アルバート氏の人生
2011年/アイルランド
グレン・クローズの集大成を観る想い
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 80点
’82のオフ・ブロードウェイで主人公を演じて以来、映画化を夢観ていたグレン・クローズの製作・共同脚本・主演によるヒューマン・ドラマ。’11東京国際映画祭で最優秀女優賞を受賞している。監督は女性心理を描くことで定評があり「彼女を見ればわかること」でコンビを組んだロドリゴ・ガルシア。
19世紀のアイルランド・ダブリン。ホテルでウェイターとして働くアルバート・ノッブスは、タバコ屋を開業し老後は海辺で過ごすことを夢見て、チップを床下に貯めていた。寡黙で慎ましい生活のノッブスには誰にも言えない秘密があった。
貧しさゆえ14歳から女であることを隠してウェイターとして働くという設定は、舞台なら成立するが大画面の映画では難しいもの。G・クローズは骨格は細いが、不自然さを極力無くすため表情の起伏を極力抑え、メイクアップの巧みさを味方に見事に男を演じる女をみせた。
大恐慌とチフスが大流行したこの頃のアイルランド。失業することは路頭に迷うことと同じでホテルではサマザマな人間模様がが描かれているのも見どころのひとつ。マイケル・マクドノーのカメラが克明に拾って行く。
ホテルの女主人は辣腕で、従業員には厳しいが客には最高の愛想を振りまく。お抱えのドクターには気があるようだ。そのドクターはメイドとこっそり愛し合う。ボイラー技士として雇われた若いジョーは若いメイド・ヘレンへ急速に接近。ノッブスはハンサムなペンキ職人ヒューバートに出会い、自我の目覚めとともに自分の望むことに行動を起こす。それは女に戻ることではなく、女をパートナーとすることだった。それが観客には不幸への始まりとなるのが分かっているだけにハラハラさせられる。このあたりは、男として生きてきた彼女の滑稽さでもあり哀しさでもあり、とてもいじらしい。
ヤレル子爵を始め優雅な上流階級の客達もフシダラな日常を垣間見せたりするが、ノッブスは総て呑み込んでひたすらチップを貯め込んでいる。唯一の例外は、若いメイドのヘレンへ不器用にプロポーズすることだった。
G・クローズに負けず劣らず好演技をみせたのがジャネット・マクティア。大柄な体格を生かした適役を得て、G・クローズとともにオスカーにノミネートされたが獲得ならなかった。
ノッブスを囲む人々のキャラがとても丁寧で的確に描かれていたのでどのような結末が待っているのか興味がつきなかった。結果は予想どおりでもあり、ある意味ホッとさせるエンディングを迎えた気がする。ここでもG・クローズが作詞したというエンディング・ソングを聴きながら渾身作に拍手を送りたい。