活を果たした記念すべきシリーズ作でもある。本作で本格的に登場したのが愛すべきキャラクター・森の石松役の森繁久彌だ。まだ40歳だった森繁の若々しい演技が前半のハイライト。
初登場したのが色男・追分の三五郎(小泉博)。2人が惚れる壺振り・門付けを生業とする投げ節お仲(久慈あさみ)。壺を振る仕草や三味線で弾き語りする<端歌>が何とも色っぽい。
シリーズ作なのでタイトルほど次郎長一家の出番はないが、賭場で捕らえられ入牢して牢名主をヤリ込めるなど後半に出番が用意されている。
戦後GHQに禁止されていた時代劇に飢えていたファンにとってこの任侠時代劇は待望の作品。二代目・広沢虎造の浪曲<旅ゆけば~駿河の国の茶の香り~>でお馴染み。そのなかで最も人気があったのが<馬鹿は死ななきゃあ~なおらな~い>森の石松でこれからいよいよ佳境に入る。その広沢虎造が浪曲以外に<張子の虎三>という役名でコミカルな演技を見せていたのも話題のひとつだ。