晴れ、ときどき映画三昧

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『チャイコフスキー』 80点

2013-02-16 15:26:50 | 外国映画 1960~79

チャイコフスキー

1970年/ソ連

正統派の伝記映画

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

ロシアが誇る作曲家・チャイコフスキーの生涯をその音楽とともに綴った正統派の伝記映画。西部劇の音楽で名高いディミトリ・ティオムキンが製作総指揮・音楽監督を務め、アカデミー賞外国映画部門で黒澤明の「どですかでん」とともにノミネートされたが受賞はならなかった。
母親との別れの幼い頃からチャイコフスキーの繊細な心の内面を感じさせる冒頭があり<、ピアノ協奏曲第1番>を作曲した青年時代へ。恩師ニコライ・ルビンシュタインに演奏不可能といわれトラブルに。評価を気にして落ち込むが、その世界を貫き通すエピソードは生涯続いて行く。2人は、のちに和解してルビンシュタインがパリで亡くなるまで友情は続いた。
チャイコフスキーの音楽に欠かせないのは実生活に関わる精神的苦悩の数々。なかでも富豪の未亡人フォン・メック夫人との13年間にも亘る文通。その数が1200通もあったというから驚かされるが、さらに一度も直接会ったことがないということに何故だろうという疑問が湧く。本作ではメック夫人が設定した晩餐会招待当日に逃げ出すシークエンスがある。純粋に彼の音楽を愛し続けたパトロンで在り得るハズがないのを察したチャイコフスキーは「夫人の期待に応えられない」という。<彼が目指した音楽に最も大切な心の内面を誰にも縛られたくない>という葛藤があったのだろう。一説には彼がホモだったからというが、本作では格調高く描かれている。下世話な筆者には訴えが弱いように感じた。別荘まで与えられ音楽活動に専念できるようにしてくれたメック夫人に対しての離反行為は、忠実な下僕アリョーシャが嘆くように凡人には量り知れない。
彼の人生にはイタリアのソプラノ歌手デジレ・アトレーとの別れ、教え子アントニーナとの唐突な結婚とわずか2ヶ月半での離婚など女性との別れが悲劇的に付き纏うが、そのたびに内面の成熟とともに音楽が高まって行く。その流れとともに彼の名曲が美しい風景とともに綴られミュージック・クリップのような風情が心地良い。
チャイコフスキーを演じたのはインノケンティ・スモクトゥノフスキー。「ハムレット」や「罪と罰」など名作でお馴染みだ。メック夫人を演じたのは「戦争と平和」のアントニーナ・シュラーノワ。2人は出会っていないが本作ではチャイコフスキーの空想の世界で出会っている。特権階級の娯楽であった音楽を大衆に伝える時代に現れた大作曲家の生涯を、旧ソ連の総力を賭けて描いた154分。数々の名曲・名演とともに、耳に心地良くそして目に潤いを与えてくれた。